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モンスターのご主人様 作者:ショコラ・ミント/日暮 眠都

7章.

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8. 少年の迷いと少女の言葉

(注意)本日2回目の投稿です。(9/23)












   8


「……疲れた」
「お疲れ様ー」

 階段を登りつつおれがぼやくと、リリィが笑みとともに労いの言葉を口にした。

「リリィも疲れただろう」
「わたしはご主人様ほどじゃないよ」
「妾はちと疲れたの」
「ふふ。ふたりとも目立ってたからね」

 ガーベラもまじえて話をしつつ、三人で階段を登っていく。

 丁度、おれたちは近隣に出たモンスターの討伐を終わらせて、帰ってきたところだった。

 ただ、疲れているのは討伐の肉体的な疲労ばかりが原因ではなかった。

 というより、肉体的な疲労はそれほどではなかった。
 今回のモンスター討伐は、あらかじめ騎士団による調査が行われていたし、十分な戦力が捻出されていたからだ。

 おれたちが中心になって騎士団とともに戦闘を行い、危うげなく討伐は終わった。
 移動も込みで五日かかったが、ずっと旅を続けてきたおれたちにしてみれば特別に疲れを感じるようなことでもない。

 大変だったのは、そのあとだった。

「ふふ。格好良かったよ、ご主人様」

 腕を取って寄り添うリリィが、下から覗き込むようにして笑顔を向けてくる。

「いっぱい人が見にきてくれてよかったね」
「……そうだな。凱旋なのに人がいないんじゃ、せっかくやった意味がない」

 討伐をつつがなく終わらせたあと、おれは騎士団と一緒に城下町に凱旋を行った。

 もっとも、喜び勇んで手柄を誇示したわけではない。

 その必要があったのだ。

 というのも、当たり前のことだが、アケルでもモンスターに対する感情は悪いものであり、リリィたち眷属が受け入れられるのは簡単なことではない。
 騎士や兵士たちの一部とは徐々に交流を深めているが、相手が大衆となれば話は別だ。
 まさかひとりひとりと理解を深めるわけにもいかないし、かといって、このままではガーベラあたりが外を出歩くようなことはいつまで経ってもできない。

 受け入れられるためには、大きなマイナスを打ち消すだけのプラスの要素が必要だった。

 そこで、今回の凱旋である。
 現状、アケルで真島孝弘という存在は『マクロ―リン辺境伯領軍からエルフたちを守り切ったアケルの英雄』として扱われている。

 その英雄が、初めて人々の前に姿を現す。
 それも、アケルのためにモンスターを討伐して、凱旋を行うというのだ。

 能力の都合上、ずっと人目を避けて旅を続けてきたおれとしてはどうも実感がなかったのだが……実際、狙い通りに凱旋の場には『噂の英雄』を一目見ようと大勢の人々が集まった。

 その前で、おれは眷属たちのお披露目を行った。

 英雄の凱旋というおめでたい場面。
 事前には、開拓村のエルフを守るために眷属たちがどれだけ奮戦したか十分に喧伝されてもいた。

 これらが効果を発揮したのかどうかは定かではないが、結果としては、十分な手ごたえを得ることができた。

 すぐにガーベラあたりを外に連れ出してどうこうというのはまだ難しいだろうが、こういうことを何度か繰り返していくことで、少しずつ慣れてもらえばいつかは……と思うことができた。

 得たものを思えば、精神的な疲れくらいは安い代償というものだろう。

 そうして話をしているうちに、目指していた場所についた。
 おれたちが王宮で借り受けている区画にある談話室兼共同スペースだ。

 区画のなかでも、ここは奥のほうになる。
 もう少し出口に近いほうを開拓村のエルフたちが利用する一方で、このあたりはおれたちが使わせてもらっている。

 他の眷属たちはまだ戻ってきていないようだった。

 シランは騎士団と夜まで打ち合わせがあると言っていたし、ロビビアはケイの訓練に付き合っているはずなので、まだ帰ってこないだろう。
 あやめはベルタと日向ぼっこでもしているのかもしれない。

「……ふう」

 置かれているソファにおれは腰を下ろした。

 一方、傍についていたリリィは座ることなく、ガーベラに声をかけた。

「それじゃ、ガーベラ。ご主人様のこと、お願いね」
「うむ? どこか行くのかの」

 不思議そうにするガーベラに、リリィはにっこり笑顔を向けた。

「書庫に行こうかと思って」
「おお、そういうことか。リリィ殿も好きだの」
「ふふ。せっかく、お城の書庫に自由に出入りできるようにしてもらったからね。それに、ほら、なにか有用な情報も手に入れられるかもしれないし」

