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モンスターのご主人様 作者:ショコラ・ミント/日暮 眠都

6章.

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13. 韋駄天と魔王の交錯

(注意)本日3回目の投稿です。(12/26)












   13   ~飯野優奈視点~


 状況を整理しよう。

 これまでわたしは聖堂騎士団第二部隊と一緒に、偽勇者の噂話を追ってきた。

 けれど、成果は出なかった。
 追い掛ける偽勇者の行動に関して、腑に落ちない点ばかりが引っ掛かった。

 そのため、『魔軍の王』工藤陸の犯行を疑った。
 しかし、仮に偽勇者の正体が工藤陸なのだとすると、どうして彼が村を訪れて、偽勇者を名乗るなんて迂遠な真似をしたのかがわからなかった。

 その疑問の答えが、この地には揃っていた。

 探索隊のメンバーがいるはずの村。
 そこに現れた、異常な数のモンスターたち。

 そこから導き出される答えは……。

「……見付けたわよ、諸悪の根源」

 二十以上のモンスターを斬り捨てて、ようやくわたしは足をとめた。

 崖の上、モンスターに囲まれた細身の少年が、こちらを振り返った。

 柔和な顔立ち。冷たい目。
 人に絶望した魔王の表情。

 予想していた通りのものがそこにあった。

「『魔軍の王』工藤陸……!」
「……そういうあなたは飯野優奈ですか。『狂獣』の一件以来ですね」

 怒りを込めて名前を呼べば、薄い微笑みが返ってくる。

 背筋に怖気が走る。
 感情の死んだ笑みだった。

「しかし、諸悪の根源とは奇妙な物言いをしますね」

 落ち着き払った様子で、工藤陸はこちらに向き直った。

 探索隊の『韋駄天』を前にして、怯んだ様子もない。
 それだけ自分の力に自信があるのだろう。

 実際、周りにいるモンスターの数は多い。

 そのなかには、十文字くんの姿もあった。
 ドッペル・クイーン、アントンの分体だ。

 高屋くんとの戦いでは共闘したが、今回は敵同士だ。

 なるほど、これだけいれば、チート持ちのなかでもウォーリアのレベルなら、十分に圧殺できるだろう。

「ぼくは魔王。確かに、悪そのものに違いありません」

 工藤陸はこんなふうに嘯いてさえみせた。

「しかし、殊更に悪行の原因とされるのは、心当たりがありませんね」
「ふざけないで!」

 今更、とぼけられるとでも思っているのだろうか。

 良いだろう。
 それなら、すべてを暴いてやる。

 わたしは怒りを抑え付けて、弾劾の言葉を紡いだ。

「最近、この地方で、勇者を騙る人間が訪れたいくつかの村が、モンスターに呑み込まれたわ。被害はあるのに、肝心の偽勇者は見付からなかった。いくら探してもね」

 聖堂騎士団第二部隊は、精力的に働いていた。

 なのに、手掛かりのひとつも得られなかった。
 本当に、これっぽっちもだ。

「だけど、それは当たり前のことだった。そうよね? なぜなら『そんなものはいなかった』んだから!」

 工藤陸の取り澄ました微笑みに、わたしは剣の切っ先を向けた。

「この近くの村には、探索隊のメンバーがいたわ。本物の勇者が。きっと、モンスターに壊滅させられたという他の村にも。あなたはチリア砦でそうしていたように、同じ転移者を狙っていた。だから村をモンスターに襲わせた。そして、村に滞在していた勇者を偽者だったということにした。そうなんでしょう!?」

