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モンスターのご主人様 作者:ショコラ・ミント/日暮 眠都

4章.モンスターと寄り添う者

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04. 人形の想い

◆前話のあらすじ
おや!?
シランの ようすが……!








Bボタン連打。
   4   ~ローズ視点~


「よし。そろそろ行こっかな」

 わたしがナイフ片手にいつもの仕事を進めていると、朝食の準備をしていた姉様が声をあげた。

「ごめんね。ケイちゃん、火のほう見ていてもらってもいいかな?」
「了解です」

 今朝のご飯は昨日の夕食の残り――先日、戻って来たベルタが狩ったモンスターの可食部位を煮込んだスープのようだ。

 新たに採集した食べられる野草を前処理し、鍋に投入して具を増やしていた姉様は、起き出してきたケイにあとのことを任せると、いそいそと動き始めた。

「姉様。ご主人様のところに行かれるのですか」
「ん? うん。そのつもり」

 タオルと桶を持った姉様が、こちらにやってきた。

 足音の代わりに、地面をずるずると這う音がした。

 姉様の下半身は、スライムそのまま地面を這っていた。
 上半身も、形こそ少女の姿を取っているものの、質感はスライムのままだ。
 女性らしい豊かな起伏を帯びた体つきは、細かい造形を模っていない。

 狂獣と化した高屋純を相手にして、限界を超えた力を振り絞った後遺症のせいだった。

「そろそろ朝の稽古が終わるはずだからね。タオルなんかを持って行ってあげようかなって」
「ご主人様は最近、ますます鍛錬に精を出していらっしゃいますからね。どうか労わって差し上げてください」
「それはもちろん。あ、そうだ。なんならローズたちも行く?」
「わたしは仕事がありますので」

 半分は口実だった。
 ふたりの時間を邪魔するつもりはない。

「わたしも遠慮しておきます」

 今朝は食事当番ではなかったため、翻訳の魔石を扱う訓練を行っていた真菜も微苦笑を浮かべて辞退した。

「まだ朝食前なのに、おなかいっぱいになっちゃいそうですからね」

 冗談めかして言いながら、膝の上のあやめを撫でる。

「くーぅ……」

 最近のあやめは、普段より少し大人しい。
 いまも真菜のふともものうえで丸くなり、耳を伏せて、大人しく撫でられるがままでいた。

「むー。ふたりとも、変な気を遣わなくてもいいのに」

 と、言ったリリィ姉様が、小さく目を見開いた。

「あ、ガーベラ」

 見れば、今朝のご主人様の稽古相手を務めていたガーベラが、ひとりでこちらに帰ってくる姿があった。

「朝稽古、終わったのかな」
「そのようですね」

 リリィ姉様が、いまはない踵を返した。

「それじゃあ、わたしは行くね」

 ずるずると下半身を引き摺る姉様が、上半身だけで振り返り、こちらに微笑みを向けてくる。
 胸のうちの暖かな想いが滲むような、やわらかな笑みだった。

「……」

 ずるずると去っていく背中に、わたしはつい視線を奪われてしまっていた。
 不思議なことに、あんな有り様でありながら、リリィ姉様の女性としての魅力は、むしろ増しているように思えたのだ。

「なんだか変わりましたね、リリィさん」

 似たような感触を得ていたのか、真菜もつぶやく。

「……そうですね」

 以前の姉様は、自身のスライムとしての本質を、あまり好んでいないようだった。
 けれど、ああしてスライムとしての本性を偽れない状態でありながらも、いまの姉様の笑みには曇りひとつない。

 ご主人様と寄り添い合っている姿は、まさに甘い幸せを具現化したような光景だった。

 なにか心境の変化があったのは、まず間違いなかった。

 そのあたりが影響しているのだろうか。最近、姉様は以前になかった行動を見せることがある。
 スライムの姿を気にすることなくご主人様にスキンシップを取っているのもそうだが、後遺症で動けない時間を積極的に利用して、異世界の文字を学んだりもしているようだ。
 この世界の本を読みたいのだと言っていた。

 また、これまで他の転移者への接触は、ご主人様が行うことが多かったのだが、去る前の飯野優奈には、姉様から話しかけることも何度かあった。
 ふたりでなにか話しているのを、見かけたこともある。

