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異世界落語 作者:朱雀新吾

ダマヤ問答【蒟蒻問答】

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ダマヤ問答【蒟蒻問答】③

 サイトピア問答とは一体何なのか。
『ルールは至って簡単!視聴者にまつわる問題を、お互いで出しあう。正解の多かった方が勝ちだ。よいか!』
『はい!』
 イケが元気よく返事をして眼鏡をクイッと上げると、疲れた表情のダマヤも渋々と言った様子で、ゆっくりと頷いた。

『では、早速準備するぞ。神よ……今から執り行うサイトピア問答を、公正で、厳格な、正しい道へと導きたまえ……』
 そう大臣が厳かに詠唱し、両手を広げると、眩しい光が放たれ、次の瞬間ダマヤとイケの頭からポンと満面の笑みのおじさんの顔が生えてきた。

『あの……クランエ師匠。あれは……』
 異世界人だった初代一福が、困惑した様に突如現れた笑顔のおじさんを指差す。
 それに関して、クランエがおじさんに負けない程の爽やかな笑顔を浮かべ、説明する。
『ああ、あれは、大臣が最も得意とする最上位魔法「おじさんヘッド」です』
『「おじさんヘッド」……ですか』
 あまりに見たままの説明に、初代は何が何だか分からない。
 その表情を読み取り、クランエは更に説明を続ける。
『正式な「サイトピア問答」のしきたりです。あの状態でお互いに問題を出し合い、問答をします。すると正解していくにつれ、頭の上の満面の笑みのおじさんの表情がどんどん変化し、最後は憤怒の表情になるのです。そして更に正解が続きますと「おじさんヘッド」は爆発します。後は言わなくても分かりますね。そう、先に自分のおじさんを爆発させた方の勝利です』
『はあ、なるほど』
 その説明に、一福はまだ少々首をひねりながらも、何とか最低限の意味を理解する事は出来た様だった。
『でも、逆じゃないんですね。怒った顔から、正解していくにつれ、笑顔になっていく訳ではなく……』
 その言葉にクランエは大笑いする。
『当たり前ですよ一福様!!ええ、笑顔が段々憤怒の表情になっていくんです。逆だとそれは「サイトピア問答」ではなく「イザナピア運動」になってしまいますよ』
 もう、嫌だなあ、とクランエは大爆笑しながら初代一福の肩を叩いた。

 極楽酒場でこの落語を聞いている客も、うんうんと頷いている。この知識に関しては百年経った今でも、絶対的な常識である。

 だが異世界人の初代一福からしてみれば、それは完全に異様な光景であった。
 おじさんの頭におじさんの顔が乗っているのだ。
 合計、四人のおじさんがいる光景であった。

『大臣!なんで私のおじさんはハゲていてちょびひげなんですか!イケのダンディなおじさんと替えて下さいよ!』
 自分に生えてきたおじさんに文句をつけるダマヤ。そんな酷い事を言われても、ダマヤの頭の上のハゲでちょびひげのおじさんは満面の笑顔である。

 サイトピア問答では「自分の頭に生えてきたおじさんに難癖をつける」というのはお約束である。
 客も弾かれた様に笑っていた。

『うるさい!ダマヤ負けろ!』
 大臣がダマヤの意見を一蹴して、勝負が始まる。

『ではダマヤ君。まずは僕から行くぞ』
 イケが眼鏡をクイッと上げながら問題を出す。

 だが、その場にいた大臣、イケ、クランエにミヤビ、一福は、正直ダマヤを舐めていた。
 何十年と毎日ずっとテレビだけを観てきた男である。
 その、積み重なったポテンシャル(怠惰な日々)は伊達ではなかった。

 誰もが息を呑む……高速の問答が始まった。

『常に、休む事なくただ銀色の玉が転がる映像を流し、国の発展と豊作を願う儀式としている番組は?』
『ピタ○ラスイッチ!』
『忙しい者の為に銀色の玉の儀式のみを短縮して流すのは?』
『ピタ○ラスイッチミニ!』
『からくりサムライ転生モノ、ダンゴを振るって一日一善……』
『ぜんま○ざむらい!』
『天使が料理を……』
『クッキンアイドル アイ!マイ!ま○ん!』
『その後継、最初はどうかと思ったが慣れれば意外と、というかかなり面白い……』
『キッチン戦隊クック○ン!』
『子供をターゲットにした歌と踊りと人形劇を合わせた、異世界でも50年以上の長い歴史を持つ遊戯コンテンツは?』
『おか○さんといっしょ!!』

