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異世界落語 作者:朱雀新吾

サイトピアの王様【将棋の殿様】

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サイトピアの王様【将棋の殿様】②

 詰所で騎士達が話をしている。

『いやあ、陛下の将棋好きにも参ったもんだよな。いや、強いならこっちも清々しく負けられるんだけどさ。こっちが負けようと思って打ったって、何故か陛下は自分から劣勢になるような手を打ってしまうんだよな』
 一人の騎士が困り果てた様に言う。

『で、追い込んだら追い込んだで、いつものアレが飛び出すんだよ。この前も俺が追い詰めた陛下の竜騎士の駒を取ろうとしたら、何て仰られたと思う?「うーむ、それならこの竜騎士の駒は空中に飛んで逃げようかの」だぜ。そう言って駒を盤から外に飛ばしてしまったのよ。俺も思わず「ええ!?」って驚いたらさ、陛下は「竜騎士だからの。何か文句があるか?」だぜ?そりゃあ文句を言えないよ。国王だもの。この国で一番偉い人だもの』
 そう言って降参だといわんばかりに、手をヒラヒラさせた。
『竜騎士の駒は、確かに飛べるは飛べるけど、精々盤上の2マスを飛び越えられるぐらいのもんだぜ。それをそもそも盤からいなくなるってどういう事だよ』

 謁見の間にいる、誰も笑わない。ただただ静寂が流れるのみである。

 別の騎士が頷きながら語り出す。
『私の時は「歩兵が突然バーサーカー化した」と仰られて、手番も何もかも無視されて、一体の歩兵に全ての駒を蹂躙されてしまいました』

『俺の時は「リヴァイアサンが暴れ出した」と言われて、盤を揺らされ、駒の配置をめちゃくちゃにされたよ』

『私は突然「隠密」という駒が現れて、自軍の王を殺されたよ』

 皆で口々に言い合ってから、最後に大きく溜め息をつく。

『そりゃあそれで済めば笑い話でおしまいだけどさ、負けるとお仕置きがあるからな……』
『ああ、鉄扇で腰を叩かれるのは、たまらんな』
『俺なんかこの前の痣がまだ残ってるよ。見てみるか?』
『いいよ。野郎の腰なんて見たって面白くもなんともない』
 腰を捲ろうとする騎士に、別の騎士が突っ込む。

『そりゃあ勝ったからってこっちが鉄扇で陛下の腰を叩く訳にはいかないけどさ。あーあ、正直、勘弁して欲しいんだよなあ』

 心底嫌そうに呟いた。

「権威に溢れ、国民から慕われている王だからこそ、その様に物事を歪める行為をして欲しくないものです。さて、そんな話をしている所に現れたのが、武者修行の旅から帰ってきた忠国の騎士ラインハルト」

 ラインハルトは騎士達の話を聞くと、それはいかんなと眉をひそめた。

「規律を己の都合の良い様に歪めて、さも当然の様に振る舞う。いや、そんなものは王とは呼べんわな。愚か者が王につくと国が滅びる。こんな国はこのまま、滅んでしまえばいいのだ」
 快活にそう言い捨てるラインハルト。

――それは、ミヤビが先程国王に放った言葉だった。

 それにはカンエを始め、謁見の間の騎士達が黙っておらず、激昂してたちまち一福に詰め寄る。
「おのれイップク!王を愚弄する気か!!」
 騎士団が槍を構えて取り囲む。

「さあ、先程まで不満を言っていた騎士達ですが、将棋癖だけがたまに傷なのであり、それ以外には何の不満もない王を当然慕っております。そこまで主君の悪口を言われては黙ってはいられません。ラインハルトは怒った騎士達に槍で包囲されてしまいます」

 一福は何事も無かった様に、至って冷静に落語を続けている。
 まるで自らの状況を説明する様な語り口である。

「ですがラインハルトも負けていません」
 そう、一福は、いや、ラインハルトは怯まない。

 眼光鋭く騎士達を睨み付けて、唸る様に言う。

『その槍を誰に向けておる……』
「え?」
『誰に向けているつもりだと言っておるのだ』
 低く、荘厳な響きで騎士達を威圧する。
『俺はこの国の事を第一に考えておる自負がある。その槍で俺の胸を貫くというのならば、当然、俺よりも国を想う気持ちが上なのだろうな。面白い、突いてみよ。だがいいか、心して突けよ。今後、もしお前が俺よりも国の役に立たなかったら、それは陛下に対しての完全なる反逆になるのだからな』

「…………クッ。こやつ」
 一福の口から滑らかに流れ出る啖呵にカンエがたじろぐ。槍を構えている騎士達も明らかに怯んだ様子だ。

 ラインハルトの言葉は、更に続く。

『お前達、騎士道を何と心得る。国を思い、憂い、時に己の命も省みずに主君に意見する。それこそが真の忠臣だろうが。命惜しさ、権力に屈して、ものも言えぬ雑兵風情が偉そうに……この俺に太刀打ち出来ると思うな!!黙ってすっこんでおれ!!!』

