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モンスターのご主人様 作者:ショコラ・ミント/日暮 眠都

6章.

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04. ディオスピロからの使者

前話のあらすじ:

加藤さんの策略に嵌まる主人公(語弊あり)
   4


「孝弘さん!」

 大慌てでケイが飛び込んできたのは、とある昼下がりのことだった。

「村に誰かが近付いてきてます!」

 全力疾走をしてきたのだろう。
 膝に両手をつき肩で息をしながら、絞り出すようにケイは叫んだ。

「ロビビアちゃんが、孝弘さんに伝えに行けって」
「……わかった。ケイは安全なところにいてくれ」

 丁度、一緒にいたリリィを連れて、おれはすぐさま駆け出した。
 辿り着いたのは、村の防壁。そこに立つ櫓だ。

 並走するリリィの腰に腕を回して手を伸ばせば、手の甲から飛び出したアサリナが蔓の体を伸ばして、櫓の上まで一気に牽引してくれる。

 櫓の上に飛び込んだおれは、村の外に目をやっている赤髪の少女に声をかけた。

「ロビビア。誰かが村に近づいてきているって聞いたが」
「ああ。来てんぜ」

 ぶっきらぼうな返事だったが、頼んでいた仕事は真面目にこなしていたらしい。

 臨戦態勢の横顔には、幼いながらに鋭い獣の気配が漂っていた。

「もう見える」

 伸ばされた指の先に、おれは目をやった。

 畑の間を伸びる畦道をこちらに歩いてくる集団が見えた。

 村の外壁を超えてきたらしい。人数は七名。
 全員が武装していた。

「王国軍かと思ったけど、違うみたいだね」

 リリィが言い、おれも頷く。

「聖堂騎士団とも違うな」
「見たことない格好だけど、何者だろ」
「さあな。とにかく、接触をしてみるしかなさそうだが……」
「孝弘殿!」

 呼び掛けられて、おれは視線を巡らせた。

 櫓の下に駆けてくるシランの姿があった。
 すぐにアサリナをやって、櫓の上まで引き上げる。

「ありがとうございます、孝弘殿」
「シランも気付いたんだな」
「はい。何者かが……」

 言いかけたシランが、村のなかを歩く集団を視界に入れて、隻眼を見開いた。

「あれは……」
「知っているのか」

 尋ねると、視線を集団に固定したままでシランは頷いた。

「あれは、護国騎士団です」
「護国騎士団……というと、アケルお抱えの騎士団か!」

 アケルは、王国軍と護国騎士団というふたつの組織によって守られている。
 王国軍が駐留した街の防衛を主目的としているのに対して、護国騎士団はモンスターの討伐を目的とするものだ。

