第十話、目的は……?
「美味しいー!」
「はぁ……」
晴れた昼下がり。賑やかな食堂にメイの明るい声が響く。
そんなメイを溜め息混じりに眺める駿。
駿は、教室に戻りたかった。だが、メイの――
「せっかくだしここで食事しましょうよ」
この一言で、強制的に食堂で食事を取る事になったのだ。
運よく空いていた食堂の長テーブル。
そこに座る事が出来た二人。駿は、幸せそうにプリンを食べるメイを呆れ果てた表情で眺めていた。
そんな駿の冷ややかな視線を気にする事なく、メイはプリンをスプーンで掬っては、ゆっくりと口へ運んだ。
口に入れた途端、メイの表情はとろけそうな程緩んだ。よほどプリンが気に入ったらしく、メイは一人、はしゃぎながらその味を堪能していた。
「ほんとに美味しいですー!」
「あ、そ……」
駿はメロンパンを頬張りながら素っ気なく答えた。
「はい! あ、駿ちゃんも一口いかがです?」
メイは笑顔で駿の口元へスプーンを差し出した。
「いらない……」
そう吐き捨て駿は、またメロンパンを頬張った。
――何でプリンごときでこんなにはしゃげるんだろう……?
駿は腹の中でそう思いながら黙々と口を動かした。
「そうですか……? こんなに美味しいのに。あ、後になってやっぱくれって言っても無効ですからね!」
メイは、パンを頬張る駿に投げ掛けた。
「……………」
駿は、メイを無視するかの如く、ムスッとした表情で黙々とパンを頬張っていた。
「……………」
そっけない駿の態度が、面白くないのかメイはわざとプリンを駿に見せびらかすように食べ始めた。
「んー! 美味しい! ハァー、これをいらないと言う方の神経が分かりません。お口の中でふわっと溶ろけるこの柔かい食感と優しい甘さがたまりません! これを食べたくないなんて人生の八割は損してますね」
わざとらしく駿の目の前にまでスプーンを運び、すぐに自分の口へとそれを運ぶメイ。
黙々と口を動かしていた駿。相手しない様に努めていたが……
――あぁ……うぜぇ……
あまりのウザさに限界を感じたらしく……
「……お前は一体何がしたいワケ?」
とうとう声を掛けてしまった。
「ムッ! あげませんよ! これはメイのです!」
「や……、だから、いらねーし……」
――……さっきまで一口どう? とか言ってたくせに…… つか、どういう流れでそうなるんだよ?
駿は、盛大な溜め息を付き呆れ果てた表情でプリンを大切そうに持つメイを見据えた。
とその瞬間ふと、ある疑問を思い出した。
「あのさー?」
「はい?」
メイはスプーンを加えたまま首を傾げた。
「お前、大丈夫なの?」
「ふぇ?」
駿の言っている意味が分からないのか目をパチクリさせるメイ。
「どういう意味でしょうか? 駿ちゃん?」
「……だから、ちゃん呼びするな……っての」
駿は、小声でボソッと呟く。
「?」
首を傾げて駿を不思議そうに見つめるメイ。
「あー、いや……昨日の帰り、人を捜してるって言ってたろ? けど、捜してる素振りが見えないから……」
――人捜しって事は結構、大事だよな……しかし、こいつの様子からしてそんな重大な様に見えない……。いや、敢えて呑気に振る舞ってるのか?駿は、自問自答しながらメイへと視線を移した。
「……………ハッ!! そうでした! メイ、人を捜しに来たんでした!」
数秒間、ポケーとした表情で駿を見据えるメイ。
しかし、すぐに青ざめた表情で椅子から立ち上がった。
“お婆様に叱られちゃいます!”と叫びながら……。
「忘れてたんかいっ!」
思わず、ツッコミを入れる駿。
「だ、だ、だ、大丈夫です……い、い、今、思い出しましたから……」メイはそうかなり吃りながら、駿に視線を向ける。
「そーゆー問題かよ?」
――やっぱり、ただの阿呆だ……コイツ……。
駿が、溜め息を吐こうとした刹那、駿の手がガシっと掴み取られた。
「ん?」
「手伝って下さい!」
駿の手を力強く握りしめながら懇願するメイ。
「……な、何を?」
駿の顔から血の気が失せる。
「だから、人捜し手伝って下さい!」
半泣きで頭を下げるメイ。
その姿は、まるで、夏休みの宿題が終わらない惨めな小学生みたいだ。
「な、なんで……? 俺が……」
「同じ“すどう”のよしみという事で……」
「どんなよしみだ! 第一俺には関係ない」
バッと腕を払いのけて睨み付ける駿。
「そんなぁーいじわるな事言わないで下さいよ〜!」
これ以上、関わりたくないと思った駿は席からスッと立ち上がった。
しかし、駿の制服の裾を掴むメイ。喧しい二人に周りに居た生徒達の視線がチラチラ刺さる。“またあの二人よー”と何? 痴話喧嘩? などあらぬ声が飛び交う。
「離せよ!」
そのせいか、駿は語気を荒くしてメイに怒鳴り付けた。
「…っ……!」
突然、怒鳴りつけられた事にメイは大きな瞳を丸くして駿を見据えた。
しかし、次第に、その瞳から涙が込み上ってきた。
「げっ……!」
メイは両手で顔を隠し、ついに泣き出してしまった。
――さ、最悪……。つか、このパターンだと……
駿の顔から血の気どころか生気すら薄れていく。
「おーい、一年ボウズ!
