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異世界落語 作者:朱雀新吾

サイトピアの王様【将棋の殿様】

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サイトピアの王様【将棋の殿様】⑤

 国王の言葉に国中に衝撃が走った。

――魔族が、サイトピアの王族だった。

「遥か昔、彼らはクーデターにより国を追われたのだ。復讐を恐れた新王権は彼らに闇を纏う呪いをかけ、魔物を従事させ、マドカピアという土地に流した。そして彼らに『魔族』と名前をつけたのだ。それが、真実だ」

「で、ですが、そんな歴史があったのなら、何故誰もその事実を知らないのですか?口止めをしていたとしても、少しは語り継がれていそうなものですが……」

 カンエが信じられないといった表情で国王に訊ねる。

「それはこの世界、ターミナルの特異な体質に所以する所が大きい」

「なるほど。そういう事か……。元王族ってのは、異世界人だったんだ」
 ラッカが納得した表情でそう言うと、国王も首を縦に振りその意見を肯定した。

「ラッカの言う通りだ。ターミナルでは異世界人を異質と捉え、自らの理に組み込もうとする。元王族自身が異世界人だったのか、どこかで少しその血が混ざっていたのか、今となっては定かではないが、この世界から異質と判断された。そして『魔族』というレッテルを貼られた瞬間を、ターミナルは見逃さなかったのだ」

 世界に「魔族」と認識され、魔族である事を強いられた一族。それはまさに悲劇だった。

 ラッカが腕を組んで天井を仰ぎ見る。

「まあ、普通はおかしいと思ってなきゃ変だったんだよな。魔族は俺達と同じ姿をしているんだから。サイトピアに肌の色やなんかを褒める文化がなかったってのは、多分そういう事なんだろうな。容姿に無頓着になれば、別に魔族と自分達が同じ姿だとしても、さほどは気にしないもんな。『ソードほめ』で褒める文化がないっていうのは、そういう事だったのかよ」

 サイトピア人が外見を褒めても、結局は忌むべき魔族の外見と同じという疑問に行きつく。だからいつしかターミナル自身が容姿を褒める事を禁忌にした(・・・・・)のだ。ターミナルが自らの体調を整えるのと同時に、偶然にも、サイトピアの負の歴史を覆い隠した事になった。

「はあ……なんだか、すげえなこの世界。神経質にも程があるだろう」
 文化すらも揺るがすターミナルの特異性にラッカは薄ら寒い気持ちを抱く。

「あ、あとミギチカに聞いていたんだけど、魔族に侵略されていたドワーフ城を取り返した時に驚いたのは、捕虜はちゃんと丁重に扱われ、城下町や近隣の村に対する略奪や暴行なんかは殆どなかったって。冗談混じりで言ってたよ。魔族軍は、ひょっとしたらターミナルで一番規律に厳しいのかもしれないってな」

 そう言って勇者は面白くもなさそうに笑った。

「ていうかシーンダの大将なんか、どこの騎士よりも騎士らしいし。クラを必死で取り戻そうとするってのも、結局は、子供を取り返したかった。そう、つまり……うん。人間……なんだな」

 ポツリと言ったラッカのその言葉は、全ての人々の胸に響いた。

 今まで憎んでいた相手は、人間。
 元は同じ国の、同胞だったのだ。


「それを知った余は、何を考えたと思う?愚かにも、保身だった。現サイトピア王権は、元々君臨していた王座を奪い取った、穢れし、裏切り者の一族。魔族を滅ぼせば、その歴史ごと無かった事に出来ると思った。そうすれば現在のサイトピアは安泰だ。人間は我々だけで良い。卑しくも余はそう考えたのだ」

 国王は苦悩に満ちた表情で告白する。

「その案に、ヴェルツも賛成してくれた。そして、魔族に対する恐怖の暗示を施したのだ。まあ、そもそもターミナル自身が『魔族』という言葉に対して同じ様な暗示を使っていたから、それを増幅させる意味合いでしかなかったがな」

 そこで国王は一つ、言葉を付け加える。

「これだけは言っておくが、ヴェルツは紛れもない忠臣である。元の世界では色々と悪さをしたようだが、サイトピアの預言師ヴェルツとしては、余に忠誠を捧げ、尽力してくれた。魔族とクランエに対して冷酷であったのも、全て、余を守る為。現在のサイトピア王政を守る為なのだ。咎められるべきは、間違った決断を下した余である」

「陛下……」

 預言師は目を潤ませて国王を見上げた。


「だが、余の意見に反対する者がいた。妹のサイケデリカだ。彼女も余と共に文献を読み、魔族の真実を知ったのだ。そして、余とは違う、正反対の道を進もうとした。サイケデリカは魔族と和解して、再び一つになろうとしていたのだ」

