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モンスターのご主人様 作者:ショコラ・ミント/日暮 眠都

2章.モンスターを率いる者

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05. 暗雲の兆し

前話のあらすじ:
孤独な女の子に、お友達が出来ました。
   5


「ぐるぅあぁあ!」

 牙を剥いたファイア・ファングが、深い森の中を疾駆する。
 木と木の間を縫うようにして駆け抜け、潅木を踏み潰し、おれたちの背後に回りこもうとする。

 おれなどでは、目で追うのがやっとのスピードだ。
 だが、それは白い蜘蛛の機動を上回るものではなかった。

「ぐるぅあ!?」

 驚愕の叫び。
 狼の正面に白い影が立ち塞がる。

「とおせんぼ、じゃ」

 ほんの一瞬前までおれの隣にいたはずの白い蜘蛛が、少女の顔でにやりと笑った。
 そして、一撃。

「ふんっ」
「ぎゃうんっ!?」

 白い蜘蛛、もといガーベラは、ファイア・ファングの鼻面を素手で殴りつけた。
 適当に突き出しただけの拳は、膂力任せであっても十分な殺傷能力が乗っていた。
 数本の牙がへし折れて、体長二メートルを超える巨狼が逆方向へと吹き飛ばされる。

 これだけでも首の骨が折れてしまいそうなものだが、流石はモンスターということか、ファイア・ファングは鼻血を垂らしつつも起き上がった。

「るるるるる……っ!」

 唸り声をあげ牽制しておいて、一転。
 不利を悟ったファイア・ファングが、尻尾を見せて逃げ出していく。

 勿論、これを大人しく見送ってやる理由はない。

「主殿!」

 素早く戻ってきたガーベラが、おれの手から大盾を受け取ると、普段おれが移動時にそうしているように背負った。
 そうしておいて、彼女はその細腕におれを抱え上げた。

 此処まで、流れるような作業だった。

 ガーベラのひとつひとつの動作は、機敏でいて無駄がなかった。ともすると、目を奪われてしまいそうなくらいに。
 やはり戦闘の申し子である彼女は、こうした場でこそ輝く。

 ……普段のどちらかといえば残念な感じが嘘のようだ。
 まあ、あれはあれで可愛らしいところではあるので、決して悪くはないのだが。

「舌を噛まぬように気をつけよ」
「出会った時にも同じことを言ってほしかったな」
「……それは言わぬ約束ではないかの」

 おれの下手な冗談にガーベラは嫌な顔をしたが、これくらいは許してほしいものだった。
 なにせ、いまのおれがされているのは、所謂ところの『お姫様抱っこ』なのだ。

 情けなくて涙が出そうだった。

 これならいっそ肩に担いでいってくれとも思うが、それだと森を駆け抜けるには、安全性に問題があると却下されている。

「ゆくぞ」

 おれに声をかけておいて、ガーベラは弓から放たれた矢のように駆け出した。

 ぐんぐんと森の木が後ろに流れていく。
 信じられないくらいのスピードだった。現代日本でなら慣れた乗用車並みだが、此処は障害物だらけの森の中だ。同じスピードで走れたとして、おれなら五メートルもいかないうちに木々にぶつかってしまうに違いない。きっと反射神経が違うのだろう。

 しかも、抱えているおれになるべく振動がいかないように気を遣っているらしいことがわかる。
 これが仮におれがガーベラにおぶさっているかたちだったのなら、掴まっていることなんて出来なかったに違いない。これは抱っこで正解だった。

 抱えられて走っているうち、おれも徐々に目が慣れてきた。
 目の前を走っていくファイア・ファングの背中が確認出来る。こちらも凄まじいスピードで森を駆けていた。

 だが、ガーベラの動きは更にその上を行っていた。
 決して逃すことなく、一定の距離を保ち続ける。追われる側にしてみれば、たまったものではないだろう。

 おれたちがこのファイア・ファングに遭遇したのは、ガーベラの案内でやってきた水源の、すぐ近くだった。

 襲い掛かってきたのを撃退して、いまに至る。

 泉まで水を飲みにきたらしいこのファイア・ファングは一匹だけだった。しかし、元来この種のモンスターは群れるものである。
 コロニー周辺では探索隊が駆り残した『はぐれ』ばかりだったので事情は少し違っていたが、本来は群れで行動するのが普通のことなのだ。

