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モンスターのご主人様 作者:ショコラ・ミント/日暮 眠都

4章.モンスターと寄り添う者

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10. 狐と狼の夜 前編

前話のあらすじ:
ローズちゃんのデート成功!
尊い犠牲(加藤さん)のお陰です。
   10   ~あやめ視点~


 みんなのことは、わたしが守ってあげるんだ……!

 そんなかたい決意を胸に、わたしは夜中、こっそりと行動を開始した。

 月明かりだけを頼りにして、山を覆う藪を掻き分けて走っていく。

 いつもなら眠っている時間。
 だけど、今日はお昼のうちに、移動するガーベラのおなかに乗って、いっぱい寝ておいた。

 備えは万全。
 だからちっとも眠くない。

 ……ごめん、ちょっとだけ嘘。
 少し眠い。

 でも、まだまだ元気なのは本当だ。
 だから、計画は完璧なのだ。

 今夜、こうしてみんなのもとをこっそり抜け出してきた目的は、とある邪悪な企みを暴くことだ。

 ふんふんと鼻を鳴らしながら、わたしは『あいつ』のにおいを追った。
 暗がりのなか、たった一匹でだ。

 こんなの全然怖くない。
 わけじゃない。

 敵は強大でおっかない。
 なにせ、おっきくて、ふたつも首があるのだ。

 こないだ見たら、なんか、にょろにょろもしてた。

 なにあれ。怖い。

 思い出したら震えが込み上げてくる。

 ううん。だけど、怯えちゃ駄目。
 みんなを守るために、頑張らないといけないんだから。

 みんなを守れるのは、わたしだけ、なのだから。

 ……なぜだか、ご主人様は『あいつ』をあんまり警戒してない。

 リリィとかガーベラも、ご主人様がそうするならって、従ってる。

 もう!

 危ないのに!
 怖いんだぞ!