 イケの問いに間髪入れず、次々と問題に答えるダマヤ。
 それに伴いダマヤの頭のおじさんの笑顔が、笑顔から半笑い、愛想笑い、苦笑い、含み笑い、嘲笑、つまらなさそうな顔、ムッとした顔と、どんどんステップアップしながら歪んでいく。

 その光景にクランエは感動をあらわにして、呟いた。
『凄いスピードだ。こんな速さでおじさんが不機嫌になっていくサイトピア問答は、そうそうお目にかかれませんよ!』
『というか……イケさんの情報もかなり偏ってますね。あの人、本当に優秀なんですかね』
 初代一福は一人、冷静に突っ込んでいた。

 ダマヤがイケを見つめて、ニヤリと笑う。
『なかなかの問題だな。VHS(旧記憶媒体)からハードディスク(記憶媒体)まで、よく勉強している。やるなイケよ!』
『当然だよダマヤ君。所で……』
 イケは眼鏡をクイッと上げて、ダマヤに問いただす。
『ダマヤ君、何で君はま○ん様を召喚しなかったんだ!彼女ならあの天使の様な歌と料理でとっくに世界は平和になっている筈なのに!』
 イケは唇を血が滲むほど噛み締める。
『イケよ。お前の言いたい事は分かる!私も何度ハードディスクで保存されたま○ん様の前で手を叩こうと思ったか……』
 対するダマヤも、唇を血が滲むほど噛み締めながら、いや、口からダラダラと血を流しながら答える。
『だったら何故……』
『ま○ん様をこんな魔物が現れる恐ろしい世界に召喚などして、良いのか!?』
『そ、それは……!!』
 ダマヤの言葉にイケは雷に打たれた様にカッと目を見開いた。
『確かに生ま○ん様に会って、サインを貰いたい。目の前で歌って踊ってもらいたい。その気持ちは痛い程分かる。だが、それは結局我々のエゴでしかない……。私達の勝手な都合に、ま○ん様を巻き込んで良い筈がないのだ……』 
『ダマヤ君……。僕はどうやら君の事を誤解していた様だね』
『イケ……』
 二人のおじさんは、涙を流しながら、大きく頷きあい、がっちりと握手し、熱く抱擁した。

 そして、ダマヤが問題を出す手番となる。

『では私の番だな。行くぞ!おか○さんといっしょの、20代目のうたのおねえさんは?』
『三○たくみ!』
『11代目たいそうのおにいさんは』
『よ○お!小林よ○ひさ!』
『い○いないばあのワ○ワンの声優さんは?』
『チ○ーさん!』
『ワ○ワンのスーツアクター……』
『チ○ーさん!』
『たんけんぼくのまち……』
『チ○ーさん!』

「こうして、二人のサイトピア問答は猛スピードで行われました。どの問題にもお互い即答し、実力は均衡しています。不正解は一度もなく、みるみる変わる頭上の表情。気が付くと、頭の上のおじさんはどちらとも憤怒の表情であります。つまり、いつ爆発してもおかしくない域に達していました」

 そして、その時は来た。

 イケがダマヤに問う。
『みいつけた……』
『コ○シー!』
 ダマヤがイケに問う。
『みいつけた……』
『サ○さん!』

 二人がお互いに問題を出し合い、正解した瞬間、二人同時に頭のおじさんは木っ端みじんに爆発した。

 それを見たクランエが興奮した面持ちで叫び声を上げる。
『同時に爆発した!』
『同時の場合はどうなるんですか?』
 サイトピア問答に疎い初代一福が訊ねると、クランエが即座に答える。
『勿論、サドンデスマッチです。もう頭上のおじさんはいませんので、今度は本体のおじさん同士が、殴り合いながら問答をします』
『何だそりゃ!!??』
 あまりにもの訳の分からなさに初代一福もとうとう叫び声をあげた。

