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モンスターのご主人様 作者:ショコラ・ミント/日暮 眠都

4章.モンスターと寄り添う者

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05. 町へ向かうために必要なこと

前話のあらすじ:
ガーベラちゃん、必勝法を確立。
   5


 おれはひとりで、小さな崖の上にいた。

 まばらな木々に囲まれたこの場所は、体を動かすのに十分な広さがある。
 崖下からは、夕食を準備する仲間たちの声が、かすかに届いていた。

「よし」

 小さくつぶやいて、おれは左腕を持ち上げた。

「アサリナ、左腕強化」
「ゴシュ、サマ!」

 アサリナは軋むような声で鳴くと、過去に風船狐にやられた火傷跡が残るおれの左腕に、しゅるしゅると巻き付いていく。

 蔓の体が腕を覆ったところで、おれは地面に置いてあった盾を持ち上げた。

「うん、軽い。成功だな」
「サマ! サマ!」

 狂獣との戦いのさなか、アサリナが手に入れた力――強化外骨格としての機能は、十全に発揮されていた。

 あのときは、ガーベラの魔力の再現も併用していたが、あれなしでもこの能力は使用可能だ。

 むしろ消耗の激しいあちらに比べて、利便性が高い。
 感覚を忘れないように、あれから何度か試しているが、アサリナはしっかりとこの能力をモノにしていた。

 試しに剣に持ち替えて振ってみたりもして、動きを確かめていく。

「……ふむ」

 狂獣相手のときには、その攻撃をやり過ごすのに必要な耐久力を得るために、単純に腕力を強化しただけだった。
 そのため、動きに支障が出るかどうかは未知数だったのだが、この分ならどうやら問題はなさそうだ。

 こうして動かしてみても、巻きついた蔓にぎゅっと引き絞られるような感覚はあるものの、むしろ動きは普段より鋭く、スムーズなくらいだった。

 アサリナがおれの意思を感じ取って、動きを合わせてくれているのだ。

 おれ自身に根を張っているアサリナは、眷属のうち他の誰よりパスが繋がりやすい。
 その性質を利用することで、これまでおれたちは戦闘中にパスを介して指示を出す訓練をしてきた。
 それが、ここでも生きているというわけだった。

「これなら戦闘でも問題なく使えそうだな。あとは、そうだな。もっとアサリナがやりやすいように……ん?」
「サマ?」

 おれとアサリナは、ふたり揃って動きをとめた。
 ぐるりと視線を巡らせる。

 ほどなくして、少女の上半身を生やした蜘蛛がこちらに近付いてくるのが見えた。

「主殿」

 現れたガーベラは、酷く真剣な顔をしていた。
 血のように赤い瞳が、ちらりとアサリナに向く。

「ちょっと話があるのだが、邪魔をしたかの」
「ん。ああ、別に気にしなくてもいい。アサリナ、今日はここまでだ」
「サマー」

 巻き付いていた蔓が解かれる。

「それで、なんだ」

 気を遣ってアサリナが引っ込んでくれたところで、おれはガーベラを促した。

「うむ。約束を果たしにきたのだ」

 緊張した様子で、ガーベラは宣言した。

 これでなにを言われているのかわからないほど、おれも鈍くはない。

 ほんの数日前、ガーベラが自分を抑えられるようになったら、ふたりきりで時間を取ろうと約束した件だ。

 おれ自身、いつ切り出されるのかと思っていた部分もあった。

 とはいえ、こうも真正面から言われてしまうと、少し照れる。

「そうか」

 結局、おれは短く返すだけにとどめた。

「そ、それでなのだがな、ひとつ頼みがあるのだ」

 ガーベラも、透き通るほどに真っ白な肌をいまは朱に染めていた。
 普段より幾分、早口で言う。

「この間、妾は危うく主殿を抱き潰してしまいそうになったろ」
「ああ」
「いまになっても、妾は行為の最中で主殿を抱き潰さん自信がない」
「……うん?」

 おれは眉を寄せた。
 雲行きが怪しい。

「まあ聞け」

 怪訝そうなおれの様子を見て、ガーベラは掌を向けてきた。

「妾はどうも興奮すると、うまく力の加減が効かなくなる。そこでだ、妾からはなにもせんことにした」
「なにもしない?」
「そうだ。下手に抱き締めようとするから、そのままぐしゃりといってしまいそうになるのだ。ゆえに、妾は受け身になることに決めた」
「ぐしゃりって……」

