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敵は誰?

6/20 勇者支援生活20日目

 この二日間で勇者二人のレベルを査定した。ガイラLv15、アレフLv12といったところか。少し低めに見積もった。魔法の鎧を買うには金が足りないはず。一度戻って換金してから再度アウフヴァッサーへ・・・かなり時間がかかるな。端から端まで歩いて二週間、このノイエラントを構成する島自体はそれほど広くはない。だがそれでも双方向への転移ができないとなると広く感じられる。


 大臣執務室でアレフ、ガイラの位置を確認する。昨日はアウフヴァッサーにいたな。南の集落には行ったかな。多分相手にされなかっただろう。俺の魔法の基本はあそこで調査、研究した。門前払いされても懲りずに毎日通ったものだ。シュミットは砂漠の南端・・・無事でいろよ。


 さて自らの安全が確保されると実に退屈である、我ながら悪い性だ。図書館でも行ってマギーと会話でもしよう。


「マギー!やっと手が空いたよ。ここに来るのも久しぶりだ。」


「ここで一人放って置かれた私について何か言いたいことはなくて?」


「それはすまなかった。別に遊んでいたわけじゃないけど・・・OK!では今日は隠された真実について話そう。」


 ちゃかして誤魔化そうと思ったが睨まれたので、興味を引く話にすりかえる。思惑どおりマギーの目の色が変わる。


「隠された真実とは何?」


「そうだね・・・勇者の伝説について。なんてどう?」


「そうね。およそ500年前招換され、悪の手から光を取り戻し、その栄光を称えられ勇者の称号が送られた。だがその後の消息を知る者はいない。誰でも知っているお伽話よね。」


「その通り、だけどそれは作られた伝説だとしたら?」


「興味深いわね。いいわ!今日はそれで誤魔化されてあげる。」


「なんだ、そこまでバレバレか。いや誘導されたか・・・まあいいや、じゃあ資料を用意するから待っててね。」


 勇者の部屋の開け、日記を取り出してくる。ここノイエラントとは違う言語で書かれているそれは俺にしか読めない。


「じゃあ、始まりから話そう。まず精霊神の恩恵の元、平和なノイエラントがあった。そこに別の世界から大魔王を名乗る者が現れた。大魔王は神を駆逐し、ノイエラントを絶望の闇に落とした。ここまではいい?」


「詳しいことは伝わってないけど、そうなのね。」


「そう、なぜか事実は闇の中、誰が消したか、時間の壁がすべてを失わせたか?それで大魔王は次にどうしたと思う?」


「そうね。大魔王・・・まだ口にするのは抵抗あるわね。大魔王はノイエラントを征服して・・・それで終わりじゃないの?」


「それで満足する大魔王ではなかった。類稀なる魔力を使ってここノイエラントとは違う世界への道を切り開いた。ここノイエラントの絶望だけでは満足しなかったわけだ。それで次の目標になったのが勇者のいた大地、単なる偶然か歴史の必然かは分からない。それで自分の世界を開放することに成功した勇者は、その元凶を倒す為にここノイエラントに来たんだ。」


「勇者は召喚されたわけじゃない?ならどうしてそれが伝わっていないの?」


 勇者の伝説はお伽話とは言え盲目的に信仰されている。そこに俺は異議を唱えた。マギーの疑問はもっともである。


「その事実を知られては嬉しくない者たちがいたから。」


「誰よ!そんなこと隠しても意味が無いじゃない。」


「ノイエブルク王家。王家の力や軍隊、如何なるものを持ってしても手も足もでなかった大魔王を倒してしまった。この事実は王家の威光に傷つけること甚だしい。そうだろ、その気になれば勇者は王家にとって替われる。」


「勇者はそんなことしない。平和のために戦ってきたのに・・・。」


「そうだ。だから名前だけの名誉を受け取って歴史から消えた。」


「自分の世界に帰ったのじゃなくて?」


「だとよかったんだけどね・・・世界と世界の壁を開けていたのは大魔王、でもその大魔王を倒してしまったら帰ることはできない。ちなみに勇者の父親もここノイエラントで亡くなっている。元の世界に残された彼等の母であり、妻であった女性の悲しみは、誰にも分からない。」


 マギーが涙ぐんでいる。勇者の悲しみか、彼の母親の悲しみか・・・それが理解できない人でないことは俺にとって嬉しい。


「話を戻そう。名誉を与えられた勇者達は最初は大事にされただろう。だがそのうち嫉まれて城から離れた。さらに問題があって、実は勇者は大魔王の断末魔の叫びを聞いている。」


「断末魔の叫び?」


「この身が滅ぼうとも我が野望は消えぬ。いずれ必ず蘇りこの世界を再び絶望に落とさん。だがその時には貴様達はいない。わはははははっ!」


「なんて禍々しい・・・。」


「だろっ!これが勇者の予言の元になった。そして勇者は再び現れる魔王に対抗する為、三人の友に神器を託して歴史に消えた。」


「でも勇者の名の元、この世界を纏めて備えることもできたはずよ。」


「その方法も無くも無い。だけど戦って平和を勝ち取った勇者にはそんなことはできなかった。一応ノイエラントはノイエブルク王家によって秩序があった。一度壊した秩序は新たなる秩序を得るには時間がかかる。大魔王の予言は曖昧でいつになるか分からない。だから今ある秩序は壊せない。そう判断するしかなかった。」