 故に。

「うおぉおぉおおおぉんっ!」

 それは雄叫びか、それとも悲鳴か。
 手負いのファイア・ファングの遠吠えから数秒、応えるように方々から狼の遠吠えが響いてきた。

「作戦は成功だな」
「うむ」

 おれが小さくつぶやくと、ガーベラが頷いた。

「五、六匹というところかの」

 言い終わるや否や、左右の森から狼が飛び出してきた。

「ぐるぅあぁあ!」

 狼の口腔から吐き出される赤い炎が森を舐め、高くそびえる木々を焦がし、潅木を一瞬で焼き払う。

 炎にまかれる直前にガーベラは垂直に飛び上がると、木々の一つに飛び乗った。

「ぐっ……!」

 がさがさと葉がこすれて痛いが、文句をいうわけにもいかず、おれは歯をぐっと食いしばった。
 ガーベラはすぐに別の木に乗り移る。さっきまでいた木が幾筋もの炎に巻かれて蝋燭のように燃え上がった。

「残念ながら、妾たちの同胞足りえる者はおらんようだの」

 ガーベラの言葉におれも眼下を見下ろせば、そこにはおれたちのことを見上げて唸る六匹の狼の姿がある。パスの存在は感じ取れない。
 おれもそれを確認して、頷いた。

「そのようだな」
「よし。ならば、躊躇する理由はないの」

 ガーベラの手から糸が飛ぶ。
 半数はこれを回避したが、残りは逃げ切れずに捕まった。ガーベラはいとも容易く三体の狼を一本釣りすると、そのままリリース……地面に頭から叩き落した。

「終わらせるかの」

 ガーベラが狼たちを殲滅するのに、そう時間はかからなかった。

   ***

 全てが終わったあとで、おれたちは作戦会議を開いていた。

 ちなみに、折角倒した六体ものファイア・ファングだが、全部を持って帰るのは難しいため、適当に解体したあとは大部分を放置することになった。
 毛皮は全頭分を剥いだはいいものの、あまり綺麗とはいえない。こうして離れてみてわかるのだが、戦闘に限らずローズは本当に頼りになった。

「まずは成功といったところか」

 おれの言葉にガーベラは頷いた。

「そうだの。ただ、結局のところ眷属は見つけられておらぬが」
「それは仕方のないことだろう。今日の半日以下の時間だけで、此処三日間に匹敵する試行錯誤が出来たことを、まずは喜ぼう」

 おれたちは探索場所を、ガーベラの言っていた泉の近くへと移していた。
 ガーベラが言っていたように、確かにそのあたりにはモンスターが多く存在するようで、続けざまにおれたちは三体のモンスターに遭遇した。

 その最後の一体が、先程のファイア・ファングだった。

 なるべく多くのモンスターと遭遇するためには、群れを探すのが一番効率がいい。白いアラクネの戦闘能力であれば、それを蹴散らすのは造作もないことだからだ。
 最初から群れにぶつかることが出来ればそれが一番手っ取り早くていいのだが、場合によっては先程のように、単独行動をしていることもある。
 モンスターは『己の意思を持たない』。だが、おれたちのいた世界でいうところの『野生動物程度の知能は持ち合わせて』いる。

 ならば、仲間を呼ぶのを待ってやれば、効率よく探索をすることが出来るだろう。

 それが先程の戦闘の一部始終というわけだった。
 事前に立てていた作戦は見事に的中し、たかだか数時間のうちに八体ものモンスターと遭遇することが出来た。

「そろそろ帰らないと日が暮れる。あとは、明日だな」
「だの」

 悪くない状況だった。
 その一方で、残された時間はあまりない。
 そろそろリリィも復調するし、ローズだって失われた武具を揃えてしまうだろう。そうなれば、ガーベラが手柄を立てるチャンスは失われてしまう。

 早くしなければ……
 おれは帰路につきながら、そんなことばかり考えていた。

   ***

 おれたちがアラクネの巣に帰ると、出迎えてくれたのはリリィの満面の笑みだった。

「おかえりなさい、ご主人様!」

 そう言って、腕に抱きついてくる表情には疲れの色は見て取れない。それどころか、妙に彼女はテンションが高かった。

「ただいま。……大丈夫なのか、寝ていなくて」
「それはもう全然。起きたのはついさっきだけどね。ガーベラも、おかえりなさい」
「う、うむ。ただいま、だの」

 そういえば、こうしてリリィが腕に抱きついてくるのは数日ぶりのことかもしれない。
 こんなに嬉しそうなのは、ひょっとして鬱憤を溜めこんでいたからだろうか。
 おれとしても、元気な彼女とこうして触れ合えることは嬉しい。
 嬉しいと同時に、これはちょっと困ったことでもあったが。