 アケルの王宮には、かなり立派な書庫がある。
 おれは眷属たちも含めて、書庫を閲覧できるように許可をもらっていた。

 とはいえ、ガーベラなど眷属たちはもとより、この世界の文字を勉強し始めているおれや加藤さんにしたところで、せいぜい子供向けの本を読めるかどうかといったところだ。

 このあたりは、熱意の差だろう。
 アケルの書庫を解放してもらっていても、有効活用できているのはリリィと水島さんだけだった。

「任せてしまっていて悪いな。リリィも疲れているだろうに」
「わたしはそれほど疲れてないから大丈夫だよー」

 おれが言葉をかけると、リリィはひらひらと手を振った。

「それに、美穂が本読みたがってるし、わたしもけっこう好きだから。息抜きだよ」
「そうか。ならいいんだが」

 リリィの言葉に嘘はなさそうだった。

「なにか面白いことは見付かったか」
「ん? そうだねえ。帝都周辺の地理について触れているものがいくつかあったのは有用だと思うし、料理の本があったからレシピをメモさせてもらったよ。あとは……」

 読んだ本の内容はかなり多岐に渡るらしく、リリィは少し考える様子を見せたあとで、手を叩いた。

「そうそう、面白いことといえば」
「なにかあるのか」
「うん。ほら、この世界、聖堂教会が勇者の伝説を伝えているでしょ。かなり昔のことまで、伝説ってかたちで記録に残ってるみたいなんだよね」

 ぴんと指を立ててみせる。

「最初の勇者が現れたときから、歴代の勇者の伝説が残ってるの。とはいっても、千年遡ったあたりからけっこう年代は怪しいっぽいし、都合の悪いことは書かれてないけど」
「転移者がひとりの例外もなく勇敢に戦っているとか、あとは、エルフに関する記述とかのことか?」
「そう。それそれ。たとえば、そのエルフについてだけど、人類の裏切り者だって差別されていた時期があったエルフは、勇者の伝説には出てこないでしょ。シランさんのことなんかを考えても、これまでひとりもエルフが勇者に同行してないとは考えづらいから、同行した事実が語り継がれなかったのかもしれないし、伝えられるうちに過去の記録が消された可能性もあるかな。だけど、ここはアケルで、エルフの偏見の薄い土地でしょう?」

 そこまで聞いたところで、リリィがなにを言いたいのかわかった。

「エルフたちの記録が、アケルでは残ってるかもしれないってことか?」
「うん。そういうこと。まあ、一例としてエルフを挙げたけど、それに限らず聖堂教会とは別の視点がほしかったんだよね。他と比べることで、聖堂教会の考え方、価値観、方針みたいなものがわかってくるかなって、美穂と話してたんだ」
「なるほどな」

 水島さんと一緒に、いろいろと考えていたものらしい。

「それで、どうだったんだ」
「まだ結論を出すにはちょっと早いんだけど……アケルの見解でも、基本的に聖堂教会や聖堂騎士団は世界を守るために行動しているみたい。その点に関しては、聖堂教会側が伝える話と矛盾はなかったよ。自浄作用がきちんと働いていて、たとえば大貴族の出であっても不正が見付かれば厳しく罰してたみたい。そう考えると、トラヴィスは例外……というか、余程にうまくやっていたんだろうね」

 言い換えれば、それだけトラヴィス=モーティマーという人間は、才能のある人材だったのだろう。
 考えてもみれば、非常に悪い意味ではあるが、現在の情勢に彼の残した影響は大きい。

 その才能を良い方向に活かしていれば、ずいぶんと状況は違っていたのだろう。

「それでね、面白いのはここからなの。もっとも、本題からは逸れちゃうんだけど」

 そう前置きをしてから、リリィは語った。

「アケルの歴史書には、エルフの記述はそこそこ出てきたの。ただ、どの文献を当たっても、八百年くらい前までしか記述がないんだよね。というか、そもそも、それ以前の出来事に触れられてる文献が少ないんだけど。どうもそのあたりで情報の断絶があるみたいでさ」
「断絶?」
「うん。なんでも、世界的な大災害があったんだって。モンスターの大発生と天変地異が重なったとか」
「大災害……初めて聞くな」
「勇者の伝説では触れられてないんだよね。勇者の絶対性に傷が付くって判断なのかも。ただ、影響は確かにあって、そのあたりより前の伝承が、かなり曖昧な感じなんだよね」

