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モンスターのご主人様 作者:ショコラ・ミント/日暮 眠都

6章.

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12. 手掛かり

(注意)本日2回目の投稿です。(12/26)












   12   ~飯野優奈視点~


 挨拶に行ったバン子爵の屋敷で神宮司くんと再会したあと、わたしはゴードンさんをはじめとした聖堂騎士団第二部隊の騎士たちと合流することにした。

 待ち合わせをしていた町の宿に到着する。

「お帰りなさいませ、飯野様」
「ただいま帰りました、ゴードンさん。なにか進展はありましたか」
「それが、飯野様、お聞きください。勇者様の情報を得ることができました。それも、この近くです」

 ゴードンさんは少し興奮した様子だった。

 さっそく、部屋のテーブルに広げられた地図を指し示して、得られた情報を教えてくれる。

「最近、こちらの村で勇者様が目撃されたという情報がありました。それから、こちらの村に移動したと。我々のいるこの町のすぐ近くです」

 太い指が地図の上を滑る。

「普段でしたら、第一部隊のほうにまず連絡を回すのですが、ここは我らが向かったほうが早いでしょう。ようやく偽勇者の尻尾を掴めるかも……」
「……驚きました」

 わたしは小さくつぶやいた。

「そこ、わたしが行こうと言うつもりだった場所です」
「なんと」

 ゴードンさんが示したのは、元探索隊のメンバーがいると神宮司くんから教えてもらった村だったのだ。

 びっくりしてしまったが、冷静になって考えてみれば、いまいる町からその村は近い。
 ゴードンさんたちが情報を得ていてもおかしくなかった。

 わたしはバン子爵の屋敷で神宮司くんと会ったことと、彼から聞いた話とをゴードンさんに話した。

「なるほど、そういうことでしたか。偽勇者ではなくて、本物の勇者様だったと。これは失礼をいたしました」
「いえ。知らなかったんですから、仕方ありませんよ」

 恐縮した様子を見せるゴードンさんに、わたしは地図を指し示してみせた。

「この村、近い場所に昏き森があります。多分、彼らは脅威に晒されている村を守りに行ったんだと思います」
「おお。さすがは勇者様です」

 感嘆の吐息を漏らす騎士たちの顔を、わたしは見回した。

「偽勇者の調査とは別件ですけど、わたしは彼らに状況を伝えたいと思っています。知っていれば、偽者と疑われたときに打つ手もあるでしょうから。……どうでしょうか」

 少し不安だったのだが、ゴードンさんは深々と頷いてくれた。

「無論です。我らも勇者様がいわれなき非難を受けるのは本意ではありませんからな」
「ありがとうございます」

 さいわいなことに、話はトントン拍子で進んだ。

 その日のうちに荷物を纏めて、わたしたちは町を出た。

   ***

 魔石を動力源にした車が、ガタゴトと揺れる。

 車に乗り合わせたゴードンさんが、ふとした様子で言った。

「機嫌が良さそうですな」
「え?」

 わたしは目を丸めた。

 同乗した他の騎士たちが、微笑ましいものを見るような顔をこちらに向けている。
 それで初めて、揺れる車のリズムに合わせて、小さく鼻歌を歌っていた自分に気付いた。

「あ……」

 顔が熱くなるのを感じて、わたしは目を逸らした。

「あ、あはは。ちょっと浮かれてしまっていたみたいです」

 これまでは噂話を追い掛けても、途中で足取りが途絶えてしまったり、そもそも信憑性が高くなかったり、行き付いた先の村がすでに廃村になっていて手遅れだったりした。
 成果と言えるものが得られたのは、これが初めてだったのだ。

「気が緩んでいましたね。すみません」
「謝ることはないでしょう。飯野様は熱心に我らの仕事を手伝ってくださいました。我らの気持ちは同じです」
「でしたら良かったです」

