挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
異世界落語 作者:朱雀新吾

ダマヤ正道【ダマヤ問答】

しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

105/117

ダマヤ正道【ダマヤ問答】④

「魔族がサイトピアにやすやすと責めて来られないのは全て、サイケデリカ様の御子息であるクランエ様という存在があっての事だ。それは知っておろう」
「はい。それはもう」
 ダマヤはうんうんと頷く。

「だが、やはり魔族の血は忌むべきもの。国王は異世界召喚を命令して来られた。つまり、早くクランエ様を歴史の闇に葬り去りたいのだ。真実共々な(・・・・・)

 救世主が神格化して、サイトピアの力となり、魔族を殲滅する。
 そうなると、クランエに人質としての価値はなくなる。
 それが、国王と預言師の狙いだった。
 だから、早くハナシカを連れてこいと大臣を急かしていたのだ。

「そこへダマヤ、お主が視聴者へと復帰したいと言い出したら、預言師側についたと私に思われても仕方があるまい」
 その意見に、ダマヤは大袈裟に首を振る。
「違うんですよ。それも大事ですが、テレビジョンの結界がそろそろ切れてしまいますし、魔族もそろそろそちらにも狙いをつけそうかなと思いまして」
「何を偉そうに。ではお主、王子はどうするつもりだ。見捨てるのか、このままハナシカの神格化が進んだら、クランエ様は用済みになってしまうのだぞ!魔族よりもクランエ様の立場が一番ではないのか!」

 大臣の言っている事は最もである。
 だが、それだけでは話が進まない。
 一福とクランエ王子を宮廷から遠ざけている間は、サイトピア内の脅威からは守れるかもしれない。
 だが、そこにばかり気を取られて、気が付けばマドカピア側に足を取られてしまう可能性もある事に、ダマヤは気づいたのだ。

「だから、大臣。今回の復帰に関しては認めて下さい」
「ならん」
 大臣は頑として認めようとはしなかった。
「もう忘れたのか。陛下から異世界召喚の命を受け、一番最初に私がお主に言った言葉を」
「いえ、忘れてなどおりません」

 覚えている。
 大臣がダマヤに言った言葉。

「何としてもこの異世界召喚を失敗(・・・・・・・・)させ、クランエ様共々、宮廷から離れろ」

 その命に従い、武芸者ではなく、噺家を召喚したのだが、まさか演技でもビンタされるとは思わなかった。

「それが何だ。ラクゴの力は凄まじいものではないか」
「それは私も誤算でした。まさか落語にこんな力があるなんて」
 そこで大臣は少し落ち着きを取り戻したのか、少し下を向き、言った。
「まあ、異世界の物には、何らかの特殊な力が宿るからな。失敗という事自体が難しかったのかもしれん。それは私の指示不足の所為でもある。だが、だからこそ、私はお前を認めず、ハナシカも認めず、『異世界召喚は失敗だった』と精一杯印象付けようとしていたのだぞ」
「分かっています。全て承知しています。だから早くここから出して下さい」
 ダマヤは大臣にペコペコと頭を下げながら、懇願する。

「お主が復帰を諦めると、イケにわざと負けると約束すれば、この世界から出してやろう」

「約束します!絶対負けます!!」
 ダマヤは泣きながら大臣の足元に縋り付いた。
 そんなダマヤを目を細めて見下ろす大臣。

「…………この光景(すがりつくダマヤ)はお前が学生の頃から一億回は見てきた。信用出来んな。少しここで頭を冷やせ」

 そう言うと、スッと大臣は消えた。

「あ!ちょちょっと、ソング先生!?行かないで!怖い!助けて!負けますから!!」
 ダマヤは泣きながら大臣を呼ぶが、その叫び声は闇に空しく吸い込まれるだけだった。
「マジかよー。元教え子にこんな仕打ちをして、あの人本当に頭おかしいよ。ていうか何であんなに信用しないかね、私を。まあ、一時間ぐらいで解除してくれるだろう」