 男女の睦事に関して出てくるような擬音語ではなかった。
 ともあれ、言っていること自体は一理ある。

「まあ、言いたいことはわかったよ」
「ならばよし。さあ、なんでもするがよい」

 ガーベラは、勢いをつけて胸を張った。
 話題が話題なせいで、胸の双球が柔らかそうに弾むのが目についた。

「……」

 常日頃はなるべく気にしないようにしているが、ガーベラの衣装は際どい。
 リリィに次いで大きなふくらみが作り出す胸の谷間は、はっきり言って目に毒だ。

 腹や背筋のラインはたおやかで、誰よりも女性らしい。
 その下に繋がった蜘蛛の体は毛並みもフォルムも美しく、見る者に畏怖を感じさせこそすれ、彼女の美貌を損なうものでは決してなかった。

 普段はそのあたりを相殺している子供っぽい振る舞いも、頬を赤らめて佇んでいるいまは感じられない。

 妖しいほどに美しい顔立ちのなか、双眸は閉じられて、彼女は酷く無防備に見えた。

「……わかった」

 おれは一歩近付いた。
 肩に手を置く。滑らかで柔らかい女の子の肌の感触が掌に伝わった。

「ん……」

 ぴくんとガーベラの眉が動き、蜘蛛脚の先が地面を浅く掻く。
 唇が軽く噛み締められる。

 なにかを堪えるような仕草が、おれの奥底にあるものをちりちりと炙るかのようだった。

 ゆっくりと腕を背中に回した。

 距離が近付いて、女の子の香りが鼻孔に広がる。
 緊張と興奮で少し荒くなった少女の吐息を肌に感じる。
 触れているところから、小さな震えが感じられる。

 自然と瞼を落としながら、おれは唇を近付けて。

 ……きちりという音を聞いた。

「え?」

 おれの腕を振り払って、ばっとガーベラが離れた。
 一気に数メートルも遠ざかり、蜘蛛脚で轍を作りながらとまる。

 拒絶された衝撃で、おれはその場に立ち尽くした。

「ガ、ガーベラ?」
「主殿……」

 ガーベラが顔を上げた。
 涙目だった。

「や、やっぱり、妾には無理だ!」
「は?」
「あのまま口付けなどされたら、なんかこう、駄目なのだ!」
「……」

 意味がよくわからない。
 だが、どうやら単純に拒絶されたわけではなさそうだった。

 少しほっとするおれを余所に、ガーベラはわなわなと震えていた。

「口付けとは、かくも危険なものなのか。あんなの、身も心もとろけてしまって、理性など残らん……!」

 きちきちきちきち、と蜘蛛脚が蠢いて音を立てていた。
 それが我慢をしているときの彼女の癖であることを、おれはよく知っていた。

「受け身でい続けるなんて、無理に決まっておるではないか!」
「それを、おれに言われても……」
「こんな難しいことを、みな、乗り越えているというのか……?」

 ガーベラは愕然とつぶやいた。
 多分、それはなにか違う。

 頭を抱える少女を前に、おれは小さく溜め息をついた。

   ***

「どしたの、ご主人様。大声が聞こえたけど」

 騒ぎを聞きつけてリリィが現れたのは、そのあとすぐのことだった。

 ずるずるのたのたとやってくると、ひとりでその場に佇むおれの姿を見て、ぐてんと首を傾げる。
 スライム質な体が、その勢いでふらふら揺れた。

「あれ、ガーベラは?」
「いまの自分には無理だ、だけど諦めないって言って、いなくなった」
「あー、受け身大作戦は失敗したんだね……」

 リリィはディテールの甘い顔立ちに、それでもはっきりと苦笑とわかる表情を浮かべた。

「知ってたのか?」
「うん。ローズの発案なんだってね。割といい発想だと思ったんだけど、駄目だったんだ」
「覚えておれよー、だってさ。だから、それをおれに言われても困る」
「あはは……」
「……まあ、おれがガーベラの腕力に堪え切れれば、それでいい話なんだから、その点は申し訳ないとも思うけどな」
「うーん。どうかな。そこは、お互い様なんじゃないかと思うけど」

