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モンスターのご主人様 作者:ショコラ・ミント/日暮 眠都

3章.ありのままの彼女を愛して

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10. 交易都市への道

前話のあらすじ:
ガーベラちゃんと、鈍器。
   10


 騎士団によって行われた開拓村周辺のモンスター討伐は、地理に詳しい村人の協力もあって、ひとりの犠牲者もなく上首尾に終わった。

 団長さんに申し出た通り、おれとリリィもこれに参加した。

 モンスターは増加傾向にあるようで、多少ひやりとする場面もなくはなかった。
 けれど、先頭に立って戦うシランと、おれを守りながらも魔法を放ち援護に回るリリィ、そして、戦い慣れた騎士団は、これを正面から切り抜けた。

 おれにとっては、実戦経験を積む貴重な機会となった。

 眷族を見つけられなかったことは残念だったが、見つけてしまっても、同行していた村人への説明が難しい。これでよかったのかもしれなかった。

 帰ってきたおれたちは、開拓村にもう一晩逗留した。
 夜、三好太一が、酒に酔って勝手をしたという仲間たちを連れて謝罪にきた以外には、特に何事もなく夜は明けて、おれたちは村を出発した。

 村人たちは総出でおれたちのことを――というより、勇者のことを見送った。

 団長さんが先行させた早馬はチリア砦陥落の情報を届けているはずだが、どれだけ早く帝国が手を打つかわからない。
 場合によっては、村人たちもこの開拓村を放棄して、北へと避難する必要が出てくるだろう。

 そんな状況にありながら、村人たちの表情には不安より期待が勝っていたように思う。その理由は、やはりおれたちこの世界に降臨した勇者の存在にあるのだろう。

 そもそも、どうしてチリア砦が放棄されることになり、村人たちが避難する必要性が生じつつあるのか。そのあたりのことを考えると、おれとしては、少々複雑な気持ちにもなった。

 村人たちは、十文字達也や工藤陸の所業について知らない。
 軽々に吹聴できるような内容ではないため、団長さんはチリア砦陥落の理由について、大量のモンスターに襲われたとしか説明しなかったからだ。

 知っていたなら、彼らがおれたちに向ける目は、どう変化しただろうか。

 村を去る車のうしろに注がれる村人たちの視線を、おれは意識せずにはいられなかった。

   ***

 団長さんは万が一の事態に備えて、兵士たちの一部を村に残した。
 そのため、そこから先の旅路は少々厳しいものになった。村での休息により気力体力を回復させたことを考えれば、とんとんといったところだろうか。