 ここで出てくるとは思っていなかった名前だった。

 だが、予想外なのはそれだけではなかった。

「それも、あれは……まさか」

 隻眼を細めて、シランは続けたのだ。

「間違いありません。鎧に付いたあの模様。王家の紋章です」

   ***

 相手がアケルの正規の騎士団である以上、それなりの対応をしないわけにはいかない。

 敵である可能性があるとしてもだ。

 警戒心は保ったままに、おれたちは櫓から降りて、彼らを待つことにした。

 ロビビアにはガーベラたちへの言伝がてら、一緒に建物のなかに姿を隠していてもらうように頼んだ。

 場合によっては、飛び出してきてもらうことになるかもしれないが、それは相手の出方を待ってからだ。

 そうして、数分。
 防壁の門の前で待ち構えるおれたちの前で、護国騎士団は足をとめた。

 幸いなことに、敵対の気配はない。
 一団から、ひとりが進み出た。

 シランのいう、王家の紋章が刻まれた鎧を着た、銀髪の男性だった。

「フィリップ=ケンドールと申します。お初にお目にかかります」

 一礼をして名乗りを上げる。

「フィリップとお呼びください」

 おれもこの国の基本的な知識くらいは押さえている。
 その名は、アケルの第二王子の名前だった。

 団長さんの兄に当たる人物のはずだ。

「フィリップさんですか。おれは、真島孝弘と言います」

 こちらからも挨拶を返しつつ、おれは目の前の男を観察した。

 年の頃は三十くらいだろうか。
 あまり団長さんには似ていない。

 見るからに勇猛な騎士と言った団長さんに対して、温和そうな男性だった。

 ちらりと確認すれば、目が合ったシランが頷きを返してきた。
 アケル出身のシランは、王族のうちの何人かではあるものの、顔を見たことがあるのだと聞いている。

 確かに彼は、第二王子本人で間違いはないようだ。

 そこで、おれの視線を追ったフィリップさんが口を開いた。

「そこにいるのはシランだね。久しいね。大きくなった」

 声をかけられたシランは、驚いた顔をした。

「……覚えておいででしたか」
「ああ。もう何年振りになるか。チリア砦に遣わされる一団のひとりとして、挨拶に来ただろう」

 懐かしそうにフィリップさんが目を細める。
 緊張していた空気が、それで少し緩んだ。

「あれはどこだったかな。王都ではなかったように思うが」
「ソーヤックの町です。あの頃、わたしは何人もいた従士の子供のひとりでしかありませんでした。顔を合わせたことなど、お忘れかと思っていました」
「いいや。将来有望そうな子供だと思っていたよ。あの兄にして、この妹ありかと。もっとも、さすがの『樹海北域最高の騎士』も、当時はずいぶんと緊張していたようだったが」

 子供の頃の話をされるのが気恥ずかしいのか、シランは顔を伏せ気味にした。

 ちらりと、おれの目を気にする素振りを見せる。

 そんなおれたちの様子からなにか感じ取ったのか、ほうとフィリップさんは吐息をついた。
 彼の目は微笑ましそうに細められている。

 しかし、その口元に不意に苦いものが混じった。

「……しかし、そうか。シランがここにいるというのは本当だったのだね」
「わたしがここにいるのをご存知だったのですか」

 その反応も気になったが、口にされた言葉も聞き逃せないものだった。

 おれと同じことをシランも感じたのか、フィリップさんに尋ねた。

「フィリップ様は、どうしてここにいらしたのでしょう?」
「手紙を見たからだよ」

 フィリップさんは居住まいを正して、おれに視線を向けた。

「孝弘殿。先日、ディオスピロに書簡を送られたかと思います。わたしはそちらを拝見しまして、本日、こちらに参りました」
「そうでしたか」

 送った手紙は、どうやら無事ディオスピロに着いていたようだ。

 王国軍のアドルフさんが受け取り、さらに上層部に渡って、王族も目を通したということだろう。

 手紙には、聖堂騎士団によって、村が壊滅状態に陥ったことと、いくつかの要望を書いておいた。
 それを読んで、フィリップさんはここにやってきた、と……。

 ……しかし、それだと少し時間が合わないように思えた。

「王族の方に連絡が届くのは、もう少し先だと思っていましたが」

 おれたちが手紙をリアさんに託してから、まだ二週間も経っていない。
 ディオスピロまで五日ほどの距離なので、手紙が届いてからこちらにやってくる時間はあっただろうが、さすがに王都まで手紙を運ぶだけの時間はなかったはずだ。

「おっしゃる通り、王都までは、まだ連絡は届いていないかと思います。しかし、わたしたちは丁度ディオスピロに滞在しておりまして。本日こうしてお伺いすることが叶った次第です」
「ディオスピロに?」
「はい。ここ最近、ディオスピロ近辺にある村では、モンスターの目撃情報が相次いでおりました。そのために、わたしは護国騎士団の一部を率いてディオスピロを訪れていたのです」
「ああ。それで……」

 そういえば、ロビビアの……はぐれ竜の討伐計画がディオスピロで持ち上がったときに『そのために護国騎士団がディオスピロにやってくる』という話を聞いた。

 また、国土の半分が樹海によって覆われているアケルでは、王族が護国騎士団を率いて国中を西へ東へ奔走しているという話も聞いたことがある。
 今回もそうした活動の一環なのだろう。

