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異世界落語 作者:朱雀新吾

クロノ・チンチローネ【時うどん】

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クロノ・チンチローネ【時うどん】①

 異世界「ターミナル」の北東に位置する国「サイトピア」。その王宮の執務室。そこには国王を補佐する、国内二番目の権力者である大臣を始め、サイトピアに於ける様々な管轄の、最上位の役職の人間が居並んでいた。
 彼らは揃って、ただある一つの知らせを切望していた。
 もう、何日待っているだろうか。
 ある者は椅子に腰かけ、掌を合わせ机に肘を付き、祈っている。
 ある者は窓の外を眺め、片手で十字を切り、祈っている。
 ある者は静かに目を瞑り、何かを悟った様に、祈っている。
 誰もが皆、等しく祈っていた。ターミナルの滅亡を阻止する為の、重大な使命が成功する事を。

 そして、その時は訪れた。
 外から扉を叩く音が執務室に響く。
「大臣、ダマヤです」
「おお、ダマヤか!入れ!」
 待ちかねたとばかりに叫び、大臣はダマヤの入室を許した。
「失礼します!」
 部屋へと入ったダマヤは、後ろに二人の男を連れていた。
 一人は宮廷召喚士のクランエ。
 もう一人は、見慣れない服を着た、細身の男。
 その細身の男の姿を認めるや否や、大臣を始め、執務室にいる者達から一斉に歓声が上がった。
「おお、ダマヤよ!召喚に成功したようだな!」
「でかしたぞダマヤ!」
「よくやった!!」
「これで、世界が救われる!」
「この者が、救世主……!!」
 見慣れない服を着た、細身の男を見つめ、涙ぐむ者までいる。
 執務室は感動に包まれていた。
「異世界研究の古い文献に書いてあります。私は知っておりますぞ。あれは確か『キモノ』という装備です……」
 国の魔法使いを総べる大司祭が細身の男の衣服を見て、言った。
「おお『キモノ』!!すると彼は『サムライ』か!」
 サイトピア軍を指揮する将軍が興奮して叫ぶとそれに追随して「おお、サムライ……。素晴らしい。一騎当千、伝説の騎士、サムライ……チョンマゲ、ハラキリ、キンチョー……」と感嘆の声が周囲から上がる。
 だが、その反応に対してダマヤは申し訳なさそうに首を横に振る。
「いいえ、彼は『サムライ』ではありません」
 その答えに、大臣が訝しげにダマヤを見る。
「『サムライ』ではない?すると、そうか……『ニンジャ』か?『ニンジャ』だな!」
 大臣の言葉に再び室内に「おお、ニンジャ……。素晴らしい。異世界の、伝説の暗殺者、ニンジャ……。シュリケン、マキビシ、ミガワリノジュツ……」というざわめきが起こる。
 だが、ダマヤの表情は、一向に晴れない。いや、一層曇るばかりである。
「いいえ、彼は『ニンジャ』ではありません」
「『ニンジャ』ではない?なんだ、だったら彼は何なのだ。『ジュウジュツカ』か?『ケンジュツカ』か?はたまた『ボクサー』か?どちらにせよ、異世界でたいそう名のある武芸者である事は間違いあるまい。のう、ダマヤ?いやはや、でかしたぞ!!」
「いや、それが、その……」
 大臣の言葉に対して、とうとうダマヤは苦々しい表情で黙り込んでしまう。
「どうしたのだダマヤ。お主、様子が変だぞ。顔色も悪いし、よく見れば小刻みに震えておる。何かあるのなら、正直に申してみよ」
「……」
 ダマヤはしばらくそのまま黙って下を向いていた。
 だが、意を決した様に顔を上げると――言った。


「ええと、その、いや、あのですね。彼は……『ハナシカ』です」


   
~異世界落語~
挿絵(By みてみん)
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