高校生になったにも関わらず女いじめか?」
上級生の男子がからかう様に言い放ったり、女子生徒達はヒソヒソ話しをしたりと、かなり駿を追い詰めた。
「は、話し聞きますから……泣くの止めて下さい……」無表情で明らか棒読みのような口調でメイに声を掛ける駿。
「ひっく……ひっく……」
「とりあえず、座れよ……」
駿は、泣きじゃくるメイに椅子に座るよう促した。
そして、ゆっくりとメイは顔を上げた。
「手伝ってくれますか?」
「……まぁ、とりあえず話しは聞いてやる……」
駿は、覇気もやる気もない口調で答えた。
「そんなぁ! ちゃんと手伝ってくれるって約束して下さいよ!」
泣き腫らした瞳で駿を見上げるメイ。
「で? どんな奴なの?」
メイの反論を無視し、駿は温かみのない声色で問い掛ける。
「……………」
しかし、メイからの返事はない。
「?」
不審に思った駿は、メイの顔を覗き込んだ。
すると、ふて腐れた表情のメイが映る。
「言い方がちょっとムカつきます……」ポツリと吐き捨てて……。
「さ……捜してる人ってどんな奴ですか?」
腹わたが煮え返るような思い、を何とか抑えながら、駿は言い直す。
「どんな奴って………」
メイはそう呟いては、止まった。
――……そういえばどんな人でしたっけ? うっすらとしか思い出せません……
一向に話そうとしないメイに駿は不審に思った。
「おい……?」
痺れを切らしたのか呆れた様な口調で呼び掛ける。
「……どんな奴かと言いますと、髪は茶色で……性別は男性、です……」
ずっと黙りこんでいたメイがようやく口を開いた。
だが、しかし、情報がかなりアバウトだ。
駿は、ますます不審に思った。
「で? 他には?」
「え? あ、あと学生さんです。確か……」
メイは、俯きながら答えた。しかし、自信のなさが声に映る。語尾に至っては耳を澄まさないと聞こえない程だ。
「……“確か”って何だよ?……」
溜め息混じりに呟く駿。
「まさか、お前、捜してる奴を忘れたなんて言わないよな……?」
そんな駿の何気ない一言にメイはビクッとした。
「……………」
「……………」
長く重い沈黙が二人の間を漂う。
メイのうろたえている様子からして駿は全てを悟ったのか――…
「じゃあ……俺は、これで……」
駿は、椅子から立ち上がりそそくさと歩き出した。
「待って下さい!」そんな駿を、メイが呼び止めた。彼の腕にしがみつく様にして……。
「何だよ……? もう用ないだろう? お前自身が捜してる人物を忘れてるんだし……」
嫌味ぽい口調で言い放つ駿
「アハハ……まぁー、ちょっと忘れてしまったのですが大丈夫です!」
メイは頭を掻きながら愛想笑いを浮かべた。
何の根拠もないのに、妙な自信で言い張るメイに駿は腕を組んで視線を向ける。
「多分、捜してる人が通ればきっと髪の毛とかピンっと立って“父○ん! あいつです!” みたいな感覚で思い出しますから!」
「どんな感覚だ!?」
思わず、ツッコミを入れてしまった駿。
ハァーと今までで一番長く深い溜め息を吐く駿。
その姿をメイは不安そうに見つめていた。
――茶髪の男子学生を捜してるってどんだけだよ? なめてんのか? んなのどこにでもいるっつぅーの!第一、俺だって茶髪の男子学生だし……。
