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モンスターのご主人様 作者:ショコラ・ミント/日暮 眠都

6章.

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06. 韋駄天と戦友

前話のあらすじ:

ディオスピロから王子様が来た。
   5   ~飯野優奈視点~


 わたしが偽勇者の噂を追って、聖堂騎士団第二部隊と行動をともにし始めてから、二週間ほどが経っていた。

 この地に派遣された第二部隊の任務は情報収集だ。
 騎士たちが情報を集め、隊長であるゴードンさんがそれを総括している。

 まとめられた情報は、第一部隊に送られる。

 対処は主に、第一部隊の騎士の一部によって行われているらしい。

 たとえば、先日、ゴードンさんと出会った廃村。
 偽勇者が訪れたものと推測され、モンスターに襲撃されたあの村の後処理も、第一部隊の仕事だったのだそうだ。

 要は、役割分担だ。
 ゴードンさんたち聖堂騎士団第二部隊の面々は、精力的に任務をこなしていた。

 とはいえ、いまのところ、あまり成果はあがっていない。

 廃村は数箇所見付かったのだそうだが、肝心の偽勇者を見付けることはできていなかった。

 これがもしも、潜伏している『魔軍の王』工藤陸の暗躍によるものだとすれば、現場を押さえることが重要になるだろう。

 村から村に移動を繰り返しつつ、わたしたちは情報収集を続けていた。
 そんな頃だった。

「貴族からのお誘いですか?」

 同行していたゴードンさんの言葉に、わたしは疑問の声をあげた。

「はい。バン子爵から使いの者が来ました」

 それは、わたしたちがいる土地の領主の名前だった。

「飯野様がこの地で偽勇者の調査をしていると聞いて、ぜひ歓待したいとのことでして」
「調査しに来ているのに、誘われても困るんですけど……」
「お気持ちは重々承知しております。しかし、子爵としても、わざわざ自領に調査にいらした勇者様を放っておいたとなれば、立場がありませんからな」

 それもそうかとわたしは眉を寄せた。

 正直なことを言ってしまえば、行きたいとは思わない。

 とはいえ、わたしも偉い人の顔に泥を塗るつもりはなかった。

「……わかりました。お誘いをお受けすると連絡を返してもらえますか」
「ありがとうございます。ぜひともということでしたので、子爵も喜びになることでしょう」

 ゴードンさんは、いかつい顔をほっと緩めた。

 苦労人気質というか、なんというか。
 禿頭の大男であるゴードンさんは、ぱっと見は無骨で恐い印象があるけれど、実のところ物凄く気を遣うタイプなのは、一緒に行動するうちに知っていた。

「それでは、ご不在の間についてはお任せください」

 こうしてわたしは子爵のもとを訪れることになった。

   ***

 数日後、聖堂騎士団のみんなとは一日だけ離れて、わたしは子爵の居城を訪れていた。

 城とは言っても、チリア砦やエベヌス砦、セラッタ砦のような大要塞ではない。
 あくまで領主とその一党が非常時に立てこもり、助けを待つためのものだ。

 今日向かうという連絡は入れておいたので、領主のもとにはすぐに通してもらうことができた。

「お初にお目にかかります、優奈様」

 わたしを出迎えたのは、深々と頭を下げるバン子爵と、二列に並んでずらりとそれに倣う部下と思しき人々だった。

 ……一応、派手な出迎えはしないでほしいと伝えていたはずなのだけれど、聞き入れられなかったようだ。
 あるいは、これで聞き入れられたのかもしれないけれど。

 町を挙げての歓待とか、ちょっとぞっとしない。
 探索隊には、その手の対応を喜ぶ人もたくさんいるけれど、わたしはあまり趣味ではなかった。

 わたしは思わず眉を顰めてしまいそうになり、そこで、ふと人の列のなかのひとりに目を留めた。

 そのひとりだけ頭を下げていなかったので、目を引いたのだ。

 どころか、親しげに手をあげてきた。

「……え?」

 がっちりとした体格。
 人好きのする顔立ちをした少年が声をかけてくる。

「よぉ、飯野。久しぶりだな」

 わたしは目を見開いた。
 その人物が知り合いだったからだ。

「……神宮司くん?」
「おう」

 思わぬ再会。
 探索隊の『竜人』神宮司智也くんは、精悍な顔立ちに人懐っこい笑みを浮かべたのだった。

   ***

 神宮司くんは、探索隊で『竜人』の二つ名で知られていた。
 第一次遠征隊にも参加しており、わたしと一緒にエベヌス砦に辿り着いたメンバーのひとりでもあった。

 わたしにとっては、戦友のひとりと言える。

 しかし、わたしがチリア砦に向かい、樹海深部の生徒たちを救助してエベヌス砦に帰ってきたときには、そこに神宮司くんの姿はなかった。

 彼は探索隊を離脱したうちのひとりだったのだ。

 彼ら離脱組のうちかなりの数が、このあたりの地域に向かったという話は聞いていたものの、再会できたのは神宮司くんが初めてだった。

 なんでも神宮司くんは、わたしが近くにいるという話を偶然聞きつけて、会えるようにバン子爵に手を回したらしい。
 名前を出さなかったのは、サプライズを狙ったのだそうだ。