 にこりとしてから、わたしは表情を引き締めた。

「ただ、これでまた偽勇者に関しては振り出しに戻ってしまいましたね」
「そうですな」

 いまのところ有力な手掛かりはなく、わかっているのはその被害だけだ。

 偽勇者が目撃されたあとで、モンスターに襲われて廃村になった場所はすでに数箇所。
 犯人は勇者として歓待を受け、正体がばれる前に逃げ出して、証拠隠滅のために村にモンスターを引き入れたものと考えられる。

 やっていることは、まさに鬼畜の所業だった。

 いったい、何者なのか。

 被害が広い範囲に散らばっていることから、単独犯とは考えられないが、かといって複数犯だとすると、村での行動が『ただ歓待を受けただけ』というのが解せない。

 そうして考えていくと、やはりもうひとつの可能性が正しいように思える。

 すなわち、これがチリア砦襲撃の犯人である『魔軍の王』工藤陸の仕業だという可能性だ。

 彼は人間を憎んでいる。
 動機はそれで十分だ。

 ……ただ、もしも工藤陸が偽勇者の正体なのだとすると、こちらもよくわからないことがある。

 どうしてこんな回りくどいことをしているのか、その理由だ。

 彼にはモンスターを自在に操る能力がある。
 偽勇者を騙るなんて回りくどいことをしなくても、村のひとつくらい蹂躙してしまえば良いのだ。

 なのに、どうして……。

 考えてみるが、さっぱりわからない。

 こういうのはどうにも向かない。

 刑事は足で稼ぐという言葉ではないが、とにかく聞き込みを続けることで手掛かりを得て、現行犯で捕まえるしか方法はなさそうだった。

 ただ、現場を押さえられたとしても、それでよいというわけではない。

 ゴードンさんたち聖堂騎士団は精力的に捜査を進めているが、もしも相手が『魔軍の王』工藤陸だとすれば、捕まえようとして返り討ちに遭う可能性もありえるからだ。

 わたしがその場に居合わせられれば良いのだけれど、常にそうできるとは限らない。

 なら、どうするか。

 この件について、わたしには考えがあった。

「これから行く村にいる探索隊のメンバーについてなんですが、わたしたちの捜査について協力を頼んでみようかと思います」

 わたしはゴードンさんに提案を切り出した。

「協力を頼めば、応じてくれるんじゃないかと思うんです。探索隊には正義感の強いメンバーが多くいますから。実際、探索隊を抜けた彼らがこの地域にやってきたのは、モンスターの被害に頭を悩ませる小貴族たちの要望に応えるためでした」
「なんと、そうなのですか」

 ゴードンさんは意外そうな顔をした。

「わたしはてっきり、村にいらっしゃる勇者様方は、帝都までの旅の途中でこの土地を訪れたのだと思っていました」
「いえ。違いますよ」

 そういえば、このあたりの話はしていなかったか。

 わたしは事情を説明した。

「探索隊がまだエベヌス砦に滞在していた頃、この周辺の貴族たちからの接触があったんです。なんでも、モンスターの被害を訴えていたんだそうで、探索隊の一部のメンバーは隊を抜けて、この地域にやってきました。バン子爵のところにいた神宮司くんみたいに、貴族のお世話になっている人もいますけど、自分たちだけで村を回ることにした人たちもいるみたいですね」

 そんな彼らだからこそ、協力に応じてくれる可能性は高いだろうと期待が持てる。

 というのも、彼らがあえて貴族から距離を取ったのは、自分たちは贅沢をするためにこの土地にやってきたのではないという、ある種の高潔さの表れだからだ。

 神宮司くんも言っていた。

 ――他にも貴族の厄介になることなく、村を転々としてるやつらもいるみたいだ。『おれたちは困っている人たちのために戦ってるんだ』ってな。おれみたいなちゃらんぽらんとは違って、志の高いやつらだよ。

