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第六話:ふたりっきり 2
「……呼ぶときがあるんだ」

 やっと聞き取れるぐらいの先輩の声。

「えっ?」

「九条先生もレナって」

 先輩が不安げな顔を向ける。

「そうだ、けがはもういいんですか?」

「ああ、あれ、もうなんともない。 九条先生が大騒ぎをしただけだから」

 先輩はわたしを安心させるように、右肩を回して見せた。

 ほんの少し痛そうに顔をゆがめたがすぐに笑顔を見せた。

「なっ」

「九条先生って、なんか、変ですよね」

 あの保健室の事を思い出して、わたしは口走ってしまった。

「そうかな? いい先生だと思うけど。 部活も熱心だし、優しくって」

『あいつは昔からそういうやつだ。 上っ面だけは』

 イオが心の中でぼそっとつぶやいた。

「まあ、見た目が、あそこまで完璧だと少し嫌味かな。 そのうえ受け答えもそつが無い」

 先輩はほんのちょっぴり笑った。

「完璧な人は浅田さんの好みではないってこと」

「う〜ん、そうかな。 だって不完全なほうが人間味あるでしょ。
完全だったらそれ以上になれないわけで、そんなのおもしろくないもの。
あっ、でも九条先生の見た目は完璧だけど人間性とかはどうかわからないけど」

「そうだね」

 わたしたちは顔を見合わせて笑った。

 ふと、あの時かすめた頬の感触を思い出して、わたしは目をそらした。

「キャー!」

 突然、女の叫び声と犬の激しく吠えるのが聞こえてくる。

 公園の周りにある皐月の植え込みから、二人飛び出してきた。

 小さい方の人影がわたしに抱きつく。

 かなり大きい人影は、わたしにしがみついた人物をはがそうとする。

「沙羅に良!」

「伊緒乃ちゃん、沙羅こわいよ〜」

「は・な・れろー!」

「なんで、沙羅と良がいるのよ」

「心配だったんだもん、伊緒乃ちゃんのこと」

「なんで?」

「だって、先輩があんなことする人だったなんて知らなかったんだもん。
知ってたらあんな賭けなんかしなかったもん。 だから、二人っきりに
なったら伊緒乃ちゃんの貞操の危機だと思って」

「飛躍し過ぎだってばあ!」

 まったく、なに考えているんだ、沙羅ってば。

 沙羅はわたしにしがみついたまま先輩を睨む。

 きりっと結んだ口元に膨らんだほっぺ、凄みのある目付きの割には
なんとなくこっちの顔がほころんじゃうのは童顔である沙羅の特権だ。

「浅田さんには聞きたいことがあっただけで……なにも……」

 先輩には沙羅の凄みが効いたようで、ちょっとおどおどしている。

「あんたなんかね、女の敵よ! プレイボーイ! おんなたらし! すけこまし! その上、
九条先生とあんなことやこんなことやいやらしいこといっぱいしちゃってさ。 この買女め!
わたしの伊緒乃ちゃんにこれ以上手を出したら承知しないんだから!」

「さ、沙羅、違うんだってば、さっきのは先輩じゃ……それに、ば、買女って、日本語間違ってるよ」

 先輩は疑問符を撒き散らしたような顔をして尋ねる。

「九条先生とって?」

 えっ、えっ!?  そういえば、あの日、沙羅と良もあの場所にいたの!?

「伊緒乃ちゃんにはショックが大きいと思って黙っていましたの。 だって、あんなこと、
伊緒乃ちゃんがかわいそすぎて沙羅には申し上げることできないでござるですわ」

 神妙な? しゃべり方をしている割には、妙に眼が輝いているように見えるのはわたしの
気のせい?

「いってもいいの? 先輩」

「いっていいも悪いも、俺には」

「しらばっくれるんならいっちゃうもんね。 一週間前、広瀬先輩が怪我をした時、保健室での二人がしてたとこ見ちゃったんだから、ねえ、良ちゃん」

 わたしと眼が合うと、良はうなづいた。

「二人がベッドで抱き合ってキスしているとこ」

「そ、そんなことあるわけないだろ!」

「そんなことあるもんね〜。 広瀬先輩と九条先生は××の関係だもんね〜。
きゃっ、いやらしい」

「沙羅と良、今日は悪いけどこれで帰ってくれない。 先輩と二人だけで話がしたいから」

 これはわたしではなくイオの言葉だ。

「はーい! 別れ話はきちんとしたほうがいいもんね」

「別れ話もなにも付きあってないって! 先輩に悪いでしょ」

 明らかに傍目にも動揺しているのがばればれな気がして顔が熱くなった。

「はい、はい、行こう良ちゃん」

 二人の去っていく姿を引き止めたい思いを隠して見送った。

 このまま先輩と二人っきりになるのが、非常に気まずい。

 ふと見上げると、赤い大きな月が空にあった。
 残りも後わずかになりました。
 終わりのほうがこんなのでいいのかな? せっかく読んでくださっている方に、殴られるんじゃないかと不安ですが、何とか書き上げます。
 最後までよろしくお付き合いくださいませ。
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