 まんまと驚かされたが、離脱組のひとりと再会できたことは素直に嬉しかった。

 バン子爵の準備した歓待のパーティが終わると、わたしは神宮司くんの部屋にお邪魔することにした。
 パーティの間は、バン子爵に捕まって、落ち着いて話をするどころではなかったからだ。

「ふう、やっとふたりきりになれたわね」
「お。なんだよ、飯野。色っぽいこと言ってくれんじゃねえか」
「馬鹿。そういう意味じゃないわよ」

 椅子に座ったわたしは、ちろりと神宮司くんを睨んだ。

「落ち着いて話ができるようになったって言ってるの。……にしても、次から次へと挨拶に来て、大変だったわ」
「あんなのは適当に合わせときゃいいんだよ」

 わたしがさっきまでの宴席について愚痴を言うと、ベッドにどすんと腰を落とした神宮司くんは、けらけらと笑った。

 顔が赤い。お酒が入っているのだ。
 ほろ酔い加減で、機嫌が良さそうだった。

 ちなみに、魔力による身体能力強化は肉体の強度をあげるだけでなく、毒物への抵抗力も強化するのだけれど、そこにはアルコールの影響も含まれている。

 ある程度のレベルで魔力が使えれば、強力な毒物でも即死はしないし、抵抗している間に回復魔法で治療することも可能だ。わたしくらいになると、ほぼ毒物は効かない。
 同様に、アルコールで酔うこともなくせるらしい。

 ただ、これは酔わないことができるという意味で、酔おうと思えば酔えるのだそうだ。

 飲んだことがないから伝聞だけれど。

「勇者様、勇者様ってな。ああいうのは、適当に合わせてりゃ向こうは満足するし、おれも美味しい思いができて満足できる。ウィン・ウィンの関係ってやつだな」
「……言っていることはわかるけどね」

 ただ、わたしは好きじゃない。
 もっと真面目で、誠実なのがいい。

 わざわざ空気を悪くするのもなんなので、そうした言葉は飲み込んで、わたしはかぶりを振った。

「向いてないわ、わたしには。正直、モンスターと戦うよりも疲れたもの」
「そりゃそうだ。お前、モンスターなんて瞬殺じゃねえか。疲れやしねーだろうよ」
「……そうでもないわよ。手こずることもあるわ」

 思い出していたのは、真島の眷属のひとり、ガーベラさんのことだった。

 樹海の白い蜘蛛として知られる彼女は、とても強かった。
 わたしだから正面から倒せたけれど、ウォーリアクラスだと相当手こずるに違いない。

 他にもリリィさんみたいな強力な眷属はいるし、連携を取ればウォーリアなら倒せてしまうだろう。
 というか、実際にあいつはチリア砦で十文字くんを撃破している。

「ふぅん。飯野が手こずるねえ」

 聞いていた神宮司くんの目が少し鋭くなった。

 これで彼は、コロニー時代は最前線でわたしと肩を並べて戦っていた経験がある。
 わたしの実力はよく知っているのだった。

「この世界に、そんな強いやつがいるとは思えないけどな」
「わたしはあちこち飛び回っていたからね。いろいろと知る機会があったのよ」
「おっと。耳が痛いな。おれも別に遊んでばかりいたわけでもないんだが」

 口ほどは堪えた様子もなく、神宮司くんは尋ねてくる。

「にしても……ふぅん。いろいろね。そういえば、飯野はチリア砦に行ったはずだろ? なんでこんなところで、聖堂騎士団なんかと一緒にいるんだ?」
「だから、いろいろあったのよ。神宮司くんこそ、どうしてこんなところに?」
「おれにはたいした事情はねえよ。まあ、近況報告と行こうか。正直、飯野を呼んだのは、話を聞きたかったってのもあるんだよな。探索隊のやつらがどうしてるのかとか、知ってることを教えてほしい」
「わかったわ」

