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異世界落語 作者:朱雀新吾

ソードほめ【こほめ】

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ソードほめ【こほめ】――解説――

 第二話「ソードほめ【こほめ】」でした。

 この噺は「時うどん」と同じくらい有名な落語です。
 が、それは落語界の中での話であり「落語を知らない一般人の視点」からすると、「時うどん」や「饅頭怖い」などに比べますと、やや認知度は劣るのではないでしょうか。

 内容は至ってシンプル。「子供のほめ方を教わってやってみるが上手くいかなかった」というだけの筋です。だからこそ、逆に演じるのは難しいと思います。私はやった事がありませんので、尚更そう思います。
 もし自分がやらなくてはならないと考えますと「このネタで、果たして自分は笑いを取る事が出来るのだろうか……」と不安になり、飛び道具の様なくすぐり(本来の筋にはない、アドリブ、ですね)を入れまくって武装する事だろうと思います。それこそ「ソードほめ」ではないですが、もっと壊して「メイド萌え」とかにしてしまうかもしれません。

 あと、お詫びですが、私は今回「こほめ」と平仮名表記をしておりますが、これは私の勘違いで、実際には平仮名表記の「こほめ」はない様です。落研時代のイメージで勝手に「こほめ」だと思っていたようで、途中で間違いに気が付いたのですが、平仮名の方が可愛いのでそのままにしておきます。改稿する時にきまぐれで「子ほめ」に戻すかもしれませんが。
 こちらの解説では実際の表記に従って「子ほめ」とさせて頂きます。

「子ほめ」。別名「赤子褒め」と呼ばれもします。上方版と江戸版とありますが、そんな大層な違いはありません。というか、噺家さんによって落語内でのくすぐりを好みで変えていたりするので、厳密にこれが正解、という「子ほめ」はないかと思います。
 コーヒーを飲むにしても、人によって砂糖の量も、ミルクの量も違う、と言った所でしょうか。そもそも器がそれぞれ噺家さんよって違いますので(これを言い出すと全てのネタにも通じてしまいますが……)。
 私の独断と偏見で思うのは、このネタは「時うどん」の様に「大体の人間がやっても面白い」ものではない、という事です。
「子ほめ」は上手い人じゃないと、面白くないのです(「時うどん」がちょろいぜ、という意味ではありません。悪しからず)。
 うどんを食べたり、大袈裟な顔芸があったりと、特に目立つフリがある訳ではなく、演技でストーリーをお客様に理解してもらい、展開のみで笑わせにかからなくてはならない。これは、本当に難しいです。
 前振り(上手く行くお手本)があって、後半(間抜けが失敗する件)がある点は「時うどん」と同じ作りなのですが、やはりネタとしての笑いに関するウェイトが「子ほめ」は劣る。
 普段使わない言い回し等が結構使われている。
 これで今回の一福の様に文化の壁など生まれたら、最悪です。

 現代の人々が落語を敬遠する大きな理由の一つに「よく分からない言葉の言い回しが存在する」という事が上げられると思います。「厄年」という言葉は確かに現代の日本でも存在しますが、日常的かと言われると、やはり古い慣習というイメージがつきまといます。
 今回、一福にはその「言葉の壁」と「文化の壁」をどう斬り開くかに、挑戦してもらいました。

 本来なら、一福が天才的なひらめきでどんどん異世界落語を思いついていき、ダマヤが「ぶへえええ!!すんげええええええ!!」と驚くという、一話と同じ爽快な話作りを、あと二回程やっても良かったかと思っていたのですが、いざ「子ほめ」を「ソードほめ」という異世界落語にするアイディアを自分の頭で考えていきますと「あ、これはターミナルにやってきて一週間の人間に出来る変換ではない」と気が付きまして、その大役をダマヤやクランエやラッカでなく、突然登場するイフベコに担ってもらい、更には冒頭の大臣の探していた仲介役も兼ねさせるという大出世をさせる事にしました(一福が城下町を調査して、肩当の件や兜の「J」の流行を知るという流れも考えたのですが、少しテンポがおかしくなりそうなので、止めておきました)。
 二話冒頭で「餅は餅屋」と大臣が言っていましたが、そこには「ターミナルの落語はターミナルの住人が」というニュアンスも少なからず込められています。
 この展開にしてはたして第二話が面白かったのかは甚だ疑問ではありますが、まあこの「今私が書いているこれって本当に面白いのかな?」という疑心暗鬼は今に始まった事ではありませんので、自分を信じてトンネルを抜けていくしかありません。「全然面白くなかったよ♪」という方は是非教えて下さい。最高にへこみますので(笑)。

