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炭焼き小屋の娘  ダークファンタジー小説。

私は11歳だった。
そして、そのころ小学校5年生だった。
昭和31年の春だった。
私の家は、その地方の県庁所在地の町からローカル線電車で2時間乗り田舎の無人駅で降りて、
そこから歩けば1時間の辺境の地?にあった。
家の直ぐ近くにはもう、うっそうとした森が迫り、鄙びた山村だった。
私の家のすぐ裏にはまるで我が家を守るかのような大きな野生のクルミの巨木がそびえていた。
秋、胡桃の実を収穫するのが楽しみでしたね。腐った渋皮を剥いて胡桃の実を大きな桶で洗う。
そして天日干し、、思えばすべてが懐かしい。
そんな村はずれに私の家があった。隣の家は100メートル先だった。
もちろんそんな山暮らしで生活が成り立つはずもなく、、、
父は出稼ぎに東京へ、、、帰って来るのは数か月に一回、
その時生活費を、、、現金を母に届けるというわけだ。
何もいちいち帰ってこないで郵送とか、
当時、送金手段ってなかったのだろうか?
当時の私が知る由もないが、おそらく父も数か月に一回帰って来るのが楽しみだったのだろう。
で、手ずからお金を母に渡すのが嬉しかったのだろう。
母は4反歩ほどの痩せ畑を一人で耕作して野菜、小麦などを作って生活の足しにしていた。
そんな私の家のさらに村はずれの山際に一軒の炭焼き小屋があり偏屈な老人夫婦と
一人の娘が棲んでいた。
その娘は15歳くらいだったろうか?いつも炭で真っ黒な顔で汚い服を着て裸足で
学校も行かずに
老夫婦の炭焼きを手伝っていた。
この娘は、、少年の私から見ても顔立ち自体はととのっていたが、、、
ただあまりにも汚かった。

そして。少年の私から見ても、この娘はちょっと足りない子で
会話もろくにできない子だったのです。
母からそれとなく聞いた話ではこの娘は老夫婦の娘が産んだ子で
その娘はなんでもこの村に行商に来た人と仲良くなってこの子ができたという。
でもその行商人はこの子ができるとぱったり来なくなってしまい
娘はそれを苦に裏山で首をくくって自殺したそうだ。
つまりこの娘、名前は、りつ子は、老夫婦の孫だったのだった。
当時は、障碍児学級などあるはずもなく、いわゆる、、、いまにして思えば
「就学免除」だったのであろうか?

いま思えば大変心苦しいが当時の村の悪童?たちは
「やーい、リツ、、リツ、山のリツ、、」と言っては
この娘をからかいの対象にしていたものだった。
もちろん私はこうした行為には加担しなかったし、時には
「やめろよ」と制止さえしたのだった。、、。

さてある日のことだった。
私は炭焼き小屋を通りかかった。
すると律ちゃんが、つかつかと出てきて
アケビの実をくれたのである。
私は悪童どもとは一線を画していたから
それが律ちゃんにもわかったのだろうか?
なんか妙にうれしかったのを今も覚えている。
りつ子はその後も私が通ると必ずと言っていいくらいに
山栗やら、木苺やらを私にくれたものだった。
私はりつ子と並んでそれを食べ、話しかけたりして見たが
まったく応答はなく
ただ笑ってるだけだった。そして不思議そうに私を見つめて
何か言いたげなそぶりをするだけだった。
でもなぜかりつ子といると私の心は尊い安らぎの中にたゆとうているのだった。

そんなある夜のこと、
なんでだかわからないが誰かが呼ぶような声がするので、、、。
私はふと家を出てふらふらと炭焼き小屋に向かっていた。
気がつくと炭焼き小屋の前にりつ子が佇んでいた。
ところが律ちゃんは、なんと別人のように顔も白くて
真っ白い衣装を着ていて、、まるで巫女さんみたいだった。
そしてしゃべれないはずなのに私にこう言ったのだ。
「いいところに連れてってやるからついてきて」
「え?しゃべってる」
「何驚いてるの?私はねえ気に入った人にしかしゃべらないのよ」
そういって炭焼き釜の中へ私の手を引いて入っていった。
炭は取り出した後で、窯はすっかり冷え切っていて、ぽっかりと空洞になっていた。
真っ暗な中をずんずん進んでいくと出口があって、突然視界が開けて
そこは、明るいどこかのまるで見知らない森の中の広場だった。後ろを振り返るとそこに炭焼き釜があった、
でも見渡しても、そこは、あの村の風景ではなかった。
さらに、あるいて行くと、そこには、、丸太づくりの別荘?があった。
「さあ入りましょう」
私はついてはいる。
中は瀟洒なまさに別荘のようだった。
「私はねえ本当はこの森にすむ妖精なのよ。信じる?でも
分からないように普段はバカの振りをしてるの」
「あんたはいい人だからこうして私の本当の姿を見せてあげたの、でも
いい事絶対に言っちゃダメよ、誰にも」