そう腹の中で吐き捨て、また深い溜め息を吐く。
――意味わかんねぇ……。もう、本当にコイツとは関わんない方がいいな……。
ようやく、駿の中で結論が出た。
フゥーと溜め息を吐き捨て今度こそ、足を進めた。
「っ!……」
自分から離れていく駿にメイは表情を歪ませた。
しかし、もうメイに引き止める術はない。
黙って見送るしか……
だが、その瞬間――
「いっちごう〜!」
突然、十夜が駿に飛び付いてきた。
「うわっ! 何すか?」
「一号、ジュース奢って」
今の空気にはそぐわないにこにこな表情と明るい声で十夜は言い放つ。
「はぁ? 何で俺が?」
眉に皺を寄せて思いきり十夜を睨み付ける駿。
「一号の金で買ったジュースが飲みたいから」
表情を崩す事なく十夜は答える。
「自分の金で買っても味に変わりないと思うけど……」呆れた表情でしがみつく十夜に言い放つ。
「てか、離れろよ」
素っ気ない口調で駿は、十夜に告げた。
「一号はつれないなー」
十夜は肩を竦めては首を横に振った。
「ってあれ? メイちゃん」
ふと視線をメイに向けては十夜は目を丸くした。
「あ、くーちゃん……」
メイは涙で潤んだ瞳で十夜を見つめた。
「どうしたの?」
十夜はやんわりとした口調でメイに問い掛けた。その優しさが心にしみたのかメイの瞳からは大粒の涙がポロポロと零れ落ちた。
十夜はそんなメイの頭をポンポンと叩く。
「一号とトラブった?」
その問いにメイは首を横に振った。
「違うんです……駿ちゃんは何も悪くないんです……ただ、自分がすごく嫌になりました……頑張ってるつもりなのに全然うまくいかなくて……」
メイは鳴咽混じりに呟く。
「こんなんじゃ……メイ、いつまで経っても一人前になれませんよね……?」
俯きながらメイは呟いた。
――何の話しだ?
少し離れた所で話しを聞いていた駿は眉を寄せな、訝しげな表情で二人のやりとりを眺めていた。
「……大丈夫だよ、メイちゃんはメイちゃんのペースで頑張れば。ゆっくりでいいんだよ」
十夜自身も話しが読めなかった。が、一瞬だけ目を丸くしてはすぐに穏やかな口調で告げた。
メイはゆっくりと顔を上げて十夜を見据える。
「でも、捜さなきゃいけない人の顔忘れちゃいました……」
「?」
メイの言っている事が分からない十夜は首を傾げた。
が……
「……えーと……忘れちゃいましたって事は顔、見た事はあるんだよね?」
すぐに優しい声色でメイに問けた。
「はい……」
「なら、大丈夫だよ。案外それらしき人を見れば思い出すと思うから」
ねっ? とニコッリ優しく微笑む十夜を見て、メイの心は少しだけ浮上した。
泣き腫らした瞳で愛らしく微笑み返すメイ。
そんなメイと十夜のやりとりを見ていた駿。
なぜか、ものすごく疎外感を感じていた。
――なんか、俺が悪者な気がする……
そう一人、心の中で呟いているとクイクイっと制服の裾が引っ張られた。
「ん?」
視線をそこに向けると泣き顔のメイが映る。
「あの、……ゴメンなさい……色々とご迷惑を掛けて。やっぱり自分で何とかしますね」
そう力無く笑うメイ。
すると、駿の心臓がドキンと跳ねた。
手で口元を隠しては駿は視線を床に反らした。
――なんだ? 今の音?