 むふー、と鼻息も荒く、わたしは憤慨した。

 わたし知ってる。
 覚えてる。

 初めて、『あいつ』と遭ったときのこと。

 リリィのおなかに隠れて、なんかどこかにいったときのことだ。
 モンスターがいっぱい襲ってきて、なんか大変なことになったときに、『あいつ』はやってきた。

 恐ろしい唸り声とともに『あいつ』がきたと思ったら、金属の人たちがばたばたっとなった。
 ご主人様に頼まれてたから、わたしはケイを守ろうとした。

 だけど、すぐに前足でぺしってされた。

 リリィに治してもらったけど、痛くてしばらく尻尾と耳がきゅうってなった。

 ……『あいつ』は、危ないのだ。

 わたしだけが、それを知ってる。
 わたしだけが、みんなを守れる。

 そう思えば、心がめらめらと燃えてくる。

 怖くなっちゃいそうな心を奮い立たせて、わたしは山を駆けた。

 毎夜、『あいつ』はわたしたちのいるところを離れて、なにかやっている。

 よくないことをしているに違いない。
 具体的には思い付かないけど、きっと思い付きもしないような邪悪なことを企んでいるに決まってるのだ。

 だから、わたしがそれを暴かないといけないのだ。

 ……近い。

 そろそろだ。

 わたしはいっそう慎重に、藪のなかをこっそりと進んだ。
 小さい体は、こういうときに役に立つ。

 あと、ご主人様に撫で撫でしてもらうときも便利。

 大きかったら抱っこしてもらえないもんね。

 違った。
 いまは、目の前のことに集中しないと。

 よし。

 においでばれないように十分に気を付けて、わたしはこっそりと、藪の向こうに広がる光景を覗き込んだ。


 ――そこに、血塗れの凶悪な狼の姿があった。


 目の前に倒れた巨大なモンスターの腹に顔を突っ込んでいる。
 がつがつと、骨を砕いて肉を呑み込む音が聞こえる。

 あんまりに衝撃の強い光景に、わたしの頭は真っ白になる。

 多分、そこでわたしはなにか下手を踏んだのだ。

「……何者だ」

 気配が漏れたか、小枝でも踏んだか。
 臓物を引きずり出した狼の頭の一方が、ぐるんと勢いよくこちらを向いた。

 びちゃびちゃと飛び散る、肉のかけら。
 どす黒い血液が、地面にばっと広がる。

 はっはっと吐き出される息は、地獄のように熱くて生臭く、死の臭いがした。

 そして、炎のようにぎらつく六つの目。

 目が合った。

 ……あ。これ、死んだ。

 そう思った。

「貴様は……」

 なにか『あいつ』が言いかけたけど、頭になんて入らない。
 じゃばじゃばじゃば、と下半身で音がした。

 体から力が抜ける。

≪……きゅう≫

 わたしは、こてんと気を失った。

   ***

 ……すごく嫌な夢を見ていた気がする。

 わたしは、目を覚ました。

 異変には、すぐ気付いた。
 普段なら近くにあるはずのみんなの気配がなかったのだ。

 なにがあったんだっけ?

 と、思ったところで声をかけられた。

「起きたか」

 すぐ傍にあいつがいた。

 二つ頭の灰色狼。
 ベルタ。

≪きゃんっ!?≫

 危うく、もう一回気を失いそうになった。

 ちょっと首を伸ばすだけで、ばくんと食べられてしまいそうな距離に大きな顔があったのだ。

 怖い。すごく怖い。

 尻尾がきゅうって股の間に縮こまった。

 失敗した。
 わたしひとりじゃ、こいつには敵わない。
 見つかっちゃ、駄目だったのだ。

 今度こそ、殺されちゃう。
 食べられちゃう。

 食べられちゃったら、もうみんなに会えない。
 そんなのやだ。

 ……ご主人様。
 ガーベラぁ。

 くう、と鼻が鳴ってしまう。
 ふたりの顔を思い浮かべるけど、ここにはいない。

 寂しい。
 怖い。

「起きたのなら、帰れ」

 ぷるぷるしているわたしを見て、ベルタがなにか言った。
 わたしは首を傾げた。

≪え?≫
「帰れ、と言っている。あの大蜘蛛が気付けばまた心配するぞ」
≪……あれぇ?≫

 聞き間違い、じゃないよね?

≪殺さないの?≫
「なんで貴様などを殺さなければならない」

 あれ? あれれれ?
 なんか、思ってたのと違うぞ?

≪なんで殺さないの?≫
「それはいま、わたしが訊いたことだ。殺さなければいけない理由がないだろう」

 あれれー?

 首を傾げていると、ベルタが呆れたような様子を見せた。

「……大体、どうして失禁するほど恐ろしいのに、わざわざわたしを追いかけてきたのだ」
≪お、お漏らしなんてしてないもんっ!≫

 失礼な!
 反射的に、わたしはぐるるるるって唸った。

 ベルタはそんなわたしの態度も気にしなかった。

「……していただろう。それも、これで二度目だ。一度目は、ほら、高屋純との戦いが終わったあと、わたしがあのシランとケイというエルフを迎えに姿を現したら、きゅうと悲鳴をあげて失禁して気絶……」
≪あ、あああれは違うもん! 違うったら、違うんだもん!≫

 なんてこと言い出すの!?
 折角! 折角! 忘れかけてたのに!

 そのせいで、わたしはあのとき、ご主人様たちと合流した記憶がなかったりするのだ。
 気付いたら朝で、ケイに抱えられて寝ていて、リリィもガーベラもいた。

 大失敗だった。
 だから、忘れようとしてたのに!

 それなのに! それなのに!
 うううー!

 わたしはぴょんっと立ち上がると、ベルタを正面から睨み付けた。

≪そ、そんなことより! みんなのとこを夜になると抜け出して、隠れてなにしてたの? わたしは誤魔化されないんだからね!≫
「誤魔化しているのは、いまの貴様ではないかと思うが……」

 やっぱり呆れたみたいに言ったベルタは、視線を余所に向けた。

「まあいい。わたしは食事を摂っていただけだ」

 慌てるでもなく、ただ事実を口にしただけ、といった調子だった。

≪食事を……?≫

 わたしもそっちを見てみると、そこには食べかけのモンスターの死骸が転がっていた。

 さっきは見付かってしまった衝撃でよく見ていなかったが、この山に入ってから見たことのあるモンスターだった。

 えっと、確か……。

≪……ご主人様たちが『レッサー・サラマンダー』とか呼んでたやつだ≫
「ほう。遭ったことがあるのか?」
≪うん。ガーベラがねー、蜘蛛の糸でぐいって引っ張って、えいって倒してた≫
「簡単そうに言ってくれる。それほど弱いモンスターではないのだがな。少なくとも、ここキトルス山脈では最強クラスのモンスターだぞ。……いや」

