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異世界落語 作者:朱雀新吾

夜明け前

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公開処刑

 サイトピア国宮廷、謁見の間。

 そこには、国王に預言師、大臣。大司祭、騎士団長、魔法隊長、参謀等、サイトピア国の主要な面々が勢揃いしていた。

 彼らの視線はただ一点、一人の人物に注がれている。

 両腕を縛られ、国王の前にひざまづいているクランエ召喚師である。天才召喚師と言われ、サイトピアの未来を担う一人と目されてきた逸材。
 だが今彼がその身に浴びているのは、猜疑の目であった。
 両端には騎士が二人立ち、クランエに槍を向けている。後ろにも数人の騎士が控えていて、抵抗出来ない様、厳重な措置がなされていた。

 憔悴したクランエからは、どこか潔さを感じさせる、諦めの表情が窺える。

 騎士団長のカンエが国王に語る。
「クランエ召喚師が、明らかに闇属性魔法と分かる力を使ったとの事です。大勢の目撃者が証言しております……。つまり、彼は魔族だったのです!!」

 その言葉は謁見の間に衝撃を生む。
 クランエの出生の秘密について知っている者の数は少ない。
 当然、カンエも知らず、動揺を覚えながらも、気丈に報告をしていた。

「マドカピアの間者だったのでしょう。宮廷に入り込み、我々の事を探っていたのです」
 断言する様に言うカンエに、ミヤビが口を挟む。

「待って下さい!!彼はサイトピアの国民です!」
「嘘をつけ!では何故我が国の者が、闇属性魔法を使うのだ!闇属性魔法は、魔族の証だ!」
「彼が市民を守ったという話も聞きます! 逃げ惑う人々を救う為に魔物と果敢に戦ったのです!彼に命を救われた者だっている筈です。これまでだって……クランエ召喚師は、サイトピアの為に身を粉にして尽くしてきました!」
 必死に語るミヤビの言葉に対して、カンエが首を振り、辛辣な意見を述べる。
「ミヤビよ、それも全て我々の目を欺く為かもしれんぞ。クランエが魔族であるという逃れられない事実。今はそれが重要なのだ」
「違う!違う違う違う!そんな事関係ない。なんで彼がこんな目に合わなくてはならないのですか!だって……サイトピアが攻められなかったのは、彼がいたからではないですか!」

 そう言ってミヤビは国王が鎮座している玉座に顔を向ける。
 国王はというと、少し感情が揺れ動いている様だった。低い唸り声を上げ、口を開く。
「この者は……クランエ召喚師は……」
「あきまへん、陛下」
 直ぐ様預言師は国王に忠言する。

 そして、周囲には聞こえない声で言う。
「陛下、こうなったらもう仕方がありません。魔族への抑止力の為、出来ればまだクランエ召喚師を殺したくはありませんでしたが、多くの国民に正体を知られた以上、もはや切り捨てる他ありまへん」
「だが、それはあまりにも……」
「真実を述べる訳にはいかないのです陛下。これを見逃せば必ず、御身を滅ぼす事になります」
「……」
「全てはハナシカです。ヤツの力が手に入れば魔族は簡単に駆逐出来るんです。そうなったら悩みは全て解決です。我々の念願まで、後一息ではありませんか」
 預言師の言葉は、鋭い刃の様に説得力を帯び、国王の胸を貫いた。だが、それでもやはり迷いは残る。
「だがヴェルツよ。それで得た平和は……偽りではないのか……?」
「真実です!魔族さえいなくなれば、全ては真実になるのです。サイトピアは安泰です。その証拠に私達には、世界だって味方しています。その為に、私はこの国で力を尽くしてきたんですよ」

 預言師は真剣な表情で国王に語りかける。

「……何をコソコソ話しているんですか。また何か企んでいるのですか?」
 そんな二人を挑発するようにミヤビが言う。

「事実を捻じ曲げ、罪のない人間を裁くなど、王のする事ではありません。神にでもなったおつもりですか!」
「ミヤビ……よせ。私はいいんだ」
 クランエが首を振り、ミヤビを制する。だが、激高したミヤビは止まらない。
「王様が何よ!利用価値がなくなったら、自分の立場を脅かしたら簡単に捨てる。人を将棋の駒か何かと思っているのかもしれないけど、そんな事許される筈がない。こんな国……滅んでしまえばいいんだわ!!」

