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異世界落語 作者:朱雀新吾

ダマヤ正道【ダマヤ問答】

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ダマヤ正道【ダマヤ問答】⑥

 視聴者の目的は「異世界の文化の情報収集に監視」とされている。そして更に視聴者には裏の使命が存在する。「召喚された異世界人をサイトピアの国益にするべし」である。

 ダマヤは異世界召喚自体初めてだったが、大臣はこの期に及んで、これまでダマヤが先代の視聴者から教わった、真逆の事を言いだしたのだ。
「出来るだけ役に立たなさそうな者を召喚して欲しい。頼む」

 だからダマヤは噺家を呼び出した。
 侍、忍者、空手家などは、初めから考えてもいなかった。

 ただ、実際に噺家の落語に感動して、つい拍手をしてしまった。それは本当だった。

 計画通り、ダマヤは大臣から追放を喰らい、クランエ、噺家と共に宮廷から離れた。
 後は異世界召喚は失敗だったと印象付けされるまで、ほとぼりが冷めるのを待つ。
 それで国王は、魔族に対するクランエの必要性を再認識する筈である。
 大臣とダマヤの仕えた、サイケデリカ姫の忘れ形見を殺させる訳にはいかなかった。
 大臣は危機が去ったら、すぐにダマヤも復帰させてくれると約束していた。

 もっともダマヤは疑心暗鬼に陥り、自ら復帰の道を模索し始めたのだが。
 だが、ダマヤの性格を知る者ならその状況は結果的に正解だったと言えるだろう。
 ダマヤが宮廷を追い出されて、平然としている筈がないのだから。
 ダマヤががむしゃらに復帰を願う姿勢は周囲にリアリティをもたらし、計画を強固なものとした。
 更に、足掻けば足掻くほど逆効果となり、復帰は遠のいた。
 演技ではない、本気の感情だから起きた、奇跡の様な状況だった。

 ただ、明らかに想定外だったのは、落語の力である。
 何の役にも立たないと思っていた落語が、力を得て、世界に影響を与え始めたのだ。

 落語と共に世界が変わる前兆が徐々に現れ、一福の感覚も冴え渡っていく。
 それはまさしく国王、預言師が望む神格化であった。
 落語の力は、見て見ぬ振りが出来ない程に、急速にターミナルに広がっていった。
 さぞ、大臣も焦った事であろう。
 落語を、ダマヤを、噺家を、とにかく否定し続けていたが、逆に大臣だけが周囲の意見から浮いていく事になった。
 そしてとうとう、噺家が預言師の目に留まる事となる。
 魔族にも知られただろう。
 作戦を修正する必要があった。

 守るものを守らなくては、全てを奪い去られてしまう。
 このタイミングで視聴室に戻らなくては。
 大臣は裏切りとみなしても構わない。
――究極の所で繋がっているならば。


 視聴覚室での、ダマヤとケス=シノの戦いは、ダマヤが優勢だった。

「ミスターカカット」はマドカピアでも有名である。
 決してサイトピアから外に出る事はない、守護神。
 とんでもないインドア派だとマドカピアでも揶揄される事があったが、正体が視聴者だったのなら納得である。基本的に城の外に出る事はない職種だからだ。

 その、伝説の力をケス=シノは目の当たりにしていた。
 何がたまらないかというと、ケス=シノの魔法が全て踵で弾かれるのだ。
 魔法だけではない、杖を使った物理攻撃もである。

 あちらはこちらの攻撃を待つだけ。特に構えもなく、一見隙だらけに見えるが、額の「K」の文字が揺れたと思ったら、目に見えない速さで踵がピンポイントで攻撃を弾いていく。  

「何だか、うちの大将みたいな戦い方ですね。どっしりと構えちゃって」
「『踵・剛の型』だ。全ての動きを確認した後に、それ以上のスピードで叩く。拳でも剣でもなき、踵だからこそ出来る業だがな」
「ちょっと何言ってるのか分かんないですけど」
 ダマヤの言葉にケス=シノはしっかりと首を傾げた。