 おれの知識の大部分はシランのものに依存している。

 シランは平民の出身では教養のあるほうだ。
 しかし、義務教育があるわけでもないこの世界、限界はある。

 確かにリリィのしているように、書物から知識を得るのは必要なことなのかもしれない。

「いまのところの収穫はこんなところかな。もうちょっと聖堂教会関係の資料とか歴史とか、当たってみるつもり」
「わかった。楽しんでいるのはわかったけど、根を詰め過ぎないようにな」
「ん。お夕飯までには戻るから。ご主人様はゆっくりしてて」

 リリィは腰をかがめておれの頬にキスをしてから、部屋を出て行った。

 うしろ姿が見えなくなる。

 おれはソファに寝転がった。
 リリィに言われたからというわけではないが、ちょっと休むことにしたのだ。

 ほうと吐息が漏れた。

「お疲れだの」

 ソファの背もたれのうしろに回ったガーベラが、ひょこっと顔を出した。

「妾も……ふわぁ。ちと疲れたの」

 目をしょぼしょぼとさせて、彼女は背もたれに身をもたれかけさせる。

 声をかけられたのは、そうしてふたり、なにをするでもなく体を休めていたときだった。

「――あ。先輩」

 ちょっと眠りかけていたかもしれない。

 瞼を持ち上げて視線を向けると、こちらにやってくる加藤さんの姿があった。
 そのうしろにはローズもいて、近付いてくると頭を下げた。

「おかえりなさいませ、ご主人様。姉様にきいて、こちらに参りました」

 ふたりは討伐には参加せず城に残っていたのだった。

「姉様が席を外している間、ガーベラと一緒に護衛をするようにと言われております。ここで作業をしてもかまいませんでしょうか」
「おれは気にしないよ」
「ありがとうございます」

 リリィは気を利かせて、数日離れていた妹に、おれと一緒にいる時間を作ったのだろう。

 おれとしても、その判断にはまったく文句はなかった。

 ふたりはローズの作業用の荷物を広げ始めた。
 床が汚れないように厚手の布を敷いてから、そのうえに道具を並べていく。

「真菜はそのあたりに座ってください」
「わかりました」

 布を敷いた位置は、おれが寝転がるソファの前だった。
 ローズは作業をするために、広い空間のある部屋の中央に近いところに座り、加藤さんはおれの近くに腰を下ろした。
 加藤さんのふたつに結わえた髪の間、無防備なうなじが手を伸ばせば届く位置にあった。

「では、始めましょうか」

 ローズが作業用のナイフを抜いた。

 立て続けにあった聖堂騎士団、辺境伯領軍との戦いで、ローズのこれまで製作してきた魔法道具はかなりの部分が消費されてしまった。
 その補充は急務であり、ここ一ヶ月、用事がなければローズはいつもなにかを作っている。

 そんな彼女を前にして、いつまでも寝転がっているのもなんだろう。
 おれはそう思ったのだが、体を起こそうとしたところでローズにとめられてしまった。

「ご主人様はそのままでいらしてください。お疲れでしょうから」
「しかしな」
「ローズさんの言う通りですよ」

 加藤さんもこちらを振り返って、口を添えた。

「遠出をして、モンスターを討伐して、帰ってきて大勢の人の前で慣れない凱旋なんかしたんです。ちょっとぐらい休んでいたって、誰も文句なんて言いません。むしろ休むのを邪魔したみたいで、わたしたちのほうが落ち着きませんし、ゆっくりしていてください」
「……まあ、そういうことなら」

 気持ちが疲れているのは事実だったし、ここで問答をするのすら億劫でもあった。

 これまでずっと寝食をともにしてきて、今更、寝転がっているのを見られるくらいなんでもない。
 厚意に甘えることにしたところで、小さな欠伸が出た。

 加藤さんが口元に手を当てて笑った。

「本当にお疲れみたいですね。そういえば、遅くなりましたけど、おめでとうございます。凱旋を見ていましたけれど、成功したようでよかったです」
「見にきてたのか?」
「あ、いえ。見ていたのは、ここからです。望遠鏡があったので」
「ああ、そういうことか」