私たちはテーブルに並べられた山の果物を食べたり
外へ出て、
ふしぎな森の遊歩道を二人で散歩したり、
その森は尋常な普段のそこらの森ではなかったことは確かでしたね。
妙な真っ赤なキノコが在ったり、不思議な緑と黄色の小鳥が囀ったり、
いつもの村の森ではないです。
歩くと木々は「どこから来たの?」と私に話しかけるし
枝には青い色したリスがいて「この子はどこの子?」と私に聴くし、、。
まったく妙な森です。

「この森はねえ、実はあんたの村の森と見えない糸でつながってるのよ。
そうして私がここで水や木々をそだててあんたたちの森に送ってやってるから
ああして豊かな森が育っているのよ」

当時の私にはまるで謎で何を言ってるのかその当時はわからなかった。

「いけない、もう時間だわ。帰りましょう」
そういうとりつ子は私の手を引いて、
私たちはまた炭焼き釜のところまで戻ると、
その入り口ををくぐって進むと真っ暗で、やがて、
出口が見えて、、
出るとそこはいつもの村だった。
「さあ帰んなさい、でも誰にも言っちゃだめよ。バカのふりしてる私にもね」

私は頭の中がグルグル回って何が何やらわかず
ふらついてどこをどう歩いたのか、、どうにか家に戻ったのである。
そしてそっと家に入るとそのまま寝てしまった。
目ざめると、、
いつもの朝だった。

でも、、、あれは夢だったのか?
そう思って、
ふと見ると手には炭がついていたし、
寝床の傍らに脱ぎ捨ててあった服にも、炭がついていた。

「やっぱりほんとだったんだな?」私はそう一人でつぶやいていた。

おきて台所に行くと、
母がこういった。
「あのねえ、律ちゃんが居なくなったんだって。今さっき炭焼きのおじいさんが来て

りつ子を知らんかね?といって探しまっわってるのよ」
なんでも昨日の夕方からいなくなって夜も帰ってこなかったというのだ、
それまで家から出ることもなかったし、りつ子が居なくなることなど決してなかったというのに、
森が好きでしばしば森へは一人で出かけては
どんぐりを拾って来たり木苺を摘んできたりはしたが
夕方になれば必ず帰ってきたという。
夜にいなくなるなんて皆無だったという。

りつ子はその後村人が山狩りをして捜したが
4日経っても見つからなかった、

炭焼きの老夫婦はそんなある日、私の母にこう言っていた。
「あいつはバカだけど、母親が亡くなってさびしかったんだろうな。
俺たちじゃあ何もしてやれなかったしなあ。それで家出して、、
森にさまよいこんだんだろうよ。森に行けば母親に会えると思ったんだろうなあ。」

りつ子はその後も依然として行方不明だった。

それにしても
私のあの夜の体験はいったいなんだったのだろうか?
夢?だったのか。
そうともいえる。これといって、何の証拠もないんだから。
でも私はりつ子との約束通り決して誰にもあのことをしゃべったりはしなかった。

それから、、10日後のある日クマ狩りに行った猟師が
あまり人のいかない、深い谷の滝つぼの縁にりつ子の死骸が浮いているのを発見したという。その様子は滝の水に洗われて、、いつものあの炭だらけの真っ黒い衣服のりつ子ではなく、、
真っ白な衣服になっていたという。
そしていつものあの炭で真っ黒い顔も冷たい谷川に洗われて真っ白い顔になっていたという、、。
まるで、、そう、、巫女さんのように、、、。

滝つぼの水温は夏でも10度以下だったし
遺体は腐りもせずに2週間もいたということなのだろうか?

そうして
私の遠い遠い昔の
ふしぎな体験談も
永久にこうしてただ私の胸の中だけに
しまいこまれたままになって今日まで来たというわけだった。
私はもちろん誰にもあのことを話したりはしなかったのだから。

それにしても、
あの夜の
あの経験って?
夢だったのだろうか?

それとも、、、。

それは数十年たった今でもわからないし
またこれからも永遠に判らないのであろう。






















冬の童話祭 2015、出品作品。

















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