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異世界落語 作者:朱雀新吾

エターナル【寿限無】

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エターナル【寿限無】①

――さて、今、何万匹殺したかね。

 そう考えながらも、ラッカはとうに数えるのを止めていた。
 その片手は、命を奪っているという感覚すらない。
 虫を払う程の力と心持で、勇者は剣を振るっていた。

 ラッカがいるのはサイトピアを南下すると行きつく、人間と魔族の地を隔てる大河の畔。
 そこで無数の、それこそ無限に近いゴブリンと戦闘を繰り広げていた。
 斬っても斬っても現れる敵。

 大河の畔にはワープゲートが開かれており、そこからゴブリンが次から次へと湧いて出て来る。

 ゴブリン程度、ラッカの手にかかれば十体だろうが百体だろうが、無傷で倒す事が出来る。
 だが、それが千体になり、万体になればどうだろうか……。
――それも、全く、平気であった。
 事実、いまだにラッカは無傷である。
 ゴブリン如きでは彼に傷をつける事の方が難しいだろう。
 無傷だが、嫌気は十分に差していた。

「ったく、一体どれだけ斬られれば気が済むんだよコイツらは」
『ケケケ、ヤツらに済む気なんてものがあるかよ。ゴブリンの脳みその容量知ってんのか?』
「いやはや、まったく困ったもんだな。オクラは?疲れてない?」
『ピードって呼びな!冗談だろ!オレは「友喰い」だぜ』
「俺からも喰って、ゴブリンからも喰ってって訳か……。節操の欠片もないなお前は。そういうの何て言うか知ってる?『友喰い』じゃなくて『雑食』って言うのよ」
 ラッカと魔剣オクラホマスタンピードの一人と一剣は、軽口をたたき合いながらもゴブリンを斬って、斬って、斬り倒し続ける。今の会話中に五百匹は斬っただろう。二人とも返り血で真っ赤である。
『だけどどうすんだよラッカ。こりゃあ、いつまで斬っても無駄だぜ。あのゲートからはわんさかゴブリン共が生産されてくる。いや、そりゃあ、あそこから魔界なり魔族の国に繋がって、ある程度の在庫がある状態でやっては来ているんだろうが、それにしてもまだまだこの勢いじゃ、しばらく打ち止めって事はないだろうぜ。ゴブリンの卵って一個で百匹単位で生まれるからよ。魔族の国でも野良ゴブリンが社会問題になっているって聞いた事あるぜ。こりゃあヤツらかしてみれば一石二鳥だな』
「へん。つまり何か、俺は体の良い食い扶持間引き屋のイカしたお兄さんって事?」
『そういう事だな。どうだラッカ、馬鹿らしくなってこないか?』
「確かにね……」
 オクラホマスタンピードは、暗に撤退を示唆している。
「でもオクラ。今ここで俺が逃げ出したらこの何万、何十万のゴブリン共がサイトピアを襲うんだろう?」
『お、勇者的発言』
「はっはっは。だって俺勇者だもん」
 お互い余裕はある。あと一週間はゴブリンと戦って無傷でいられる自信もある。
 だが、現状はラッカとオクラホマスタンピードだけの問題ではなかった。
『ラッカ。お前はこのまま戦い続けていても良いかもしれんがよ。だが、あの小娘は……あと一時間もしないうちに死ぬぞ』
「ん……?」
 ラッカがふと後方を見ると、そこには一人のハーフエルフの少女が必死の形相でステッキを振り回していた。
「おお、そうだ。忘れてた」
 ラッカはやにわに一匹のゴブリンの頭を踏み台にして大きく跳び跳ねると、ストンと少女の目の前に降り立った。
「ひゃあ!!……あ、勇者様!」
 突然人が目の前に降って来て、驚きの声を上げる少女。
 ラッカは少女の周囲にいるゴブリンを一閃、まとめて薙ぎ倒し、声をかける。
「ええと、お嬢ちゃん。大丈夫?」
「ナナセです!大丈夫じゃないです!」
 ハーフエルフの少女は泣きそうな顔をしている。というか泣いている。
「そらまあ、なかなかこんな修羅場ないからね。今生きているだけでもたいしたもんだよ」
「あ、ありがとうございまふ!」
「でレベルどうなったよ。おいオクラ、ステータス見れたよな?どうよ?」
『ちょっと待てよ』
 そう言うとオクラホマスタンピードの目が赤く光り、ナナセを照らす。
『……おお、レベル48だってよ』
「へえ!48!ていうか元々どうだったのか知らんのだが……」
「1でした。レベル1です!」
「おお、1から48ってな、超ブーストだな!」
 ラッカはひゃっほいおめでとうと、パチパチ手を叩く。
 ゴブリンを一万匹も倒せば、レベル1から48など、軽く上がるだろう。
 ちなみにラッカは今更ゴブリンを一億匹倒した所で、レベルは一つも上がらない。
「というかレベル1って、お嬢ちゃん。初クエスト?」
「ナナセです。はひ!始めての冒険でした!」
「いやはやそいつは凄い。ワープゲートもお嬢ちゃんが最初に発見した訳だし、お手柄だ!王宮魔法使いの仕事紹介してやるよ。いやあ、凄い!モル神に愛されているな!」
「ふええええん。怖いよー。愛されなくても良いから、早くおうちに帰りたいですうう」
 泣きながらもステッキを振りかざし、魔法でゴブリンを吹き飛ばす少女。
「まあ、生き残りたければそうやって俺の教えた呪文を使いつづけろよ」
「わ、分かってまふ。ふええええん」
 ナナセはステッキに宿った光が薄くなっている事に気が付くと、慌てて呪文を再詠唱する。ほわんと、ステッキに光が宿った。
「ふえええん!!」 
 ナナセがぶんとステッキを振ると、ゴブリンが百匹は吹き飛んでいく。豪快な風魔法であった。
「おお、すげえすげえ!」
 ラッカは壮観な光景を眺めながら少年の様にキャッキャと笑う。
「いやあ、こいつは旦那に見せてえな」
「誰ですか!旦那って!」
「あはは!帰ったら紹介してやるよ。お嬢ちゃんも会っておいた方が良い。恩人だからな」
 果たして無事帰る事が出来るのか。ナナセは不安でしかなかった。
「勇者様!でも、ゴブリンは際限なくあの穴から出てくるんですよ。なんとかなりませんか!」
「ふうむ。俺はあと一年は戦ってられるとオクラと話をしていたんだが、お嬢ちゃんはそうもいかないみたいね」
「はい!無理です。魔力がなくなります!あと、気力も!甘い物食べたいです!」
「ハハハ!まあいい加減俺も飽きてきたしな……」
 快活に笑うと、ラッカは考える。そもそも、答えは分かっていた。
「……やっぱり、あいつを倒せば、良いのかな」
 ラッカは遠く離れたワープゲートの入口に立っている黒いローブの男を顎で示す。
 大量にいるゴブリンとは明らかに違う。魔族の魔法使いである。

