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異世界落語 作者:朱雀新吾

サイトピアの王様【将棋の殿様】

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サイトピアの王様【将棋の殿様】①

「一席お付き合いやと……」

 すっかり腰を抜かしていた預言師のヴェルツが何とか立ち上がり、一福に文句を言う。

「何を言ってんねんな。この雰囲気でラクゴやて?あんさん頭大丈夫かいな?」
 それに対してにこやかに一福は答える。
「いえ、クランエ師匠の首とあたしの首を交換しようかと思いましてね。どちらかと言いますとあたしの方を早く刎ねないと、マズいですよ」
「なんやて?」

「彼は全てをその身に隠し、気高く黙したまま死ぬつもりです。ですから別に放っておいても問題ない。ですがあたしの方はと申しますと、なんせ口が軽い。死ぬのが怖くてある事ない事喋ってしまいますよ。この世界の秘密でもなんでも……ね。あとは、預言師様は何で落語や噺家について知らないふりをしているのかに関してだとか……」
「き、貴様!!」
 頭に血が昇り、一福を睨み付ける預言師だが、一福は余裕の表情のままである。
「ただ、あたしだって武器も持たないか弱い一般市民ですから、殺そうと思えばいつでも殺せますよ。ですから、せめて最後に大好きな落語を演らせて下さいな。どうか御慈悲を。今からあたしがする落語をちょっと聴いて頂いて、お気に召さないのでしたら、いつでもこの首をお刎ねになって下さい」
「ようもいけしゃあしゃあと……」
 預言師は苦々しく一福を見つめる。
 簡単に刎ねる事が出来ない事情を知っているから、こんな事が言えるのだ。
 落語の力を何としても手に入れたい国王と預言師の足元を見ているに違いない。

 だが、それに関しても一福は早々に先回りして言及する。

「それに、落語の武力化を企んでいる様ですが、あたしは絶対に協力しませんので」

「なに……を」
 預言師は思わず絶句した。

「絶対です。殺されようが何をしようがです」

 その瞳には確固たる意志を感じる。

「ただし……あたしの言うことを聞いて頂けるのなら、仕方ありませんね。協力しましょう」
「何やて!?ほんまかいな!?」

 絶対と言っておきながら次の瞬間には寸前の言葉を翻す、目の前の男のあまりにもの適当さに、預言師は気がつかない。
 既に術中にはまっているのだ。
 眼前にぶら下げられた餌を逃すまいと、必死に喰らいつく

「で、条件っちゅうのは何やねん?」

「クランエ師匠を見逃してやって下さい」

 軽々しく放たれるその言葉に、再び頭に血が昇る。
「そんなの許さん。クランエ召喚士は今すぐ処刑に決まっとんねん!!」
「それでは協力出来ませんね」
「なんやと!」

 会話が平行線を辿り出したその時。

「まあ待てヴェルツ」
「へ、陛下……」

 声をかけたのは国王だった。

「よい、そのラクゴとやら。観てみようではないか」
「陛下!そんな慈悲は必要ありまへん」

 悲鳴にも似た預言師の言葉を国王は手で制す。
「ラクゴの事は以前にも、サブリミナルに言われておってな。何でもあの娘が笑顔を取り戻したのはラクゴのおかげだと言う。一度観てみたいと思っていたのだ」
「ですが……」
「よいではないかヴェルツそれに――」
 顔を歪めている預言師に、語りかける。
「この者を救世主だと預言したのは、お主だぞ。余はな、お主の預言の力を些かも過小評価しておらんぞ」
「陛下……」
「この世界の事。我々の行く末について、託してみるのも、良いかもしれんぞ」

 そう言った国王の顔は、幾らか疲れている様に見えた。

「宜しいんですか?」

 一福が上目遣いで訊ねると預言師は恨めしそうな顔で、頷いた。

「……陛下のお許しが出たんや。好きにしいや。せやかてクランエ召喚師の処刑を覆すにはちょっとの笑いじゃ許さへんで。バカ受けや!バカ受けが条件やで!もう分かってると思うけど、わては笑いの本場から召喚されたんやからの。厳しくいかせてもらいます」

 分かりましたと笑う噺家。

 それではと、一福は語り始める。

「まあ、世の中上手くバランスを取って回っているものでして、絶対に完璧、だなんて事はないように思われます。例えば素晴らしい、誰からも認められる良い人にも、やはり一つくらい傷があるものです。あたしの師匠なんかは、凄い腕の噺家で、お客さんの心を一瞬で掴む程の、まさに国宝級の方ですが、やはり傷と言いますか難と言いますか……お酒がとても好きでして。酒を飲んだら他の噺家の悪口は言う、喧嘩はする、次の日の寄席に遅刻する、と。あはは、散々な方でした。落語の腕がなければ誰も見向きもしなかったかもしれませんね」

 緊張など微塵も感じさせず、いつもと同じ様に愉快な語り口である。

「で、師匠繋がりで言いますと、ここにいるクランエ師匠なんかも真面目で勤勉、素直に実直と、本当に良い所づくめであります。全くもって非の打ち所がない。……様に思われますが、そうでもない。探せば誰でもあるものです。この方はね、真面目過ぎるんだ。だってそうでしょ?こんな状況になっても何の言い訳もしないで、素直に処刑されようとしていますからね」

 そう言って一福はおどけた顔で周りを窺うが、誰も笑いはしない。
 その反応を全く気にする様子もなく、一福は話を続ける。

「さて、ある所に、サイトピアという、とても良い国がありました。王様も名君と呼ばれ、民は大いに繁栄しておりました。ただその王様にもやはり一つ難がありまして。そう、完璧なんかないんですね。それは、将棋にハマってしまっていた事です。サイトピア将棋。皆さんご存知ですね。多種多様な動きをみせる駒を使って、盤面で戦う。盤上の格闘技」

 話しながら羽織を整え、自然な所作で懐から扇子を取り出す。

「王様は時折、配下の騎士達を招き、将棋の相手をさせます。それが騎士達には嫌でたまりません。何故か?そもそも王様に勝つ訳にはいきませんし、更に厄介な事に、この王様は自分が負けそうになると、駒の動かし方やルール全体を曲げて、必ず勝ってしまうからです」


 そして、一福は扇子でトンと、地面を叩く。

 世界を変える落語が。
 伝説の一席が。
 今始まる。

 そう、全てはここから――始まる。

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