 単調な森の景色は途切れることなく続くが、気を抜くわけにもいかない。モンスターの襲撃を撃退して、旅は続いた。

 旅路に変化があったのは、村を出てから三日後のことだった。

「これは……」

 徐々に目に映る木々が少なくなっているとは思っていた。
 そろそろだろうと予想はしていた。

 けれど、こうもはっきりと『変わる』ものとは、思ってもみなかった。

 水のなかを進むように、おれたちの周囲には常になにかが満ちていた。
 色もなければ、においもないものだ。

 これまではずっと、そのなかにいたから気付かなかった。
 感覚が飽和して、麻痺していた。

 けれど、それがなくなったことで、初めてわかった。

 これが樹海なのだ、と。

 魔力を帯びた特殊な木々が作り出した、一種の異界だ。
 馬をはじめとした動物たちが入るのを嫌がるのは、こうした空気の違いを敏感に感じ取ってのことなのかもしれない。

 隣に座っていたリリィに車の運転を任せて、おれは御者台の上で立ち上がった。

 ブレーキの軋む音をたてながら、おれたちの乗る車は緩い勾配を下っているところだった。
 御者台の高い視界からは、立ち並ぶ木々の隙間に、前方の様子が見て取れた。

 木々は密度を減らして、行く手には草原が広がっていた。
 小さく開拓村らしき集落が見えた。

 遠く見える山々のふもとに広がる濃い緑の塊は、ただの森だろうか。それとも、取り残された樹海の切れ端なのだろうか。

 向かい風に目を細める。風のにおいも違っていた。

「先輩、いま……」

 目の前の景色に見入っていると、加藤さんが御者台に顔を出した。
 彼女もなにかを感じ取ったらしい。期待が瞳に現れている。おれは頷きを返した。

「ああ。どうやら樹海を抜けたらしい」

 前方を二列になって進む兵士たちにも、やや弛緩した空気が生まれていた。
 気合を入れ直すように指示を出す団長さんの声が、こちらまで届いた。

「やっと……」

 様々な感情がこもった声で加藤さんはつぶやくと、御者台に身を乗り出した。

 彼女はしばし景色に目を奪われていた。
 身を乗り出しているせいで、おれとの距離が常より近づいていることに、気付いた様子もない。

 けれど、それも無理もないことだ。

 この異世界に飛ばされてから、おれたちはずっとこの森のなかに囚われていた。
 ようやく森を抜けられたのだ。言葉にならない感慨が脳裏をいっぱいにしているに違いなかった。

 おれはふと、加藤さんの手がおれの服の裾を掴んでいることに気付いた。
 無意識の行動らしく、彼女は平原に目を凝らしたままだ。

 指摘すれば、多分、この手は離れてしまうだろう。
 それは、この時間を崩してしまう行為であるように思えた。

 おれは気付かないふりをして、改めて視線を遠くに飛ばした。
 この道の行きつく先に、帝国はローレンス領、交易都市セラッタがある。

   ***

 多少軽くなった足取りで、チリア砦の生き残りの兵士たちは街道を進んでいく。

 おれたちは、樹海を抜けて帝国のローレンス伯爵領に足を踏み入れた。

 以前にケイに聞いた話によると、このあたりはエルフに対する蔑視が強い土地らしい。

 ローレンス伯爵領を含めた帝国南部では、樹海に面していない北部に比べて、エルフは賎民としての色合いが強い。
 防衛戦力としてのエルフの立ち位置を考えれば、そのほうが都合が良いのだろう。

 それに対して、ケイ自身やシランの故郷である小国アケルを含んだ北域五国では、歴史的にエルフに対する差別意識は薄い。
 ただし、こちらはそもそも国全体が樹海に半分呑み込まれているようなものなので、いずれにせよ、エルフたちの生活は苦しいらしいが。

