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異世界落語 作者:朱雀新吾

ダマヤ正道【ダマヤ問答】

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ダマヤ正道【ダマヤ問答】③

 視聴覚室でケス=シノと名乗るにこやかな若者と向かい合うダマヤ。

――やはり、こうなったか。

 この状況はダマヤの予想通りだった。
 大臣の妨害を受けながらも、何とか間に合ったという所か。
 本当に良かった。 

 ダマヤはつい先程までのイケとの問答を、そして大臣との散々なやり取りを思い出す。

 後に「ダマヤ問答」という名の落語となる、その裏側を。
 マドカピア強襲に関係ないと言われるが、それは全く逆だった。

 そう簡単に視聴者への復帰が許される筈がない事はダマヤにも想像がついていた。
 必ず大臣が阻止するだろう。
 初めはダマヤも自分は復帰してはいけないと思っていた。やはりそれは筋が違う、と。
 だが、事情が変わった。
 ダマヤはどうしても視聴覚室に戻らなくてはならなかった。

 だからダマヤは大臣に真摯に訴えた。
 それでも、大臣は全く信じてくれない。
「大臣、信じて下さい。私はこの国の為を思っております。視聴者に復帰したいのです」
()るさい、貴様は自分が楽(()く)したいだけだろうが、業績(()ょうせき)もモラ()()い、このごくつぶしが!」
 ウラギルナ(・・・・・)
 裏切るな。
「いや、本当です。私は国の為に……」
「嘘(()そ)をつけ。自()の保身の為だけだろうが。義理(ぎり(・・))堅い者(もの(・・))かどうかは、私が一番知っておるわ!」
 ウラギリモノ(・・・・・・)
 裏切者。
「いやいやそんな筈は……」
「それとも何か?裏(うら(・・))があるのではないか?ギル(・・)ドから金でも貰って、間者にでもなったか?そうなんだな(・・・)?」
 ウラギルンダナ(・・・・・・・)
 裏切るんだな。
「大臣、何を言っているんですか。そんな訳……」
「この裏切者(・・・)!」
 最後は暗号を使わずに普通に口に出す程、大臣は頭に血が昇っていた。

 とりつくしまがないとはまさにこの事だった。
 大臣はダマヤが裏切ったと思っているのだ。それも無理はない。今更復帰を求める等、裏切り行為以外の何物でもない。
 それにしてももっと聞く耳を持ってくれても良い気もするが、元々が風と踵なのだ。だからこれは、説明しても無駄なのだろう。

「……まあ、ダマヤがどれだけ不適格だと言っても、約束は約束だ。私はサイトピア国の正義をその背に頂く身として、偽りは申さぬ。復帰を許そう」
「ひゃっほほほほほーーい!!やっぴいいいい!」
 いつもの様にダマヤは自然に、無理なく振る舞う。
 わざとかしこまった所で、変に怪しまれるだけだからだ。

「……だが、問題があっての」

 その言葉を聞いてダマヤはやはりと思った。裏が無い訳がない。

「いやな、ダマヤを追放してから視聴者の任務が滞ってはいかんと思ってな、代役をもう用意してあるのだ」
 知っている。イケだ。ダマヤはその事を既に知っていた。
 知っている事を知らない振りするのが大の苦手なダマヤは「いええええい!私は知っているもんねえええええ!!!イケでしょ!?ねえねえイケでしょ!?私凄くない!!??」と言いたくてたまらなかった。

「え、視聴者をですか?私の代わりの?」
 自分が知っている事を自慢したくてたまらない気持ちをグッと堪えて、血を吐く思いで我慢して知らない振りをしながら、ダマヤは大臣にそう訊ねた。
「ああ、そうだ。おい、イケよ」

 そしてイケが登場し、二人は勝負をする事になった。
 その時、大臣は初めからそのつもりだったのだと、ダマヤは確信した。

 これに勝たなくては視聴者復帰が出来ない。
 勝負とは一体何なのか、気になったダマヤは大臣に質問した。

「その、優秀とは、視聴者としての優秀さですか?」
「……()あ、その通りだケロ(・・)
「ケロ?」
「イケは魔法学校(()ほうがっこう)の首席ケロ(・・)。万(()ん)が一も起こらないケロ(・・)
「どうしたんですか、大臣、突然ケロケロ言い出して」
()あ、気にするなケロ(・・)。ダ()ヤを相手にすると、色々あるケロ(・・)」 
「はあ……」

マケロ(・・・)マケロ(・・・)マケロ(・・・)マケロ(・・・)マケロ(・・・)

