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「考古と幻想を観察する者たち」シリーズ

千年前のゴミ捨て場で考古学者は考える。

作者:まいまいഊ
 博士とその助手、二人の人物が遺跡の発掘作業をしている。

 遺跡の発掘作業。
 それは、過去の遺産を掘り起こし、歴史を浮き彫りにする浪漫あふれる作業。暑さや寒さや単純作業に耐える忍耐と、出土したものから事実を導き出す想像力がモノをいう世界。

 彼らが発掘している遺跡は、千年も昔の人が使っていたゴミ捨て場だ。何百万年と言われている人類の歴史と比べてしまうと、千年前というのは最近の部類になってしまうが、それでも現在の生活と大きく異なっている。

 千年前のゴミ捨て場。
 そこから出てくるのは、一見するとゴミにしか見えないかもしれない。しかし、当時の生活を知るには、このゴミこそが何よりも素晴らしい材料になる。

 有名なところで言えば、貝塚。それは、縄文人たちのゴミ捨て場である。出てくるものは、貝や骨や植物の種子、土器のかけら、使わなくなった石器など、それらは当時生きた者にとっては、まちがいなくゴミだった。
 しかし、それを調べたならば、彼らが何を食べ、何を身にまとい、何を道具として使ったか……そのゴミから、どのように生活していたのか、その一端が見えるのだ。

 このように、ゴミ捨て場だった場所の発掘は、人類の生活を知る手がかりとなるものが出てくることも多い。

「博士。ここが昔のゴミ捨て場と分からなければ、ただの不法投棄場ですよね……」
 燃えるモノだろうと、燃えないモノだろうと、巨大なものだろうと分別なくそこには捨てられていた。
 この遺跡から出てくる遺物は、果物の皮の干からびたモノや、様々な形の容器、何に使用したのか想像もつかないオブジェのようなモノなど、誰が見てもゴミの山だ……

「そうだな。しかし、そのようなゴミだからそこ、我々にとっては宝なんだよ」
 博士と呼ばれた男が、筆のような道具で土を払う作業を続けながら答える。

「千年前の人たちは、思いもしませんよね、自分たちが捨てたゴミが、今ここで学術的なモノになっているなんて」
「ははは、そうだな」


 助手は新たに発掘した青い色のガラス質の容器を手に取る。その容器と同じ形の物は今までに大量に見つかっているものだった。
 長い年月のあいだに、容器に入っていた内容物そのものは劣化や変質してしまい残っていないが、最新の機器で調べれば、それらの痕跡を見ることができる。
 容器の内部に残る成分の痕跡を調べた結果、その中には当時効果があると民間の間で流行っていた「不老になる薬」が入っていたことがわかっている。

「……こういうゴミを見ていると、昔の人は不老になるために色々な努力をしたんですね」
「人は珍しい性質を持つ植物や鉱物(ミネラル)、珍しいとか希少であるとか、そういった物に惹かれ、そういったものに不老の夢を望むものなのだよ」
「確かに千年前の人は僕らの半分の寿命とはいかないまでも、短かったと言いますからね」

 助手は発掘したばかりの容器を注意深く観察する。深海を思わせる深い青い色はいかにも効能がありそうな雰囲気を出していた。
「今考えると信じられないですよね……あんな危険なものを、日常的に使っていたなんて」
「それらが、毒だとは知らないで、常日頃から食べたり塗ったりしていたんだよ」
「でも、……僕には到底出来ませんよ」
「それは君が正しい知識を知っているからだ」
「まぁ、そうですよね」
「当時としてはそれが最新の科学だった。不老不死を求める行為はすばらしいが、時に危うい。確かに効果があると妄信的になってしまう……」
 今では当時の迷信に似た妄想は正され、誰もがそれが危険なものだと認識できるようになってきた。

「不老不死は、今でも到達できていない夢ですからね……」
 確かに、科学の進歩で、怪我や病気からくる生命の危機は少なくなってきた。そして、老化の仕組みは解明されつつあり、老化のスピードをゆっくりにすることも可能になる日は近いだろう。
 だか、完全なる不老不死の道筋を解明するには至っていない。


「博士は、この容器に書かれている模様の意味は分かるのですよね」
 長い間土の中にあったせいか、容器に刻まれた文字は消えていたり欠けていたりするが読めないこともない。
「多少は、な。ソレが何を表しているのか分からないものも多いが、よく使われている単語は把握しているつもりだ」

 博士は、助手から受け取ったガラスで出来た容器を見つめる。
「雪精の水。雪解けの清い水を使用して、春の薬草数種の抽出液と幾つかの調合した薬品……この薬品が危険なんだが……その効能で肌が若返ると言うようなことが書いてあるね」
「つまり、千年前の人は、これで肌が再生すると思っていたんでしょうか?」
「そうかもしれないな」


 発掘作業は黙々と続いている。
「それにしても、状態が良いモノが出てきますね」
 助手の男は、発掘したばかりの柑橘系の皮らしきものを拾い上げた。
「千年も経っているのに、どうしてこんなにも腐らないで物がでてくるのでしょう?」
 助手は、常々思っていた疑問を言う。
 この遺跡から出てくるものは、千年経っているとは思えないほど状態がいいのだ。
「それは腐らない加工をしていたからですよ。かつての人々は、それを重要視していたのです。腐らないからと、肌に良さそうだからと、危険な添加物が入ったものを食べたり、肌に塗ったりと、日常的に行っていたのです」
 博士は、答える。
「なるほど。だから、あの時代はやたら状態のいい死体が出てくるのですね」
 日常的に摂取していた毒は体に蓄積し、死後、微生物による分解を阻害していたのである。火葬の習慣のない地域では、たまにそのような死骸が見られるのである。



「さて、今日の発掘は、そろそろ終わりにしようか」
「そうですね。あ、ラベルは僕が持ってきます」
 発掘するだけではなく、発掘場所、発掘日時、発掘品の特徴などを記すことも、学術的に大事な作業なのだ。

「ええと、今日は三〇一七年の……」
 ラベルに必要事項を書き込み、発掘した品々に添付していく。

 防腐剤たっぷりの果実の皮、原材料の部分に添加物名が大量に印字されている化粧品の瓶、食料品の袋に囲まれて……彼らは千年前の文明に思いを寄せながら、ゴミ捨て場から発掘された品々を整理するのだった。

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