 そうした変化がなにを原因としたものなのかはわからない。

 それでも、ああして幸せそうな顔を見せているのだから、姉様に起こった変化は決して悪いものではないのだと、わたしは確信できたのだった。

「さて、と……」

 姉様を見送ったわたしは、自分の仕事に戻ることにした。

 魔法のナイフを手に取る。
 現在、製作中なのは、魔石を動力源として駆動する車――の、細々とした部品類だった。

 わたしは今度、ご主人様と一緒に町に行くことになっている。
 首尾よく魔石を手に入れることができれば、車を作製することになるから、あまり荷物にならない部品は先に作っておくことにしたのだった。

 魔石を用いた車の仕組みについては、半ば解析は終わっている。
 結果、動力源である魔石の他に、車の各所には制御用の魔石が組み込まれていることがわかっていた。

 制御用の魔石は、車のサイズや、車体に加わる力の大きさや向きを定義している。
 これは車の大きさに合わせて作らなければならない。

 大気中から魔力を吸収し、動力源とする魔石の解析だけは難航しているが、それ以外については再現した模造魔石を作ることが既に可能となっていた。

 ご主人様から町に行くことを聞かされたのは、『韋駄天』飯野優奈が去って数日後のことだ。
 それから作業を進めているので、パーツ自体は小さくとも、量としては相当のものになっている。

 スペアも含めて、四台分くらいある。
 ……ちょっと作り過ぎたかもしれない。

 あまり重くなってもなんだし、車の部品ではなく別のものに取り掛かるべきだろうか。

 たとえば、一足先に実用レベルに持っていけたものに、内部の容積を変える『魔法の道具袋』がある。

 あれを人数分用意してもいいかもしれない。

 元の道具袋はそこそこ大きなものだから、腰から下げられるくらいの大きさにしたほうが便利だろう。
 魔石の調整が必要になってくるが、そのあたり試行錯誤してみるのも悪くない……。

 などと考えていると、ガーベラがこちらにやってきた。
 焚き火から少し離れたところで立ち止まると、蜘蛛の脚を折りたたむ。

 魔法の道具袋の大きさやデザインについて時折真菜と相談しつつ、作業を始めてしばらくすると、小さな唸り声があがり始めた。

 声はちょっとずつ大きくなった。

 作業の手を止めて、視線を向ける。

 うーんうーんと難しげな声をあげるガーベラが、頭を抱えていた。

「どうしたんですか、ガーベラさん」
「うむ?」

 真菜が声をかけると、ガーベラは顔をあげた。
 赤い目が見開かれる。

「おお、いたのか。加藤殿」
「最初からいましたけど……」
「そうか。それは悪かった。気付かなんだ」

 呆れた顔をする真菜に、ガーベラが首を傾げてみせた。

「それで、なんの話かの」
「なにって……それはこちらの台詞ですよ。真島先輩の稽古が終わってすぐに帰ってきちゃうなんて珍しいじゃないですか。それに、さっきからずっと、うんうん唸ってますし」

 ちょっと心配そうな顔になって、真菜が尋ねる。

「なにか悩み事でもあるんですか」
「……んー、うむ。実は、そうなのだ」

 ガーベラは少し迷ったようだが、素直に認めることにしたようだった。
 重々しく頷いてみせる。

 そして、眉間に皺を寄せた困り顔で告げた。

「先日のことなのだがな、今度、主殿とふたりきりで乳繰り合おうという約束をしたのだ」
「……それ、わたしが聞いてもいい話ですか?」

 相談に乗る姿勢になっていた真菜が、流れるように半眼になった。

「いや待て、加藤殿。早まるな」
「だって……」
「相談に乗ってほしいのだ」

 あれは、本気で困っている声だ。
 とはいえ、真菜が白い目を向ける気持ちも、わたしにはよく理解できた。

「……えっちな体験談とか聞かされても困るんですけど」
「安心していい。まだなにも体験してはおらんのだ。体験談など、したくともできぬ」
「言われてみれば、そうですね。まだ約束しただけなんでしたっけ」

