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モンスターのご主人様 作者:ショコラ・ミント/日暮 眠都

6章.

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33. 人形の抗い

前話のあらすじ

聖堂騎士団相手のローズの奮戦。
しかし、その前に『天使人形』が立ち塞がる。
   33   ~ローズ視点~


 地面から立ち昇った光のなか、三体の裸体の人型が姿を現した。

 頭の先から足元まで、つるりとした体に男女の区別はない。
 無個性な顔立ちは、全員がまったくの同一だった。

 不気味さと神聖さとを等分に感じさせるその光景と、それを作り出した人間の言葉が、わたしの記憶を刺激した。

「……『天使人形』?」

 聞いたことのある名称だった。

 確かトラヴィスの部下の騎士が使用した能力が、そのような名前だったはずだ。

 実際に目撃したのは、ご主人様やリリィ姉様たちになる。

 襲われる同郷のエルフたちの姿を見て我を失い、暴走したシランさんを追い掛けて辿り着いた村。
 そこで遭遇した聖堂騎士のひとりが、そのような能力を使ったと聞いていた。

「まさか生きていたのですか。その後の戦場で姿が見られなかったので、てっきり死んだと思っていたのですが」

 その後の防衛戦において、どの戦場でも『天使人形』の能力が使われることはなかった。

 だからてっきり、どこかで能力を使う暇もなく、倒れたのだろうと思っていた。

 あの戦いでは、ガーベラとリリィ姉様が森のなかで何人もの騎士を不意打ちで倒したり、ロビビアが家ごと騎士を潰したり、わたしも戦装『ファイア―ワークス』で敵を一撃で吹き飛ばしたりしたので、そのいずれかに巻き込まれた可能性は十分にあり得たのだ。

 けれど、そうではなかった。

 彼は生きており、いまわたしの前に障害として立ち塞がっていた。

「『天使人形』のオットマー=ヴァラハだ。こちらも手札を切らせてもらうぞ」

 名乗りをあげた男――オットマーが、自身の人形に命令を下した。

「行け」

 人形たちが滑るように走り出した。
 その手には、翼を思わせる意匠の槍が握られている。

 人形たちは距離を詰めると、無言で槍を繰り出してきた。

 合わせてこちらも斧を振るい、槍の穂先を弾き返す。

 武器の特性上、威力はこちらのほうが上だ。
 けれど、取り回しは敵に軍配が上がった。

 強く弾いたはずの穂先が、鋭い軌跡を描いて返ってくる。
 その槍捌きを見れば、容易ならざる敵であることはすぐにわかった。

 それも、相手は一体ではない。
 同一の存在である三体の天使人形の連携は、騎士たちのものを凌駕していた。

「……くっ」

 躱し、打ち返し、受け止めて防ぐ。
 それでも追い付かず、穂先が体を削っていく。

 話に聞いていたより、遥かに強い。

 以前に『天使人形』に遭遇したリリィ姉様とガーベラは、簡単に倒すことができたと言っていた。

 けれど、これはそんな容易いものではない。

 違いは数だろうか。

 以前の遭遇では、二十体ほど生み出されたという人形が、今回は三体しかいない。
 その分だけ個体が強化されているのか、あるいは、数は少ないが強力な個体を利用しているのか。

 能力の詳細がわからない以上、はっきりしたことは言えないが、とにかく、状況に応じた手を打ってきたということだろう。

 そのうえ、人形たちの攻めを見て、先程まで戦っていた騎士たちが隙を窺っていた。
 そちらにも注意を割かなければならない。

 打ち合いでは、こちらが不利だった。

 唯一、わたしが有利な点は、戦装『マトリョーシカ』があることだ。

 あっという間にぼろぼろにされてしまった手足を、その都度、換装していく。

 そうすることで、かろうじて戦闘を継続する。
 けれど、騎士たちよりも隙のない人形の連携を前にして、こちらから攻撃するまでには至らない。

 斧だけでは埒があかない。

 そう判断して、模造魔石を利用したナイフを取り出した。
 使用に伴い、これも数が少なくなりつつあるが、背に腹は変えられない。

 魔力を込めてナイフを投擲。
 爆発により生じた隙を突こうと、斧の長柄を握り締めて――

「なっ」

 ――人形が爆風のなかを突っ切ってきた。

 伸ばした槍の穂先でナイフを弾いて、爆発をなるべく遠間で起こすことで、影響を最小限にしたのだ。

 多少は体勢を崩さなかったわけではないが、生じた隙など一瞬のものに過ぎなかった。
 即座に立て直せるだけの戦闘能力を保持していたのもあるが、それより大きいのは、爆発に対する本能的な恐れや反射的な硬直がないことだった。

 球体関節どころか、体に繋ぎ目さえない『天使人形』は、見た目だけならわたしよりも人間らしいが、その本質はただの操り人形、ただのモノだ。
 概念としては、飛び道具に近い。