 さて、大学時代の話です。
 私が所属する落研では初めに「つる」という噺を覚えなければなりませんでした。新入部員は全員、絶対にこのネタを練習します。落語の基礎となる全てが含まれているからです。
 そして、先輩から合格点を貰えたら、次のネタを選んで良いとなります。
 その候補に「時うどん」や「子ほめ」、「へっつい盗人」や「平林」などがありました。
 これが早い者勝ちなのです。最初に「つる」で合格点を貰えた者が、どれでも好きなネタを選ぶ事が出来る。一番人気は勿論「時うどん」です。だって最高に面白いのですから。
 町内会のマラソン大会で優勝して「優勝者から順に好きな車をお選び下さい」と言われ、ホンダNボ○クスやトヨタア○ア等がある中に一台フェ○ーリが並んであったら、誰も迷いなくフェ○ーリを選びますよね(まあ、他の車でも町内マラソン大会の商品としては十分贅沢なのですが。Nボ○クスもア○アもお洒落ですしね)。それぐらい「時うどん」は当たりネタなのです。だから私は「つる」だけは頑張って一番に合格し、その後の落研生活の殆どを救ってくれた「時うどん」という聖剣を手に入れました。
 ただ、たまに一番で合格した者が、「時うどん」ではなく「子ほめ」を選ぶ事もありました。
 そういう場合、その人間は元々落語好きで、素質もあり、落語も上手な「落研サラブレッド」である可能性が高いです。
「子ほめ」は上手い人がやれば本当に上手い。
 車でなく料理に例えるなら「時うどん」はカレー。不味く作る方が難しい。
「子ほめ」は肉じゃが。上手い人が作るとコクが出て、味が出て、なんとも言えない趣が生まれる。
 この違いが「とにかく受けを狙いたい人間」と「きちんと落語をしたい人間」との性質を分ける決め手となるのです。
 一福君が正に後者でした。ああ、この「一福君」とは異世界落語の一福の事ではなく、私の落研時代の後輩で、一福の名前は彼から貰っています。勿論本名ではなく高座名です。どこの落研でもそうですが、入部しますと、それぞれ芸名を貰う事となります。私にもありましたが、その話はおいおいということで。
 作品内の一福のモデルという訳ではありません。性格も容姿も、何もかも違いますので(笑)。 
 私にとっては一つ下の後輩なのですが、新入部員として初めて会った時から、既に社会人10年生程の容姿と落ち着きを身に着け、更にはその時点で私の十倍以上落語の題名を知っているという、まさに「落語の神がこの世にもたらした寵児」でした。
 普段の生活でも彼は隙を窺っては落語の話を振ってきましたので、私は大変困らせられました。当然です。私に落語の事を聞いても仕方がないのですから。部室に顔を出して、一福君がいるのを見ると帰りたくなる程でした。「ああ、落語好きがいるよ……」と。落研に落語好きがいても何も間違っていなかったのですが、私みたいな不良落研部員には、彼の様なサラブレッドは眩し過ぎたのです。
 更に普段から彼は「兄さん、なにやってはりますのん!そんなの、あきまへんて!」や「そらあ後生でんがな、旦さーん!旦さーん!」とコテコテの落語口調。これはもう、なんと言いますか……本当にたまりません。
 例えミュージカル大好きの人間だからといって、常に歌いながら会話をしていたら、流石にイラっときますよね。それと同じです。
 ですが「落語口調好き落研部員」というのは、実は結構いるものなのです。全国の落研部員の9割は普段から落語口調だと言っても過言ではありません。友人を訪ねて「おお、誰かと思ったら、おまはんかいな」と返されたらその友人は百パーセント落研に入ったと思って構いません。
 私はその風潮を嘆き、落研時代「落語は落語。現実は現実」というスローガンの元、彼らの口調の粛清に努めては「ていうか何でこの人が落研にいるのだろうか……」という後輩達の視線に晒されたものでした。
 ですが、やはりそれだけ落語を愛する一福君の「子ほめ」は、素晴らしかったです。
 今回は異世界落語という事でかなりのアレンジをして登場させましたが、本来の「子ほめ」も皆さん、機会があれば是非ご覧下さい。

 次回は、これまた有名な落語です。「寿限無」でございます。
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