 断る理由はない。わたしたちは近況を報告し合うことにした。

 神宮司くんは、バン子爵をはじめとした貴族に誘われて、ひとりでこちらにやってきたらしい。
 その後は、いくつかの貴族のところを転々としていたそうだ。

「おれみたいなのは他にも何人かいるみたいだな。大抵は貴族に世話してもらう代わりに、領軍と一緒にモンスターの討伐をしてるらしい」
「神宮司くんも?」
「まあな。何度か兵士を率いて戦ったぜ。って言っても、万にも届く軍勢を抱えている大貴族と違って、ここらの貴族の領軍は掻き集めても数百から千程度しかいないから、おれが連れてったのはせいぜい百人二百人くらいだけどな」
「このあたりの貴族領はあんまり大きくないものね」
「他にも貴族の厄介になることなく、村を転々としてるやつらもいるみたいだ。『おれたちは困っている人たちのために戦ってるんだ』ってな。おれみたいなちゃらんぽらんとは違って、志の高いやつらだよ」
「そうなんだ」

 これは思わぬ収穫だった。

 この地域に散らばっているという、離脱組の生徒たちについては気にしていた。
 そのひとりである神宮司くんに会えただけでなく、他の生徒たちの情報を得られたのは運が良い。

「ひょっとして、神宮司くんは居場所を知ってたりする?」
「ん? ……んーん。まぁな。ひとり、ふたりでよければ」
「本当に!? だったら、教えて!」

 わたしが前のめりになると、神宮司くんは面食らった顔をした。

「お、おお。別にいいけど、なにかあったのか」
「うん。神宮司くんは偽勇者の噂話は知ってる?」

 逸る気持ちを抑えて、わたしは尋ねた。

「ああ。そういう話があることは」
「それなら話が早いわ。実はわたしは、偽勇者の噂話について調査するためにこちらにやってきたの」
「へえ。そりゃ酔狂な。いや、飯野らしい話だけどよ」
「まぜっかえさないで。真剣な話なんだから。偽勇者の噂話が広がったことで、わたしたちが偽者と勘違いされてしまう可能性が出てきていてね。警告ができたらいいなと思うのよ」

 そういうことかと納得した様子の神宮司くんに、今度はわたしから話をした。

 チリア砦への訪問。樹海深部への救援。
 帰還して知ったチリア砦襲撃の顛末と、その後の真島とのいざこざと和解。

 そして、探索隊への帰還と、偽勇者の調査に出た経緯まで。

「そういうことね。状況は理解した」

 話をしているうちに少し酔いが醒めてきたのか、落ち着いた声で神宮司くんは相槌を打った。

「確認するが、飯野はまだおれ以外の離脱組連中とは会えていないんだな?」
「ええ。それなりの範囲を移動しはしたんだけれど。帝国領も広いから」
「……ふぅん」
「だから教えてほしいの」

 思案げに目を細めた神宮司くんに、わたしは頼み込んだ。

「それはもちろん、かまわないけどな」
「本当に? ありがとう!」
「礼なんていらねえよ。仲間だろ」

 さらりと言って、神宮司くんは他の離脱組の何人かがいるという場所を教えてくれた。

 わたしは頭のなかに地図を広げて、その場所を確認する。

 さいわいなことに、現在のゴードンさんたち聖堂騎士団第二部隊のいるところから、そう離れていなかった。
 これならゴードンさんたちに声をかけてから向かうことも、彼らと一緒に移動することも可能だろう。

 そんなことを考えていると、神宮司くんが付け加えた。

「ただ、会えるかどうかはわからないけどな」
「……えっと? あ、そっか。移動してるかもしれないものね」

 言われてみれば、確かに。
 わたしも神宮司くんも、ひとところにじっとしてはいない。

 その村にいるという離脱組の生徒も、同じように移動していてもおかしくはない。

 行ってみたらもういなくなっていましたという可能性も十分にあるわけだ。

「だとすると、戻ったらすぐに出ないといけないわね。わたしだけで先行したほうが良いかな? ううん、それだと要らない勘違いが起きる可能性もあるわね。やっぱり、ゴードンさんたちに相談して一緒に来てもらうのが一番安心……」
「なあ、飯野」

 わたしが今後の予定について思い巡らせていると、神宮司くんが声をかけてきた。

「あ。ごめんなさい。なに?」

 我に返って、わたしは尋ね返した。

 しかし、返答はなかった。

「神宮司くん?」

 話し掛けておきながら、神宮司くんは床に目を落として黙り込んでいた。
 なにか考え込んでいる風情だった。

「どうしたの?」

 しばらくしてから、神宮司くんは伏せていた目を上げた。

「おれと一緒に来ないか」
「……え?」

 唐突な誘い文句に、わたしは目を丸くした。

 なにかわかりづらい冗談かと思ったけれど、神宮司くんは真剣だった。

「別に変な意味じゃねえぜ。いや、変な意味でも全然かまわねえんだけど、いまのはそういう意味じゃねえ。協力してほしいんだよ」
「……どういうこと?」
「実のところ、おれはただぶらぶらしてたわけじゃない。おれは……」