 思い返してみれば、チリア砦を出発する準備をする際には、幹彦を伴い帝国軍の兵士に指示を出していた団長さんの代わりに、シランが騎士たちを統括していた。

 帝国南方方面軍には、ローレンス伯爵領の出身者も多数含まれている。
 団長さんとシランの間で役割分担が行われていたのは、このあたりの事情が理由だったというわけだ。

「ケイ。ちょっと、こっちに来てもらえるか?」

 夜になるとおれたちは、同行する兵士たちとの不幸な摩擦を避けるために、少し離れて野営をしていた。

 世話役のケイも一緒だった。
 たまにシランや幹彦がやってくることもあるが、その日は来ていなかった。

「なんですか、孝弘さん」

 ガーベラと話をしていたケイが、こちらにやってくる。
 腕にはあやめが抱えられていた。だらんとした手足が可愛い。

 おれと目が合うと、あやめは、ばたばたと足を動かした。
 こちらに来たいらしい。

 ぱたぱた忙しなく尻尾を振りながら、宙を犬掻きで泳ぐあやめを受け取って、おれはケイに言った。

「ケイに渡しておくものがあるんだ」
「渡しておくもの、ですか?」
「ああ。ローズ。さっき見せてくれたものを、渡してやってくれ」
「はい。ご主人様」

 おれの傍にいたローズが頷いて、持っていたものをケイに渡した。

「いくつか新しく魔石を借りたからな。そのなかでも簡単なもののひとつを使って、ローズに魔法道具を作ってもらった」

 ケイに渡したのは、シンプルな装飾のブレスレットだった。
 クリーム色をした模造魔石が埋め込んである。

「これは、閃光の魔石の模造品になる」
「……え?」

 あやめを撫でながら告げたおれの言葉に、嬉々としてブレスレットを嵌めようとしたケイが手をとめた。

「閃光の魔石って、使い捨てのあれですよね?」
「ああ。それだ」

 魔石には、使用回数に制限があるものがある。
 閃光の魔石は、殺傷力のない眼潰しの魔石だ。強烈な光を生み出すことで自壊する。

 同じ光を生み出すにしても、長く使える照明の魔石とは違うというわけだ。

 これは魔石の質と、出力に関わってくる。
 質が高ければ長持ちするし、出力が高ければ消耗は早い。

「そ、そんな高価なもの、もらうわけにはいきませんよっ」

 慌てたケイが、ブレスレットを返そうとしてくる。
 閃光の魔石には、通常、質の良い原石は使われない。そのため、魔石のなかでは安価なほうだが、それでも使い捨ての護身具と考えると一般人には尻ごみする値段らしい。

 とはいえ、これは通常の魔石ではなく、模造魔石だ。

「自作だから、材料費が掛かってるわけでもない。使い捨てなのは勘弁してくれ。ローズにはまだ、それしか作れなくてな」

 いまのところ、ローズが作れる模造魔石は、出力も耐久性も低い。
 まだ試行錯誤段階だから当然だが、作れるものは限られるのだ。

 加えて言うなら、ローズの模造魔石はもうひとつの技術的な限界も抱えていた。

 大別すると、魔石には使用者当人の魔力を必要とするものと、しないものがある。
 前者の例が魔法道具である水を生み出す水筒やライター、後者の例は大気中の魔力を動力源とする車だ。

 後者は、魔石がなんらかのかたちで魔力を吸収する機能を持つ。
 たとえば、これの極端な例としては、この世界での犯罪者を牢に繋いでおくための道具がある。

 おれたちの元いた世界では、監獄に入れておくだけで人間を無力化することができる。
 しかし、この世界の住人のなかには、魔力で肉体を強化し、魔法を操り、道具ひとつなく監獄を突破する戦闘力を備えた者がいる。

 モンスターという脅威を抱えたこの世界では、彼らはかなりの高待遇を受けるが、それでも犯罪に走る者は皆無とは言えない。

 そうした人間への対策として、この世界には、魔力を封じる道具があるという。
 魔力を扱おうとすると、拘束具が魔力を吸ってそれを拡散するという原理だ。

 これで一度拘束してしまえば、並大抵の者では逃れることはできない。

 生物には自身の魔力に干渉されることに対する抵抗力があるため、当人に抵抗の意思がないか、あるいは意識を失った状態でないと拘束ができない他、いくつかの制約があり、また、ウォーリアのような戦闘に特化した勇者を捕えておけるほどの強度があるかといえば疑問だが、それでも、こうした道具がこの世界の治安の維持に、欠かせない役割を果たしているのは確かだった。

 残念ながら、このようなタイプの魔石は、本来の機能とは別に、魔力を吸い上げる機構を組み込まないといけないため、複雑過ぎていまのローズにはまるで手が出ないそうだ。

 ローズ当人は魔力を動力源とするこの世界の車が作りたいらしいが、あれは大気から魔力を吸収する機構と、持続して出力できるだけの耐久性が必要となる。現在の自分の技術では難しいとわかると、しょんぼりしていた。

「事情についてはわかりました。だけど、どうしてわたしにこれを?」

 ケイが尋ねてくる。
 ブレスレットを扱う手がおっかなびっくりなのがおかしくて、おれは口元を緩めた。

「帝国領だとエルフの立場は弱いと聞いた。面倒事に巻き込まれたときのために、自衛の手段はいくらあっても困らないだろう」
「確かに帝国はエルフ蔑視が強いですけど、いきなり石を投げつけられたりといったレベルではないので大丈夫ですよ? ローレンス伯爵領に関して言えば、別にエルフが弾圧を受けているということはないですし……その北のマクローリン辺境伯領だと、そういう話もあると聞きますけど」
「ええと……『エルフ嫌いのマクローリン』だったか?」

