大いなる女神様のご慈悲
トラックに乗用車に軽トラにはねられそうな、犬を猫を小学生を庇って、3つの魂がその肉体から離れた。
大いなる慈悲の女神様は、魂達をそっと手の平に掬いあげた。
魂達に仮初めの体を与えた。
しばらくすると、少年と少女と青年は目を覚ました。
「……ここは……?」
「小さき命を己を代償に救った。その慈悲に応えたいと思い、ここに呼びました」
驚き周囲を見渡す3人。
それぞれが、自分の最期に心当たりがあるのだろう。
なんとなく3人共が押し黙った。
「肉体が壊れてしまったので、生き返らせることはできません。
ですが、慈悲深いあなた方をお好きな世界に転移してあげましょう」
それから少しばかり不思議な声と3人はやりとりをした。
そしてそれぞれが望んだ世界に転移していった。
「最後に、いつも見守ることはできませんが、一度だけあなた方の願いを叶えてあげます。
どうか新しき世界でも幸運を」
少年の場合
交通事故に遭った時にはオワタって思ったし実際に終わったけど、女神様?が転移させてくれたぜ、ラッキー。そりゃ当然、剣と魔法の世界で俺最強してハーレムだろ。ってなわけで、女神様?に色々な能力をもらったおかげで、俺のハーレム見てみろよ。ハーフエルフに女剣士、魔女っ子、猫耳、犬耳、しかもみんな美少女!それ以外にもギルドの受け付けも宿屋の看板娘もみーんな俺のことが気になってしょうがないみたいだ。そりゃ、なんて言ったって俺は最強の魔術師で最強の剣士、魔王だって瞬殺できちゃうんだからな。もてないわけがないわー。あー俺困っちゃうなー。こんなにもて過ぎて、でも俺の体は一つしかない。みんなが俺に相手をしてもらいたがっちゃってさ。
少年の願いは叶えられた。
突如、周囲が白く光ったかと思うと、そこには数十人の少年が立ち尽くしていた。
「お前ら誰なんだよ!?」
同時に少年達が叫ぶ。
と同時にパーティメンバーを抱きかかえて守ろうとする。
「お前、俺のリーファに触るな」
「お前のリーファじゃない、俺のだ」
「サラに近づくな」
「サラを離せっ」
やがて、最強の魔術師であり最強の剣士でもある数十人の少年達が争い出した。
魔王すらも瞬殺する魔法と剣技が乱れ飛ぶ。
全ての少年達が必殺技を放った後に、その世界に生きるものは何一つ残っていなかった。
少女の場合
生きててよかったー、あれ、違うな。生き返ってよかったー。女神様のおかげで、超ヌルい乙女ゲーに生まれ変わっちゃった。イケメン王子様もイケメン騎士もイケメン宰相もイケメン魔術師も、みーんなみーんなあたしの事がだーい好きなの。もう、ほら、私の為に争わないでー、喧嘩はやめてーきゃー。
少女の願いは叶えられた。
突如、周囲が白く光ったかと思うと、イケメン達は争いを止めて微笑み合っていた。
「少女のために争いはやめよう」
そう言って肩を組み、互いに少女への愛を語りだす。
「ああ、こんなにも同じ気持ちの人と語り尽くせるなんて……君の事をよく見ると……」
「もちろん少女への愛は余りあるほどあるが、そのために少女を傷付けることは出来ない」
イケメン達が爽やかに微笑む。
やがて少女を崇めるイケメン達は、少女への愛と平和を語る集団となり、一つの宗教へとなっていった。
同じ少女への愛を持つ者を互いに愛するパートナーとして……。
少女は呟いた。
「……これはこれで、あり……」
少女はその世界で幸せに暮らし続けた。
青年の場合
カタカタカタとPCの音が鳴る。
広く快適な部屋に幾つもあるモニターは、あるものはゲームを、あるものは掲示板を映し出していた。
「うん、快適快適」
決してフリーズしないPCで、サクサクとコマンドを打ち込みながら青年は呟いた。
「女神様、ありがとうございます。
おかげで働くこともなく、サーバーが落ちることもなく、食事やトイレのために離席もしないで睡眠も必要としない俺が、ずっとトッププレイヤーでいられます」
青年は何も困ることがなく、だから何も望むこともなく平和に過ごし続けた。
女神様の大いなる慈悲は、多少、人では測りきれなかった者もいる様で、それでも過半数が幸せにはなれるものです、きっと。多分。