 頭を掻いたおれのことを見て、リリィは諭すような口調で言った。

「わたしたちとご主人様は別の生き物なんだから、それだけ乗り越えるべき障害は多くて当然でしょ。大変だけど、ガーベラはなにがあってもへこたれないと思うな。そこが、あの子の美点でしょ? ご主人様も、そんなところが好きなんだよね」

 そこまで語ったリリィは、おれの表情を見て、くすくすと笑った。

「なに、ご主人様。その顔。まだ気にしてるの? わたしは、ご主人様がガーベラとどうなろうと、気にしないって言ったじゃない」
「それは、そうなんだが……」
「まあ、これは感覚的な話というか、気持ちの問題だからね。割り切ったつもりでも、ふとした拍子に引っかかっちゃうのは仕方ないことかな」

 近付いてきたリリィが、おれの胸に頭を寄せてくる。

「わたしは、こうしていられれば十分なんだけど」
「リリィ……」
「気にするくらいなら、もっと時間をくれたら嬉しいな。今日で、しばらく会えなくなるんだもん……」

 彼女自身が言う障害を乗り越えて、いまのおれたちの距離はとても近い。

 翌日、おれはリリィたちと別れて、山を下りた。

   ***

「アケルには、数千人の人口を抱える大きな町の数は、片手で数えられるほどしかありません」

 地面に正座した旅装姿のシランが口を開いた。

 彼女の前には、主要な街道と町の位置関係が記された簡易な地図が広げられている。

 もともとおれたちが所持していた騎士団の地図は、『韋駄天』襲撃の際に川に流されてしまったため、これは主にシランが描き直したものだ。

 この異世界の文字が読めないおれのために、地名の横にはカタカナでメモが書いてあった。

「キトルス山脈に入る前に、孝弘殿が村で聞いてきたところによると、山道から降りるこのルートでは、最初に辿り着く村の近くにザクオの町があるということでした。とすると……」

 シランの指が、地図の上を滑る。

「恐らく、我々がいまいるのは、このあたりでしょう。最寄りで大きな町となると、ディオスピロですね。アケル東部では最も大きな町です。周辺の小さな町や村々に物資を行き渡らせる物流地点となっていますから、今回の目的にも沿うかと」
「あと、どれくらいでディオスピロに着く?」
「そうですね。三日ほどだと思います。ベルタの話では、近くに集落があるということですし、詳しい話はそこで聞くのがよいのではないかと」

 山を下りるのにも三日かかったから、町での物資調達の時間を考えると往復で二週間ほどか。
 おおむね、事前に立てていた日程通りだった。

「もうひとりの王よ」

 自分の名前が出たことに反応したのか、地面に体を横たえていたベルタが会話に口を挟んできた。
 巨大なふたつの狼の頭をもたげる。

「ここから先は人の目がある。わたしが同行できるのは、ここまでだ」
「ああ、そうだな。助かったよ、ベルタ」
「何度も言うが、わたしは我らが王の命令に従っているに過ぎん」

 知性を宿した二対の目が逸らされた。

「しばらくはお前の身を守るようにと、わたしは命令を受けている。こうして同行しているのは、それだけのことに過ぎん。だから、礼など言うな」

 酷くつれない調子だった。

「わたしは別に、貴様の仲間というわけではないのだから」
「……」

 ベルタが素っ気ないのはいつものことだ。
 けれど、おれはいまのやりとりに、なにか引っかかるものを感じていた。

 正確に言えば、工藤のところに一度戻ってから、ベルタの様子はどことなくおかしいような気がするのだ。

 なにかあったんだろうかと、少し気になった。

 リリィ奪還作戦のときに共闘したこともあってか、どうにもおれはこの巨大な狼に悪い印象を抱けなかった。

 もちろん、ベルタがずっと坂上を騙していて、最後には彼を喰い殺したことを忘れたわけではない。
 だが、それは工藤がやらせていたことだ。
 騙していたのかと坂上に詰め寄られていたときには、ベルタは罪悪感を抱いていたようにも見えた。