 サイケデリカ姫なら、そうするだろう。古くから仕えている家臣は、皆一様にうんうんと頷いた。

「信頼の於ける忠臣の協力を得て、魔王、マドカピア王と接触した。そして、事もあろうに彼女は恋に落ちたのだ。サイケデリカは身籠った。サイトピアとマドカピア。人間と魔族の、王子をな。いや、旧王族と現王族と、言ってしまおうか」

 そして国王はクランエを見つめる。

「余はそれを阻止した。二つの国が一つになったら、余は反逆者の末裔として処刑されるやもしれん。秘密部隊を使い、二人の密会を襲い、引き裂いた。マドカピア王は傷だらけになりながら、我々に復讐を誓い、去っていった」

 サイトピア王は、新たな禍根を、自ら生み出したのだ。

「生まれた子供、クランエは幽閉して、妹は程なくして病で亡くなった。全ては、余が一人勝ちしたかった為。ただ、それだけの為に、多くの悲しみを生み出してしまった」

 それからは知っての通りだと、国王は説明する。

「召喚輪倶を使い、救世主を呼び寄せようとした。異世界人の力は絶大だ。踵の精霊のぶをの様に、ハナシカを神格化させ、ラクゴの力を使い、魔族を駆逐しようと考えたのだ。だが、妹の遺志を継ぐ忠臣の働きにより、ハナシカは回り回って余の喉元に剣を突き付けてきた。言葉という剣をな」

 そう言って国王は大臣を見る。
「ソングよ。これも全てお主の描いた絵の通りか?」
 それには大臣は笑って首を振る。
「いえ、ハナシカの力を侮っていたのは、こちらもでございます。これは全て、ダマヤの手柄です」

 ダマヤは大臣の顔が見れなかった。
 結果こそ、今はなんとか上手くいっていて心の底からホッとしているが、クランエの護衛を忘れていたなんて、口が裂けても言えなかった。


「さあ、これで話は終わりだ。余は真のサイトピア王ではない。後は好きにするがよい。幽閉するもよし、首を刎ねるもよしだ」

 国王がそう宣言すると、その場に重い沈黙が流れる。

 その静寂を直ぐに破ったのは、勇者だった。

「おいおいおい、ごちゃごちゃ何を言ってんだよ。あんたは王様だよ。決まってんだろうが。全く、クラの生真面目なのは叔父譲りなのかよ……」

 そう言いながら、ラッカは苦笑を浮かべている。

「クーデターだろうが何だろうが、今までこの国を統治してきた事実は変わらねえし、それに実際それはあんたの何代も前の話だろう?歴史的にはよくある話じゃねえか。なんだよ。クーデターで幸せになっちゃいけねえのかよ。名君のあんたに王位を退かれたら国民は困り果てちまうぜ。国民は秘密を知りたかっただけさ。あんたが憎くなった訳じゃねえ。旦那の落語の何を見てたんだよ」

「こらラッカ、陛下に向かって何という口のきき方だ」
 流石に大臣が諌めるが、国王は気にした風でもなくラッカに訊ねる。

「では、どうすればよいのだ。マドカピアはサイトピアを憎んでいるのだぞ」

 その問いに、ラッカはいとも簡単に答えた。
「俺はサイケデリカ姫の意見に賛成だな」
「妹の?」
「ああ、かと言って今更一つになりましょう、なんて言ってもそれはお互い難しいだろう。じゃあ、このままサイトピアとマドカピアで生き残りをかけて総力戦でもするか?最後の一人になるまで。そんなの勘弁だよ」

 ラッカはあからさまに顔をしかめる。

「だったらどうすればよいのだ。早く答えを言え」
 大臣が痺れを切らした様に言うと、ラッカはニカッと笑って答えた。

「だからさ、人間同士、友好国として歩き出せれば最高じゃねえかよ」

……友好国。
……マドカピアが。
……人間同士。

 その言葉の響きは、つい先程真実を知った人々には些か早すぎた。
 だが、いつかそんな日が来るかもしれない、そんな未来を予感させてくれるには、十分であった。

「それなら、俺は第一便の使者になってやっても良いぜ。そして、その架け橋となるのが、落語って訳だ」

 そう言って一福を見る。

 全てはあの日、エルフとドワーフの仲裁から始まった。
 それが人間と魔族、いや、サイトピアとマドカピアという二つの国となっただけの事。


「待て、双方共に血が流れているのだぞ。ラクゴなど聞く筈がない。それに、国内でも反発が起きるぞ。多くの悲劇が行く手を阻むに決まっておる」
 あくまで現実的な意見の国王に、ラッカはたまらず怒鳴りつける。
「あのね、こっちだって一日二日でなんとかしようなんざ思ってねえよ!!長い目で見た、最初の一歩だよ。落語を聞かない?だったら力付くで聞かせりゃいいんだろうが。敵味方問わずな」
 そう言うと、勇者は乱暴に大剣を床に突き刺した。