 だが、ダマヤの業は防御だけではない。
 ケス=シノが油断した隙に、ダマヤは宙を跳んでいるのだ。
 足を大きく上げ、踵を顔にまで押しつけながら跳ぶ。
 そして最大限まで絞られた足を、渾身の力で落とされるのだからたまらない。

 既に視聴覚室は穴だらけだった。
 外への音はケス=シノが漏れない様に魔法をかけてしまっていたから大誤算である。
 轟音を聞きつけて、誰かに助けに来てもらいたいくらいだった。

「いやはや、凄い踵魔法ですね。流石はミスターカカット」
 ダマヤの妙技に素直に感心するケス=シノ。

 その言葉にダマヤは眉を顰め、首を傾げる。
「踵魔法だと?そんなものは知らんぞ。私は魔力が0だからな」
「は?」

 予想外の答えに口を開け、眉を顰め返すケス=シノ。

「いや、でも踵の精霊のぶをが貴方に魔法の力を授けて、それだけの力を引き出しているんでしょう?一つ一つの業が魔法じゃなくても、強化魔法的な要素はあるんじゃないんですか?」
「いや、のぶをは何も与えてないぞ。一切な。異世界より代々伝わるマスクを渡す為だけの役割だ」
「マスクを、渡すだけ?」

 信じられない。それはつまり、ダマヤだけの力だと言うのか。
 目を見開いているケス=シノを見て、ダマヤが困った様に笑う。
「あのな、誤解している者が多いが、元々のぶをは魔法使いではない。異世界の格闘家だ。それがターミナルで歪曲し、精霊となり、魔法となった。世界の理を受け入れたのぶをだが、やはり長年培った格闘術も捨て去る事が出来なかった。だから、私を選んだのだ。踵格闘術がこの世界から忘れ去られない様に、私に叩き込み、『ミスターカカット』としてターミナルに認識させたのだ」

「本当、一切性格ば考慮に入れとらんっちゃけどねー。それが一番の心残りたい。やけど、しゃあなかろう。こん人が一番才能があるっちゃけん」
 のぶをが苦々しくそう言うと、ダマヤも大きく頷く。
「私も本当は踵格闘術なんて嫌なんだ。魔法を使いたかった。だって、魔法の方が格好良いから。でも、謎のヒーローが格好良いと姫に言われたからやってみただけだ!豚がヒーローなんておこがましいとも同時に言われたけどね!」

「……貴方、凄いけど馬鹿なんですね。凄い馬鹿なんだ!」

 ケス=シノは何故か不思議な感動を覚え、顔を紅潮させながらそう叫んだ。

「では、お喋りもここまでだ。そろそろ攻めるぞ。『踵・流の型・踵嵐』」

 ダマヤは大きく股を開き、右後ろ踵廻し蹴りを放つ。右足が着地した瞬間、左後ろ踵廻し蹴りを放つ。その動きは徐々に速くなり、流れは繋がり、踵の嵐へと変わる。
 ビュンビュンと踵が唸りをあげ、時折その遠心力でふわっと宙を飛ぶ。
 飛んだ頭上から、先程と同じく、踵落としが放たれる。
「うわ!!」
 ケス=シノは横へ移動して、なんとかその攻撃をかわす。
「踵・流の型」とは、その名の通り、常に動きながら攻撃と防御を兼ねる業であった。
 そして先程の話が本当だとするなら、踵で魔法を無効にしている訳でない。ただ力任せに消し飛ばしているだけなのだ。

――そんな事が、可能なのか。
――これが……踵の力。…………素晴らしい。

「……いけないいけない」
 ケス=シノはいつの間にか踵に飲まれそうになっている自分に気がついた。
 頭から踵を掻き消すが、また直ぐに踵を思ってしまう。

「踵の美しさに心を奪われようみたいやね……。どうね、あんさんも入らんね。踵教に……」
「踵教……。踵を……もっと……知りたい」
 のぶをの瞳が鈍く光る。ケス=シノは夢遊病者の様にフラフラと歩き、ダマヤの作り出す踵嵐に吸い込まれそうになる。