 こうして接する機会を得てみると、愛想はないものの、割と面倒見のいい性格をしていることもわかった。

 基本的に善良なのだろう。
 ……それが、工藤に付き従うベルタにとって、幸運なことなのかどうかはわからないが。

「今日の昼過ぎには、集落に着く。それまでは、護衛をしよう」

 ベルタは低い声で言った。

「そのあとは、わたしは一度、あのスライムや蜘蛛のところに戻る。七日後には、もう一度ここに来て、お前たちを待っていよう。それでいいか?」
「ああ、ありがとう。助かる」
「だから……」

 言いかけて、ベルタは黙り込んだ。
 礼を言うなと言おうとして、これまで同じことを何度も言った無意味さに気付いたのかもしれない。

 ちょっと不貞腐れたように尻尾と触手を揺らす狼の姿に、おれは少し微笑ましいものを感じてしまった。

「それじゃあ、村に入るまではそれでいいとして」

 おれは視線を、並んで座るエルフの少女たちに向けた。

「そこから先は、シランとケイに頼ることが多くなると思う。面倒をかけるかもしれないが、よろしく頼む」
「わかりました」
「了解ですっ」

 シランとケイは、声のトーンは違えど、両方ともよく似た生真面目さで返事をしてくれた。

「あとは……そういえば、加藤さんとローズ、遅いな」

 そうして段取りを組み立てていたところで、おれはふとつぶやいた。

 この場に、仲の良いふたりの姿はない。
 シランが首を傾げた。

「朝食を終えたあたりで、ふたりで席を立っていましたね。出発するようでしたら、探してきましょうか?」
「いや……」

 遠くまで行っていないことは、パスのお陰でわかっていた。
 それほど時間が経っているわけではないし、すぐに戻ってくるだろう。

「ただいま戻りました、ご主人様」

 などと考えていると、タイミングよく足音がこちらに戻ってきた。
 ローズの声だ。

 おれは、なにげなく振り返った。

「ああ、おかえり……」

 応じた声が、途切れた。

 そこにいたのが、見知らぬ少女だったからだ。

 くすんだ銀髪を背中で太いみつあみにした少女だった。
 女の子にしては高い、おれと同じかやや低いくらいの背丈を、襟の立った濃紺のロングドレスが包んでいる。

 少し厚い生地のドレスは、優美なドレープが効いたスカートが上品でありながら、実用性を両立させたものだった。
 その上から、フリルのついた大きめのエプロンを身に着けているが、それも可愛らしさよりも落ち着いた印象を与えるデザインになっている。

 両手両足には、白の長手袋とオーバー・ニー・ソックスとをそれぞれ身につけており、肌の露出を徹底的に避けた装いだった。

 唯一外に出ているのが、異様なくらいに整った天使みたいな頭部だった。
 硝子細工みたいに繊細な顔立ちは、これまでに目にしたことのないものだ。

 そのはず、なのだが……。

 おれには、すぐに彼女が誰なのかわかった。

「ローズ……?」
「は、はい」

 緊張でもしているのか、それとも別の理由があるのか、ローズはぎこちない笑みを浮かべていた。

 その精一杯の微笑みに、心臓がどくりと音を立てた。
 自分が動揺しているという事実を自覚して、なぜだか余計に狼狽えるものがあった。

 ローズのうしろから、ひょいと加藤さんが顔を出したのは、そのときだった。

「ほら、ローズさん。こんなとこでとまってないで」

 むしろその言葉で、おれは自分が固まってしまっていたことを自覚した。
 ローズとお見合い状態で、お互いに硬直していたのだ。

 おれの顔を見て、どこか満足げに微笑んだ加藤さんがうしろから背中を押すと、ローズは妙にぎくしゃくした足取りでこちらに歩いてきた。

 ひょっとすると、加藤さんはそうして背中を押して、ここまでやってきたのかもしれない。
 そう思わせるくらいに、ローズの足取りは危うかった。

 押されたローズはおれの近くまでやってくると、すとんと座り込んだ。

「わー、すごいです。ローズさん!」

 目を丸くしていたケイが、快哉を叫んだ。
 笑顔でローズに言葉をかける。

「それが、準備していたっていう町に出るための装いなんですね!」

 その言葉を聞いたことで、いくつかわかったことがあった。

 まずあれは、ローズが街中を出歩くために準備した服装だということだ。

 おれ自身、あのまま仮面の姿、手足の関節部が剥き出しでは町に入るのにはまずかろうと思っていたし、ローズと加藤さんに町への同行を提案した際には、そのあたりどうにかならないかと尋ねていた。