 村をモンスターに襲わせたのが工藤陸なのだとしたら、どうして偽勇者を騙ったのかと考えていた。
 けれど、それは違ったのだ。

 工藤陸が偽勇者を騙っていたわけではない。
 ここには、確かに勇者がいたのだ。

 事実が捻じ曲げられていた。

 偽勇者を探しても、見付かるはずもない。
 そんなものは最初からいないし、本物は全員が村で殺されていたのだから。

 いま考えてみれば、この地方にいるはずの元探索隊メンバーにわたしがこれまで会えなかったのも、これが原因だったに違いなかった。

「答えなさい、工藤陸!」
「……ふっ」

 噴き出す声が空気を揺らした。

 堪えきれないとでも言うように、工藤陸が肩を揺らし始める。

「ふふっ、あはっ。はははは!」

 哄笑が崖上の空気を震えさせた。

「はははははははは!」

 嗤う魔王の足元には、ふたりの血塗れの人間が転がっていた。

 顔も名前も知っている。
 探索隊のメンバーだった。

 もう我慢ができなかった。

「なにがおかしい!」

 地面を蹴った。

 工藤陸との間には、無数のモンスターがいる。
 だけど、こんなものに意味はない。

 切り裂き、刺し穿ち、蹴り付け、飛び越える。

 着地する。
 工藤陸のいるところまで、あと一息。

 反応が追い付いていないのか、工藤陸はいまだに笑みを顔に貼り付けている。

 ならば良い。
 思い知らせてやる。

 そう思ったわたしの目の前で、工藤陸の影が立ち上がった。

「な……っ!?」
「させはしません!」

 現れたのは、影絵から飛び出したかのような白黒の少女。

 両手を剣に変えて、少女はわたしの剣を受け止める。
 切っ先が深々とめり込んだものの、影絵の剣は断ち切れない。

「人間め! 我が王の道は閉ざさせません!」
「こいつ……!」

 この強度、この反応。

 真島と一緒にいた蜘蛛には及ばないが、かなりのレベルだ。
 倒せはするが、一息には厳しい。

「あなたも手伝いなさい、エミル!」

 わたしの一撃を受け止めたその間隙に、少女が叫んだ。

 モンスターの群れのなかから、巨大な獣が飛び出してくる。

「グルルゥォアアア!」
「嘘……!?」

 繰り出された一撃は、あまりにも鋭く重いものだった。
 このわたしでさえ、防げはしたものの、大きく弾き飛ばされてしまう。

「うぐっ、そ……んな」

 地面に剣を突き立てて、ブレーキをかける。
 ダメージはないが、精神的な衝撃は大きかった。

「高屋くん!?」
「グルルルルゥ……」

 赤い毛を逆立たせた凶悪な姿を見違えるはずがない。

「工藤陸の手下になっていたっていうの!?」

 凶獣と化した高屋くんは、山に消えたあと、所在がわからなくなっていた。
 まさか工藤陸と行動をともにしていたとは思わなかった。

 最後に見たときには全身ボロボロだったが、現在は治療もされているようだ。
 片腕こそ失っているものの、それ以外は万全の状態だった。

 状況を把握してしまい、わたしは歯噛みする。

 高屋くんの能力である『狂獣』は、戦闘向けの固有能力であり、チート持ちのなかでもかなり上位の戦闘能力を備えている。

 もうひとりの白黒の少女もいるし、これでは工藤陸を捕縛することは難しい。
 他にもモンスターがいることを考えれば、万が一の事態さえありうるだろう。

「それでも、わたしは……」
「ふふ。笑わせてもらいました」

 そこで、工藤陸がつぶやいた。

 その口元には、まだ笑いの残滓があった。

「あなた……」

 胸のなかの怒りが再び熱を増した。

 あまりにも他人を馬鹿にした態度だった。
 わたしは強く工藤陸を睨み付けた。

「なにがおかしいっていうの!?」
「おかしいですよ」

 ぬけぬけと言って、工藤陸はこちらを見返してきた。

「だって、そうでしょう?」

 自分とは関係のないものを語るみたいな、どうでもよさそうな口調だった。


「勘違いしているようですが、ぼくはその偽勇者の件とは無関係なんですから」


「は……?」

 呆気にとられてしまった。

 これは予想していなかった。
 白々しいにしてもほどがあった。

「……関係がない? この状況で、なにを言っているのよ! だったら、その足元の死体はなんだっていうの!?」

 あまりにもふざけた言い分だった。
 激発して、斬りかかってしまわなかったのが、奇跡的なくらいだった。

「それはそれ、これはこれ……と言っても、聞き入れてくれそうにありませんね」

 工藤陸は溜め息をついた。

「まあ、わざわざ説明をする義理もありません。また、そんな時間もない」

 素っ気なく言うと、馬のような姿をしたモンスターを自分のもとに呼び寄せる。

「逃げるつもり!?」
「はい」

 意外と堂に入った仕草で、工藤陸は馬の背に飛び乗った。

 このままだと、逃げられてしまう。
 わたしは焦りを押し殺して、思考を巡らせた。

「なによ、わたしもあなたが殺すべき人間のひとりじゃないの? ……はっ。怖気付いたのだとしたら、魔王もたいしたことがないわね」
「貴様……」

 挑発をすると、白黒の少女が血相を変えた。

 しかし、肝心の工藤陸の表情にはさざなみひとつ立たなかった。

「なにを言っても無駄です。ぼくはあなたと戦うつもりはありません」
「……逃げられると思っているの?」

 これは駄目だと判断して、別の方向から揺さぶりをかけてみる。

 敵戦力に高屋くんがいるのは想定外だったが、まだ工藤陸とわたしとの間の戦力差はたいしたことはない。
 また、逃げる相手を追う追撃戦なら、わたしの本領を最大限に発揮することが可能だ。