 おれも少しずつ、この世界のことは勉強している。

 ケイを小さな教師として行われた授業によれば、帝国南部には、強大な権力と兵力を保持し、周辺貴族の元締めをしているみっつの家がある。

 マクローリン辺境伯は、そのひとりだ。

 元締めだけあって、辺境伯領は広大だ。以前に見せてもらった樹海北域の地図では、北域五国を全部合わせたより大きく描かれていた。

 小国とはいえ、国より一貴族の領土のほうが大きいというのは、なんとなくしっくりこない感じもするのだが、聞けば帝国の大貴族の領土というのは、ほとんど国のようなものらしい。

 帝国の皇帝というのは、『もっとも力を持ち、由緒正しい歴史を持ち、そして、勇者を崇める聖堂教会を抱えている大貴族だと認識すればいい』というのは、幹彦の言だ。『重要なのは最後のひとつ。逆に言えば、教会としては、現皇帝に問題があれば頭をすげ替えるだけでいい』とも。

 勇者という存在を嫌っており、そのために教会にも良い感情を抱いていない、あいつらしい見方だが、それなりに本質を突いているようにも思う。

 大事なのは勇者なのだ。
 この世界は多分、そういうふうにできている。

 他所の世界から来たおれからすると、やや不自然に感じられるのだが……それが、この世界の自然な姿なのだろう。

 実際、教会の後押しを受けた大貴族による皇帝位の簒奪も、過去にあったことらしい。

 イーレクス帝国の貴族は、時に王家をも越えうる大きな力を持っているのだ。

 マクローリン辺境伯領に関して言うなら、ただ領土が広大なだけではない。魔石が採掘可能な鉱山を多数抱えており、経済的にも非常に豊かだ。

 おまけに、直接樹海に接しているわけではないので、モンスターの被害が比較的少ないときている。『エルフ嫌いのマクローリン』という評は、『エルフ蔑視の強い南部でありながらその力を必要としない』という土地柄が、エルフに対する扱いに現れたものなのかもしれなかった。

「マクローリン辺境伯領からは、主にエベヌス砦に兵が送られています。だから、今回もわざわざそこまでは行きません。大丈夫ですよ」
「いや。それでも、なにかあったときに助けてくれる存在が少ないことは、確かなんだろう? だったら、持っていて損はないはずだ。いろいろと世話になったから、その礼だと思って、もらってくれ」

 おれが引くつもりはないと悟ったらしい。ケイは困った顔をした。
 そんな少女の両肩を、加藤さんがうしろからぽんと叩いた。

「いいじゃないですか。先輩はケイちゃんのことが心配なんですよ」
「……ちょっと心配性だと思いますけど」
「ふふ。そうですね」

 胸にブレスレットを抱えて眉を下げたケイを見て、加藤さんが微笑む。
 そんな彼女を見て、おれは小さく眉を寄せた。

「なにを他人事みたいに言っているんだ?」
「え?」
「加藤さんの分もちゃんとある」

 おれの視線に応じて、ローズがブレスレットを差し出す。加藤さんは目を丸めた。

「この間、ナイフをいただいたばかりですけど」
「さっきケイにも言ったが、自衛のための手段はいくらあっても困らないだろう」

 開拓村であったといういざこざを、おれは忘れていなかった。

 わざわざ関係を悪化させるのも馬鹿らしいので、謝罪にきた三好には気にしていないと言ってある。しかし、それで対策を取らずにいてやるほど、彼らを信用してやる義理もない。

