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異世界落語 作者:朱雀新吾

ソードほめ【こほめ】

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ソードほめ【こほめ】⑧

『バ……バケモノ!!』
 ホビットが勇者を指差して叫ぶ。それに対して勇者は不敵な笑みを浮かべて言い返した。
『バケモノ?そうかい。そいつは最高の……ほめ言葉だな』

 サゲの言葉の後に、一福が頭を下げると、盛大な拍手が起こった。

 その日も「ソードほめ」は大受けだった。
 特にホビットが勇者と魔剣に翻弄されるシーンは痛快で、ドラゴンが空から落ちて来たシーンでは、酒場が揺れる程の大きな拍手が巻き起こった。演じる一福の表情から台詞から声の裏返り様から、何から何まで大袈裟も大袈裟。情けなくも可哀相なホビットの演技に誰もが酔いしれた。
 一福は確信した。ターミナルの人々は基本的に派手好きなのだと。
 そして、色々と影響を受けやすい。例えば「こほめ」を「ソードほめ」に変えて実践してみるホビットがいたり。
 良く言えば素直。悪く言えば単純。

「そうだ。ラッカが肩当をもいでるんなら、俺達も、もぐか」
「そうだな!」
 ここにも別の例があった。そう一人の戦士が言うと、他の者も賛同し、次々と肩当をもぎはじめたのだ。
「いえいえ、そんな事されるとまた噺の筋を変えなくてはダメになるじゃないですか。勘弁して下さいよ」
「お、という事はイップク殿の別のバージョンの『ソードほめ』が聴けるかもしれないって事だな。おい、皆、早くもげ!もげもげ!!肩当をもげ!」
「そんなあ……」
 一福が困り顔で俯くのを見て、客がドッと笑う。
 クランエは目の前の光景を共に笑いながら見ていた。
――新参者だとご自身では仰るが、もうすっかりターミナルに溶け込んでらっしゃるではないか。それもご本人のお人柄と誠実さ故の事ではあるが。

 皆の中心から逃げてきた一福に、カウンターにいたイヘブコが話し掛けてきた。
「イップク様。お疲れ様です」
「ああ、これはこれはイヘブコ先生、来てらしたのですか」
「ええ、途中からですが。いやあ、今日も凄い盛り上がりでしたね。流石は名人、イップク様」
「いえいえ」
 一福はとんでもないと手を振りながらイフベコを見つめる。 
「それもこれも全てイフベコ先生のアレンジがあったからですよ」
 それを言われるといつも、イヘブコは嬉しいような情けないような、なんとも微妙な表情で笑う。
「いえ、大切な落語を悪用していたのですから……本当にイップク様には申し訳が立ちません」
「あはは。確かにそれは良くない事です。でも先のお相手に剣は返されたし、ラッカ様からも憲兵に直々にお許しを頂いて罪に問われないようになったのですから」
「運が良かったんですよ。全く」
 元々の泥棒自体が悪い事ではあるが、異世界の文化を悪用して、悪巧みを企てた自分に罰が当ったのだと、イヘブコは考えていた。踏み越えてはいけない線を、超えてしまったのだと。

「ですがイヘブコさん、その格好も、らしくなってきましたねえ」
 イヘブコの服装を見て、一福はニヤニヤ笑う。
「やめてください。シーフはすばやさが命なのですから。こんなの着けてたら走れませんよ。本当に嫌なんですから」
 イヘブコはサイトピア軍の紋章が刺繍されたマントを羽織っている。いや、羽織っているというより、埋もれている。彼専用のマントがまだ出来上がっていないそうだ。肩にはまた別の刺繍。羽と斧とが交差された絵が描かれている。 
「イヘブコ先生はもう、シーフではないでしょう。走る必要等ないじゃないですか」
「その通りだ。全く、こんな特例は普通は、というか、絶対にありえない事なのだぞ」
 ダマヤが得意の横やりを入れてくる。
「ああ、これはダマヤの旦那。お疲れ様です。あれ?まだ王宮に入れてもらえてないんですか?そういえば一度も中でお会いした事ありませんねえ」
「き、貴様ああああ!!」
 イヘブコの口にかかればダマヤも一撃でノックアウトである。
「まあまあダマヤ様。イヘブコ様も、それぐらいにしてやって下さい」
 二人の間をクランエが取り持つ。
「ああこれはクランエ様、どうも」
 嬉しそうに挨拶をするイヘブコ。だが、すぐに苦虫を噛みつぶした様な表情で、言う。
「嫌ですよクランエ様。『イヘブコ様』だなんて。オイラみたいなもんは呼び捨てタメ口で構いませんから」
「いえいえ、そういう訳にもいきませんよ。イヘブコ様の、立場が立場なのですから」
「あれは副業ですよ。ラッカ様に言われて嫌々やっているだけです」
 イヘブコがそう言うと、一福とクランエが同時に笑った。

