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異世界落語 作者:朱雀新吾

ダマヤ正道【ダマヤ問答】

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ダマヤ正道【ダマヤ問答】②

 ダマヤがイケに問答で勝利し、浮かれながら視聴覚室へと入って行った後、一福は極楽酒場へ戻って高座へ上がり、一席終えた所だった。
 一福は宮廷に行くつもりもなければ、世界の秘密を吹聴するつもりもなかった。
 一福の頭にはまた別の考えがよぎっており、その推論を完成させる、ピースを探していた。

 考えをまとめる為に散歩にでも出掛けようと歩いていた所、ある者に声をかけられた。

「すまぬ。楽々亭一福殿とお見受けするが」

 それは漆黒の甲冑を身に纏った騎士だった。
 鍛えぬかれた体躯に、精悍な顔つき。
 まさに「ターミナルの男前」の見本といった人物である。

「ええ、そうです。あたしが楽々亭一福でございます」
 一福がそう答えると騎士は力強く頷き、一福の目を見つめる。
「先程、酒場でラクゴを拝見させてもらった。素晴らしい業だった。見事の一言に尽きるな」
「ああ、これはどうも、ありがとうございます」
 嬉しそうに微笑む一福に、騎士は真面目な顔で話す。
「あの域に達するまで、さぞや長い研鑽を経たのだろうな。十年、いや、二十年は下らんだろう。私は剣だけに生きてきた者だが。貴殿も剣を振り続けて、あの斬れ味となったのだな」
「いえいえ、そんな大袈裟なものではありませんよ。騎士様に比べたら、あたしの芸なんてただのお喋りですからね」
 一福は手をひらひら振って否定しながらも、その騎士に好感を覚えていた。
 顔も体躯も、性格も、何もかも違うのだが、その男はどことなく友人の勇者を彷彿とさせた。
 全体的に感じる、達人特有の雰囲気が似ているのだろうか。

 騎士は一福に質問する。
「先程のラクゴだが『クロノ・チンチローネ』という……」
「ええ」
「あれは、私は実際に貴殿がスープを飲んでいる様に見えたし、チンチローネを食べている様に思えたのだが……」
「ああ、あれは『振り』です。実際には食べたり飲んだりしていないんです。『食べた振り』です」
「なんと、振りか」
 その言葉に驚きを隠せない騎士。そんな表情一つとっても、翳りのない、真っ直ぐな性格を窺わせる。
「大したものだな。では、あれはどうやれば良いのだろうか」
 そう聞いてから、騎士はハッと顔を上げ、直ぐに一福に頭を下げる。
「いや、すまない。不躾にも程がある。今の言葉は忘れてくれ。今のは、私が数十年の月日をかけて得た剣技の極意を教えてくれと言われたのも同様だ。誠に貴殿には失礼な事を言った。許して欲しい」
 騎士のその態度に恐縮したのは一福の方だった。いえいえと首を振り、騎士の頭を上げさせる。
「いえ、この芸は隠しておくものではありませんので。大衆に寄り添う、皆の芸ですから。知りたいのでしたら、喜んで教えますよ」
「皆の芸?それは、本当に素晴らしいな」
「ええ」
 そして、二人は顔を見合わせて笑った。

「では教えますよ。口の中で、舌を前歯の裏側にくっつけて上げて下さい。そして、口をすぼめながら、こう、ズズ」
 一福に言われた通り、騎士は口の中を動かす。
「こうか?ズ!!ズズ!!ズ!!」
「ああ、良いですね。上手ですよ。ですが少々力強すぎますかね。それじゃあうどんだ。チンチローネなら、もう少しゆっくりと……」
「ううむ、奥が深いのだな」

 それからしばらく、指南が続いた。

 ふとした瞬間に、一福が訊ねる。
「で、貴方様は一体何者なんですか?」
「ああ……」

 初めから一福は気がついていた。その騎士が只者ではない事に。

「ラクゴがあまりに素晴らしくて、本題を忘れる所であった」
 感慨深くそう呟く騎士の言葉に虚偽の響きは含まれていなかった。
「すまんが、私と共に来てくれないか。手荒な真似はしたくないのでな」

「断る、と言いましたら?」

 一福が軽妙ながら、迫力のある笑みを浮かべてそう言うと、騎士は至って真面目に困った顔をした。
「それは困るな。一福殿は人気があるようで、こちらもうかうかしてはおけないのだ」

 ふと一福が路地を見ると、そこに何十人もの黒づくめの者達が倒れていた。
 それは預言師の命により放たれた、サイトピア王宮秘密部隊の人間だった。

 そして騎士は一福に、その名を名乗る。

「自己紹介が遅れた。私はシーンダ=スタンリバーと申す者。マドカピア軍、貴殿達が魔王軍と呼ぶ所の、将軍をしている」

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