 それには預言師がたまらず突っ込みを入れる。
「そんなん無茶苦茶やがな。それなら手っ取り早く落語の力を使って、ほら『平和ビーム』みたいなんで仲良しこよしにしたったらええやんか」
 半ばやけくその預言師の言葉に、一福は笑いながら首を振る。
「あたしは落語の神様になるつもりはありません。何故ならもう落語の神様はいらっしゃいますから。幼い頃に、絶望の底にいたあたしを、笑いで救って頂きました。だから、あたしは人間として、地に足をつけて生きていくんです」

「いや、せやかて、あんたらは『勇者』と『救世主』なんやぞ!ワガママばっかり言ってんとちゃうで!」

 預言師の言葉を聞き流し、一福がラッカに声を掛ける。 

「さて、ラッカ様。それでは旅に出ることにしましょうか」
「おう!」

「旅?旅やて!?何でやねん?」

 預言師の問いに、ラッカと一福は同時に振り向くと、言った。

「決まっている。悲劇を笑い飛ばしに行くんだよ」
「魔王を笑わせに、ね」


「それが『勇者』の俺と『救世主』の旦那の、最高にアツい……この世界の救い方だよ」


「ま、魔王を……笑わせに……」

 預言師は、二人のあまりに無茶苦茶な話に、ついに目を回して倒れこんでしまった。

「ハッハッハッハッハ!!」
 たまらず、国王が声を上げて笑い出す。

「ま、魔王を笑わせに行く、だと?なんたる荒唐無稽な事を……。ハッハッハッハッハ!」

 国王は愉快でたまらなかった。自分の抱えていた悩みが、馬鹿みたいだった。そんな解決方法など、思いもしなかったのだ。



「凄い……凄いです一福様」
 捕縛を解かれたクランエが目を輝かせて一福を見つめる。

「その夢、一福様なら、必ず成し遂げられます!頑張って下さい!!」
 クランエは確信を持って叫んだ。

 それに対して一福は心底呆れた表情で、言った。
「はあ?何を言っているんですか師匠?」

「え?」

「あたしはやりませんよ。」

「へ?」

「聞いていたでしょう?あたしが活躍すると、勝手に精霊だったり神にされてしまうんですよ。これでサイトピアとマドカピアの仲を取り持ったりした日には……確実に昇天しちゃいますよ」
 そう、おどけた様に言う一福は、なんだか楽しそうだ。

「七福の襲名だってありますし、それに小春お嬢さんがこちらに来た時に、あたしが神になっていたら吃驚してしまいますよ」

「それはそうかもしれませんが……。では一体誰が……?」

 クランエが訊ねると、一福は至極当然の様に、正面を指差し、言った。

「貴方に決まっているでしょう?」
「は?」

 思わずクランエは素っ頓狂な声を上げる。

「私、ですか?」
「ええ、貴方しか、いません。」

 なんと、ラッカまで一福の横でうんうんと頷いている。

「そうだぜクラよ。サイトピアとマドカピアの血をどちらも引くお前が、元々同じ種族だった二つを繋ぐ架け橋になるんだよ」

「さあ、ビシバシ鍛えますから、覚悟しておいて下さい」
 一福はそう言って意地悪に笑った。


  ―――――――――――――――――――

 世界を救う為、救世主を召喚せよとの命を受けたサイトピア国宮廷付きのダマヤ。
 だが、ダマヤが手違いで召喚したのは「ハナシカ」だった。
 これは、一人の噺家が落語で世界を救う物語である。

 その男の名こそ、クランエ=イビル=マドカピア。

 彼の人生には数多くの苦難が待ち受けており、様々な名で呼ばれる事となる。

「裏切りし天才」

「呪われし血の種族」

「忘却の歴史が生んだ忌み子」

「サイトピアのジレンマ」

「マドカピアのジョーカー」

「囚われし魔族の王子」

 そして「楽々亭九楽」

 魔族の王子ながら、サイトピアで育った、元々一つであった種族を繋ぐ、唯一の架け橋。


――後に「二代目楽々亭一福」を名乗る男である。


 ―――――――――――――――――――

 勇者一向がマドカピア城に単身で乗り込み、パーティの中にいたハナシカなる職業の者が、ラクゴと呼ばれる不可思議な話芸を披露するという、ターミナル史を揺るがす大事件が起こるのは、この時から丁度、半年後の事であった。
長らくのご愛顧、誠にありがとうございます。
これにて『異世界落語』、ひとまずお時間とさせて頂きます。
またどこかでお会い出来ますことを心より願っております。
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