 元気になったリリィがおれたちの探索についてくると言い出すことは、目に見えていたからだ。
 しかし、ガーベラのためには、もう少しの間はおれと彼女の二人きりでの探索を行っていた方が都合がいい。どうしたものだろうか。

 おれは説得の言葉を考えながら、リリィが準備した愛情たっぷりの夕食にありついた。

 リリィが復調したので、全員が顔を揃えるのは、あの激闘の夜から初めてのことになる。
 食事はお馴染みとなりつつあるファイア・ファングの肉だ。うん。相変わらずマズい。硬い。リリィの愛情は素材の不出来を覆すことは出来なかったらしい。
 かつて日本で食べていたバーガーの、料理にかける感情の伴わない安っぽい肉が、どれだけ恵まれたものだったのか……此処に来てよくわかった。

「明日からは、わたしも一緒に行くからね」
「せめてあと一日くらいはゆっくりしていたらどうだ」
「だけど」
「おれだって、治ってから一日は大事をとっただろ」

 おれが説得すると、リリィは不服そうな顔をした。
 彼女のそんな表情に気付かないふりをして、おれは食事を続けた。

 下手な時間稼ぎではある。明日一日で成果が出るかどうかは、はっきり言って期待薄だ。しかし、機会が与えられないよりはマシだった。

「そうだ。そういえば、話さなければいけないことがあったんだった」

 おれはやや強引に話題を変えて、リリィの反論を封じることにした。

 それに、話をしなければいけないことがあったのも本当だった。今日、例の泉のことを発端としてガーベラと話をする機会を得た結果、わかったことがあったのだ。

 おれが話をしようと思ったのは、あの泉についてのこと――では、なかった。
 おれたちがいまやっていることについては、つい数時間前の話し合いの中で、『リリィには負担をかけられない』、『ローズには話せない』と決めたばかりだ。

 とはいえ、別に泉の存在自体の情報を伏せる必要はない。
 ……ないのだが、下手に喋ってしまっては、迂闊なところのあるガーベラが、いまおれたちがやっていることについて口を滑らせないとも限らない。そう判断して、おれは別の話題をあげた。

「ガーベラがいうには、彼女はこの森を脱出することが出来るそうなんだ」
「ガーベラが?」

 リリィが視線を向けると、ガーベラは硬い表情で頷いた。
 彼女たちの間には、未だにわだかまりがある。
 リリィは自然体なのだが、ガーベラの方が一方的に負い目を感じているようだった。
 あの日の戦いで、おれたちの中で誰が一番大きな被害を受けたかといえば、今日まで療養を余儀なくされていたリリィだろう。だから、このあたりは仕方のないことなのかもしれない。

 おれはフォローのために口を挟んだ。

「ガーベラは昔、森の端まで行ったことがあるんだよな?」
「お、おう」

 ガーベラが頷いて、ややたどたどしくも語り始めた。

「もうずっと前のことだからリリィ殿やローズ殿は知らぬだろうが、この森の中に人間たちが大勢入ってきたことが、これまでの妾の長い生涯で三度ほどあったのだ。妾が人間という種に出遭ったのは、主殿のことを除けば、その時だけだ」
「あ」

 その時、リリィが何かに気付いたような声をあげた。

「この世界って、ご主人様たち転移者以外に、人間っていたんだねえ」

 リリィが口にした感想は、おれがこれを聞いた時に思ったことと、大体同じだった。

 これまでおれたちは、この異世界の人間に遭遇したことがない。
 それはおれたちが転移してきたのが、深い森の奥だったからだ。ガーベラでさえ、長い生涯の中で人間を見掛けたのが三度きりだというのだから、尚更、リリィたちが見掛けたことがあるはずがなかった。

「あの山小屋があった時点で、いるだろうってことは推測出来ただろ」
「ん。そっか。そういえば、あれがあったっけ」

 加藤さんと出遭った、いまは残骸と化したあの山小屋のことだ。

 あれを見付けた時点で、この世界に人間がいるだろうとは考えていた。
 とはいえ、最悪のケースとして、おれが転移してきたこの世界が、猿が支配する惑星だったり、直立するナメクジが支配する世界だという可能性はあったのだ。モンスターなんてものがいる以上、それは決して笑い飛ばせない深刻な懸念だった。

 そういう意味で、実際に人間を見たことがあるというガーベラの目撃談は、おれにとって価値があるものだった。

 ガーベラは昔語りを続ける。

「当然、この深い森の中に多くの人間が踏み入ってくれば、それだけの痕跡が生まれる。妾たちモンスターがそれに気づかぬわけもない。それはもう、怒涛のように押し寄せたよ。当時の妾もその一匹だったわけだがの。逃げる人間を追い掛けて、妾は気付けば森の端におった」
「恐らくだが、ガーベラが戦ったのは、人間の軍隊だったんじゃないかと思う」