 ターミナルの人間からしたら当たり前の事で異世界の人間が驚いている姿を見るのは本当に楽しい。だから、この場面では必ず嬉しさと誇らしさと意地悪さが混ざった笑いが起きるのだった。
 異世界文化のギャップが笑いに繋がる。その考えを理論的に分析し「ダマヤ問答」にふんだんに取り入れたのが、異世界人だった初代一福である。二代目も三代目も、元々がターミナルの者という事もあり、その着眼点に辿り着く事は出来なかった。三代目はこのネタを演る度に、初代の偉大さを改めて感じさせられる。

『で、勝敗はどうなるんですか?本体のおじさん同士が殴り合いして、最後に殴られて爆発したおじさんが勝つんですか?』
 初代一福が真剣にそう訊ねると、クランエはおかしなものでも見る様に、首を振った。
『まさか、そんな事になったら勝った方が死んでしまうじゃないですか。……一福様は一体何を仰ってるんですか?ダマヤ様に死んでもらいたいのですか?』
『……ああ、いえ、その……スイマセン』
 クランエの冷たい視線を受け、何だか初代一福は謝った。

『はにわとこども番組の融合……』
『おーい!はに○!』
『グホッッ!!』
 ダマヤは答えながらイケを殴りつける。

『子供達に社会の厳しさや人間関係、道徳について教えてくれる、子役が頑張る……』
『さわ○か三くみ!』
『ハベラッッ!』
 イケが答えながらダマヤを殴りつける。

 交互に問題を出し、答えながら殴りつける、その応酬が続く。
 それは問答という名の、男と男の殴り合いだった。
 すぐに二人とも顔がパンパンに腫れ上がっていく。

 更にそれから、何十問も問答が続き、二人の体力にも限界が訪れようとしていた。

――こうなったら、渾身の一問で、決着をつけなければならない。

 二人は必死に頭の中の情報を精査する。

 そして、ダマヤがはあはあと息を吐きながら、問題を出した。
『はあ、はあ……2004年10月・11月の「みんな○うた」は?』

『………………?』

 そこで、初めてイケの表情が曇った。
 頭を捻り、何度も思い出そうとするが、思い浮かばないのだ。
『どうしたイケ……降参か?』
 ダマヤが挑発するようにそう言うと、イケはグッとダマヤを睨みつけ、叫びながら殴る。
『…………か、「カゼノト○リミチ」!』
『ぐ……!』 
 だが、ダマヤは倒れない。
 頬に拳を受けたままの状態で、ニヤリと笑った。

『……不正解。それは12月から2005年1月のうただ。正解は……「月○ワルツ」だ』
『な……んだと?』
 イケの瞳が絶望の色を落とす。
 自分の不正解が信じられないといった表情だ。

『まさか……。「みんな○うた」はつい先日予習したのに。だが、「月○ワルツ」なんて聴いた事がない。なかったぞ。何故だ?一体どういう事だ……』
『大方早送りでもしながら、やっつけで聴いていたのだろう。さあ、イケ。次はお前が問題を出す番だぞ。負けたくなければ、お前も難しい問題を出せば良いだろう』
 ブツブツと不思議そうに頭を傾げるイケを、突き放す様にダマヤが言う。

『…………よし。では、問題だ』
 追い込まれたイケ。彼はここで重大なルール違反を犯す。
『おか○さんといっしょで「ぱわ○っぷ体操」から変わった、新しい体操の名前は?』
 そして、イケはダマヤに向かって走り出す。

『さあダマヤ君ッッ!』
 ボディ。
『フベラ!!』

『僕の問いに……ッッ!!』
 左ジャブ。
『ブビンバ!』

『答えろ!!!』
 最後に、右ストレートが炸裂する。
『ブ○バボン!!!!!』
 叫びながらダマヤは吹き飛ばされた。

 それを見たクランエが非難の声を上げる。
『イケ様!駄目です。問題を出す方が殴るなんて!』
 そして、更に深刻なルール違反にも気がついていた。
 クランエがダマヤと共に視聴覚室で「おか○さんといっしょ」を観た時には、まだ体操は「ぱわ○っぷ体操」のままだった。ダマヤと二人で一緒に踊ったから、よく覚えている。つまり、その体操が変わったのだとしたら、それはダマヤが宮廷を追放された後の事になるのだ。
『卑怯ですよイケ様!ダマヤ様が追放された後の問題を出したら、分かる訳ないではないですか!』
 クランエはそう言うと、怒りに満ちた瞳でイケを睨んだ。