 唇に指をあてて真菜がつぶやくと、嬉しげにガーベラは頷いてみせた。

「そう。そうなのだ。ふたりきりでいちゃつこうと、主殿が言ってくれたのだ」
「ああ、そこはちょっと意外ですね。真島先輩が、そんなふうに言ったんですか?」
「あ。いや。いちゃつこうと言ったのは妾のほうだったかもしれん」
「……じゃあ、先輩は言ってないんじゃないですか」
「そ、それはそうだが、抱き締めてはくれたぞ! これまで待たせてしまって悪かった、とも言ってくれたのだ!」
「へえ、先輩がそんなことを……」

 力説するガーベラから視線を外して、真菜が一瞬、こちらを見た。

「……それじゃ、やっと先輩もその気になったんですね。いいことです」
「うむ。それで今度、時間を取ろうということになってな」
「はぁ、そうですか。おめでとうございます。……そろそろ、おなかがいっぱいになりつつあるんですけど、まだこの惚気話は続くんですか。正直、お砂糖吐きそうなんですけど」

 そこまで言って、真菜は苦笑をこぼした。

「あとはもう、ふたりで進めるべき話なのではないですか」

 優しげな眼差しになって、言う。
 基本、真菜は面倒見がいい。わたしはそれをよく知っていた。

「ふたりきりになるのが難しいというのなら、協力はしますけれど」
「むう。できることなら、妾もそうしたいのだがの。ひとつ問題があってな」
「問題……ですか?」

 あくまで優しく真菜が尋ねる。
 だからというわけでもないだろうが、正直にガーベラは告白した。

「うむ。妾はな、どうも興奮すると加減が効かなくなって、主殿を抱き潰してしまいそうになるのだ」
「……」
「どうすればいいと思う?」

 じと目に戻った真菜が、わたしのほうを振り向いた。
 その顔には「駄目だこれは」と書いてあった。

「ローズさん。真島先輩をガーベラさんとふたりきりにするのだけは、断固阻止しましょうね」
「加藤殿!?」

 ガーベラが、がーんと赤い目を見開く。
 肩を落とした彼女に、わたしは言葉をかけてやることにした。

「真菜の冗談はさておき。だったら、ガーベラからなにかしようと思わなければいいだけの話なのではないですか」
「む? どういうことだ?」
「抱き締めようとしなければ、抱き潰すことだってないでしょう」

 対症療法だが、やらないよりましだろう。
 なにせ、ご主人様の命がかかっているのだから。

「な、なるほど」

 みるみるうちに、ガーベラはその顔を輝かせた。

「つまり、それは……受け身というやつだな!」
「多分、そんな感じではないかと」

 拳を握りしめるガーベラに、曖昧に頷く。

「わたしもよくわかりませんが」
「妾もよくわからんが、昔の主殿みたいな感じであろ」
「そういうことを言うのはおやめなさい」
「いいではないか。過去の話だ。最近の主殿は、そこそこ積極的になったようだしの」
「そうなんですか?」

 と、真菜が反応した。

「というか、なんでガーベラさんそんなこと知ってるんですか」
「妾、目も耳もいいからの。たまに、いろいろと聞こえてしまったりするのだ。とはいえ、妾としては、なぜ加藤殿が知らんのかが不思議だがな。この間、お主、『そういう場面』に行き遭っておったろ?」

 一緒に旅をしているのだ、そういうこともある。
 真菜は覿面に狼狽した。

「な、なな……っ、そ、そんなのじっくり見たわけじゃないから、先輩が積極的だったかどうかなんてわかりませんしっ!」
「ああ。そういえば、気付いてすぐに戻ってきたようだったな」
「な、なんでそこまで知ってるんですか!?」
「だから、妾は目も耳もよいからによって」