 男性恐怖症が完治したわけでもない加藤さんが、あの群衆のなかに足を踏み入れるのは難しいだろう。

 納得したところで、加藤さんがくすりとした。
 なにかと思うと、彼女は視線でおれのうしろを示した。

「ガーベラさん、寝ちゃったみたいですね」
「……だな」

 ソファの背もたれにうしろから寄りかかって、ガーベラは静かな寝息をたてていた。

 普段は立ち振る舞いからどうも可愛い印象があるのだが、こうしているとやはり美人だ。

 ぼんやりと見惚れていると、ローズが声をかけてきた。

「ご主人様もひと眠りしたらいかがですか。その場合、ベッドに移動されたほうがよいでしょうが」
「いや。そこまで疲れてない。大丈夫だ」

 視線をずらして、今度はローズが作業をしているところを眺める。

 彼女はなにやら、武器かなにかの柄のようなものを削り出しているようだった。
 魔法のナイフを操る手付きは滑らかで、それこそ魔法のように器用に動く。

 こちらもこちらで、見ていて飽きない。

 床のうえに木屑が溜まってくると、邪魔にならないように加藤さんが集めて袋に入れた。

 ふと、その目がこちらを向いた。

「そういえば、先輩。ちょっと訊いてもいいですか」
「なんだ、改まって」

 加藤さんは手にした袋の口を閉じてから、こちらに向き直った。

「この間、島津さんが来たときのことなんですけど、探索隊との合流について提案されたじゃないですか」
「……されたな」
「先輩、その場で答えなかったじゃないですか。わたしはてっきり、すぐ断ると思っていたんですけど。なにか理由があったのかなって」

 なにげない口調だった。
 特別な意図があるわけではなく、単に気になっただけなのだろう。

 もっとも、問われた側もそうであるかは、また別の話だったが。

 おれは少し考えを纏めてから、答えを返した。

「……まあ、なんというか、そのあたりが理由かな」

 加藤さんはきょとんとした。

 もともと、あどけない顔立ちをしているので、そうすると彼女の幼い印象が強まった。

「と言いますと?」
「加藤さんも、おれが断ると思っていたんだろう。おれにはコロニー崩壊のときの経験があるからな。どうしても、転移者の集団に対しては警戒心が先立つところがある。信用してない相手と合流なんてできない」

 溜め息が出た。

「……と、思ってたんだけどな」
「いまは違うんですか?」
「いや。いまも同じだよ」

 否定して、付け加える。

「ただ、それでいいのかと思った」

 思いのほか、島津さんは好意的だったから、ふと思ってしまったのだ。
 これを即座に断るのはどうなのかと。

 そうして考えたら、気付いてしまった。

「自分があの頃の感情に流されていないかって、ふと思ったんだ」

 気付いた以上は、無視できなかった。

「おれには、みんなを率いる責任がある。常に最善を選ぶことはできないにせよ、最低限、常に最善だと判断したものを選択したうえで決断する義務がある。……だけど、感情で拒絶するのは、その逆だ」

 選択肢があって選ばないのと、最初からないのとでは話が違う。
 前者は決断であり、後者はただの拒絶だ。

「考えたうえで判断を下しているつもりで、感情に動かされていないかって疑問に思ったんだ。だから、あのとき即座に断ることも、受け入れることもできなかった」
「先輩はちゃんと考えてると思いますけど」
「……だったらいいんだが。この件については、おれは少し自信がないよ」