…………負けろ。

 大臣は、負けろとダマヤに暗号を送ってきていたのだ。
 ダマヤは戦慄を覚えた。
 前後の流れやキャラを全て投げ打って伝えてくるとは。秘書官のミヤビ等、完全に引いている。
 それだけ大臣も必死なのだ。
 それもその筈。
 ダマヤが宮廷に戻るとは、即ち一福を宮廷に招き入れる事と同様である。
 それだけは、大臣は阻止したいのだろう。
 何故か。
 一福が異世界人だからである。

 だがそれは預言師が危惧している様な、異世界人の秘密の話ではない。
 いや、そもそも預言師が恐れているのもその事ではない。
 異世界人の秘密よりも、更に別の秘密。サイトピアの根幹にまつわる、古い秘密の方である。
 それを預言師と国王は何より恐れているのだ。
 だがそれもハナシカを手に入れ、対魔族用の兵器とすれば何とかなると、タカをくくっているのかもしれない。やはり鍵は一福だった。
 それを断固として阻止するのが、大臣とダマヤの使命である。

 だが、単純に自分が宮廷の外にいれば良いという状況ではなくなってきていた。
 視聴覚室に魔族が目をつけている物があるのだ。
 テレビジョンである。
 当然、預言師の好きな様に物事を進めてはいけないが、それは魔族に対しても同じくである。
 状況はかなり複雑になってきている。
 そう、敵は内外にいるのだ。

 その事を考えたら、この前パンツ一丁で宮廷に飛ばされた時、これや幸いと念の為に新しい結界を張っておいて正解ではあった。宝物庫から聖水を拝借しての急ごしらえではあったが、それが功を奏したのは事実だ。
 そのおかげでケス=シノはテレビジョンを持っていく事が出来なかったのだから。

◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 偶然にもクランエにパンツ一丁でハルバード片手に宮廷へと転移させられたあの日、ダマヤは直ぐに宝物庫へ行き、その足で視聴覚室へと向かった。
 そして視聴覚室を覗いて、ダマヤは驚いた。
 何故なら、魔法学校の同期で主席のイケが中でテレビジョンを観ていたからだ。

 まさかイケが自分の代わりを務めているとは……。ダマヤは夢にも思わなかった。

「お!ま○ん様の『みんなもつくってアラモード♪』が出たぞ!!ふむふむ。こんなにも僕の胸をざわつかせる『アラモード』とは、一体どんな呪文なのだろうか?いやあ、異世界はファンタスティックだなあ」
 熱心にハードディスク(記憶媒体)を観るその光景に、ダマヤは思わず微笑みを浮かべてしまう。視聴者として親近感すらわいてくる。
 確かに何事にも真面目に真剣に取り組むイケが視聴者でも、悪くないかもしれない。
 そんな事まで考え出す始末だった。

 だが、いつまでもぼんやりと眺めている訳にはいかない。
 ダマヤはイケの無防備な背後にそっと近づくと、その首筋に手刀を落とす。
 イケは崩れ落ちる様に気絶した。ダマヤはその身体を支え、そっと床に寝かす。

「さて、と」

 行きがけにハルバードで鍵を壊した宝物庫から拝借してきた(盗んできた)国宝級の聖水をテレビジョンの辺りに撒く。
 これだけで結界は完成し、テレビジョンを簡単に運び出す事は出来なくなる。
 誰かに伝えておけば良かったのだろうが、視聴者は異世界人とターミナルについての秘密を知る数少ない存在。おいそれと他人と情報を共有出来ないのだ。それが、視聴者が代々一人しか選ばれず、情報伝達は口伝である理由。最悪、敵に捕まり、拷問にかけられても、その者が自害すれば済む話なのだ。
 勿論、大臣もその事は知っていたが、テレビジョンの結界に関してまで考えが及ばなかったのだろう。
 大臣の目は外よりも、内にしか向いていない。
 魔族との敵対関係を度外視しているのだ。

 だからこそこれはダマヤがやらなくてはならない。ダマヤ以外にテレビジョンを守れる者はいないのだ。
 代々受け継がれた、視聴者としての使命を忘れる訳にはいかなかった。

 そして、それからダマヤは久しぶりに、少しだけ、テレビジョンの番組をチェックした。
「あ、『おか○さんといっしょ』やっている。はあ!?た、体操が……変わってる!!『ぱわ○っぷ体操』が……『ブ○バボン』になってるじゃないか!!な、ななななななんじゃこりゃあああああ!!!!!」

 体操の変更に驚愕を隠せないダマヤ。
 イケが視聴者になっていた所の話ではない。
 ほんの少し離れている間に、まさかこんな事態になっているとは、夢にも思わなかった。

 そしてダマヤはハードディスク(記憶媒体)の容量をチェックする。
 すると中がいっぱいだったので、仕方なくいくつかの番組を消去した。
 その中に過去の「みんな○うた」も含まれていたのだ。

