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異世界落語 作者:朱雀新吾

サイトピアの王様【将棋の殿様】

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サイトピアの王様【将棋の殿様】③

「半ば落ちですと?」
 一体何が起きたか分からずに騒然とする謁見の間に、驚愕したダマヤの声が響く。

「半ば落ち」とは、長いネタ等を話の途中で切って終わらせる手法である。

 つまり一福はサゲの寸前で、落語を突然終わらせたのだ。

 周りの者は当然、怪訝な表情を浮かべている。
 これで、終わりなのか、と。

 それは国王も同じである。
 眉を上げながら、一福に訊いてくる。

「イップク……とやら。このハナシの、サゲ……と言うのか?最後はどうなるんだ?王は……自らの非を認めるのか?」

 その問いに対して、噺家はキッパリと答えた。

「それは国王様がご自身でお決め下さい。この国の事です。あたしの様な余所者が決めて良いものではありませんので」
「むう……なんだと」

「確かに、あたしはこの世界に関わっていくと決めました。ですがやはり、度は過ぎてはいけません。精々出来る事と言いましたら、この首をかけて、既に筋道を理解していらっしゃる御聡明な国王様の御前で、偉そうに噺をぶたせてもらう。それぐらいです」

 一福はそう言うと、笑顔を浮かべて頭を下げた。

 その姿を見て、国王は先程までにない、穏やかな表情で呟く。

「なんとも、この国のラインハルトは、随分謙虚なのだな……」

 そして、次にこう宣言した。

「……どうやら、イップクの言葉が民の心を動かした様だ。余の胸にも強く響いた。見事だ。余の負けだ。クランエの処刑は取り止め。全てを話そう」

 国王が、頭を下げた。


 大臣はその光景を、呆然と眺めていた。
 奇跡が起きているのだろうかと思った。
 あれだけ堅牢であった王の心を、言葉だけで、開けさせる事が出来るとは。

 自分には、絶対に出来ない事であった。

 異世界から召喚されし男、楽々亭一福。

 どれだけ否定しようが、嫌いになろうと努めようが、最早大臣には、彼に対して、並々ならぬ尊敬の念しか覚えられなかった。


「待って下さい陛下!!あきまへん!あきまへんで!!」

 国王の発言を慌てて制止したのが、預言師である。
「雰囲気で流されたらそのペテン師の思う壺でっせ!!こらイップク!王が認めてもアカン。約束がちゃうで。見てみい!!だ、誰も笑ってないやないか!」

 そう言って必死に非難する。

「わてはしっかり言ったで。『バカ受けが条件』やってな!見てみい、今の現状を。お通夜みたいに静まり返っとるやないか!処刑や処刑!」

 処刑処刑と捲し立てる預言師に、国王が不思議そうに首を傾げながら言う。

「何だヴェルツ。お主には聞こえなかったのか?」
「え?」

 そこで預言師は思い出す。先程国王が少しおかしな事を言っていたのを。
「イップクの言葉が民の心を動かした」と。それは一体……。

「預言師殿、ほら耳をすませてご覧なさい」

 大司祭がそう言って耳に手をあてて、預言師を窺う。
 ほら、聞こえませんかな。この声が
 預言師は耳を澄ました。

 確かに……聞こえる。

 いや、それよりもまず……城が、揺れていた。

「これは…………地震?いや、歓声?」

 それは、国中から沸き起こっている歓声だった。
 窓に駆け寄り外を見ると、多くの民衆が城に大挙してきていた。
 預言師はその光景に驚愕を覚えた。

「な、何やこれ!な、なんでやねん!?」

――何で民衆がこんなに。ラクゴは謁見の間でだけ…………あ。

 そこで預言師は先程の大司祭とのやり取りを思い出した。

――「まとめて、処刑や!!見せしめに、公開処刑や!」
――その言葉に大司祭が真剣に頷く。
――預言師はしめたとばかりに大声を上げる。
――「ほら、大臣よりも古くからサイトピアに仕える大司祭様かて処刑に賛成や!陛下!御決断を!」

……まさか、大司祭のあの頷きは、公開処刑(・・)に対してではなく、公開(・・)処刑という言葉に対しての……。つまり……。
 その時、大司祭がにこやかに預言師に語りかけてきた。
「預言師殿の仰った通り、国民に公開出来ます様に、あれからずっと映像魔法を使っておりました。いやはや老体には堪えますな。これは確かに『バカ受け』所ではありませんのう。『超メガトンサイトピア級受け』と言った所でしょうか」

「そういう意味じゃ……おまへんがなああああああ!!」
 預言師が大司祭に本場仕込みの突っ込みを入れるが、もはや後の祭りである。

 そう、誰もが一福の落語を観ていたのだ。

 酒場で、食堂で、家で。
 男が、女が、子供が。
 人間が、ドワーフが、エルフが。

 サイトピアにいる全ての者が、一福の命を懸けた落語を聞いていたのだ。

 異世界人である彼の、国を、世界を愛するその心意気に、心を動かされ、いてもたってもいられずに城に押し寄せてきているのだ。

「ヴェルツ。これが答えなのだ。我々は間違っておったのだ」
 預言師にそう告げると、国王は真剣な面持ちで一福を見つめて言った。

「さあイップク。余の負けだ。鉄扇を持ってきて、余の腰を打つがよい」

 それに対して一福は、その言葉を待ってましたとばかりに、最高の笑みを浮かべながら返答した。


「『ああ、それならもう一足先に勇者様が――陛下の腰かけ(玉座)を吹き飛ばしておいでです』」


 まさに落語のサゲに相応しく、しっかりと間を溜めながらそう言うと、今度こそしっかりと、頭を下げたのだった。

 次の瞬間、サイトピア中から響き渡る大歓声と大喝采に、城は包まれた。
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