 あまり似ていない兄妹だが、こうしたところは、あの団長さんの兄だということだ。

「本日は、孝弘殿からの書簡に書かれていた事柄について、お話させていただきに参った次第です」
「お話はわかりました」

 少なくとも、彼らは敵ではない。

 それがわかれば十分だ。
 いつまでもこんなところで話をしている理由はない。

「まずは荷物を置いて、一息つかれてください。案内させますので」

 備えあればうれいなし。
 いずれディオスピロから人が来ることはわかっていたので、場所の準備はしてあった。

 王族自らやってくるというのはさすがに予想していなかったが、あとは既定路線とも言える。

「リリィ。案内を頼めるか」
「オッケー。任せて」
「お心遣い感謝いたします。それでは、のちほど」

 フィリップさんたちのことはリリィに頼んで、おれはシランを連れて、この村で利用している家屋に先に戻ることにした。

 この時間を利用して、アケルの事情に詳しいシランと相談をしなければならなかった。

 あまり待たせるわけにはいかないと考えたのか、フィリップさんたちがやってくるまで二十分もなかっただろう。
 けれど、それだけあれば、ある程度の準備をすることはできる。

 リリィに連れられてやってきたフィリップさんを、おれたちは部屋に迎え入れた。

「お待たせしました。おや。そちらは……?」
「お初にお目にかかります、フィリップ様。隣村の村長の妻、リアと申します」

 疑問を口にしたフィリップに、リアさんは深々と頭を下げた。

「ああ、きみが。メルヴィンから話は聞いているよ。えぇと……」
「おれが声をかけて、同席してもらったんです。問題ありませんか」
「孝弘殿が。そういうことですか。かまいませんよ」

 やりとりをしつつ、居間のテーブルを挟んで向かい合って座る。

 フィリップさんと一緒に戻ってきたリリィが、こちらに目配せをした。

「旅の疲れを癒してもらえるように、騎士の皆さんについては、デニスさんに世話を頼んできたから」
「ああ。ありがとう」

 フィリップさんたちは、おれたちの抱える事情を知らない。

 シランの身がどうなっているのかも知らなければ、案内をしたリリィがどのような存在なのかも、顔を見せることのできない存在が他に村に隠れていることも知らないのだ。

 騎士たちに下手に出歩かれると、都合の悪いことが起きる可能性があった。

 そのあたり、デニスにも言い含めておいてくれたのだろう。

「し、失礼します」

 続いて、ケイが現れた。

 彼女にはお茶の準備を頼んでいた。
 緊張した様子だが、自国の王族を前にしては仕方のないことかもしれない。

 話し合いの準備が整うと、フィリップさんはカップを傾けて口を湿らせた。

「……さて。改めてですが、孝弘殿。書簡のほう、拝見させていただきました」

 切り出す声は硬いものだった。

「聖堂騎士団が村を襲撃したというのは、本当なのですか」
「はい」

 そこからか――とは言うまい。

 良識のある人間にとって、騎士が民に剣を向けるなど、まず考えられないことだ。
 それが聖堂騎士団の仕業となれば、悪夢でさえ見ないような出来事に違いない。

 トラヴィスのしでかしたのは、それだけのことなのだ。

 フィリップさんの疑問は理解できる。
 予想もしていた。

「事件については、手紙に書いた通りです。そうですよね、リアさん」
「はい。孝弘様のおっしゃる通りです」

 このあたりを明確にさせるために、リアさんには同席をお願いしていた。

「なんでしたら、あとで村の人たちからも話を聞いてください。実際に襲われたのは彼らですから。詳しい話が聞けると思います」

 あとですぐわかる嘘をついても意味はない。

 フィリップさんもそれはわかっているはずだ。
 それでも眉間の皺が消えないのは、聞かされた事件がどうしても信じられないことだからだろう。

「失礼をお許しください。いくら勇者様のお話とはいえ、にわかには信じがたいことです。いったい、どうして聖堂騎士団は村を襲ったのでしょうか。わざわざ、このような辺境の地まで聖堂騎士団がやってきて、村人を襲うどんな理由があるというのでしょう。……なにかの間違いではありませんか」

