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異世界落語 作者:朱雀新吾

夜明け前

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夜明け前

「……これは……なんや?リュートかいな?」

 突然鳴りだした音に、預言師が怪訝な表情を浮かべる。
 確かに、その音はリュートであった。
 宮廷楽団が空気を読まずに練習でも始めたのかと思ったが、サイトピア宮廷楽団が鳴らす音楽とは、明らかに違っていた。
 どこかエキゾチックで、懐かしさを感じるその音色に、皆が辺りを見廻す。

 更にはそこに、太鼓を叩く音も加わる。

「なんやこれは?誰が鳴らしとんねん」

 音の出所はすぐに判明した。
 後方を振り返ると、二人の演奏者がいたのだ。
 いつの間に謁見の間に入り込んだのか、それはハーフエルフの少女と中年男性だった。
 魔法使いのナナセ=フラウと、視聴者のダマヤである。
 ナナセは流れる様に華麗な指さばきでリュートを弾き、ダマヤは覚束ないながらも、頑張ってそれに合わせてリズムを取る。

「おいおい、あんさんら一体何を考えとんねんな。一体どこから忍び込ん……」

 預言師が呆れた様に二人を睨みつけながら非難しようとしたその時、正面の両開きの扉がバッと開いた。

 そこに立っていたのは、傷だらけの勇者、ラッカ=シンブだった。

「な……なんや、お前……」
 突然の勇者の登場に、預言師が驚きの声を上げる。

「………………」
 だが、ラッカは預言師の言葉を無視すると、全員の注目が注がれる中、黒水晶の様に輝く大剣をズルズルと地面に擦りながら、気だるそうに、真っ直ぐ歩き出した。

「お、おい。何をしてんねん?ま、まさか処刑を止めに来たんかい?何をするつもりや?おい、騎士達よ、早くヤツを止めんかいな」

 預言師がヒステリックに命令するが、勇者の引き摺っている聖魔剣から蒸気の様に滲み出てくる焔の、物言わぬ迫力に騎士達は完全に気圧されてしまい、近づく事すら出来ない。

 そしてラッカはそのままクランエ達の前を通り過ぎると、不在の玉座の前でピタリと止まった。

「………………」
 聖魔剣を斜めにかざし、低く構え、すうと息を吸う。
 焔がゆっくりと、流麗にラッカの周囲を舞い、そのまま剣へと纏われていく。
 その光景を、周りの者は、ただ眺めていた。

 そして――
「おりゃああああああ!!」
 気合いと共に剣を振るうと、玉座が木っ端微塵に吹き飛んだ。
 装飾が飛び散り、宙を舞い、キラキラと輝く。

「…………!!」
「…………!!」
「…………!!」
 玉座の破片は預言師の頬を掠めて、まとめて後ろの壁にぶつかり、そのまま大穴を開けて空へと飛んでいく。
「は……はわわ…………はわ」
 預言師はガクガクと震えながら腰を抜かし、地面に座り込んだ。

 衝撃的な光景に全員が絶句する中、再び剣を地面に擦らせて、何も言わず、来た時と同じ様に歩いてその場を離れるラッカ。そして、開いている扉の横の壁に腕を組み、もたれかかった。

 謁見の間の奥には、玉座を失った150モンチ×150モンチの四角形の赤い玉座台だけが残された。

 そして今度は、ラッカの後退と入れ替わりに、開いている扉からサブリミナル姫が現れた。
 凛とした表情に颯爽と歩く姿は、見惚れてしまう程美しい。
 姫は手に持っている座布団を玉座台の中心にぽんと置くと、すぐに踵を返し、ラッカとは扉を挟んで反対側の壁の前に立つ。


 ナナセとダマヤの演奏する曲は、まだ続いている。



 そして、勇者と姫を左右に控えさせ、開いている扉から、その男が姿を現した。


 ターミナルでは見かけない、黒紋付に羽織を着た、和装の男。
 その紋には、煙管から立ち昇りたゆたう、煙草の煙を表した刺繍が施されている。

 公開処刑が行われようとしている殺伐とした場所を、まるで雲の様に優雅に、悠然と、平然と、そして、飄々と歩くその男。
 誰も声を掛けられない。ただ惚けた様に、その一挙手一投足を見つめる事しか出来ない。

 そして、勇者が拵えた高座(玉座台)に到着すると、姫の置いた座布団にサッと座る。

 床に手をつくと、ゆっくりと頭を下げた。

 同時に、お囃子が鳴り止む。

 謁見の間は、静まり返っている。
 誰も喋らない。

 顔を上げ、男が口を開く。

「えー、どこかに出掛けるにしましても、道順があるものですが、物事には順序というものがあります。理由もあれば習わしもあれば慣習もある」
 落ち着いた声が謁見の間に響く。

「そして、それが長く続けば続くだけ、慣習が文化となり、日常となり、常識となる……世の中とはそういうものです」
 優しく澄みきった声が、その場にいる者の耳を通る。

「むかーしむかし、ある所に、一つの王国がありました」
 呑気な声が、周囲の空気を軽く撫でる。

「平和な国、人々は富み、幸せに暮らしておりました。ですが、その国には、国民の誰にも告げる事の出来ない、秘密があったのです」

「お主は、一体……」

 国王が、男を凝視して、思わず呟いた。

「あ、国王様に……そちらでへたりこんでらっしゃるのは、預言師様ですかね?お初にお目にかかります。あたしは異世界より召喚されて参りました、楽々亭一福という者でございます。人から人、口から口へと受け継がれる与太話を紡ぐ、噺家でございます」

 一国の王にいとも軽々しく自己紹介をして、楽々亭一福は次に、こう宣言した。

「さて、本日は『サイトピアの王様』という一席で、お付き合い願います」
次回、最終話「サイトピアの王様【将棋の殿様】」でお会いしましょう。
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