 この行動こそが、その後、イケとの問答に勝利する鍵となろうとは、この時のダマヤは想像もしていなかった。

 そう、サイトピア問答の時、ダマヤは全て知っていたのだ。
「みんな○うた」の一部が消え、イケが予習出来なくなっていた事を。
 そして、体操が「ブン○ボン」になっていた事も。 

 普通に考えたら簡単に分かる事だった。
 殴られた時の叫び声が「ブン○ボン」になる筈がない事ぐらい、一般的な教養と常識のある人間なら、分かって当然である。

◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 危うい状況は他にもあった。

「ダマヤ君。僕はね、かねがねより視聴者に関して考えていた事があってね。もっと出来る筈なんだよ。資料を作り、カテゴライズさせ、異世界の文化をもっと詳細に分析する事がね。現状は何だ?ただ横になってテレビを観るだけの自堕落な生活。先代視聴者からの情報伝達に関しては、全て口伝だと聞く。それでもし視聴者に何かあったらどうするんだい?そう、今回の君の様にね」
「うぬぬぬぬぬ」

 その様子を見て、一福が首を傾げながら言葉をかける。
「大臣様。なんだかどうしてもダマヤ様を、いえ、あたしを宮廷に近づけたくない理由がおありのようですね。何か都合の悪い事でもあるのですか?」
 すると、大臣は目に見えて動揺した。

 そして、ダマヤも超動揺した。

――ま、まさか!一福様に気が付かれている!?私がわざと宮廷を離れている事を!!?そんな、まさか!!いや!

「い、いや、そ、そんな事はあるまい」
 あの大臣でさえ、しどろもどろになっている。
 これはマズイ。ここは自分がなんとかフォローしなくてはと、ダマヤは思った。
 変に黙り込むよりも、一福と一緒に大臣を追求する事で、賑やかしてお茶を濁す。
 ダマヤは努めて普通の態度であろうと意識した。
 大きく息を吸い込み、覚悟を固め、声を出す。
「な、ななな!んででですかそのた、た、た、態度は。だだ、だだだだ大臣!怪しいですよ!」 
「落ち着いてダマヤさん。貴方も随分怪しいですよ」
 大失敗だった。大臣所ではないレベルのしどろもどろになってしまった。
 何も言わなければ良かったのだ。
 本当に自分はこういう事には向いていないと思った。
 嘘はつけない。自然体でなくては、無理なのだ。

 ただダマヤはこの時、一福に何かを勘付かれている分には問題ないと感じていた。
 短い間ではあるが、楽々亭一福という人間と行動を共にしてきて感じた事がある。それは彼の人間性と、ターミナルに対する尊敬の念は本物だという事。癖のある者だが、断じて悪人ではない。

「と、とにかく大臣。無茶苦茶ですよ!絶対に勝負なんてしませんから!!おかしい!絶対におかしい!」
 ダマヤは自分の動揺を隠すようにそう主張した。
「ええい、うるさいうるさいうるさい!!」
 すると大臣が、ブツブツと呪文を詠唱してダマヤを指差した。

 次の瞬間、ダマヤは真暗闇の世界に立っていた。

「何だここは?ひええ、暗いよお!!こ、怖い!!」

 前も後ろも上も下も闇。
 全てが闇に包まれた世界。
 不安で泣きそうになっている時、目の前にスッと大臣が姿を現した。

「あ、ソング先生」
 ダマヤはホッとして大臣に声をかける。
「馬鹿もん。大臣と呼べと言っておろうが。いつまでも学生気分の抜けないヤツだな」
 速攻で叱られ、ダマヤは思わず舌打ちをした。

「ここは?どこですか」
「時が凍っている、永遠空間だ。このままお主を閉じ込めておく事も出来るぞ……」
「ははは、怖いですな」
 おどけるダマヤを、大臣はジロリと睨みつける。
「……なんのつもりだ貴様」
「え?」
「何故視聴者に復帰したいなどと言い出した。返答次第ではただでは済まんぞ。裏切りの容疑もかかっておるからな」
「裏切ってませんよ。信じて下さいよ」
 ダマヤは慌てて大臣に主張する。
「分かっておるのか?復帰するという事がどういう事か。ハナシカも宮廷にやってくるかもしれないのだぞ」
「……そこは、何とか上手くやりますよ」
「ええい……そんな曖昧な計画で、万が一が起きたらどうするのだ!」
 大臣は怒りに顔を赤くさせると、叫んだ。

「忘れたかダマヤ!お前をハナシカと共に追放したのも、全ては……クランエ様の為だろうが!!」

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