「オイラの本業はこちらですから」
 そう言うと、イヘブコは一福に薄手の紙が何枚か綴られたノートを手渡した。
「イップク様、次回のネタ『エターナル』の台本です」
「これはこれは。いつもありがとうございますイヘブコ先生」
 一福は恭しく頭を下げ、ノートを受け取る。
「イップク様と話し合った部分もちゃんと入れてますので」
「ええ、また色々とターミナルの事を、教えてください」

 イヘブコは「ソードほめ」の手腕を買われ、異世界落語を作成する脚本家となった。
 更にその人当りと口先で、国の危機を救う最大級の使命を与えられ、特殊な部隊の所属となっている。

 ダマヤは巡り合わせを思った。
 落語に出会ったラッカがやる気を出し、魔剣と出会い。
 落語に出会ったイヘブコが悪巧みを思い付き、ラッカと出会った。
 ラッカはイヘブコを一福と出会わせ、一福は新しい落語を得た。
 イフベコは軍に所属し、才能を発揮している。
 これは、この繋がりは、偶然なのだろうか。

 ひょっとしたらこれこそが預言師の言う……。


 ☆  ☆  ☆  ☆

「イップクの旦那の手伝いをしろ。それがお前の罪を免除してもらう交換条件だ」
「こほめ」を悪用してソード泥棒を働いてたイヘブコはラッカにそう言われ、従う他なかった。
「それがお前の本業だ。そして、もう一つ、ちょっとした副業も与えてやるよ」
「副業……ですか」
「ああ、ついて来い!」

 そして、連れられて行った場所は王宮執務室。大臣の前である。イヘブコは面食らう余裕すらなかった。
「よう、じっさま」
 片手を上げ、軽く挨拶をする。ラッカを見て、いや、ラッカの背中の大剣を見て、大臣が悲鳴を上げる。
「ラッカ!お主、その背中の剣。魔剣ではないか!聖剣はどうした!?」
「聖剣?ああ、あれなら武器屋で売った。変な形してたし。二刀流じゃないからね、俺」
「売った!!??聖剣を売ったあああああああ!!???」
 目が飛び出る程のリアクションを取る大臣を指差し、ケラケラ笑うラッカ。
「ああ、やっぱじっさまのリアクション芸は最高だな。いつか旦那と会わせてみてえ」
「貴様、何を笑っておる。何がおかしい。聖剣を売って何をヘラヘラ笑っておるのじゃ!」
「ちなみに16ヒップで売った」
「安!!!!!聖剣安!!!!!」
「だけどじっさま……16ヒップだからって誤魔化してやないぜ」
「だからそれは一体何なんじゃああああああああああああああ!!!!!」
 ボルテージが上がり過ぎている。このままでは大臣が心臓麻痺を起こしてしまうのではないか。後方で様子を窺っている秘書官は気が気ではなかった。
 そんな秘書官の視線に気が付いたかどうかは分からないが、ラッカはタイミング良く話を変える。
「ああ、違う違う。今日はそんな話をしに来たんじゃあなかったのよ」
「な…………聖剣を売り払った話より大事な話があるか!」
 ビッと人差し指を突きつけられるラッカ。勇者はふっふっふと不敵に笑って、言った。
「それがあるのよ。じっさまがずっと探していた、良い人材が見つかったぜ。イヘブコって言うのコイツ」

 ☆  ☆  ☆  ☆

「で、どこですか?喧嘩をなされている方々のいる所は。全く……本当に仲が良いんだから。ああ、あそこですか」
 兵士に呼ばれたイヘブコは、慣れた足取りで颯爽と喧騒の中を掻き分けていく。