 野に下って村々を回り、モンスターを討伐することにした彼らは、対価を求めていない。

 そんな彼らであれば、きっと協力に応じてくれることだろう。

「うぅむ?」

 そこで、話を聞いていたゴードンさんが、唸り声をあげた。

 眉の間に小さなしわが寄っていた。

「勇者様方は、自分たちだけで村を回っていらっしゃるのですか?」
「え? はい。そうですけれど」
「そうですか」

 納得のいかないような風情に、わたしは少し戸惑った。

「ええと、どうかしましたか」
「いえなに。たいしたことではないのですが」

 尋ねると、ゴードンさんは一呼吸置いてから答えた。

「どうして貴族と連携して、事に当たられないのかと思いましてな」
「え?」
「連携をしたほうが、的確に討伐を行えるのではないかと思うのですが」

 意見を言うというより、単純に不思議そうな様子だった。

 そして、その言い分には一理あった。

「それは……」

 確かに、実利を取るのなら、この土地の貴族と協力をする選択肢はありだ。
 もともと、モンスターの被害に頭を抱えていたのだから、彼らは喜んで協力してくれるはずだった。

 もちろん、必ずしもそのほうが良いということはない。

 貴族のもとにいることで生じる不都合もあるだろうからだ。

 たとえば、領民の安全よりも自分の利益を優先するような者もいるかもしれない。
 そうした不自由さを嫌ったというのなら、あながちその判断は間違いというわけではない。

 しかし……果たして、この地を訪れた彼らはそこまで考えていただろうか?

 数秒、わたしは言葉に詰まった。

 口を開こうとしたそのとき、大きく車が揺れた。

 ブレーキのたてる耳障りな音が響いた。

「どうした!?」

 戦場の指揮官の顔になったゴードンさんが、太い声で怒鳴る。

「大変です!」

 御者台の騎士の大声が届いた。

「モンスターが……!」

 そこまで聞いたところで、わたしは外に飛び出していた。

 気持ちを切り替えて、まずは状況を把握する。

 伸びた道の先、鱗に覆われた犬のようなモンスターがこちらに突っ込んできているのが見えた。

 その姿を目にしたときには、わたしは抜いた剣を振りかぶっている。

 モンスターと遭遇することなんて、この世界で旅をしていればよくあることだ。
 ゴードンさんたちと一緒に行動を始めてからも、これが初めてというわけではなかった。

 鎧袖一触。
 相手がこちらの存在を認識するよりも早く、その首を撥ね飛ばす。

「お、ぉお……!」

 御者台にいた騎士が感嘆の声をあげた。

「お見事です、飯野様!」
「いえ。たいしたことでは」

 剣の血糊を振るい落とす。

 その切っ先がぴたりと停まった。

「ぐおぉおおっ!」

 獣の咆哮が耳朶を叩いた。

 ばっと振り返る。
 道から外れた木々の向こう、青い毛並みの大猿がこちらを睨み付けて、咆哮をあげていた。

 モンスター。二体目だ。

 胸を反らして大口を開けて、敵意を発散している。
 その口腔に剣を突き入れた。

「ぎっ!?」

 反応する時間なんて与えない。
 脳髄を破壊する。

 呆気ないものだ。

 この程度のモンスターは物の数ではなかった。

「これは……」

 けれど、わたしの口から出た声は深刻なものにならざるをえなかった。

 状況を理解したからだ。

 どうと倒れる猿の巨体には関心を払わず、わたしは車から出てきたゴードンさんのもとに戻った。

「飯野様。さすがで……」
「緊急事態です!」

 なにか言いかけたゴードンさんの言葉を遮って、わたしは叫んだ。

「周囲に複数のモンスターの気配があります!」

 気を緩めかけていた騎士たちが息を呑んだ。

 いち早く意識を切り替えたのは、ゴードンさんだった。

「数は?」

 さすがは精鋭の聖堂騎士団の副長。
 必要なことを尋ねてくる。

「数はどれくらいです?」
「正確な数はわかりません。ただ……」

 わたしは振り返った。

「……いっぱいです」

 前後に口を持つ大ムカデに、牛ほどもあるカエル、剣のように尖った頭部を持つトカゲ。
 他にも十程度のモンスターがこちらに向かってきていた。

 まだ少し距離があるが、接敵まで一分もかからないだろう。

 状況に気付いた騎士たちが動揺した素振りを見せた。

「そんな馬鹿な。これほどの数のモンスターが同時に……?」

 目の前の光景は、通常ならありえないものだった。

 群れを作るようなモンスター……有名どころで言えば、大地を回遊する魚型のモンスター、トリップ・ドリルや、真島が連れていた風船狐のようなモンスターを除けば、モンスターが同時にひとところにいることは通常ない。