 ベルタは、ゆるゆると首を振った。

「まあ、あの大蜘蛛にしてみれば、この山脈にいる程度のモンスター、どれも同じようなものか」

 ん? いま、ガーベラ、褒められた?
 褒められたよね?

 ……ふふーん。

 そうだぞ。ガーベラはすごいんだぞー。

 ちょっと抜けたところはあるけど、わたしの自慢のお姉ちゃんなんだから。

 もっと褒めてもいいんだぞー。
 ふふふふふ。

 ガーベラが褒められたのが、なんだかすごく嬉しくて。
 そこで、はっとした。

≪あ、違った≫

 またまた、誤魔化されるところだった。

≪いまは、邪悪な企みを追及しないと≫
「だから、そんなものはないと言っている」

 ベルタは溜め息をついた。

 誤魔化されないぞー、とわたしは睨み付ける。
 ふとこちらを見る目が細められた。

「だが、そうだな。これはわたしが悪いか」
≪ふぇ? や、やっぱり悪いことしてたの?≫
「違う。ただ、貴様はわたしに一度、不意の奇襲を受けて傷付けられているのだったな。不信感を抱くのも無理はないことだ」
≪えっと?≫
「まずは、その件について詫びるのが筋というものだな」

 ベルタはゆったりと尻尾を振った。

「あのときは悪かったな。主の命令とあれば是非もないが、貴様を傷付けたこと自体は悪いと思っている。我が王と貴様の主との関係は、一時的にせよ落ち着いているのだから、謝れるときに謝っておくべきだろうな。すまなかった」

 謝られちゃった。

≪……≫

 本当かな?
 本気で、そう思ってる?

 じいっと見詰めるけど、ベルタはこちらを静かに見返すだけだ。

 んー、本当っぽい?
 というか、ちょっと寂しそう?

 傷付けるの、嫌?
 嫌われるの、嫌?

 なんかそんな感じがする。

 どうしよっかな。
 ご主人様なら、どうするかな……?

 むー、うじうじ考えてるのは嫌いだ!

≪……本気で謝ってるなら、許す≫
「ありがとう」

 静かだけど、ちょっとだけ嬉しそうな声だった。

 わたしも、ちょっと嬉しくなって尻尾を振った。

≪あれ? でも、それじゃあさ、ベルタはここでなにしてたの?≫

 ふと気付いて尋ねる。

「さっきも言ったが、食事……狩りをしていただけだ」
≪それは、あれ見たらわかるー≫

 わたしは転がっている『レッサー・サラマンダー』をちらっと見た。

≪だけど、夜中いつもいなくなってたよね? いつも夜、狩りしてたの?≫

 ベルタは悪い奴だー、って思いこんでいた部分があったのは確かだけど、わたしがベルタを疑ったのは、そもそも、毎日、夜になるといなくなるなんて不審な行動を取っていたからだ。

 もう疑ってはいないけど、疑問はまだ晴れてない。

≪そんなにおなかすいてた? ご飯、足りなかった?≫
「そういうわけではないが」
≪じゃあ、なんで?≫

 ひょっとして聞いちゃ駄目なことかなとも思ったけど、ベルタは特に隠すでもなく教えてくれた。

「強くなるためだ」

 簡単な答えで、真剣な声だった。

「我らが王が見付けた『魔力を持つ生き物を殺して喰らえば魔力が増える』という法則……これは、強くなるための最短手段だ。わたしは、あの我らが王の駒として強くあらねばならない」
≪そのために、毎晩狩りに出ていたの?≫
「そういうことだ」

 なるほど。
 昼間はわたしたちと一緒だから、狩りはできないもんね。

「疑いは晴れたか?」
≪うん≫
「それはよかった」

 声にあったほっとした感じも、嘘じゃないみたいだった。

「では帰れ。心配性の大蜘蛛が怒鳴り込んできてもかなわない」
≪ん。わかったー≫
「いや待て。送っていってやる。ひとりでは少なからず危険だからな」

 ベルタは身を起こした。

 うー、子供扱い?