 ガーベラの話によると、統一された武装を支給された一団だったそうだ。といっても、ガーベラが到着した時には既に大混乱に陥っており、軍隊としてのていを為していなかったそうだが。
 上半身を守る鎧。兜。そして、片手剣に盾……聞く限り、この世界の何処かの国に属する兵士といったところだろうか。銃器の類は見られなかったらしい。
 主要武器が槍ではなくて剣なのは、障害物の多い森での運用を考えたためかもしれない。

「森から出るためには、おれたちが言っているところの、『北』の方角に真っ直ぐ行くのが最短距離らしい」
「一応断っておくが、遥かに昔のことだからの。いまは森の境界が変わっておる可能性もある」
「それでも、何もわかっていないのに比べれば、随分な前進じゃない!」

 ぱんと両手を合わせて、リリィはにっこり、ガーベラに笑いかけた。
 やはり彼女にはガーベラに対する屈託のようなものはないらしい。むしろその笑顔はガーベラに思うところはないのだと、わかりやすく態度で歩み寄りを示そうとしているようにも見えた。

 考えるべきことが多過ぎる現状、彼女がそうしてくれていることは、確実におれの心労を減らしてくれていた。

「あれ?」

 そのリリィが何かに気付いたように目をまるくした。

「でも……第一次遠征隊の進路って確か、『東』向きじゃなかったっけ」
「ああ。どうやら遠征隊のトップには運がないらしいな」

 彼らのあとをついていっていたおれたちも、あまり運があるとは言えないが。
 勿論、途中で彼らが気付いて、進路を変えている可能性もある。その場合、加藤さんに情報を残し、第一次遠征隊を追った水島美穂の幼馴染・高屋純は、永遠に追いつかない追いかけっこをしている羽目になるわけだが。

「もっとも、東に向かっても、いずれは森を抜けられるだろうけどな」

 まさかこの森だって永遠に続くわけでもないだろう。実際、北側では森が途切れているそうだし。

「それじゃ、これからわたしたちは北へ向かうということ?」
「……それなんだがな、正直なところ、少し迷っている」

 確かに東へ向かえば第一次遠征隊と合流出来る可能性がある。
 加藤さんの保護を頼むのなら、こちらを選ぶべきだ。しかし、その一方でこの森を抜けるのは遅くなるだろう。

 おれはいずれこの森を出なければならない。以前にも考えた通り、おれにとってこの森は生存環境が悪過ぎるためだ。ガーベラが眷族に加わってくれたお陰でかなり安全面では状況が改善されたが、たとえば、栄養問題などは腕力でどうにかなるようなものではない。
 いまなら確実に森を抜けられるのだ。その先で人間の住む集落を見付けられる可能性だってある。というより、その可能性は高い。軍隊があるのなら、国家だってあるだろう。どのようなかたちであれ、秩序だった社会なしに軍団が編成出来るはずがないのだから。
 人里を訪れて、おれは必要な物資を手に入れる。
 問題は、加藤さんにとって安全な場所が見つかるかどうかだが……

「……まあ、すぐに決断を下す必要もないだろう」

 おれはそう結論づけた。急いては事をし損じるともいう。いますぐに決めてしまわなければならないことでもない。しっかりと考えてから行動に移すべきだろう。

「そういえば」

 そこで口を挟んだのは、これまでおれたちの話を聞いていた加藤さんだった。

「――っ!」

 その声を聞いて、おれは思わず、丁度、ファイア・ファングの肉串を掴み取ろうとしていた手をとめてしまっていた。

「……どうした、加藤さん」

 そう応えて、おれは改めて掴んだ肉串をかじった。
 すぐに動きを再開したので、多分、おれの様子がおかしいことに気付いたのは、おれの傍に寄り添っていたリリィくらいのものだっただろう。彼女は少し不思議そうにおれの横顔を見つめていた。

「いえ。その、ガーベラさんはわたしたち以外には、その三度しか人間を見たことがないんですよね」
「そうだったはずだ。……だな?」
「う、うむ」

 自分で答えるように視線で促すと、ガーベラはこくりと小さな子供のように頷いた。加藤さんに対しては、やはり苦手意識が先行しているようだ。

「学生服……わたしたちのような服を着た人間にも、会ったことはないんですか」
「主殿の同胞であったという転移者、あるいは、その中におるチート能力者とやらか。いいや。妾は出遭ったことがないな」
「だったら……先輩?」