 準備しておくと答えがあったから、信頼して任せておいたのだった。
 とはいえ、ここまで気合の入った装いだとまでは、思ってもみなかった。

 加藤さんはもとより、シランやケイもこのことについて知っていたらしい。
 どうやらずいぶんと時間をかけて準備したものであることも察せられた。

 そのお披露目が、いまこのときというわけだった。

「お似合いです、ローズ殿」
「本当に。すごい美人です!」

 興奮した様子のケイが、おれのほうを振り向いた。

「ねえ? 孝弘さん」
「あ、ああ……」

 ここで、ようやくおれは自分がローズになにも言ってやっていないことに気が付いた。

 迂闊だった。
 ローズにしてみれば、主であるおれからの評価が気になるに決まっているのに、黙り込んでしまっていた。

「……そうだな。似合ってる、と思う」

 咄嗟におれが口にしたのは、こんなつまらない台詞だった。

 うまく褒めてやれないのがもどかしい。
 もっとも、先程の衝撃を言葉にするなんて、どうやったって無理なことだとも思えた。

「綺麗過ぎて、ちょっとびっくりした」

 付け加えるように言うのが、精一杯だった。

 そして、その次の瞬間のことだった。

 ローズの顔から、表情という表情が抜け落ちた。

「……」

 露わになった無機質な顔は、人形としてのものだ。
 その変貌に、おれはぎょっとさせられた。

 なにか変なことを言ってしまったのか。
 あんな言葉では駄目だったのか。

 様々な考えが頭に過ぎった。

 ――結論から言ってしまえば、それらはすべて的外れだった。

 これはあとから聞いた話だが、ローズは表情を作るのがまだ苦手らしい。

 最初はそれこそ、どこか人間と違った不気味なものになってしまっていたのだそうだ。
 ぎこちない笑みだと思ったのは、それでも、ずいぶんと練習した成果だということだった。

 実のところ、このお披露目がこんなぎりぎりのタイミングになった原因もそこにある。
 服のほうは少し前に出来上がっていたのだが、そのときには、まだ表情を作る練習が足りていなかった。
 主であるおれに見苦しいものを見せるわけにはいかないという当人の希望があって、このようにぎりぎりでのお披露目となったというわけだった。

 ただ、いくら努力をしていても、それが後から付けたものであることに変わりはない。

 なにかに気を取られたり、我を失ったりしてしまえば、あっさりと剥がれ落ちて、人間ではありえない無機質な貌が露わになる。
 丁度、いまのようにだ。

 ……とはいえ、おれは特にそれを見苦しいとは感じなかった。

 身内贔屓かもしれないが、精緻の極みにあるようなローズの容貌には、ヒトにはありえない無機質な貌もまた似合っているように思えたのだ。

 天使みたいだ、なんて思った。

「……」

 そんな天使なローズが無表情のままで――くたんと、背後に倒れた。

「ちょ……っ」

 そもそも、どうしてローズは表情を失ったのか。
 それはつまり、彼女が思いっ切り動揺したということに他ならないわけで。

「ちょっと、ローズさん――ッ!?」

 加藤さんが悲鳴をあげ、シランとケイが慌てる。
 ベルタは我関せずと一方の首で欠伸なんかしていた。

 人間でいうのなら『目を回して』しまったローズが回復して、おれたちが出発できるようになるまでには、しばしの時間が必要なようだった。
◆駄目でした (´・ω・`)
という、前話のあらすじの話。

◆やっとローズのこのあたりのお話を書けました。
次回、町に入ると思います。
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