 まさかこの中で一年過ごす事になるとは思っていないダマヤは、ゴロンと地面に寝っころがる。

 そして、目を瞑り、思い出していた。
 自分の仕えた主君を。
 素晴らしき青春の日々を。

――ダマヤ。何やってんの?
――あ、姫様。魔法の稽古ですよ。
――ふーん。そんなの良いからさ、サボって原っぱで寝っころがりに行こうよ。
――いえ、そういう訳にはいきません。この前もソング先生に叱られたばかりなんですから……。
――ソングと私とどっちが偉いと思ってんのこのブタ野郎。言う事聞かないと斬首だからね。
――姫様……。
――ほらモタモタしないで、早く行くわよこのクソブタ野郎!
――姫様……。

 気が付けばダマヤは涙を流し、嗚咽していた。
 遠い日々を思い出し、心の底から、感慨深く呟く。
「ああ、本当に姫様の『ブタ野郎』は……良かったなあ」


◇  ◇  ◇  ◇  ◇


 その後、永遠魔法から解放されたダマヤは、サイトピア問答でイケに勝利した。
 大臣は当然、完全に裏切ったと感じただろう。
 だが、これは仕方がない。

 マドカピアの参謀がテレビジョンを奪いに来ていた。
 それを阻止する事に、何とか間に合った。
 ダマヤの読みは当たったのだ。

「結界が張ってあっても、この部屋ごと吹き飛ばせばなんとかなりそうですね……」
 ケス=シノは穏やかに笑いながら物騒な事を言う。
「させんよ」
 ダマヤはそう、ポツリと呟く。
 若者がそれを聞いて笑った。
「ダマヤさん、でしたよね?失礼ですけど、貴方がここにいた所で、何とかなるとは思えませんがね」
「何とかしてみせるさ」
 ダマヤは自信を持って答える。

「これ以上状況をマドカピア優勢にさせるのもまた、サイケデリカ様の御遺志に反するからな。いやはやあの人は本当に、ブタ使いの荒い方だ。だが、とうとう最後に仰せつかった御命令を破る事になるな……。お仕置きがないのに約束を破るなんて、全く、絶望的に甲斐の無い事だが……そうも言ってられん」

――ダマヤ。あんたみたいなブタ野郎はもう人間同士の戦いは禁止ね!ブタはブタらしく寝っころがってテレビでも観てなさい。ね、これからは平和な世の中になるの。あんたの力は必要なくなる。分かった?
――姫様……。

「大臣が私に頼みごとをしたんだ。あの、大臣が。私の事を心の底から嫌いな、あの人がな……。私もあの人の事が嫌いだ。だが、だからこそ私が協力しているとは絶対に誰も思わない(・・・・・・)。例えば、物語として、私達のストーリーを誰かが覗いていた(・・・・・・・・)としても。それぐらい、完璧に、自分らしくこなした自信がある。それもそうだ。協力体制にありながらも、憎い感情、苛立つ感情は本物なんだからな。『本当は仲良し』が憎い芝居をしている訳じゃあない。『本当に嫌いな者同士』が……嫌々陰で協力しているだけだからな」

 その証拠に、さっきも大臣はダマヤが裏切るものとしか考えていなかった。
 一年も魔法空間に閉じ込めた。
 それも全て「ダマヤが嫌い」という一言で周りが納得出来る、関係性の成せる業。

「私も基本的にずっと疑心暗鬼だったしな。『あれ?ひょっとして全て私を宮廷から追い出す為の策略だったのでは?』とな。それからは気が気でなく、なんとか復帰を心掛けた、というのもある。正直凄くある。九割ある。今でもある」

 つまり、二人とも何も信頼していなかった事になる。そんなもの、協力とは言えない。

だがそれでいい(・・・・・・)