 加藤さんはこう言ってくれるが、実際、どうなのかはわからない。
 確信が持てない。

 視線が自然と天井のほうに逸れて、苦笑が漏れた。

「……ああ。悪い。愚痴みたいなことを聞かせた」

 話をするつもりではなかったところまで、口にしてしまった自覚があった。

 こんな弱音が出るのは、やはり疲れているからかもしれない。

 気を取り直して、おれは自分の発言をフォローする。

「とにかく、おれが断らなかったのはこういう理由だよ。大したことのない理由だから、必要なときまでにはちゃんと決めておく。だからそこは心配しないでいい」

 頭のなかにあるもやもやしたものを拭うように、額のあたりを押さえた。

 その手を掴まれた。

「……加藤さん?」

 加藤さんが、こちらに身を乗り出していた。

「大丈夫です」

 ひょっとすると、それは反射的な行動だったのかもしれない。

 普段より三十センチも顔の距離が近かった。
 そして、本人はそれに気付いた様子もなかった。

「先輩なら大丈夫です」

 加藤さんは力強く主張した。
 前のめりになった分だけ近付いた顔が赤かった。

 それだけ、声に力を込めていたのだ。
 おれの胸を揺さぶるだけの力があった。

「わたしは、先輩を信じてます」

 体温の上昇のせいか、少女の匂いが強くなる。
 どこか甘い匂いだ。

 それが加藤さんのものだと判別できるくらいには、付き合いは長くなっていた。

 おはようからおやすみまで。
 元いた世界であれば、ただの友達どころか、親友……あるいは恋人であっても、これほど長く一緒にいることは稀だろう。

 それでいて、彼女は眷属ではない。

 酷い目に遭っているところを助けて、最初は疑って、間違いに気付いて後悔して、一緒にいたいと言われて、これまでずっと時間を共有してきた。

 リリィたちと同じくらいに大事な仲間で、守りたい人のひとりだ。


 ――あるいは、そんな彼女の存在があるからこそ、いまおれは迷っているのかもしれなかった。


 なぜなら、加藤さんは転移者だ。
 幹彦みたいに元の世界にいたときから知り合っていたわけでもない。

 コロニー崩壊のあとに出会った転移者だ。
 良いことも悪いことも、様々な出来事が積み重なって、いまのかたちを作り出した。

 彼女と探索隊の違いはなんだろうか。

 能力を持っていることか。
 だったら、彼女が能力を持ったら突き放すのか。

 そんなことはありえないというのなら、探索隊だって同じではないのか。

 それとも、加藤さんが例外で特別なのか。
 だとすれば、それはどういう意味で特別なのか。

 つまるところ、おれにとって、加藤真菜という少女はなんなのか。

 疲れているせいか、そんな取り留めのない考えが脳裏に過って――

「あ」

 ――我に返ったのか、加藤さんが手を離した。

 今度はまた別の意味で、その頬が赤く染まった。

「ご、ごめんなさい」

 前のめりになっていたのが、わたわたと後ずさる。
 さっきまでおれの手を握っていた指の先を、火傷でもしたみたいに押さえていた。

 上気して、わすかに潤んだ目がこちらに向けられる。
 なんだかひどく切なげな、特別な表情。

 おれは視線を逸らした。

「ああいや。謝るようなことはないが……」

 これはよくない。
 というより、はっきりとまずい。

 ありえない勘違いをしてしまいそうになる。

 男性恐怖症の彼女に限って、そんなことはありえないのに。

 おれたちはふたり揃って沈黙してしまった。
 なんとなく気まずいような、落ち着かないような空気が満ちる。

 そのときだった。

「……主殿、加藤殿」
「っ!?」

 声をかけられて、おれと加藤さんは同時にびくりとした。

 気付けば、眠っていたはずのガーベラが目を開けていた。

 もたれかかっていたソファの背もたれから、彼女は静かに身を起こす。

「どうしたのですか、ガーベラ」

 これまで静かにしていたローズがそう尋ねたのは、ガーベラの表情がやや険しいものだったからだろう。

 視線は部屋の入口に向けられていた。

「……なにか妙な感じがする。気を付けよ」

 なんのことだと尋ねる前に、部屋に近付いてくる気配があった。

 即座に思考を切り替えて、おれは身を起こした。
 ソファに立てかけていた剣を手に取り、いつでも抜けるように柄を握る。

 そうして数秒。部屋に巨大な狼が姿を現した。

「……ベルタ?」

 疑問に思いつつ、おれは呼び掛けた。

 ここしばらくはのんびりしていたはずのベルタの雰囲気が、はっきりと固かったのだ。
 敵意の類は感じ取れないが、単純に緊張している。

 その脇にいたあやめが、ととーっとこちらに走り寄ってきた。
 普段面倒見のよいベルタは、そちらに目を向けることもなかった。

「真島孝弘。少し時間をもらえるか」

 そう告げる声も強張っていた。

 その理由はすぐにわかった。
 ベルタのうしろから少年が部屋に足を踏み入れたからだ。

「失礼します」

 その場の空気が凍り付いた。

「……工藤」
「お久しぶりです」

 ベルタの主、『魔軍の王』工藤陸は、にこやかな笑顔を向けてきたのだった。
◆加藤さん回です。

基本的に加藤さんは、主人公への好意を隠しているつもりです。しかし、あまり隠せていません。
普通なら主人公も気付けますが、加藤さんの境遇からそういうことを極力考えないようにしているせいで答えに辿り着けません。

みなさまお気付きのように、はたから見ると、割といちゃいちゃしている感じです。
ガーベラは寝ていたので聞いていませんが、ローズは邪魔しないように手をとめて、ばっちり全部聞いていました。

そこに魔王がどーん。

ということで、次回に続きます。
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