 ましてや、別種のモンスターが襲い掛かってくるとなれば尚更だ。

 それこそ伝説に聞く、五百年前の勇者の樹海深部からの大敗走とか。
 あるいは、どこかの砦で起きた大事件のような例を除けば、だが。

「……多分ですけど、あれで全部じゃないです」

 かちりと、疑問のピースが埋め合わされた音がした。

 これは、予想もしない展開だった。
 けれど、ある意味では、疑問に答えを出す類のものでもあった。

「……ああ、そっか。そういうことだったんだ」

 喉の奥から苦い声が漏れた。

「飯野様……?」

 剣の柄を握り締める手に力がこもった。
 ぎりりと奥歯が鳴った。

 わたしはモンスターに向き直った。

「……殲滅します。ゴードンさんたちは車を捨てて、来た道を戻ってください」 
「いえ。道を戻るのでしたら、飯野様と一緒に……」
「わたしはこのまま村に向かいます」
「それは! 危険です、飯野様!」

 ゴードンさんがわたしの前に回り込んだ。

「勇者様おひとりでモンスターに立ち向かうのは危険です。我ら騎士がどうして存在するとお思いですか」
「ゴードンさん……」

 その厳つい顔には、心からわたしの身を案じる表情が浮かんでいた。

「勇者様の代わりに倒れるために、我らは存在します。世界は勇者様にしか救えない。ゆえに我らは剣を取り、命を投げ出すのです」
「……ゴードンさんのおっしゃることはわかります」

 この世界にやってきたことで、わたしたちが得た力は他から隔絶したものだが、絶対ではない。

 わたしのような二つ名持ちでなくても、チート持ちならモンスターくらい簡単に倒せるし、探索隊のように集団で旅をしている限りは、ただモンスターと遭遇しただけではまず危険などありえない。

 なので、勘違いをしてしまいそうになるが、モンスターとは勇者にとっても十分に脅威なのだ。

 実際、過去の歴史では、モンスターとの戦いのなかで倒れた勇者はかなりの数になるらしい。
 わたしはあまり詳しくはないが、それでも帝国騎士団や聖堂騎士団と行動をともにしてきたので、そのあたりの事情は聞きかじっていた。

「ならば」
「けど、行かなくちゃいけないんです」

 それでも、わたしは首を横に振った。

 危険は承知のうえだった。

 ここは譲れなかった。

 悪を討つ。
 そのために『韋駄天』の力はあるのだから。

「大丈夫ですよ」

 わたしは笑みを浮かべてみせた。

「なにも考えなしに突っ込もうってわけじゃありません。危なくなったら退きますから」
「飯野様……」
「安心してください。これでもわたし、ちょっとは強いんですよ」

 他の探索隊メンバーなら、モンスターの群れに突っ込むのは危ない。

 けれど、わたしは探索隊の二つ名持ち。
 その名を『韋駄天』の飯野優奈。

 白兵戦だけなら最強のひとりだ。

「行きます」

 わたしは地面を蹴って駆け出した。

 ギアは最速に。
 足を突き動かす燃料には、胸のなかの感情の炎をくべてやる。

 炎は尽きることなく燃え盛る。

 それは、明らかになった悪行への怒りの炎だった。
◆さらに、もう一話更新です。

いろいろと伏線消化されます。
予想されていることもあると思いますが、真実はどうでしょう。

◆活動報告で、Twitter で投稿したクリスマスSS 等をあげました。
http://mypage.syosetu.com/mypageblog/view/userid/316835/blogkey/1597464/
本編のシリアスとは打って変わって、いちゃいちゃしてます。

興味のあるかたはどうぞ。
メリークリスマス!(本当は25日に更新するつもりだった……。)
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