「それが本当なら勇者は報われないじゃない!」


 マギーが激高して立ち上がる。


「俺も報われないと思う。だけどこの日記にはそれに対する文句や愚痴は書いてない。ただ残してきた故郷の母や友の安否を気遣う記述は多々ある。」


「もしあなたの言ってることが本当なら、その日記は公表すべきよ。それこそ勇者に報いるべき一番の方法よ!」


「それは駄目だね。勇者に報いるならまず新たなる魔王を倒すことだ。彼が憂慮していたのはその一点だ。」


「でもそれじゃ納得できない。」


「そうだね。勇者の沈黙を利用して彼の死後、都合よく伝説を作り変えた。つまりこうだ。大魔王に対抗する為、ノイエブルク王家は異世界より勇者を召喚した。はたして勇者は大魔王を退治し、後の世の脅威に対抗する為この地に血を残した。どうだい、よくできたシナリオだろう。」


「だから公表すべきって言ってるじゃない。」


「でも証拠がない。」


「その日記じゃだめなの?」


 俺は日記の一ページを開き、マギーに見せた。


「読める?読めないだろう。言語が違う。これは彼の故郷の言葉、魔法の詠唱に使われた言語が大きな世界に散らばり、さらに細分化された言語。これを解読するだけでも膨大な時間がかかる。」


「でもあなたが読めるじゃない。」


「例え俺がそうだとしても公式に認められなければ意味がない。それにまだ公表する気はない。」


「まだ?」


「あいかわらす君は聡いな。そうだ、俺はまだと言った。魔王を倒すまでは公表できない。さらに公にできないとんでもない秘密が隠されている。王家の宝玉の真の持ち主についてだ。」


「ノイエブルク王家が勇者から譲られたとされているわ。」


これはお伽話にもある。大魔王の城を脱出した勇者は、奪われていた宝物とともに大魔王の力を封じた宝玉を王家に渡したとされている。


「そうなっているね。もしかしたら勇者から申し送りがあったかもしれないがそれは闇に葬った。それが今、王家の宝玉と呼ばれてい物だ。」


「だから王家が正当な所有者でないと言うわけじゃないでしょうね?」


「その通り・・・実は魔王が宝玉を奪って行った時に残していった言葉がある。」


「それ聞いていない。」


「だろうね。その言葉は"我こそは竜の神の後継者、正当なる権利を行使し宝玉を返してもらう。”だ。」


「竜の神?何よそれ?それになんでそんなことをあなたが知っているの?」


「職権を乱用して調べた。国務大臣付き特務隊士に入れない場所は例外を除いてほとんどない。例え鍵がかかっていようと俺には関係ない。」


「それはちょっと酷くない?」


 マギーが呆れた顔をする。マギーの言う通り酷いことは承知している。鍵のかかった部屋、引き出しなどは隙を見てReseras(解錠)の魔法で開けた。やったことは盗賊か密偵みたいなものだ。


「見聞を広めよと一ヶ月放置したのは国務大臣だ。だから文字通り見聞を広めただけ。ああ、分かっているよ。これが詭弁にすぎないことはね。でもね、俺の前身は考古学者、これほど興味を引く物はない。幾つかの文献から推測できた内容は信じられないものだったけど、いままでに各地を回って調べたことと総合してその信憑性が増した。」


「別に私は批難していないわよ。じゃあもう一つ、竜の神って何?」


「はっきりとは分からないが勇者が元いた世界の神だと思う。大魔王を倒す為にはその大きな力を封印する必要があり、その為に力の一部・・いや大部分を貸した。その神と勇者の誤算は互いの世界が閉じてしまったことで、返却されないまま数百年が経ってしまった。」


「ではなぜその閉じた世界に後継者がいるわけ?」


「それこそ分からない。新たに現れた魔王は本当に竜の神の子孫で、いつまで経っても返して貰えないことに激怒して魔王となったのか、復活した大魔王がその名を語っているのか、現時点では答えは出せない。だから俺個人としては魔王にあって話がしたいと思っている。事の次第によっては宝玉を返してもいいし、聞く耳がないなら戦うのも仕方がない。もし本当に竜の神だとしたら勝てるかどうか分からないけどね。」


「あなた、どっちの味方なの?王家や貴族には辛辣なくせに、会ったこともない魔王にはずいぶんとお優しいことで。」


「こう言っては君に悪いが、俺自身も湖上都市も魔王による直接の被害をほとんど受けていない。その反面、湖上都市に来た王族や貴族には結構迷惑をかけられている。2年か3年ごとに変わる弁務官、彼等の無茶な要求に町長であった養父がどれだけ苦労していたか想像できるかい?」


 マギーは無言で首を横に振る。二重の意味で言葉も出ないようだ。


「賄賂をよこせってのは当たり前、着任早々、新しい屋敷を用意しろ、その屋敷には多くの奉公人を用意しろ、奉公人は美人でないと駄目だ、他にも口に出すのも憚れる要求で一杯。必死に妥協点を求めて奔走する養父の姿に何かしてやりたいと思ったものだ。弁務官を殺してやろうと思ったことも一度や二度じゃないよ。流石に止められたけどね。」


「そんなこと初めて聞いたわ。私は・・・世間知らずの貴族でしかないのね。」


「それはこれからの心がけ次第じゃないかな。懸命な君のことだ、きっと愚かな行動はしないと信じている。まあそんなわけで俺の王侯貴族に対する不信感は簡単に取り除くことはできない。辛辣に見えるのはそのせいだろう。」


 マギーはまだ黙り込んでいる。かなり余計なことを言ってしまったかもしれない。しかし彼女なら信用してもいい、いや信用したい。

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