 ほんの一瞬、躊躇ってから、神宮司くんは思い切った様子で告げてきた。

「どうにかして、元いた世界に帰るつもりでいるんだ。飯野にはその協力をしてほしい」
「元いた世界に……帰る?」

 わたしは背筋が粟立つのを感じた。

 十文字くんのことを思い出したせいだった。

「神宮司くん、あなた、もしかして……」
「ああ。勘違いすんな。おれは十文字とは違う」

 これまでの経緯について話す際に、わたしはチリア砦の騒動についても話していた。
 神宮司くんも十文字くんがなにを考え、なにをしたのかは知っていた。

「あいつは馬鹿だ。仲間を殺してでも元の世界に帰る? そんなの許されるわけねえだろうが」

 わたしはびくりとしてしまった。

 神宮司くんの声が、本気の怒気を滲ませていたからだ。

「おれたちは何人生き残ってる? 百人か? 二百人か? 千人来て、何百人が死んだ? おれは十文字の野郎とは違う。みんなで元の世界に帰るんだ」

 強い意志の感じられる言葉だった。

 当たり前のことだけれど、この世界に転移してきたみんな、それぞれの考えに基づいて行動をしているのだ。
 探索隊のように集団行動を選んだ者よりも、そこから離れた者に、特にその傾向は強いのかもしれない。

 嫌なやつだけど、同時に強い目をした生真面目な誰かのことが脳裏に過った。

「……どうしようって言うの?」
「具体的には決まってない。前例のないことをしようってんだ。ただ、無理だとも思わない。実際、おれらはこの世界に来た。だったら、帰ることだってできるはずだ。たとえば、やり方はクソだったにせよ、十文字の理屈にも一定の説得力はあるしな」

 わたしたち転移者には、望みを叶える力があるのだという。

 十文字くんは元の世界に帰るという自分の望みを叶えるために、経験値として同じ転移者を殺そうとした。

 わたしたちの力の上限がどこにあるのかわからないが、可能性はある。
 少なくとも、十文字くんはそう判断した。

 なら、他の方法もあるかもしれない。
 神宮司くんはそう考えているのだろう。

「それに、聖堂教会も胡散臭い。おれたちの能力について、公には隠していたわけだろう? 他にも隠していることがあるかもしれねえ。たとえば、帰る方法についてもな」

 もうすっかり、神宮司くんは酔いが抜けた様子だった。

「とにかく情報を集めなけりゃならねえ。帝都が一番情報を集められるだろうが、いきなり右も左もわからないままで行けば、自分が騙されているのかどうなのかも判断が付かないからな。まずは、最低限の知識を得るために、いろいろ回ってるってわけだ。そりゃまあ、重要な情報は得られないかもしれねえけど、帝都に行く前になるべく事前に情報を集めておけば、必要な情報にアテが付けられるかもしれねえし、なにか隠されたときに違和感にも気付ける可能性があるからな」

 散々考え抜いたことだからだろう。
 すらすらと淀みなく神宮司くんは語った。

 わたしは今更ながら、神宮司くんの部屋に、いくつか本が重ねて置いてあることに気付いた。

 バン子爵の蔵書だろうか。
 そういえば、神宮司くんは貴族のもとを転々としていたと言っていた。

 それにも、きちんと理由があったというわけだ。

「すでに信頼できる何人かに声をかけてある。そんなに数はいねえけど、おれたちはこの世界で勇者として扱われている。うまく動けば、必要な情報に触れることも無理じゃないはずさ」