 加藤さんがこちらに水を向けてきたので、おれは肉串から目をあげた。
 この頃には、動揺はおさまっていた。

 それでも彼女と目が合った時には、一度心臓が変な鼓動をたてたが。

「以前にバラバラ死体を見付けたことがあったじゃないですか。ガーベラさんが他の転移者たちに会っていないというのが本当なら、あれは彼女の仕業じゃなかったってことになりますね」
「……そういえば、そういうことになるのか」

 以前におれたちはチート能力者を含めた五人のバラバラ死体を見つけたことがある。
 身体能力や魔力が高いだけの『ウォーリア』とはいえ、そうそうチート能力者がモンスターに殺されるようなことはない。反則的な戦闘能力を持つ彼らはハイ・モンスターくらいじゃないと殺せないし、それだって難しいくらいだというのがリリィのした話だった。

 もともと、おれたちが以前にねぐらにしていた洞窟から移動したのは、存在が示唆されたこのハイ・モンスターとの遭遇を恐れてのことだった。

 その後、おれたちは『ハイ・モンスターである白いアラクネ』に襲撃を受けた。
 だから、てっきりおれは、あれは彼女の仕業かと、無意識のうちに思っていた――というより、色々あってほとんどあの件については忘れており、あまりきちんと考えていなかった――のだが、冷静になって考えてみれば、それは少しおかしい。

 あの死体は獣に噛み殺されていた。
 だが、白いアラクネはハイ・モンスターであっても、大型肉食獣タイプのモンスターではない。

「バラバラ死体? なんのことかの、それは」

 案の定、ガーベラはそれを知らなかった。
 それでは、彼女の他にもこの近辺には、モンスターのなかでも例外的な存在である、ハイ・モンスターが存在するということだろうか。

 そうでなければ理屈が合わないのだが、それもそれで引っ掛かるところがあった。
 両雄並び立たず……ではないが、ハイ・モンスターというのは前提として長い時間を生きなければならない。

 いまおれたちがいるアラクネの巣には、モンスターが寄りつかない。それは、長い年月の間に、此処に近づくようなモンスターは排除されてしまっているからだ。
 基本的にモンスターというのは、人間だけではなく、同種以外のモンスターにも敵対する。何処かのコンピュータRPGの戦闘よろしく、別種のモンスターが肩を並べて仲良く襲いかかってきたりはしないのだ。

 おれたちがバラバラ死体を見掛けた地点から、人の足で五日。モンスターならもっと短い期間で移動が可能だろう。

 ガーベラは人間であるおれの気が遠くなるような長い期間を生きている。多少なり離れているとはいえ、これだけ狭い地域に強大なモンスターが二体、長い期間共存しているというのは、少し違和感があった。

 まあ、そういうこともある、のだろうか……?
 否定するだけの証拠もない以上、おれはそう納得しておくしかなかった。

「なんにせよ、頭にとどめておくに越したことはないか」
「そうですね」

 それにしても、加藤さんは優秀だ。
 おれが気付かなかったことにも、きちんと気付いてくれている。

 切れ者……といってしまうと、微妙に的を外しているような感がある。加藤さんは何というか、要領がいいのだ。おれ自身が要領の悪い方だということを差し引いても、おれの目から彼女は敏く賢い性質をしているように見えた。
 その割に貧乏くじを引くことが多いような気はするが……それは、あくまで彼女自身がそうあるように立ち回っているからなのだろう。

 何が彼女にそうさせているのか。
 そう考えると、不思議だった。

 ……何を考えて、そうしているのか。
 そう考えると、不審でさえあった。

「……」

 おれは奥歯を噛んで、苦い思いを飲み下した。

 命の恩人に対して、こうした考え方をしてしまう自分自身に嫌気が差す。
 自覚が出来るようになっただけ、幾分マシという考え方も出来るが……それが何かの言い訳になるような状況でもない。おれが命の恩人である彼女に対して義理を欠いていることは事実なのだから。

 ともあれ、だ。
 いずれにしても、彼女にはおれには足りないところをフォローするだけの能力があることだけは確かだった。

 ガーベラはおれに、相談するなら加藤さんにするべきだろうと言った。
 それは正しい。

 そういう意味でも、やはり彼女との関係については、早くどうにかしなければならないだろう。

 おれはそうと確認しながらも、いまはどうすることも出来ず、ガーベラにとっては残された貴重な機会である明日に備えてその日はもう眠りについた。


 ……これが失敗だったのだと気付いたのは、少しあとになってのことだった。
◆用事があって更新が遅れました。すみません。

◆次回更新は2/19(水曜日)となります。
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