『………………』

 だが、既にイケにはクランエの言葉は聞こえていなかった。
 驚愕に目を剥き、眼鏡を高速でクイクイクイクイと上げながら、震えていた。
 そして、ガクッと膝をつくと、こう漏らしたのだ。

『……ま、負けた』

『え?負けた?』
 クランエが眉を顰めてその言葉を聞き返す。
『ああ、僕の負けだ。完敗だ!』 
 つまり、反則負けと言う事か。
 自らの非を認めて、負けたと宣言するとは、潔い。
 クランエはイケの志に感心を覚えたが、そうではなかった。

『……「ブ○バボン」なんだ』
『え?』
 そう、絞り出す様に呟く。

『ダマヤ君が最後、僕に殴られながら言った答えが正解なんだ。そう、新しい体操は「ブ○バボン」という、陽気で騒がしい、暑い夏の日を彷彿とさせる名前になったんだよ。よく分かったね。観た事もない筈なのに。僕は勝ちに目がくらんで、卑怯な真似をして……それでも、結局勝てなかった……』
 イケのメガネが、地面に落ちた。

 ダマヤの完全勝利だった。

『凄いですダマヤ様!』
 地面に倒れているダマヤをクランエが支え起こす。
『よく新しい体操が「ブ○バボン」だと分かりましたね!ダマヤ様』
『はっはっは!楽勝楽勝!』
 ダマヤは腫れ上がった顔に、最高のドヤ顔を浮かべながら言った。

『いや、ここだけの話。殴られた時の叫び声がたまたま「ブン○ボン!」になっただけなんだけどね…………。あ、いや、違う違う。うそうそ。計算通りだ!私は視聴者だぞ!全部、知っておったんだもーーんねええええええ』
 そう言ってダマヤが笑顔でピースすると、ドンドンと太鼓の音が響き、サゲ囃子が鳴る。

 そうして、異世界落語「ダマヤ問答」はサゲを迎えた。

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

「ダマヤ問答」のサゲは「異世界落語史上最も締まらないサゲ」として有名である。
「殴られた時の叫び声がたまたま正解だった」という破天荒な筋は勿論、オチがついてからも演者はダマヤよろしく、イエ―イとピースをしながら高座を降りていくという、かなり挑戦的かつ前衛的な落語なのだ。三代目も当然、それに習って笑顔とピースを振りまいて退場していく。
 客はそれを指差して笑いながら、大いに盛り上がる。その一連も含めて「ダマヤ問答 」言えた。

 そしてこの流れ自体は、史実も全く変わらず、問答に勝ったダマヤはうひょうひょ言いながら視聴覚室に入っていき、半日は出て来なかったそうだ。
 そんなダマヤの駄目さ加減を反映させた、ある意味似合いのサゲと言えるのかもしれない。

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

「あー、面白かった。ねえ、スキャンダラス。凄いよねー、ダマヤって」
 ラッカちゃんが目をキラキラ輝かせながら言う。
 ダマヤは本当に愛されるお馬鹿キャラである。祖父の初代ラッカ=シンブからもよく話を聞いていたので、特にラッカちゃんには親しみやすい人物でもある。

「あっはっは、たいしたもんだよ!!」
「どうしたのスキャンダラス?」
 突然笑い出したオクラホマスキャンダラスサービスに、ラッカちゃんが驚く。
「ああ、いやいや、何でもねえんだ。本当に……」
 涙が滲む程笑っている。そんなオクラホマスキャンダラスサービスを見るのは初めてだ。

 そして心から、魂から絞り出すように、聖魔剣は、言った。
「このネタを観る度につくづく思うぜ。本当に、確かにあいつは…………凄いヤツだったんだなって」
お後がよろしいようで。
次回『ダマヤ正道【ダマヤ問答】』でお会いしましょう。
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