やたらと顔が熱く感じるし……
駿は、また自問自答し始めた。
「ところでさ、一号今日の放課後ヒマ? 俺の家に来る気ない?」突然、十夜は明るい声で駿に話し掛けた。
「はい?」
ワケが分からない駿は、顔をバッと上げてた。露骨に嫌そうに眉間に皺を寄せて……。
「あ! ゴメン、説明不足だね? あのね、俺の家、飲食店なんだ」
ヘラッとした笑顔を浮かべ十夜は話し始めた。
「で、最近有り難い事にやたら繁盛して、親父一人じゃ切り盛り出来ないから人手を増やしたんだけど、ついさっき親父から電話あってバイトの熊手くんっていう子がりんご病になったらしく当分休む事になってさー、また人手が足らなくなっちゃって……困ってるだよね」
そう十夜は困った様に笑った。
「あ、ちなみに熊手くんってプロボクサーを目指してる18歳のいかついヤンキーなんだよ」
十夜は笑顔で付け加えて駿に告げた。
「そう……」
――なのに、りんご病かよ……?駿は、笑いを噛み締めながら十夜の話しを聞いた。
「で、どうかな? 店は、学校からだと自転車で10分くらいだよ。時給は1000円で賄い付きの食事代はタダ。周一からでも全然OKだよ? どう?」
十夜の美味い話に駿の心中はかなり揺れた。 しかし、駿は他にどうしてもやりたいバイトがあった。飲食系では、大分掛け離れてしまう。
それが、駿の決断を鈍らせた。
「それに、一号、親元から離れて暮らしてるみたいだから、やり繰り大変だと思うし……」
その言葉に駿は思いきり頷いた。
――うんうん、電気代も水道代も馬鹿になんないし……食費だってキツイし……
「あ、もしかしたら住居手当て付けてくれるかも……」
「葛原、長期じゃなくても平気?」
“住居手当て”の一言に駿の態度は一変した。
「全然構わないよ。とりあえず、今回は熊手くんが復帰するまでの間だけだから」
ニコッと微笑む十夜。
この一言が決め手になったのか駿は―……
「よろしくお願いします!」
十夜に深々と頭を下げた。
「こちらこそ」
「あ、メイちゃんもやってみない? バイト?」
十夜は優しい笑顔を浮かべてメイに尋ねた。
「ほぇ?」
メイは目を擦りながら十夜を見つめた。
「一号と一緒にアルバイトやってみない?」
「え? あ、あの……」
戸惑うメイに駿が代わりに答えた。
「……く、葛原? こいつを雇うのは……かなり危険な気が……」
気まずそうに駿は十夜に話し掛けた。
「え? 危険? 」
首を傾げて駿を見据える十夜。
「あ、いや! あ、こいつ、他にやる事があるし。他当たった方がいいと思うな……」当たり障りのない言葉を選び十夜に告げる駿。
「あ、そっかぁ……残念だな……メイちゃん可愛いから客寄せに良いなーと思ったんだよね?」
十夜は残念そうな口調で頬をポリポリ掻いた。
「俺ンち、何故か野郎ばっかが来てムサイから華が欲しかったんだけど……。忙しいんなら仕方ないね……」
十夜の言葉に過敏に反応したのは駿だった。
「え? 野郎ばっか……?」
そう呟く駿の表情と口調はとても悲しげに震えていた。
――葛原の雰囲気から、てっきりお洒落で女性客がわんさかいる店だとイメージしてたのに……。
泣きそうな表情で十夜に視線を送る駿。
「んー? そうだねー? あんま、若い娘は見かけないなー? 来るのはサラリーマンとか男子学生が多いかな?」
十夜のこの発言にメイが過敏に反応した。
「……え? くーちゃん、今の本当ですか? 男子学生さんが沢山来るって? その中に茶髪の方は居ませんでしたか?」
メイは真剣な表情で十夜に詰め寄った。
「茶髪の男子学生? そんなの腐る程、来てるよ?」熊手くんも茶髪だし。
と付け加えて、十夜は泣き腫らした瞳で見つめてくるメイに視線を向けて答えた。
「けど、何でそんな事聞くの?」
その問いに、メイは罰悪そうにまた俯いた。
不思議そうに思った十夜は首を傾げ、俯くメイの顔を覗き込んだ。
「あ、あまり多くを語れないのですが……ワケあって人を一人捜していて、その方の特徴が『茶髪の男子学生』さんだったので……もしかしたら……と思って……」
不安なのかメイは下を向き心細げに十夜に説明をした。答える声が震えている。
十夜は穏やかな笑みを浮かべながらもメイの拙い話に耳を傾けた。
駿も無表情だがメイの話しを最後まで聞いた。
そして、メイの話が終わって、十夜は穏やかな口調でメイに話し掛けた。
「そうなんだ? 大変そうだね? けど、だったら尚更俺のとこにおいでよ。茶髪の男子学生なら掃いて捨てるほど来るからもしかしたら、メイちゃんの捜してるヤツも来るんじゃないかな?」
ニコッと柔らく微笑み、メイの頭を優しく撫でた。
「それに、メイちゃんみたいな可愛い女の子が店に居てくれたら俺の家はさらに繁盛するし、メイちゃんは探してる人見つかるうえに懐もホクホクで一石二鳥ならぬ一石三鳥だと思うんだけど?」
彼の優しい笑顔にメイの不安はスゥーッと消えた。
「見つかりますか……?」
「さぁ? それは、メイちゃん次第だよ。けど、何もしないよりは期待できるんじゃないかな?」
にこっと微笑んで十夜は答えた。
「そ……そうですね……! 何もしないよりは良いですよね! 決めました! メイ! くーちゃんのお家のお手伝いしながら茶髪の男子学生さんを探します!」
メイは太陽の様な明るい笑顔で言い放った。
さっきまで沈んでいたが、もう、いつもの元気さを取り戻していた。
「……………」その二人のやりとりを眺める様に見ていた駿。無表情で立ち尽くしているが、どこか引き攣っているように見えた。
――学校に家まで一緒な上にバイトまであいつと一緒? 冗談じゃない!
