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モンスターのご主人様 作者:ショコラ・ミント/日暮 眠都

6章.

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01. 帝都の地下室

新章開始です。
よろしくお願いします。
   1


 この大陸では、人が住める大部分の土地を、イーレクス帝国と呼ばれる大国が領有している。
 しかし、彼らがこの大陸の絶対の支配者であるかというと、そうではない。

 より強大な権力と武力とを併せ持つ存在があるからだ。

 それこそが、聖堂教会。
 この世界の人々の宗教的な拠り所である、勇者という存在を崇めるための組織である。

 その総本山は、帝国の首都である帝都の一角を占める巨大な神殿だ。
 帝国の皇室が住まう城よりも立派なその佇まいを見れば、影響力の大きさは明らかだろう。

 帝都のみならず、ときには地方からも信者が訪れる神殿には、今日も多くの人々の姿が見られた。
 彼らは勇者ゆかりの品々を見て回り、伝え聞く伝説に想いを馳せ、我が身と周りの人々の安寧を祈ってこうべを垂れる。

 無論、彼らが決して足を踏み入れることのない区画もある。

 祭事にかかわるような重要な区画や、住み込みの聖職者の生活のためのスペース、防衛上の重要な施設などだ。
 信者たちがそうした区画に決して足を踏み入れることのないように、目を光らせているのが聖堂騎士団所属の騎士たちだ。

 しかし、そうした聖堂騎士の多くでさえ知らされない区画というのもまた存在する。

 ここは、そのひとつ。
 教会でもごく一部の者しか知らない秘匿された場所だった。

 床から天井まですべてが滑らかに磨かれた石造りの部屋である。

 空気は冷たく、また、重々しく凝っており、息を吸えば胸に重みを感じるほどだった。

 部屋の奥には祭壇が設けられている。

 それが魔法道具であることは、魔法を扱える者ならすぐに気付いただろう。
 むせ返るほどに濃密な魔力の気配があった。

 祭壇には、魔石と思しきいくつもの宝玉が埋め込まれている。

 祭壇の前に、ふたりの男が立っていた。

 この場の空気が結晶したかのごとく、重々しい雰囲気の男たちだった。

 ひとりは、二メートル近い鍛え上げられた体を、立派な騎士の鎧に包んだ男だ。

 ハリスン=アディントン。
 聖堂騎士団の団長であり、第一部隊隊長も務める男だった。

 もうひとりは、総白髪の老人だった。

 ハリスンとは対照的に、その体は細い。
 ぴしりと伸びた背は高く、老齢の割に肉体の均整は取れているものの、それは必要十分な摂生の結果であって、戦うために鍛えているわけではなかった。

 しかし、だからといって、隣のハリスンに比べてその姿が弱々しく見えるかといえば、そんなことはなかった。

 長い時を風雨に打たれてきた岩のように、揺るがぬ在り方がそこにはあった。

 只人ではありえない雰囲気を持つ、この老人の名はゲルト・キューゲラー。
 聖堂教会を運営する大神官だった。

 彼の乾いた唇が、ゆっくりと開かれた。

「……世界が揺らいでおる」

 しわがれた声だった。
 しかし、力強さは失われていない。

 自分の為すべきことを見定め、邁進する者だけが口にできる響きがそこにはあった。

「宙に浮遊していては、人は生を保つことはできぬ。大地があればこそ、民は生きることができる。この世界を支えているのは、他でもない勇者様の存在だ。ゆえに勇者様の存在こそが、なにを置いても優先せねばならないものだ」

 厳しい視線が、隣のハリスンに向けられた。

「これほど多くの勇者様がこの地に現れたことは、長い歴史のなかでも例のないことだ。不測の事態が起こるかもしれぬ。いいや。すでに、その兆しは出ている。それを防ぐことが、我らに課せられた使命だ」
「心得ております、キューゲラー様」

 重々しく、ハリスンは頷いた。

「我らの存在は、ただ民の安寧と世界の安定のために。そのためになら、この命を捧げることも厭いはしません」

 こちらもまた真摯な態度であり、殉教者を思わせる純粋な響きがあった。

 ゲルトは浅く顎を引いた。

「よろしい。ならば、行け」
「はっ」

 ハリソンは部屋を出ていく。

 その目指す先を知っているのは、あとに残された老人だけだった。
◆もう一回、更新します。
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