「もう、皆さん。また喧嘩ですか?あら、誰かと思えばダークエルフの姉御じゃないですか?何を怒ってらっしゃる?まさか、魔族側のダークエルフが何でサイトピアにいるのかって言われたんですか?え、違う?……ドワーフに肌の色を馬鹿にされた?許せない?……ははあ。それは違いますよ。間違っていたら謝りますが、その方はきっと姉御の漆黒で、悪魔の翼の様に退廃的で耽美的で美しい、結晶の様なお肌を見て、照れてらっしゃったんでしょうよ。あちらの方がずっと姉御を見てらしたんじゃあないですか?違いますか?あ、そう。やっぱりね。で、姉御が『何をジロジロ見てるんだい』ってな勝気な事を言ったんでしょう?あ、図星?そりゃあそんな言われ方したら向こうさんは『その禍々しい黒い肌に嫌気を覚えていたんだよ』ってな具合に返しますよ。例え思ってなくてもね……売り言葉に買い言葉。照れ隠しに。それがドワーフってもんじゃないですか。そんなの御博識なエルフの方々は1000年前からご存知の事でしょう?ほら、見て御覧なさいな。その証拠に、ドワーフの旦那ってば、顔が真っ赤ですよ」
 イヘブコがそう言うと、たまったものではないと相手のドワーフが叫ぶ。
「な、何を言っているんだイヘブコ。お、俺が、そんな不吉な女を、そんな風にジロジロと、観る筈がないだろう!!」
「まあまあ旦那も落ち着いて。立派なおヒゲが勿体ないですよ。男らしくしなさいな」
「だ、だから違うって……」
 なんだそういう事だったのかと仲間のドワーフまではやし立て、けしかける始末。そこには笑顔が溢れていた。

「たいしたものだな……」
「あ、これは副将軍。じゃあないか、総隊長殿」
 一部始終を見ていた総隊長が、イヘブコの下へと歩いてきた。イフベコは軍人式の礼をする。
「お前がエルフドワーフ特別同盟部隊の仲介役に就任してから一週間、彼らの諍いが半分以上減った。陣形の練習も、実戦の演習も、格段に連携が取れるようになった」
「いえ、元々ホビットはエルフ、ドワーフ共に交流のある種族でしたから。それにオイラ、じゃなかった、私は、シーフで、冒険者でしたから、荒々しい方々とのやり取りにも慣れています。ただの偶然がピタリとはまっただけですよ」
 謙遜を忘れない。それもイヘブコの気性で、無意識の魅力である。
「それよりも、このサイトピアという国が素晴らしいのだと思います」
「この国が?」
 ええ、とイヘブコは神妙に頷く。
「私達の様な亡国の種族の居場所を頂き、更には役職まで与えてくれて……だから私は就任の挨拶の時に皆にああ言ったんです」

 イヘブコは仲介役就任時に、エルフとドワーフの面々の前で、こう言った。
「あんた達はエルフやドワーフで、それぞれ文化も価値観も生き方も違うかもしれない。でも、今一つだけ言える事は、私も含めて、ここにいる皆、サイトピア国の国民なんだって事です。故郷を捨てろと言っている訳じゃあありません。拾ってくれた国の恩義に報う事。ひいてはそれが亡国の雪辱を果たす事に繋がるのではないでしょうか。その為には、仲間同士、喧嘩してちゃあいけませんよね?いや、まあ喧嘩してくれないとオイラの意味がなくなるんで、ちょっとはしてネ♪」


「あれは、本当に素晴らしく、面白かった……」
「あはは、あんまりほめないで下さいよ。それは私の専売特許なんですから」
 そう言うと総隊長はおかしそうに笑った。
「それはすまなかったな。それじゃあな」
「は!」

 肌をほめ、ヒゲをほめ、国をほめる。
 ほめられて嫌な人間などいない。ただ、ターミナルにはそれらをほめる文化がなかっただけである。
 だが文化とは時代の流れによって変化し、生み出される。
 赤子だって、ほめてやる。
――そうすればイップク様は、故郷の大事な「こほめ」を演じる事だって出来るかもしれない。

 ターミナルに、新しい風が吹こうとしていた。


「ダークエルフの姉御って何歳ですか?200歳?いやあ、若く見えますね。いや、姉御。どう見ても、100そこそこですよ」
「アハハ!100も若く言うヤツがあるか。お前、気に入ったぞ!」


「お、旦那。そのソードいつ買われたんですか?」
「ああ、良いだろう。今日買ったばかりなのさ」
「今日?そうですか?そいつはもっと新品に見えますな」
「今日より新品?それなら一体、どういう風に見えるんだ?」
 その問いにイヘブコは、満面の笑みを浮かべて、こう答えた。
「へえ、鍛冶屋の親父が叩き始めたばかりの、鉄クズに見えます」

 周りにいた全員が大爆笑。イヘブコの肩を抱き、エルフもドワーフも、笑いのもとに、一つとなっていた。

 ホビット族のイヘブコ。持ち前の人柄と機転、口先を駆使し、仲介役としてサイトピア軍エルフドワーフ特別同盟部隊に所属。後に改名し、ウゾーショと名乗り、種族間出世の草分けとしてサイトピア軍参謀長官まで登り詰める男である。

おあとがよろしいようで。
次回、「エターナル【寿限無】」でお会いしましょう。
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