 最後の一言には、本音のところが現れているように思えた。

 フィリップさんがやってきたのは、事実関係を確認するためだろう――というのが、先程、わずかな空き時間に聞いたシランの考えだった。

 聖堂騎士団による開拓村の襲撃は、常識的には考えられないことだ。
 この世界で勇者として扱われるおれや加藤さん、騎士として高名なシランが訴えたことに加えて、リアさんたちの村のエルフたちの協力と口添えとがなければ、耳を傾けてさえもらえなかったかもしれない。

 だからこそ、この訪問にはシランと面識のあるフィリップさんが来たのだ。

 訴えているひとりが、本当にシランなのかどうかを確かめるために。

 そういう視線で思い返してみれば、思い出を試すような問いを混ぜてもいた。

 それで本物だとわかったから、苦い表情を垣間見せてもいたのだろう。
 それはつまり、聖堂騎士団襲撃の話の信憑性を増す事実でもあったからだ。

 ……つまりは、疑われていたということなのだが、それを責める気持ちはなかった。

 正面に座るフィリップさんの表情は、酷く硬いものだったからだ。

 ともすれば、必死さのようなものさえ見て取れた。

 無理もないことだ。

 彼らにとって、勇者の主張を疑うとはどういうことなのか。

 たとえば、今回の件でおれや加藤さんの――勇者の怒りを買ってしまえば、世間の大きな批判を浴びることは想像に難くない。

 だからこそ、フィリップさんがここにいるとも言える。
 彼はすべての責任を負うことを覚悟しているのだ。

 そうした姿勢は、むしろ好感の持てるものだった。

 こちらも誠意を見せるべきだろう、と思えた。

 そもそも、誰にも状況を話すことなく、事態を動かすことなど不可能だ。

 シランからも、フィリップさんは王族としての務めを果たす立派な人だという評判を聞いている。
 おれの目からも、現在の状況からも、信用はしてもよさそうに思えた。

 これはチャンスだ。

 ある程度の権限を持ち、こうして誠実な態度を見せてくれる人間がやってきてくれたのだから。

「お気持ちはわかりますが、すべて本当の話です。襲撃の首謀者は、聖堂騎士団第四部隊の隊長『聖眼』のトラヴィス=モーティマー。この村を襲った理由は……おれと、こちらにいるシランです」
「……どういうことでしょうか」
「すべてをお話しします。落ち着いて聞いてください」