「おのれ!陛下を侮辱する気か!」
 ミヤビの言葉にカンエを始め、騎士達が殺気立つ。

 そこで、ある人物の声が上がった。
「陛下。私もクランエ召喚師の処刑には反対です」
「大臣」
 声の主を見て、国王が驚きの声を上げる。

 大臣はクランエとミヤビの前に歩み出る。
「確かに彼は魔族の血を引いています。ですが、もう半分は、今は亡きサイケデリカ姫様の血です」

 大臣の言葉にその場が更に大きくどよめいた。

 ミヤビを見て腹をくくった。
 これで説得出来なかったら、その時はもうおしまいだ。
 そもそも、王子を助けられないのならば、大臣自身、生きている意味もない。
 ダマヤが何をしているのか知らないが、この場でクランエを守れるのは、大臣しか存在しないのだ。

「血の半分はマドカピアですが、もう半分は陛下の甥御でございます。サイケデリカ様もクランエ王子の事を最後まで気にかけて、お亡くなりになられました。ここはどうか、何卒御慈悲を。全ての責任は私が取ります故、せめて命ばかりは……」
 大臣はそう言って頭を下げて懇願する。

 短いが、これ以上言える言葉はない。

 強く願う。
 伝わるだろうか。
 国王に。
 皆に。

 だが、周囲から聞こえてきた声は、嫌悪に溢れていた。

……クランエ召喚師が、魔族とサイケデリカ姫の、子供。
……なんと穢らわしい。
……国の恥だ。

 大臣の放った事実に対する、謁見の間にいる者達の印象は断じて好意的ではなかった。場は困惑と、不快な感情で包まれていた。
 それも仕方のない事だった。
「魔族とは忌み嫌うもの」という感情を、サイトピアの者は植えつけられているのだから。

 そんな周囲の様子を見て預言師が勝ち誇った様に言い放つ。
「ふん、魔族と通じた、穢れた姫の、穢れた王子や!情状酌量の余地はあらへん!」

 違う!違うのだ!!

 大臣の胸に、怒りと共に叫びだしたい気持ちが芽生える。
 だが、ここで己の感情に任せてサイトピアを二分する訳にはいかない。それは、サイトピア国の大臣としての、譲れぬ使命でもある。
 その事(・・・)に関しては陛下が全てを語らなくては、国民に知らせなくては、意味がないのだ。
 国王は決して愚かではない。その証拠に国王の表情は苦悩に満ちている。
 だが、それでも、やはり何も語ろうとはしない。

 言葉が今一歩、届かないのだ。

 そう。国王もまた、サイトピアを守る為に葛藤している。それは、預言師も同じくである。
 誰が悪いわけではない。
 そのせめぎあいに、勝利出来なかっただけの事。

 仕方がない。自分は国王の心を動かせなかったようだ。
 喋る事は生業ではない。
 無理もないか。
 そう思い、大臣は自嘲して、潔く諦めた。
 最後の秘密を暴露した所で、無駄な混乱を招くだけだろう。
 それは、サイケデリカ姫も決して良しとしない。
 そんな世界を彼女は求めた訳ではない。

 大人しくなった大臣を見て、預言師は言い放つ。
「大臣は元々サイケデリカ姫の家臣。そしてミヤビ秘書官はクランエ召喚師と恋仲だと聞く。つまり、二人とも魔族に与する者っちゅう事ですわ。まとめて、処刑や!!見せしめに、公開処刑や!」

 その言葉に大司祭が真剣に頷く。
 預言師はしめたとばかりに大声を上げる。
「ほら、大臣よりも古くからサイトピアに仕える大司祭様かて処刑に賛成や!陛下!御決断を!」

 国王は苦渋の表情で玉座から立ち上がり、横に逸れ、ジッと壁を見つめると、言った。

「その者達を……処刑せよ」

――サイケデリカ様、申し訳ございません。王子と共に、そちらへ参ります。

 大臣は目を瞑る。
 クランエとミヤビは、お互いがお互いを庇う様に、抱き合っている。

 騎士の掲げる槍が三人に降り下ろされようとした、まさにその時――



 どこからか、音楽が聞こえてきた。
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