 ガーベラもそうだけど、わたしのこと、みんな子供扱いするの。
 わたしだって戦えるのに。

 確かに、ご主人様の眷属のなかじゃ弱いけどさ。
 むー。

「待っていろ。いまこれを片付ける」

 そういうと、ベルタはさっき食べていたモンスターのところに行こうとする。

≪あ。待って≫

 そんなベルタを、わたしは呼び止めた。

≪わたしも食べちゃ駄目?≫
「なんだ。貴様、腹が減っているのか?」
≪えっと、そんなには?≫
「……なんだそれは」
≪だけど、わたしも強くなりたいかなって≫

 不審そうなベルタに、わたしは言った。

≪食べたら強くなるんでしょ? わたしもご主人様のために強くなりたいもん≫
「……そうか」

 ベルタの目が、ちょっと優しくなった気がした。

「わかった。喰べていい」
≪ほんと!?≫

 やった!
 自慢の尻尾をふりふりして、わたしはありがとうを表現した。

 ひょっとして、ベルタ、すごくいいやつなのかもしれない。

 食べ物に釣られたから、だけじゃないよ?

 さっきだって、子供扱いは置いておくとして、当たり前みたいに、送っていくって言ってくれた。

 考えてみれば、ベルタは自分のご主人様に絶対服従なんだって聞いてる。
 やりたくないことも、やらなきゃいけないときだってあるのかもしれない。

 だから、わたしが見たベルタは、本当のベルタじゃないのかもしれない。

 そんなことを考えていると、ベルタに対する好奇心がうずうずと沸いてきた。

 もともと、わたしは好奇心の強いほうだ。
 目の前になにかひらひら飛んでいれば、とりあえず飛びかかってみるタイプ。

 これまでは怖がってばかりで、ベルタとは話をすることもなかった。

 話をしてみたいな、と思ったのだ。

≪ねえ、ベルタ≫
「なんだ」

 ベルタの言葉は素っ気ない。
 だけど、いまは怖いとは思わなかった。

「さっさと喰べるといい」
≪うん、それはわかったんだけど≫

 ふたりで獲物に喰らい付きながら会話する。

≪ベルタは、殺して食べて強くなったんだよね?≫
「それがどうかしたか」

 横目を使うベルタに、わたしは尋ねた。

≪『さっきの姿』は、そうやって手に入れたの?≫
「……」

 なんの話だ、と返ってくるかもしれないとも思っていた。

 だけど、わたしの質問を聞いたベルタは、ふたつある頭のひとつを律義にこっちに向けたのだった。

「やはり、見ていたか」
≪そりゃあ、まあ?≫

 わたしは、こくんと首を傾げた。

 ――『さっきの姿』。

 わたしが言っているのは、気を失う前に見たもののことだった。

 気絶してしまったとはいえ、記憶にはちゃんと残っている。

 ベルタを追跡して、藪のなかからこっそりと覗きこんだ先――振り返ってわたしのことを見つめ返した目は『六つ』あった。

 ベルタの狼の頭はひとつじゃない。
 だから目だってふたつじゃない。

 だけど、ふたつの頭では、目は四つにしかならない。

 だとすれば、残りのふたつは……。

「……すでに見られているのに、窮屈な思いをすることはないか」

 ぽつりとベルタがつぶやく。
 その背中で、めしゃめしゃって、すごい音がした。

 背中の毛皮を突き破って、粘液にまみれた白い棒みたいなモノが飛び出てくる。

 天に突き出したそれは、人間のものによく似た腕だった。
◆まさかのあやめ回!


あやめの認識だとこんな感じ。

チリア砦襲撃事件とか、あやめはいまひとつよくわかっていません。

ベルタは、犬と触手でわかる人にはわかるかもしれないです。
まあ、オリジナルの伝承そのものではないですが。というか、姿かたちのバリエーションが多い。

割とタコになってることが多い気がしますね。

◆数日以内に更新予定です。
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