 だからこそ――
「そのお陰で…………誰も彼も、騙す事が出来たよ」


「尊敬するよ。凄い人だ。仕える人の為なら、世界で一番嫌いな男にでも頭を下げられる。世界一苦手だが、あの男の為なら、私も再び…………命を懸けられる」

 ダマヤは上を向き、しばらく目を瞑っていた。
 そしてカッと瞼を開けると、大声で言った。

「のぶを!!」
「おるったい」

 のぶをはすぐ真上に浮いていた。

「マスクは」
「あいよ」

 ひらひらと布を落とす。
 ダマヤはそれを空中で取ると、直ぐに被る。
 目と鼻の部分に穴が空いている。
 異世界で言う「プロレスラー」の様なマスク。
 その額には「K」の文字。

「まあ、せいぜい頑張りんしゃい」
 その気の無い声にダマヤが苦笑を浮かべる。
「あ、お前、この前知らんぷりしたのを怒ってるんだろう?酷いな。私の事をウンコ舐めるよりも嫌とか。まあ、あれのおかげで正体がばれなくて済んだけどな。ナイス演技!」
「ああ、気にしんしゃんな。あれは本音たい」
「本音かよ!いつもウンコ舐めるよりも嫌な事させてすまないねえ!」
 そう言ってダマヤはのぶをに嫌な顔を向けた。

 のぶをが一福に弟子入りしてきた時、ダマヤの方がのぶをを知らない振りするのに大変だった。不器用なダマヤは内心ドキドキだったのだ。結果、大袈裟にジジイ扱いしてしまい、引くに引けなくなりダマヤは大変な目にあったが、最終的にはあれぐらいの方がダマヤらしくて、誰からも怪しまれる事がなく済んだ。全ては結果論ではあるが。

「なるほど、貴方ですね。王子の護衛とは。サイトピアの英雄『ミスターカカット』。伝説の英雄が護衛では、我々の間者では敵う筈もありませんか」
「まあ、前時代の英雄だがな。でも、あんな小わっぱ共ならわけはない。踵を使うまでもなかったよ。うちの秘密部隊ぐらいなら、良い勝負だろうがな」
 そう言ってダマヤは豪快に笑った。

「だが、ダマヤという視聴者の情報はこちらにも入っていましたが、どういう事でしょう。全く報告と違いますね。小娘に気絶させられ、権力に媚びへつらい、先程も魔法使いと殴り合いをして、良い勝負でしたし……」
「ああ、あれは手加減したのだ。決まってるだろう」

 嘘だった。
 ダマヤは実戦でしか自分の力を発揮出来ない、不器用な男だった。元来の面倒くさがりの性格から、自分から戦う事もしない。だから長い間その才能に気がつく者はいなかった。精霊であるのぶをでも、しばらくその力量を計れない程であり、正直関わりたくなかった。

「まあ、普段はダメ人間の演技をしているだけよ」

 嘘だった。ダマヤが基本的にどうしようもないダメ人間である事は、揺るぎない事実だった。

「本気を出せばモテまくりのハンサムガイなのさ。だがそれも面倒くさくてね、正体を隠しているって訳」

 嘘だった。本当はモテたくてモテたくてたまらなかったが、大臣とサイケデリカ姫に国の名誉の為に絶対に正体をバラすなときつく釘を刺されていた。

「『忠臣蔵』を知っているか?『昼行灯』という言葉は?男というのは、女を守るものなんだよ。女に勝って偉そうにしている者なんて、男でもなんでもないからな」

 その言葉は本当だった。

「男は……ここぞという時に強ければ……それで良い。それを教えてくれたのが一人の高貴で、美しい……女性だ」

 そう言ってダマヤが低く構えると、額の「K」の文字が光った。

 そんなダマヤにケス=シノは肩を竦めながら言う。

「やれやれ、こんな強い人だなんて聞いてませんでしたよ。とんだ……ええと……『ヒルナンデス』でしたっけ?」
「『昼行灯』だよ」

 ケス=シノもダマヤに向けて、杖を構える。

「あ、そういえばハナシカさんでしたっけ。そちらにも刺客を放ったんですけど。マドカピア最強を」
 思い出した様に揺さぶりをかけるケス=シノ。流石は参謀と、ダマヤは仮面の中で笑った。

「ああ、御心配なく。そっちには――サイトピア最強がついている」
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