 しかし、工藤陸の態度は落ち着いたものだった。

「逃げられますよ。断言できます。あなたはぼくを倒せない。それに……」

 馬上の工藤陸が、視線を余所に逸らした。

「さっき『時間がない』と言ったでしょう。あれは、ぼくのことではありません」
「なにを言って……」

 わたしはちらりと、工藤陸の視線を追った。

 凍りついた。

「あ……れは」

 崖の下、いまにも村に群がろうとするモンスターの一群が目に飛び込んできたからだ。

 数が多い。

 百か二百か。
 もっといるかもしれない。

 少なくとも、たかだか村のひとつが押しとどめられる数ではなかった。

 はっとして、わたしは工藤陸を振り返った。

「や、やめさせなさい!」

 これが、『魔軍の王』の力か。
 なんてことをしてくれるのか。

 戦うつもりはないなんてふざけたことを言っていたが、とんでもない。
 ますます見逃すわけにはいかなくなった。

 叩きのめして、どんなことをしてでもとめさせなければならない。

 決意を込めて、わたしは地面を蹴ろうとした。

 工藤陸が口を開いたのは、その寸前だった。

「残念ながら、あれはぼくの手駒ではありません。ぼくを倒したところで意味はありませんよ」
「……え?」

 一歩踏み込んだところで、わたしはぴたりと足をとめた。

「なにを言って……」
「いまのぼくは、千近い数のモンスターを意のままに従えることができます。これがぼくの魔王としての力です。しかし、それも限界がないわけではありません。あのモンスターたちは、ぼくの支配の外にあります。なので、ぼくに関わっているのは時間の無駄だと言っているんですよ」
「そんなことを……」
「信じられませんか? なら、かまいませんよ。やり合いましょうか」

 工藤陸が手を挙げれば、モンスターたちが一糸乱れぬ動きでこちらに飛び掛かる姿勢を見せた。

「こちらとしては、焦って本領を発揮できない『韋駄天』を叩き潰せるのなら、それも悪くありません」

 薄らと微笑んでみせる。
 底冷えのする笑みだった。

「どちらにしても、あの村はその間に壊滅するでしょうけどね」
「うっ……」
「付け加えて言えば、この場にはぼくの配下が三百ほどいます。ぼくを殺してしまえば、その三百体についても手が付けられなくなるでしょう。どうしますか?」

 最後の決定を委ねるのは、この際、残酷だった。

 ……どうしようもない。
 そう理解せざるをえなかったからだ。

 わたしは剣を降ろした。
 工藤陸は満足そうに頷いた。

「わかってくれてなによりです。探索隊の『韋駄天』はもっと猪突猛進な考えなしだと聞いていたんですが、話はできたんですね」
「……好き勝手なことを言ってくれるわね」
「感心しているんですよ。あなたは考えなしではありません。間違いは誰にでもあることです」

 馬首を巡らせた工藤陸が、ふと気まぐれを起こしたように、こちらに視線を向けた。

「実際、真実に近いところまで辿り着けてはいましたよ。ただ、あなたが思っているよりも、あなたより愚かな者は多くいます。これはそれだけのことです」
「なに、それ。どういう……?」

 問い掛けるが、返答はなかった。

「それでは、失礼します」

 気まぐれは、これで打ち止め。
 工藤陸は配下を連れて、悠々とわたしの前から姿を消したのだった。
◆3話連続更新でした!
お話的には、もう少し先まで書きたかったのですが、今回はここまでです。


◆『モンスターのご主人様 ⑧』は今週発売になります。
内容は竜の里編の最後まで。

ウェブで書ききれなかったロビビア周りのエピソードを大強化。
また、こぼれ話として、竜の里で水島さんが出てきたあとの主人公との挿話が収録されています。

さらに、ガーベラの下着姿の挿絵がついた、書き下ろしのやりとりなど盛りだくさんです。
お楽しみに!
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