 何事もなかったかのように距離を詰めると、槍を繰り出してくる。

 わたしも応じて斧を振るうが、反撃の手段がない以上、ここから先は先程までの繰り返しだ。

 掌が砕かれる。
 指が断たれる。
 太腿に亀裂が入る。

 そのたびに、手足を換装する。

 見た目に変化はないが、蓄えは減っていく。

 削られていく。
 貯め込んでいた物量が、長い時間をかけて積み上げたものが、わたしという存在そのものが、どんどん削り取られていく。

 追い詰められる。

「ギィ……!?」

 腰に一撃。
 避けきれなかった。

 このままでは、削り殺される。
 そう察した。

「ッ! あああああ!」

 危機感が体を突き動かした。
 手足を換装して、前に出た。

 不用意とも言える前進だ。
 その代償は大きかった。

「ギッ、ガ……ァ」

 一体の攻撃は弾いたものの、残りはまともに喰らった。
 左の二の腕と、右足の膝関節が一撃で吹き飛ばされた。

 覚悟はしていた。
 だから、手足の破片を撒き散らしながら、それでも前に進んだ。

 活路を開く。

「ここ……です!」

 前のめりに倒れるような不格好な状態ながらも、人形の一体を間合いに捉えた。

「逃がしません!」

 右腕一本で握る斧を、腕も千切れよとばかりに振り回した。

 大きく弧を描いた戦斧が、胴体目掛けて走る。
 陶器の砕けるような、甲高い音がした。

 人形の左腕が砕け散った音だった。

「あ……」

 斧の切っ先は、体まで届いていない。

 人間であれば、咄嗟には動けないほどの重傷だったが、その身が人形である以上、それはただ体の一部を失ったというだけのことに過ぎない。

 わたしはそれをよく知っている。
 これまで自分がしてきたことだからだ。

 それをやり返された。

 だから、次は手痛い反撃が来るのは予想できた。
 わかっていても、対処する時間がなかった。

 腕を失った人形が槍を跳ね上げ、穂先が左の顔面を打った。

 砕けた。

 その事実を認識したときには、無傷の二体が迫っていた。

「ガ……ッ!?」

 十分な溜めから繰り出された一撃が、肩を貫いた。

 接続部を破砕され、左の腕が落ちた。

 深刻な破損だった。
 戦装『マトリョーシカ』は、損傷した腕をすげ替えることはできるが、腕自体がなくなればどうしようもない。

 そして、もう一体の攻撃は、腰を深々と貫いていた。

 とても嫌な音がした。
 貫通した穴を中心に、体に亀裂が走っている。

 もともと、何発か攻撃を受けていたところに、会心の一撃を喰らったせいだった。
 あと少しなにかが違っていれば、砕かれていたかもしれない。

「ガ、ギ……」

 足腰に力が入らない。
 あまりにも手酷いダメージだった。

 敵がこの隙を見逃すわけがなかった。

「もらった!」

 人形たちに連携して、側面に回り込んでいた目敏い騎士のひとりが、わずかな時間差で飛び込んできていた。

 その手に握られた剣はこの身を打ち砕き、わたしを戦闘不能に追い込むだろう。

 これで終わり。

 ……なんてこと、受け入れられるはずがなかった。

「ぁ……ああああ!」

 自身の損傷を度外視する人形同士の戦いはわたしの持っていた優位を失わせた。
 けれど、わたしにはただの人形にはない想いがあった。

 まだ終われない。
 負けるわけにはいかないのだ。

 斧を掴む手に、あらんばかりの力を込める。

 飛び込んできた騎士に対して、逆袈裟に斧を斬り上げた。

 まさかこの状態で動くと思っていなかったのか、騎士はまともにこれを喰らった。
 信じられない顔をして、血飛沫をあげて倒れる。

 わたしはもう、そちらには気を払うことなく、斬り上げた斧を頭の上で回転させた。

 これはダメージを無視した殴り合いだ。
 今度はわたしの番だった。

 目の前の人形の頭に、握り締めた斧を叩き付ける。

 半月状の刃は、頭頂から胸の半ばまでをふたつに叩き割った。

 深々とめり込んだ斧を引き抜く暇はない。
 柄から手を放した。

 人間のいう、火事場の馬鹿力というやつだろうか。
 体が動く。これまでにないほどに。

 ただ、あまりにも無茶な挙動をしたために、堪えかねた関節が軋む音がした。

 ともすれば、自壊する危険さえ感じた。

 かまうことなく、振り返った。

「邪魔です!」

 さっき腕を落としてくれた人形の顔面に、握り込んだ拳を叩き込んだ。

 こちらの拳が半壊し、人形はもんどりうって引っ繰り返った。

 入れ替わりに、片腕の一体が槍を突き込んできた。

 その槍を、右腕で受け止めて引き込んだ。

「ああああああ!」

 引き寄せた顔面に、思い切り頭突きを打ち込んだ。

 破滅的な音がして、顔が壊れた人形が背後に引っ繰り返った。

 その反動で、わたしも逆方向に倒れた。

「ギッ」

 背中が地面に打ち付けられる。

 一瞬、意識が曖昧なものになりかけた。

「う、ぁあ……」

 派手に魔力を使い続けたため、ついに自身を保つだけの魔力が枯渇しかけているのか。
 あるいは、度重なる傷の数々が、わたしという存在を脅かしているのか。

 ……どちらであっても、かまわない。

 ぎしぎしと音を立てながら、身を起こした。

「まだ、です」

 立ち上がろうとしたが、うまくできなかった。
 無理をしたせいで、腰の亀裂が大きくなっていた。

 それでも、立ち上がらなければいけなかった。
 そうしてでも、守りたいものがあったのだ。

「まだ、戦えます」

 転倒の拍子に体から抜け落ちた敵の槍が、近くに転がっているのを見付けた。
 壊れた右腕を換装してから、引き寄せた。

 それを杖代わりにして、身を起こした。

「まだ、わたしは……」

 それ以上、続けることはできなかった。

 次の瞬間、飛来した岩石の弾丸がわたしの体を撃ち抜いていた。

◆お待たせしました。

あと二話、更新です。
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