 一福の瞳は、まるで歴戦の騎士の様に熱く、燃えていた。

 その剣幕にカンエも騎士団も、完全に気圧され、後退する。
 これだけの人数で丸腰の者を取り囲み、結局心を鋭い槍で突かれたのは、自分達の方だった。

 カンエは国王が預言師と何やら画策しているのは気が付いていた。だが、それをただ静観していたのだ。

 その後ろめたさから、何も言えなくなった。

「貴方の負けです、カンエ」
 気がつけば、後ろにチョウカが立っていた。

「どうやらこの落語は我々の王の話ではなさそうですよ。陛下は将棋を嗜みはしませんからね」
「いや、そういう問題ではないだろう!題名だって『サイトピアの王様』だぞ。明らかに陛下を愚弄しておるではないか!」

 そこに、大司祭も口を挟んでくる。
「カンエ。彼はただ、落語を演じておるだけじゃよ」
「大司祭様まで……」

「貴方も本当は分かっているのでしょう。彼は今、命を賭して、我が国の為にラクゴを演じてくれているのだと。非難するのは、最後まで見届けてからでも良いでしょう」
「…………ふん。仕方ない」
 そして、カンエは騎士達に命じて、槍を退けさせた。

 一福の落語はまだ続く。


「さて、ラインハルトは早速国王陛下への御目通りを許してもらいます。場所は宮廷、謁見の間です」

『陛下。お聞きしました。サイトピア将棋に御執心かと、私がお相手致しましょう』
『おお、ラインハルトか。よいだろう。一局勝負といこう』

「家来に盤を用意させ、早速始めます。さて、初めは普通に将棋を指していた国王ですが、盤面が厳しくなってくると、騎士達の言っていた通り、新しいルールを作り始めます」

『よし、この竜騎士の駒は飛んで隠れる事にしよう。よいか、もう盤上にはおらんからな』
『左様ですか。でしたら私はこの弓兵の駒で空へ矢を射る事にしましょう』
 対するラインハルトも、国王と同様に新しくルールを作って、応戦する。
『竜騎士は矢を射られ、落ちてきました』
 そう言って、国王が盤の外へ置いた竜騎士の駒を取る。
『…………な』 
 国王は目を丸めて絶句した。

 更に勝負が進むと、また国王が何事か言い出す。

『お、いかんな。歩兵がバーサーカー化したぞ。こいつは手に負えんぞ』
 国王が嬉しそうに笑うと、ラインハルトは冷静に一つの駒を盤上に置いて言った。
『では、僧侶に気付け魔法を使わせます。これで歩兵のステータス異常はなくなりました』
『……気付け魔法か。なるほど……。うん。その手があったか……』
 国王は何も言えなくなった。

『リヴァイアサンが現れたぞ!』と国王が言うとラインハルトはすぐに「巫女」の駒を盤上に置き『巫女の祈りでリヴァイアサンを鎮めました』と言いながら、国王が盤を揺らそうとしているのを、しっかりと片手で押さえる。
『ぐ…………』

『やった!王の駒を隠密に暗殺させたぞ!余の勝ちじゃ!』
 国王はラインハルトの王の駒を取って大喜びする。だが、ラインハルトは涼しい顔で懐に手を入れながら王に笑いかける。
『ああ、それは前もって私が用意しておいた偽の駒。影武者でございます。本物は、ほら、こちらに……』
 そう言って懐から取り出した本物の王の駒を見せつけた。

『な…………』
 国王の奇手の全てに反手を打つラインハルト。

 それに対して国王はいよいよ我慢出来なくなり、ついにラインハルトを非難し始めた。
『こ、これは卑怯だ……』
『卑怯?』
『そうだ、そんなものは聞いた事がないぞ。勝手にルールを作って、理をねじ曲げるでない!そんな事が許されると思っているのか』

 国王のその言葉に雷に打たれた様に放心し、観念した様に項垂れるラインハルト。
 恐れいったと平伏する。

『陛下の仰る通りです。法を曲げ、真実を己の都合の良い形に、歪めて伝える。それはやはり、良くない事のようですな。それは最早王ではありませぬ。独裁者です。いつしか民の心は離れ、孤独となるでしょう。私が間違っておりました。どうか、煮るなり焼くなり、如何様にもなされて下さい』


「あれ?いつの間にか、ラインハルトが謝る流れになっておる。どういう事だ!?」
 ダマヤが不思議そうに首を傾げる。

「上手いな。流石は一福殿」
「しっかり予防線を張っている所が、喰えませんね」
 絶妙な回り回った言い回しに、端で見ていた参謀のシンダ=スプリングとイヘブコも密かに舌を巻いた。


 そして国王も、いつの間にか身を乗り出して、食い入る様に一福の落語を聞いていた。
 その顔は驚きに満ちている。
「この者は……一体」

 そしてラインハルトは平伏したまま、こう言った。

『どうか陛下、この無礼者の腰を鉄扇でお打ち下さい。それでご容赦出来ませんのなら、この首を刎ねて頂いても構いません』
『ううむ……』

 その場にいる全員が、落語の結末を、固唾を飲んで見つめている。
 一体どんなサゲになるのか……。

 だが、そこで一福は、誰も想像していなかった、衝撃的な言葉を口にするのであった。

「さあ、ラインハルトの運命や如何に!以上『サイトピアの王様』半ばでございます」
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