「うわ!ダメだ。何ですかこれは、調子狂うなあ」
 寸前で、ケス=シノ我に返って、後退した。
「参ったな。これで本当に魔法じゃないってのが、信じられないな」

 何とかして打開策を見つけなくてはならない。
 ケス=シノは吸い込まれてしまいそうな程美しく、意識すればする程心惹かれてしまうダマヤの動きを、気を張って、しっかりと見つめる。
 踵嵐をしばらく眺めていたケス=シノだったが、ある事に気が付いた。

 踵落としの後に大きな隙が出来るのだ。
 地面に叩き付けた瞬間、背中ががら空きになる。
 そこを狙えば、この化物を倒せるかもしれない。

 ケス=シノは慎重に踵嵐との距離を取る。
 そして、遠心力でフワッと宙を浮いたかと思うと――踵落としが放たれる。

 ケス=シノは体勢が崩れない様に注意しながら、最小限の動きでその攻撃を避ける。
 轟音を響かせ、地面が抉れる。
 ダマヤの背中ががら空きになった。 
「よし、いまだ!!」
 その隙を逃さず、攻撃をしようとケス=シノが杖を振り上げた次の瞬間、ダマヤが仮面の奥でニヤリと笑った。

「……踵を自ら遠ざけず、歩み寄り、理解していればそんな無謀な判断にはならなかったのに……。残念だよ」

 そう、ケス=シノは既に踵の術中にはまっていたのだ。
 踵は落ちるものという固定観念があった。
 地面があり、重力が存在し、果物が木から落ちるという概念。
 その認識は間違っていない。
 だが、踵に至っては、果たしてどうだろうか。
 確かに森羅万象の理の下、踵は、宇宙は、次元は存在している。
 理不尽な事象など、絶対にありえない。
「輪廻転生」という言葉がある。
 生きとし生けるものはいつか死に、輪廻し、また生まれる。
 その繰り返し。
 人の営み。
 生の営み。
 即ち、踵の営みである。
 踵もまた、繰り返す。
 そう、「輪廻転踵」の教えであった。

 つまり、落ちた踵は――重力を跳ね返し、不死鳥となって生き返る。

「秘技『踵昇り』」

 ダマヤは、地面に着いた手をバネに、踵を後ろに蹴り上げ、そのまま空中に跳ね上がる。
 それはまさしく、不死鳥が命の輝きをなびかせて、天へと昇っていく様であった。

「ぐ……うわあああ!!!」

 咄嗟に杖でガードをしたがそれも簡単に蹴り破られ、顎を強打し、ケス=シノは飛び上がる。
 宙に投げ出されたケス=シノは、後ろに一回転して、そのまま地面に落ちた。

 相当のダメージである。なんとか膝をついて、仁王立ちをしている仮面の男を見上げる。
「……く、敵わないなあ。これならハナシカの方に行っておいた方が良かったかなあ。でも、僕なんかじゃラッカ=シンブにも勝てないか」

 悔しそうに言う、マドカピアの若き参謀。大きく息を吐いて、詠唱を始め、退却用のワープゲートを作り出す。

「仕方ありませんね。テレビジョンは諦めます。ここに貴方みたいな人がついていて、ハナシカにもラッカ=シンブがいる。これじゃあクランエ王子にはとんでもない人がついているんでしょうね」

「何?どういう事だ?」
 よく意味が分からず、ダマヤは聞き返す。

「どういう事って、僕達にとって、テレビジョンの優先順位は三位。ハナシカは二位。王子は一位ですからね。一応王子奪還には、凶暴な魔物の大群や、マドカピア軍隠密隊他、多種多様な多くの部隊を放っていますが、まあこの分じゃ無理でしょうね」

「…………ん?」
 そこでダマヤはとんでもない事に気が付いた。

「うおおおおおおおお!!しまったああああ!!クランエ様!!」

 叫び声を上げ、自分の迂闊さを盛大に呪った。
 テレビジョンの危機の予想が当たったあまりに、舞い上がってしまっていた。

 一番大事なクランエの護衛の事をすっかり忘れていたのだ。

 大臣の言う通り、復帰なんてしている場合ではなかった。
 これは、大臣に殺される。
 ダマヤは焦りに焦って、泣きそうになった。


「ダマヤ正道【ダマヤ問答】」完
次回「夜明け前」にて、お会いしましょう。
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