「あ……おれ、やっぱり辞め……」
口にしようとした瞬間、メイが駿のそれを塞いだ。
「ところで“ばいと”ってどういう意味ですか?」
メイのこの言葉に沈黙が訪れる。
「……………」
「……………」
「……やっぱ、こいつ雇うの止めた方がいいぞ、葛原……」
暫くして、駿が口を開いた。真剣な眼差しで。
「俺も、ちょっと思った。でも、まぁ……」
変わらず十夜は微笑みながら答えた。
しかし、その次の瞬間彼の笑みが変わった。
「……何にも知らない真っさらな子だと、色々教育のしがいがあるし……」
含み笑いでポツリと呟く十夜。
「いいわねぇ〜! 是非、私にも教育してほしいわ〜」十夜の発言のすぐ後に、中年女性のダミ声が耳に入る。
あまりに唐突のその声に、駿は、目が飛び出しそうな勢いでその声がする方へ目を向けた。
すると、購買部のおばちゃんがさっき駿が座っていた席にどっかり腰を降ろしていた。
「でも、どちらかというと私は、相手色に染まるより自分色に染めたい派だからねぇ〜」
妙に艶っぽい声で呟きながらテーブルに置いてある唐揚げ弁当をバクバクと食べている。
「な、何言っているんですか? てか、それ俺の弁当!」
そう購買部のおばちゃんが食べているのは紛れもなく駿が買った弁当だ。
だが、駿の怒鳴り声にも変わらずマイペースで箸を進めていた。
「……何よ? これは私の賄いよ。昼休みが終わったら購買部のメニューは全部私のものなの」
威風堂々とした態度で語るおばちゃん。
おばちゃんは肩越しで振り向き、箸を駿に向けた。
「んな、ふざけた……って昼休み終わった?」
駿はそう呟き、どんどん駿の顔は青ざめていく。
「あ、周り静かだと思ったら、もう昼休みおしまいなんだー?」
十夜は、気付かなかったねー? と言ってはアハハと笑った。
メイは、おばちゃんの登場によって食べ途中だったプリンの存在を思い出し手を伸ばした。
が、購買部のおばちゃんの先にプリンを取り上げ、わざと見せびらかす様に全部平らげてしまった。「アハハじゃねーし……、次は、担任の授業だし……ただでさえ、目付けられてるのに遅刻なんて有り得……―」
「あーーー! メイの、プ……プリンーー!」
頭を抱えてぼやく駿を余所にメイの泣き叫ぶ声が響き渡る。
「うるさいわね! さっきも言ったけど、昼休み終わったらこれは全て私の物なの! だいたい、高校生になっても時間守って食事出来ないのがいけないのよ!」
「うっ……」
元々、メイに対して冷たかったおばちゃんはここぞとばかりに容赦ない言葉を投げ付けた。
そんなおばちゃんの迫力に負けたメイはめそめそと泣き出してしまった
言いたい事を言って、すっきりしたのか、おばちゃんはまた箸を進めた。
「ヒック……だからって、全部食べないで下さいよ……駿ちゃんがくれたのに……」
涙を手で拭いながらメイは駿へと視線を向けた。
が、駿はかなり慌てた様子で食堂から駆け出した。
「って駿ちゃん待って下さい!」
一人走り去る駿を見てメイも泣きながら後を追い掛けた。
「さぁーてっと、俺も教室に戻ろうっと」
十夜は明るい声で言い放ちゆっくりとした足取りで食堂を後にした。 |