 神宮司くんはわたしの目を見詰めた。

「飯野が一緒に来てくれれば心強い」
「神宮司くん……」
「駄目か?」

 わたしは一瞬、返事をするのを躊躇った。

 それくらい、神宮司くんは真摯な顔をしていたからだ。

 けれど、最終的にはかぶりを振った。

「……飯野」
「ごめんなさい。わたしには、まずやらなければいけないことがあるから」

 確かに神宮司くんの話は魅力的だった。
 わたしにだって、元の世界に帰りたい願望がないわけじゃない。

 けれど、わたしには、知ってしまった悪事を見逃すことはできなかった。

 わたしたちが元の世界に戻れなくても命が失われるわけではないけれど、偽勇者の件は放っておけば被害が出る。

 どちらが優先されるかと言えば、わたしのなかで明らかだった。

「……そっか」

 神宮司くんは深々と溜め息をついた。

 そして、にかりと笑った。

「あーぁ、振られちまったよ」
「ごめんなさい」
「仕方ねえよ。みんなそれぞれ、大事なもんはあるもんだ」

 あっさりとしたものだった。

 それだけに申し訳なさが募った。

「そんな顔すんなって」
「ごめんね、神宮司くん」
「気にすんな。あ。ただし、この話は……」
「内緒ね。わかったわ」
「ありがとよ」

 安心したように笑った神宮司くんは、照れたように目を逸らした。

「まあ、あれだ。もしも帰る方法がわかったら、ちゃんと教えてやるからそこも安心しとけ」
「ありがとう」

 ふふ、と笑みが漏れた。

 いい加減なところのある神宮司くんだけれど、こういうところには好感を持てた。

「神宮司くんって、ほんといい人だよね」
「女の子から言われると、とても微妙な気持ちになる台詞をありがとう」
「え?」
「わかってねえのか。これは、渡辺のやつも空回りしたわけだ」

 神宮司くんは苦笑いを浮かべた。

「いや。でも、仕方がねえか」

 と、その笑みが悪戯っぽいものに変わった。

 なにやら嫌な予感がしたわたしに、神宮司くんは言った。

「飯野には好きなやつがいるんだもんな。おれも振られちまったし。妬けるね」
「は? なにそれ」

 なにを言われているのか本気でわからずに眉を寄せたわたしに、神宮司くんはいやらしい笑みを浮かべてみせた。

「だから、真島だよ。好きなんじゃねえの?」
「は?」

 わたしはぽかんとした。
 数秒して、意味が頭に浸透すると、顔に熱が集まるのを感じた。

「なっ、ななななっ、なに言ってんの!? 違うわよ! なんでそうなるの!?」
「だって、明らかに話してるときの感じが違ったぞ。気付いてなかったのか?」

 きょとんとして言われてしまう。

 ますます顔の熱が強くなった。

 もちろん、怒りのためだ。
 とんでもない勘違いをされては、怒らないわけがない。これはそういうことなのだ。

「違うわよ。わたしはあいつのこと嫌いだし」

 確かに、これまでの経緯について話をしたときに、真島のこともちょっと話はしたけれど……。
 あいつが勘違いされないように、チリア砦襲撃とは無関係だってこともきちんと説明したけれど……。

 それはただ、間違ったことが許せないだけだ。

 それだけだ。

「そりゃまあ、嫌なやつって意味では意識してるけど」
「ふぅん」
「……なによ、その顔」
「別に。まあ、おれには真島とやらの価値観は理解できねえけど、いいんじゃねえの。惚れた腫れたは理屈じゃねえもんな」
「だーかーらー」

 駄目だ、話が通じない。
 完全に面白がっている。

 これ以上、なにか変なことを言ったらぶっ飛ばすと、わたしが内心物騒なことを考えていると、神宮司くんが不意に表情を引き締めた。

「なあ、飯野」
「なによ」

 棘のある口調でわたしは返したけれど、神宮司くんは至極真面目な調子で言った。

「これから先、大変なことがあるかもしれない。だけど、折れるなよ」
「え?」

 わたしは目を丸めた。

「どういうこと?」
「……まあ、なんというかな」

 神宮司くんは曖昧な笑みを浮かべた。

「特別な力があるにしても、この世界が過酷なことは変わらねえだろ。飯野は女の子だし、心配すんのは当然っつーか」
「一対一ならわたしに勝てる人なんていないよ。むしろ、神宮司くんのほうが心配」
「言ってくれるなぁ」

 神宮司くんは苦笑していた。

 もちろん、憎まれ口を叩きはしたものの、わたしは彼が本気で心配してくれていることはわかっていた。
 だから、内心で彼にわたしは感謝していた。

「神宮司くんも気を付けてね」
「ああ、ありがとな」


 次の日、わたしは神宮司くんに別れを告げ、ゴードンさんたち聖堂騎士団第二部隊のもとに戻った。

 さらにその翌日、偽勇者に関する警告を伝えるために、離脱組の生徒たちがいるという村へ向かったのだった。
◆本業のほうが洒落にならない忙しさで、更新の間が開いてしまいました。
1日が48時間あればいいのに。(白目

おまけに新キャラも出て、余計に更新に時間が。あががが……。

◆なるべくペースを戻せればと思います。

次の更新から、また主人公側の話に戻ります。
+注意+
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