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モンスターのご主人様 作者:ショコラ・ミント/日暮 眠都

6章.

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24. 逃避行での防衛戦

(注意)本日3回目の投稿です。(3/18)












   24   ~ローズ視点~


「敵! 近付いてきます!」

 精霊によって周囲を警戒していたリアさんが叫んだのは、夕刻前のことだった。

 ご主人様と言葉を交わしたあと、リリィ姉様と護衛を代わったわたしは、シランさんの指示のもと出発したエルフたちと肩を並べて歩いていた。

「攻撃! 上です!」

 悲鳴のようなリアさんの警告と、敵の攻撃は同時だった。

 まだ距離はかなり離れていたが、敵は遠距離攻撃を仕掛けてきていたのだ。

 森のなかの道を歩くエルフたちを横合いから襲う、弓矢による攻撃だった。

 山なりに放たれた矢は、エルフたちの頭上に雨のように降り注いだ。

 ぎりぎりでガーベラとベルタが動いた。

 矢を防ぐために蜘蛛糸が振り回され、触手が飛び交った。
 遅れてエルフたちの悲鳴があがった。

 位置的に近かったのもあり、わたし自身は、ご主人様や真菜が乗っている車を守るために動いていた。

 斧を振り回して矢を弾いたときには、周囲はパニックに陥りかけていた。

 蜘蛛の子を散らすように、エルフたちは安全な場所を探して動き出そうとした。
 その寸前だった。

「落ち着きなさい!」

 シランさんが叫んだ。
 頬をひっぱたかれたかのように、エルフたちが動きをとめた。

 そうさせるだけの力が、シランさんの声には含まれていた。

「みんな、一箇所に集まりなさい!」

 守る対象がばらばらに動かれてはやりづらい。
 ましてや、戦える人数が少なければ尚更だ。

 さすがは同盟騎士団の元副長と言うべき、速やかで的確な判断だった。

 しかし、その指示に従うだけの素早さが、エルフたちには足りていなかった。

 彼らはただの村人であって、騎士でも兵士でもなく、村から逃げ出したせいで精神的に参っており、不意打ちを喰らって混乱していた。

 それに加えて、敵の動きが早かった。

 エルフたちが反応したときには、すでに第二射は放たれていた。
 今度は魔法まで混ざっていた。

 シランさんのお陰で、ばらばらになっていなかっただけましとはいえ、それでも集団は少し広がっていた。
 守り切れず、方々で悲鳴があがった。

「なんなのだ、これは!」

 ガーベラが、呻き声をあげた。
 蜘蛛糸を放ったあとで、エルフを狙って放たれた炎弾を咄嗟に蜘蛛足で叩き潰す。

 かなりの力量の魔法使いの放ったものだったのか、魔法道具の助けでも借りているのか、白い毛が飛び散って、ガーベラの体勢が崩れた。

「ぐっ、まさか追い付かれたというのか……!」
「そんなはずはありません!」

 シランさんが否定した。

「五千の大軍が追い付くような時間はありませんでした!」
「だが、現に我らは攻撃を受けておるではないか!」
「……問答をしている暇はない。次がくるぞ!」

 ベルタが唸り声をあげる。
 容赦のない攻撃が再び襲いかかってきた。

 なんとか凌ぐが、また怪我人が出てしまい、苦痛に喘ぐ呻き声が増えた。

「くそっ! 好き勝手やりやがって!」

 先頭付近でエルフたちを守っていたロビビアが、舌打ちをした。

 服を纏める帯を引き抜いて、小柄な体をドラゴンのものに変える。

「ガアァアア!」

 ロビビアは咆哮をあげると、折れた腕を庇いながらも、矢の飛んできた方向に駆け出した。

 これ以上やられる前に、先手を打つしかないと考えたのだろう。
 咄嗟の判断としては、悪くないもののように思えた。

 だが、そこでシランさんが、ばっと振り返った。
 多人数での戦闘経験が豊富な彼女は、視野を広く保っていた。

 そのために、最初に気付いたのだろう。

「逆側! 来ます!」

 さっきまでとは逆方向から矢の雨が飛んできたのは、次の瞬間のことだった。

「まさか、二手に分かれておったのか……!?」
「ぐるぅうう……!」

 ガーベラとベルタが、エルフたちを飛び越えて逆側に回り、からくも攻撃を防いだ。

「ぎゃおっ!」

 あやめも防御に加わり、炎弾を吐き出して矢を迎撃した。

 背後が大変なことに気付いたロビビアも、慌てて振り返って、戻ってこようとした。

 その背中に、矢と魔法が降り注いだ。

「グァアァ!?」

 攻撃を集中されたロビビアが、足を滑らせて転倒した。
 かなりの痛手だったのか、苦痛に喘ぐ。

 そうする間にも、挟み撃ちの矢は降り注いでいて――

「わたしがフォローする!」

 ――車内から、リリィ姉様が飛び出してきた。

「やぁあ!」

 軽やかに駆け回り、槍を片手に防衛に回る。

 飛んできた矢が次々に弾き飛ばされた。

 さすがの働きだが、姉様の表情は厳しい。

 この状況なら風属性の魔法のほうが使い勝手は良いはずだ。
 使わないのは、魔力量が心許ないからだろう。

 リリィ姉様と同様に、ケイも車内から飛び出して防衛に回り、魔力欠乏に陥ったシランさんでさえも剣を握っていた。

 みんな、エルフたちを守るのに手一杯だった。

 その防御さえ満足なものではなかった。
 エルフたちが一箇所にまとまっていれば良かったのだが、そうでないために、この人数では守る範囲が広過ぎたのだ。

 さっきのシランさんの指示に、エルフたちがすぐに従ってくれれば、話はまた違っただろう。
 だが、ただの村人でしかない彼らにそこまでの臨機応変さを求めることはできなかった。