 トラヴィスがどうしておれたちを襲ったのか。おれは包み隠さず事実を語り始めた。

   ***

「……まさか、そんなことが」

 話を聞き終えたフィリップさんは、酷く動揺した様子を見せた。

「モンスターに心を与える力……シランがアンデッドに……?」

 茫然とした様子でつぶやく。
 その前に置かれた空っぽのカップに、ケイがお茶を継ぎ足した。

 縋るように中身を空けて、フィリップさんは大きく溜め息をついた。
 そして、なにかに思い当たったかのように、びくりとしてケイを見る。

「まさか、きみも……」
「え? ……ち、違います!」

 ケイはぶんぶん音が鳴りそうなくらいに首を振った。

 フィリップさんは、心なしほっとした表情を見せた。

「そ、そうか」
「あ。でも、リリィさんはモンスターですけど」
「だよー」

 視線を向けられたリリィが、指先をスライムに変えてみせた。

 がたんと大きな音がした。

 呻き声をあげてのけぞったフィリップさんが、椅子を鳴らしたのだ。

 温和な顔が引き攣っている。

 大袈裟とは言うまい。
 これが、この世界では当たり前の反応だった。

「も、申し訳ありません。失礼を……」
「いえ。仕方のないことですよ」

 我に返ってフィリップさんが口にした謝罪に、おれは静かに首を振った。

 シランやケイのように、事実を知る前に人柄を知る機会があったわけでも、村人たちのように命を救ったわけでもないのだ。

 即座に受けとめるのが難しいことは、予想していた。

 何時間か、何日か。
 フィリップさんが事実を受けとめるまでには、時間がかかるだろう。

 おれたちには、それを待つほかなかった。

 自然、室内に沈黙が落ちる。

 そこで、口を開く者があった。

「ちなみに、けーちゃんはああ言ったけど、わたしは人間でもあるんですよ」

 蒼褪めたフィリップさんに、リリィが声をかけたのだ。

 いや。違う。リリィではない。
 雰囲気と口調がわずかに違った。

「挨拶が遅れてすみません、フィリップさん。わたしは水島美穂。真島くんと同じ、転移者のひとりです」
「え? ……は?」

 にこやかに告げられた言葉に、フィリップさんは目を白黒させた。

 表情には出さなかったものの、おれも驚いた。
 水島さんがここで出てきたのは、別に打ち合わせていたことではなかったからだ。

「ほら。この顔立ちが真島くんたちと同系統なの、変だと思いませんでした?」

 自分の頬に指を当てて、水島さんは首を傾げてみせた。

「詳しい話は省きますけど、わたし、この子のなかにいるんですよ」
「勇者様が、なかに……?」

 驚愕に見開かれた目が、こちらに向けられた。

「まさか……そんなことが……」

 おれたちの態度を見て、水島さんの言っていることが本当だとわかったのだろう。

 フィリップさんの体から力が抜けた。
 崩れ落ちそうになる体を支えるように、テーブルに手を置く。

 この世界に生きる人間にとって、勇者とは希望と光を与える存在であり、モンスターとは恐怖と絶望の具現だ。

 自分たちの崇める勇者がモンスターのなかにいるという事実は、どうにも呑み込みがたいものだったに違いなかった。

「モンスターになっちゃったって考えてもらってもいいですよ。そういう意味では、シランさんと同じタイプでもありますね」

 そんな彼を見下ろして、水島さんは続けた。

 追い打ちをかけるかのようだったが、これがそんなものではないことはすぐにわかった。

「フィリップさん。あなたは、わたしのことをどう思いますか?」

 勇者でもあり、モンスターでもある少女の問いは、フィリップさんに息を呑ませた。

 試すような眼差しで、水島さんは彼を見詰めている。

 そうして、数秒。
 ゆるゆると息をついて、フィリップさんは微苦笑を浮かべた。

「……ご勘弁を、美穂殿」

 それは、先程のように張り詰めた表情ではなかった。

「取るに足りない凡人が小心なことだと、笑ってください」
「んー、いえ。時間さえあれば、いずれは受け入れてもらえるだろうとは思ってましたよ。だからこそ、こうして強引な手も打てたわけですし」

 水島さんはにこりとした。

「だけど、悩む時間は短い方がいいでしょう?」

 しれっと言ってのける彼女に、フィリップさんの苦笑は深まった。

「まったくですね。感服いたしました」
「いやいや。それほどでも……なんて。これ、実は半分くらいは入れ知恵なんですけどね」

 バツが悪そうな顔を作ってみせた水島さんが、おれのほうを見て頬を掻いた。

「言うまでもないだろうけど、真菜ちゃんだからね?」
「道理で」

 やり口が似通っていると思った。
 とはいえ、それをああしてやってしまえるあたりは、彼女自身の素養のように思えるが。

 元の世界にいた頃は、仲が良い先輩後輩だったというのもなんだか頷けた。

「真菜ちゃんには、あとでお礼を言っておいてあげてね。きっと喜ぶから」

 後輩への気遣いも忘れずに、水島さんは笑って言って――その笑みが、不意に悪戯っぽいものに変わった。

「こんなふうに言ってるけどね、『ご主人様』。自分にも力になれることはないかって言い出したのは、美穂なんだよ。今回のこれだって、加藤さんと一緒に考えてね。……って、ちょっと待って。りーちゃん、それ反則!」

 くるくると目まぐるしく表情が変わる。

 慌てふためいた様子で叫んだ水島さんは、最後におれのほうを見ると、ううぅっと唸った。
 耳まで赤く染まった顔で、誤魔化すように口を開く。

「じゃ、じゃあ、そういうことだから。あとは真島くん、うまくやってね」
「ありがとう、水島さん」

 早口で言った水島さんに、おれは感謝を告げた。

「助かったよ」
「……」

 水島さんは口元をもごもごさせる。

「……どういたしまして」

 肩から力が抜けて、少女の口元が緩んだ。

 ひらひらと手を振って、水島さんは切り替わった。
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