 ……そういえば、ちょっと前、夜中に小用を足しにいった真菜が、赤い顔をして帰ってきたことがあった。

 眠れないと言う真菜に、膝を貸した記憶がある。
 あの夜、妙に甘えた様子で可愛かったのは、そんな裏事情があったらしい。

「しかし、なるほどの。受け身でいるというのはアリやもしれぬな」

 真っ赤になった真菜を他所に、ばっとガーベラは立ち上がった。

「よし! 妾はこれから受け身になろう!」
「……それを勢い込んで言っている時点で、前途多難な気がしますけど」

 朝から疲れた顔になった真菜がつっこんだ。

「やもしれんな」

 ガーベラは反論しなかった。

「だが、妾はこういうふうにしか振舞えぬ」

 ただ、打って変わって真剣な顔を、真菜に向けたのだった。

「なあ、加藤殿よ。妾は足をとめる気はないぞ」

 その言葉に、果たしてどんな意味があったのだろうか。
 真菜もまた、真剣な顔でガーベラを見返した。

「加藤殿はどうだ? いつまで『へたれ』でおるつもりかの?」
「わたしは……」
「……まあ、加藤殿には加藤殿の歩くスピードがあるというのはわかっておるつもりだ」

 ふっと笑顔を取り戻して、ガーベラは空気を弛緩させた。

「もとより、強制するようなことでもない。だがな、妾は加藤殿を応援したいとは思っておるのだ」
「ガーベラさん……」
「なにせ妾と気持ちは同じ……主殿を押し倒したい同士であるのだからな」
「そ、そこは違うって、前にも言ったじゃないですか!」

 再び顔を赤らめた真菜が、たじたじとしながらも反論する。

「む。そういえば、そうだったかの。では、加藤殿は押し倒されたかったのだったか?」
「ではってなんですか! というか、言葉を選んでほしいって、これも前にも言ったはずです……!」
「ああ、すまん。えぇっと……加藤殿も、主殿と抱き合ったり、接吻したり、触ったり触られたりしたいのであろ?」
「具体的に言えと言ったわけじゃなくて!」

 珍しくガーベラ相手に押されている真菜が、はっとした様子で、赤らんだ顔をこちらに向けた。

「ロ、ローズさん……」
「初耳でした。真菜は、ご主人様に押し倒されたいのですか?」
「――ッ!?」

 声にならない悲鳴があがった。
 顔を真っ赤にした真菜は、ある種の魚のように口をぱくぱくさせた。

 そして、数秒。ゆらりとガーベラを振り返る。

「……ガーベラさん」
「お、おぉう? なにかまずいことを言ったかの、妾」

 涙目の真菜に、じとっと睨まれたガーベラが冷や汗を流した。
 かつてのトラウマはいまでも、ひょっこりと顔を出すものらしかった。

「ま、まあ、それはともかくだ……」

 逃げるように、赤い目がこちらを向いた。

「しかし、ローズ殿は他人事のように言うのだな」
「どういう意味ですか」

 わたしは首を傾げた。

「いやなに。ローズ殿だって、妾たちと気持ちは同じであろうに、と思ってな」
「だから、なにがですか」

 話がいまひとつ通じない。

 そう思ったのは向こうも同じだったらしく、ガーベラは不審そうな顔になった。

「ローズ殿は、主殿に抱き締められたいのだと聞いておる。そのために、人形として可愛らしく自身を飾ろうと決めたのだと」
「はい」
「だったら当然、そこから先も望んでいるのであろ?」
「いえ」

 なにを言っているのだろうか、という内心が声に出ていたかもしれない。

「なんと」

 ガーベラは、信じられない者を見るような目をしていた。
 だが、なんでそんな目で見られなければならないのかがわからない。

「……ではなにか。ローズ殿は、そこから先を望んでおらん、と?」
「というより、考えたこともありませんでした。もちろん、ご主人様が望まれるのでしたら、それがどのようなことであれ、お応えしますが……」

 考え考え、言葉を紡ぐ。

「しかし、そんなことはありえないでしょう」
「……しばし待たれよ、ローズ殿」

 額を押さえたガーベラが、真菜に視線をやった。

「なあ、加藤殿。どういうことだ。妾には、ローズ殿が本気で言っているようにしか見えんのだが」
「これでも、わたしは頑張ったんですけどね」
「……加藤殿がそういうのだから、事実なのだろうな。なるほど。それでこれか……」

 ガーベラがこちらに振り返った。

「なあ、ローズ殿。妾はこれでも、そなたを姉として大事に思っておる。だから言わせてもらうのだが……それはちょっと、欲がなさ過ぎるのではないかの?」
「そんなことはありません」