 無数のゴブリンが召喚されるのを眺めながら大声で笑っている。
「グハハハハハ!絶対勇者ラッカよ。ここを貴様の墓場にしてくれるわ!!!」

「いやあ、テンション高いですな」
「あの人怖いですううう。早くやっつけて下さい。きっとあの人倒せばワープゲートも閉まりますよ」
「おお、多分、というか十中八九そうだろうな」
 ワープゲートの攻略は術者の打破、と相場は決まっている。
「だけど、問題は俺の攻撃が届くかなのよね、あの人に」
 ラッカはゴブリンを斬りながら、ナナセは魔法で吹き飛ばしながら会話をしているのだが、一向にワープゲートは近づいてこない。つまり、二人は全く前進出来ていないのだ。
 正にそこはゴブリンの大地と化していた。大量のゴブリンの群れの更に奥に大河が流れ、その畔にポツンと浮かぶワープゲート。
 ドラゴンの首を刎ねた剣風も、ゴブリンの壁に阻まれ、届きはしない。
 この乱戦の中、術者に近づく事は容易ではなかった。
「何か方法はないものか」
「私はそもそも自分の事だけで手一杯ですから!」
「ふーむ……」
 ナナセの風魔法でゴブリンが吹き飛ぶのを眺めながら、ラッカはある決意をした。
「うーん、こうなったらアレしかないか」

 よし、と頷くと、ラッカは――ゴブリンを斬るのをやめた。

「勇者様!?」
 ラッカの突然で、あまりに無謀過ぎる行動に、ナナセは驚愕の声を上げる。
 当然、次の瞬間、ゴブリンがラッカを取り囲み、殴る蹴る噛む掴む。攻撃し放題のやりたい放題である。
 何千体ものゴブリンが、代わる代わる、若しくは同時に攻撃してくる。その全てをラッカは受け止める。
 ナナセはラッカを気にしてはいるが、自分へとやってくるゴブリンを魔法で対処するだけで精一杯だった。
『おいおいラッカ。大丈夫なのかよ。ていうかオレまで巻き添え食ったら最悪だぜ。イタ、イテテ、噛むなってお前。オイ!!』
 オクラホマスタンピードが迷惑そうに持ち主を非難する。
「分かってんだろうオクラ……必殺技だ!」
『いや、まあ分かってるよ……。プクのだろう?ていうかお前、わざわざこんな大変な時にそれ試すか?』
「へっへっへ。だってこれしか方法はないだろうがよ。それに例は違えど実験台はお嬢ちゃんにやってもらったんだ。だったら後は、俺が責任取らないとな……」
「せ、責任……?」
 責任という言葉にナナセは場違いにもポッと顔を赤らめる。

「さあ……行くぜ」

 ラッカは一度大きく息を吸い込み、ゆっくりと魔剣を構える。
 そして、口を開いた。
「エターナルエターナルシャイニングウィズダムブレイド神アクア神エミタル神モル神…………」

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