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ラブカクテルス その57
作:風 雷人


いらっしゃいませ。
どうぞこちらへ。
本日はいかがなさいますか?
甘い香りのバイオレットフィズ?
それとも、危険な香りのテキーラサンライズ?
はたまた、大人の香りのマティーニ?

わかりました。本日のスペシャルですね。
少々お待ちください。
本日のカクテルの名前は転がる想いでございます。

ごゆっくりどうぞ。


俺は急いだ。
彼女はサザンクロスの砂浜で待ってる。
早くしないと波に拐われちゃう。
髪を緑にギンギンに染めるんだ。
ドライヤーよりオーブンのほうがいい色出るって、道端に倒れた胡散臭いオヤジが自慢してたっけ。
火傷するな!火傷するな!
恋も髪もデリケート。
俺は飛ばした。
彼女がサザンクロスの砂浜で待ってる。
早くしないと鉄の匂いがする雨に打たれてやられちまう。
ペンギン、ケチャップ口紅色して冷たい海に飛び込んだ。
リボルバーの鼻唄が響いた。
馬の足は黒煙上げてお手上げだ。
ダーツの針に気をつけな。
串刺しされて穴だらけ、串刺しされて心まで。
彼女は今何処に。

道路はぬかるみ、通ってないんだ。
燃料は当然レモネード。
ママが作ったとびきりのやつ。
これでヤツもイチコロさ。
黒煙晴れて彼女のところに日が射すはずだ。
あのコは言った。
イカシテるグリーンの空、回り出したらとまらない観覧車、演劇場の売店ポップコーンにイチゴジャム、ロケット花火の導火線、握った手と手、情熱ショート、ヒューズの火花、離れた手と手。

嵐ってやつはやがて去る。
平和な想いで先を見る。
立ち上がって踏ん張って、また一からやり直し。
コツコツトントン建て直し。
元に戻った私利私欲。
忘れる苦労が普遍のぬるま湯、欲求不満。
過激が欲しくてたまならい。
恐怖がないと退屈だ。
また壊さないと解らない。
有頂天のこの心。
キュンときた、羽根が生えた、天にも昇る甘酸っぱさ。
くちびるプリン。

俺は走り出す。
彼女がサザンクロスの砂浜で待ってる。
カラスもカモメも遠慮しな。
彼女が波の上を滑るようにパイナップルココナッツの板で何処に逃げて行ってしまう前に。
俺はたどり着くんだ。
なんて言われたっていいさ。
ほっぺたツネられたっていいさ。
ところでどこまで来ちまったんだ。
波に拐われたのは俺なのか?
ハンダで付けた無数の血管、フィラメントのバネでトランポリン、飛んで火にいる夏祭り、小麦色の肌、情熱テレパシー、暗闇ラジオの甘い想像。
汗が滲む、そんなあいつがいいのかい?
とても正気の沙汰とは思えない。
また崩れる、足元跳ね出す、流れ出す、風に吹き飛ばされて、抜けて落ちる。
ところでここはどこなんだ!


どうだい、こんな歌詞は。今までにない感じだろ?

お前の頭の中は何でできてるんだ?
こんなのダメに決まっているだろう。
だいたいこんなの誰が聴くんだ。子供だって理解できやしない。

そうかな、新しい発想でいいと思うけどな。
なんか派手な音楽に乗せてさっ、めちゃめちゃ暴れながら歌ったら、つまはじきされて、いつもモヤモヤしてる奴らなんて、一緒になって狂ったダンス始めると思うけどな。

そう思ってんのはお前だけだよ。分かりっこないよ。こんなの。

わかんないのはお前だよ。だいたい頭で理解するんじゃないんだ、心で感じるんだよ、音楽はっ!

もう、お前なんかと一緒にできない。

俺もだよ、なっ、ポール、お前どう思うよ?

いや、俺はイケてると思うよジョン。
こんなリズムかい?

いいね、いいね、やっぱりベース持たせたらポールの右に出る奴はいないな。

そんな事ないさ、ジョンのギターだって、なんか、心を揺さぶられるよ。

お前ら、勝手にやってろ!
どうせそんな音楽なんて誰も聴きやしないさ!
くだらない!

なぁ、ポール、バンドって知ってるか?
一緒にやってみないか?

ジョン、俺もそう言おうと思ってたんだよ!
よし、今までにない新しい音楽を作ろうぜ!

そうさ、世界を変えるんだ!

きっと皆が求めている筈だ。

その通りだ。怖がることなんてないさ。派手に行こうぜ!

ヤッホー!

イェーイ!


おしまい。


いかがでしたか?
今日のオススメのカクテルの味は。
またのご来店、心よりお待ち申し上げております。では。














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