 はっきりと、わたしは返した。

 いつかの夜にそうであったように、ご主人様に抱き締められること。
 あの一夜の夢をもう一度。そう望むだけでも、僭越至極というものだと弁えている。

 それなのに……それ以上?
 そんなのは、天が落ちてくるようなものだ。

 嘘偽りなくわたしはそう認識していた。
 信じ込んでいた、と言ってもいい。

「だがな、ローズ殿」

 そんなわたしに、ガーベラは言ったのだった。

「ありえないと言うが、現に妾は主殿にそれを望まれたぞ?」
「……」

 その瞬間、わたしの思考は物の見事に固まってしまっていた。

   ***

 ガーベラの言葉は、これまでわたしの考えたこともないところを突いていた。

 確かに、言う通りなのだった。

 以前とは、状況は変わっている。
 なぜならご主人様はガーベラの想いを受け入れているのだから。

 天は既に落ちている。
 ありえないことは、ありえないのだ。

 だったら……だったら、なんだというのだろうか?

 そんな益体もない考えが、さっきから、ぐるぐると頭のなかを回っていた。

 ……あの場は、結局、うやむやなままお開きとなってしまった。

 話の内容が一部刺激的だったせいで、実はずっと火の番をしながらわたしたちの話を聞いていたケイが、目を回してしまったからだ。

 いまは、もう朝食も終わっている。
 みんな後片付けと出発の準備をしているところだった。

 わたしも荷物を纏めていたが、作業は遅々として進んでいなかった。

 動揺している自覚はあった。
 それこそ、天が落ちてきたかというくらいに。

 だが、どうして自分が動揺しているのかがわからなかった。

 ……いいや、ちょっとだけ嘘だ。

 ひょっとして、と思うことはあった。

 つまり……わたしはリリィ姉様やガーベラのように、ご主人様に愛してもらいたいと願っているのだろうか、ということだった。

 そんなだいそれたことを、わたしは望んでいるのだろうか?

 ……わからない。

 望む望まない以前の問題として、わたしには、そんな発想がそもそもなかった。
 だから、そんなの考えたこともなかった。

 そして、考えたところでうまく想像もできなかった。

 ただ……。
 自分が『それ』を望んでいるのだろうかと考えると、なにやら居ても立ってもいられないような気持ちになってしまう。

 きっとこれは、ずっとわたしの胸のなかにあった感情だ。
 わたしを突き動かして、ご主人様に抱き締められたいと願わずにはいられなくしたものだ。

 これまで見えなかったけれど、そこにあったものについに追いつかれてしまった感覚。

 ……わたしは、なにを願っているのだろうか。

「ローズさん」

 わたしは、はっとした。

 真菜が正面に立っていた。

 既に旅装は済んでいる。
 それで、わたしは自分の手が停まっていることに気付いた。

「すみません、真菜。みなを待たせてしまっていますか?」
「いえいえ。単にわたしが急いだだけですから、まだもうちょっとだけ大丈夫ですよ」
「そ、そうですか……」

 真菜の言葉にほっとして――わたしは、そのなかに気になる一語が含まれていることに気付いた。

「急いだ……?」
「はい。ローズさんに話があったんです」

 真菜は頷いた。

「真島先輩のことなんですけど」
「……!」

 ご主人様の名前が出たことに、わたしの胸のなかには動揺の波紋が広がった。

 そんなわたしの内心を知ってか知らずか、真菜も直接そこには触れなかった。
 むしろその口から出たのは、一見なんの関係もない台詞だった。

「今度、わたしたちは真島先輩と一緒に町に行くことになっているじゃないですか」
「……ええ、そうですが」

 わたしは、戸惑いつつも頷いた。

「これはチャンスだと思うんですよね」

 薄らとした笑みを口元に刷いて、真菜は続けた。

「ローズさん。このチャンスに、真島先輩とデートしちゃいませんか?」
◆ところで、いまもBボタンってあるんですかね。
ここ十年くらい、テレビゲームしてないなぁ……。

◆久々のローズ回でした。
町へ向かう他のメンバーもいろいろ考えることがある模様。
+注意+
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