 いまとなっては、すでに怪我人が出てしまっているために、尚更、指示に従うことは困難だった。

 対処をするのなら、こうなる前でなければならなかったのだ。

 これが普段のわたしたちなら、もう少しうまくやれただろう。
 けれど、いまのわたしたちは様々なものを欠いていた。

 ――精神的な主柱であるご主人様が不在であること。
 ――頭脳として貢献し続けた真菜の知恵を借りられないこと。
 ――最大戦力のひとりであり、長姉であるリリィ姉様の参戦が遅れたこと。

 欠けた歯車のせいで、すべてが少しずつずれていた。

 このままでは、いいようにやられるだけだ。

「一度、体勢を立て直さないと……!」

 わかってはいるのだった。

 けれど、誰もがすでに手一杯で、現状打破の一手を打つ余裕がなかった。

 わたし自身、ご主人様の乗る車を守ること以外できなかった。

 斧を振るいながら打開策を必死で考えるが、妙案なんてそう都合良く思い付くはずもない。

 どうにか、どうにかしなければ……と、空転するわたしの思考が、次の瞬間、硬直した。

「……え?」

 気付いたのは、わたしが最初だったはずだ。
 守っている車のなかから、ふらりと現れる人影があったのだ。

 ご主人様だった。

「だ、駄目です、先輩!」

 傍には真菜がいて、ご主人様をとめようとしていた。

 それも当然。
 ご主人様の顔は青白く、立ち歩いていいような状態ではなかった。

 矢の飛び交う外が危険だというのもあったが、それ以前の問題だった。

 体だってふらついており、いつ倒れてもおかしくなかった。

 それでも、表情だけは決然としていた。

 自分の為すべきことをわかっている者の顔だった。

 ……為すべきこと?
 それは、なにを?

 そこまで考えたところで、人形の体が崩れてしまいそうな衝撃が心に走った。

 ご主人様がしたいことは、いつだって決まっている。

 大事なみんなを守ることだ。
 もう二度と、取り落とさないことだ。

 それはとても美しく、決して曲がることのない願い。

 ゆえに迷いなく手をかざすと、ご主人様はかさついた唇で言葉を紡いだのだ。


「――魔法『霧の仮宿』」


 それは、現状打開の一手。
 爆発的な勢いで発生した霧が、周囲一帯を覆い尽くした。

 視界が潰れ、ありとあらゆる行動が制限される。
 だが、ご主人様と、その眷属にとってはそうではない。

 そもそも、わたしは視界で世界を見ているわけでもないので関係ないが、それ以外のみんなにも、パスを介して、ご主人様とサルビアが『霧の仮宿』で得ている情報が流れてきていた。

 そして、もうひとつ大きいことに、霧は敵を補足していた。

 百名ほどの部隊がふたつ、道の左右にそれぞれ配置されているのがわかった。
 どうやら、追い付いたのは敵の本隊ではなかったらしい。

 だとすれば、やりようはあった。

「あやめ! ロビビア! いまのうちにやれ!」

 ご主人様が叫んだ。
 部隊のそれぞれに対して、あやめの吐き出す炎弾と、上体を起こしたロビビアの竜の炎が吐き出された。

 距離はあったが、それでも悲鳴があがった。

 その間にも、散発的な攻撃があった。
 けれど、それはわたしたちに対処可能な範疇に留まっていた。

 形勢逆転だった。
 奇襲を仕掛けてきた敵に、一矢報いることができたのだ。

 そのままいけば、敵に大きな損害を与えることさえできたかもしれない。

 けれど、敵は賢明だった。
 これ以上は損害が大きいものと判断したのか、すぐに撤退を開始したのだ。

 追い打ちをかけるチャンスではあった。

 けれど、こちらにもその余裕がなかった。

 わたしたちに有利をもたらしてくれた霧の魔法は数秒程度しかもたず、撤退する敵の位置はすでに曖昧なものになっていた。

 エルフたちは傷付いており、すぐにでも態勢を整える必要があった。
 そうでなければ、攻撃が再開されて元の木阿弥ということにもなりかねなかった。

 そして、それ以上に大きな問題があった。

「どうにか、なったな……」

 急速に晴れていく霧のなかで、ご主人様がつぶやいた。

 真菜に寄り添われてかろうじて立っているものの、顔色は真っ青だった。
 全力疾走でもしたかのように大きく肩が上下している。
 たとえ数秒でも、魔法を展開できたのが信じられないくらいだった。

「ご主人様!」

 わたしは駆け寄ろうとするが、その前にご主人様の体が傾いた。

「急いで、態勢を……また敵が来る前に、早く……」

 意識を失ったご主人様が、その場に崩れ落ちた。
◆ピンチに陥った一行でしたが、
主人公の活躍により、どうにか敵の襲撃を退けることに成功しました。

本日の更新はここまでになります。


◆告知です。
書籍版『モンスターのご主人様 ⑨』が発売になります!
発売日は、来月末、4月28日です。予約等も始まっていますので、よろしくお願いいたします。

今回も書き下ろしがいっぱいです!
ブレザー制服姿のシランとか出る予定! お楽しみに!
+注意+
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