「ですけど……」
「もらってあげてよ、加藤さん」

 なにか言おうとした加藤さんを、リリィが遮った。

「加藤さんの言う通り、ご主人様は本当に心配性なんだから。ねえ?」
「……慎重なだけだ」

 背中から抱きついて頬をつついてくるリリィに、おれは眉を顰めた。

 うふふー、と笑うリリィ。照れ隠しなのは、多分、ばれていた。

   ***

 旅は続く。

 開拓村に立ち寄り、村の現状を尋ね、たまに休憩を取ることもあったが、基本的には真っ直ぐに北へ向かっていく。

 途中で、チリア砦に向かってくるところだった軍の部隊とも合流した。
 半日近く、一行は足をとめることになった。

 おれは彼らと直接会うことはなかったのだが、あとで団長さんから話を聞いたところでは、二十人程度の部隊だったらしい。

 団長さんが深刻な顔をしていたのが気になったが、移動を再開しなければならないこともあり、忙しい彼女はすぐに行ってしまった。

 応援を頼んだはずなのに、中途半端に二十人そこそこの少数がやってきたということは、連絡役の情報は深刻なものだと受け取られなかったのかもしれない。

 だとすれば、チリア砦で責任ある立場にあった団長さんがこうしてセラッタへ向かい、直接説明をすることは、やはり意味のあることなのだろう。

 やがておれたちは、広大な草原地帯に入った。

 ローレンス伯爵領も中央部に近いこのあたりでは、放牧がおこなわれている。
 草を食む牛と牛飼いの姿を見かけた。

 牛飼いたちは集団で行動しており、どこからどう見ても、それは屈強な傭兵団の姿でしかなかった。

 モンスターの跋扈するこの世界において、帝国南部の牛飼いは武装集団として有名らしい。

 農村にも都市部にも属さずに草原で暮らす彼らは、エルフとはまた別の意味で偏見の目に晒されている。

 ただ、それも無理のないことかもしれない。おれの目にも、彼らは独自の世界と時間を生きているように見えた。

 生まれた村や町で一生を過ごす人間には、そんな彼らの在り方が不気味なものとも映るのだろう。これはもう、良いとか悪いとかいう話ではなく、ただそうしたものなのだ。

 ある意味、おれたち転移者とも立場は似ているのかもしれない。
 無条件の尊敬の眼差しも、偏見のひとつには変わりないのだから。

   ***

 ある日には、遠目に夥しい数の魚の群れを見掛けた。
 そう、魚である。土にもぐる魚。当然、モンスターだ。

 名前は『トリップ・ドリル』。地上を回遊する魚型モンスターだ。
 派手な色の小型のカジキマグロが群れをなして、まるでそこが海面であるかのように発達した胸鰭で宙を飛ぶ様子は圧巻だった。

「あれが移動性のモンスターってやつか」

 おれがつぶやくと、御者台に顔を出したケイが答えた。

「トリップ・ドリルは、取り残された樹海、『昏き森』のなかでも北部最大規模のものを目指して旅をするモンスターです。そこに産卵場所があるって言われてます」

 この世界の人間たちは、生活を脅かすモンスターを倒し、樹海を切り開くことで生存圏を確保してきた。けれど、場合によっては強力なモンスターの討伐を諦めることもある。

 それが移動性のモンスターでなく、定住性のモンスターであった場合、その周辺地域の開拓を行うことはできず、樹海の一部がそのまま残ることになる。それが『昏き森』と呼ばれる場所だった、

「トリップ・ドリルは、群れごとに独自のルートで北上します。村とか町は、その進路を外すように建設されているんです。ルートさえ外れていれば、基本的には大丈夫ですから」
「基本的には?」
「群れの一部がルートを外れて、例年、少なからぬ被害が出ますから。だけど、もっと大きな問題は、トリップ・ドリルを捕食する別のモンスターが、同じルートを北上して拡散してしまうことですね」

 あれだけ多くいれば、個体差から群れを脱落するものも、ぽつぽつと現れるのだろう。

 そうした小さな群れや、個体単位になった彼らを喰らう、より強力なモンスターが、毎年かなりの数、樹海から溢れ出しているそうだ。

「ちなみに、トリップ・ドリルの一体一体は表層部でも弱いほうですが、群れは手がつけられないので、災害扱いされています」
「あの数じゃな……」

 たとえ第五階梯の大魔法をぶつけたところで、群れの一部しか吹き飛ばせないだろう。

 もちろん、おれたちにどうにかできるようなものではない。呑み込まれておしまいだ。

 おれたちは、トリップ・ドリルの群れが去るのを一日待った。

 目的地であるセラッタに着いたのは、その三日後のことだった。
◆あけましておめでとうございます。
今年も拙作をよろしくお願いします。m(_ _)m

◆ちょっと長くなったので分割投稿。
今日か明日には更新します。
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