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モンスターのご主人様 作者:ショコラ・ミント/日暮 眠都

5章.騎士と勇者の物語

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27. 最後の防衛線

(注意)本日3回目の投稿です。(8/7)












   27


 おれは油断なく、対峙するふたりに目を配る。

 エドガール=ギヴァルシュと、ゾルターン=ミハーレク。
 偵察をしていて、どちらも油断ならない敵として記憶していた相手だった。

「……まさかおれたちのほうが真島孝弘と行き遭うとはな。こりゃあ、傑作だ」

 呆気にとられたようだったエドガールは、状況を理解すると好戦的な笑みを浮かべた。

「トラヴィスの野郎は空振りかよ。ざまあねえな。悔しがってる顔が目に浮かぶぜ」
「いや。奴なら『これからおれを襲撃するところ』だよ」
「あん?」

 不審そうな声をあげるエドガールだが、詳しく教えてやる義理はない。

 トラヴィスが攻撃目標としていた家屋にいるはずのおれが、どうしてこのような別の場所にいるかといえば、それは『霧の仮宿』の魔法のお陰だった。

 現状、おれは基本的に『霧』の魔法を、目晦ましと広域の空間把握に利用している。
 だが、もうひとつ、この魔法には効果がある。

 幻惑の魔法の効果だ。

 その力を使って、おれは自分があの家屋にいるように見せかけていた。

 あまり幻惑の力は強くないのだが、うまいことひとり耐性の低い者が引っ掛かってくれたのは幸運だった。
 あれがなくても突入は行われただろうが、お陰で確信を持って突っ込んでくれた。

 もちろん、それだけではなんの意味もない幻惑だったが、あの家屋には罠が仕掛けてあった。

 騎士たちの目には要塞化されているように見えただろうし、実際にある程度の強度はあったのだが、本質的にあれはハリボテでしかなかった。
 要となる柱が折れるような衝撃を与えればぺちゃんこに崩れるように、ローズの手によって細工をしてあったのである。

 更に、樹海で生活していた頃を思い出して、もうひとつ工夫をしておいた。

 あの頃、焚き火をするためにローズが伐採してきた木はよく燃えた。
 本来なら燃えづらい生木を薪にしてのけたのは魔法道具作製能力の応用だが、それを思い出したおれたちは、ローズに作ってもらった薪を家屋に蓄えておいたのだ。

 そこに、ロビビアが騎士団突入のタイミングで突っ込んで、炎を吐きつけた。

 まさにいま、おれの認識する空間内では、その罠が発動したところだった。
 残念ながらトラヴィスは捉えられなかったようだが、十分に戦力を削れたことは確認できた。

 トラヴィスが半狂乱になっているのが確認できる。
 おれ自身の耳にも、かすかに竜の咆哮が聞こえた。

 あちらはもう心配は要らなさそうだと判断して、おれは向けていた意識を切った。

 というか、気を配っている余裕がなかった。

 おれは、おれの戦いに集中しなければならない。
 目の前のふたりの騎士を睨み付けた。

 みんなが力を尽くして戦ってくれた結果、敵のほとんどを食い止めることができた。
 聖堂騎士団第四部隊二百名のうち、シランや村人たちを匿っているこの建物まで辿り着けたのは、たったの二名だ。

 もちろん、ゼロであればそれに越したことはなかったのだが、こうなってしまった以上は是非もない。

 おれは広域に薄く展開していた『霧』の魔法を解除した。

 意図を察して、アサリナがしゅるしゅると左腕に巻き付いてくる。

 盾の持ち手をしっかりと掴み、右手で剣を引き抜いた。

 目の前の敵に切っ先を向けることに抵抗はない。
 彼らは無抵抗の村人たちに剣を振り下ろした。
 仲間たちを守らなければならないという絶対の理由もある。

 それに……なぜだかトラヴィスをはじめとした聖堂騎士の在り方は、見ていると心がざわつくのだ。

 存在していることが許せない。
 そんなふうに感じるくらいに。

「おいおい、なんのつもりだ」

 おれが戦闘準備を整えたところで、エドガールが失笑を零した。

 歴戦の騎士らしく油断のない立ち姿だが、気持ちはこちらに向いていないのがわかった。

「お前は『モンスター使い』だろうが。なのに、自分で戦おうってのか」

 真島孝弘は戦闘向けの固有能力を持っていない。
 それを、エドガールも知っているのだろう。

「ああ。ここを通さないために、それが必要であるのなら」

 おれが答えると、エドガールの顔から笑みが消えた。

 代わりに現れたのは苛立ちの表情だった。

「……おい。ふざけんなよ。つーか、お前、白い蜘蛛はどうした? 女の姿をしてるっていうスライムは?」

 声がわずかに震えているのは、彼の怒りの表れだろう。

「まさか、お前……そうか。本隊と別動隊が足留め喰らってるのは、そういうことか。そっちに、その二匹を回しやがったんだな。くそが。当たりかと思ったら、とんだ貧乏くじじゃねえか」

 どうやらエドガールは、ガーベラやリリィとの戦闘をお望みだったらしい。
 それなのに、現れたのがおれでは落胆もするというものだろう。

 彼は深々と溜め息をついた。

「萎えるぜ、まったくよ」
「だったら、そのまま帰ったらどうだ?」
「そうしたいとこだが、そうもいかねえよ。こっちも仕事なんでな」

 エドガールが剥き身の剣を揺らした。

 無関心な殺意を宿した瞳が、おれの姿を映し出した。

「さっさと殺す。でもって、他の奴らと合流する。お楽しみはそれからだ――」

 ――無造作に立っていた姿が一転、力強く地面を蹴った。

 粗暴な言動とは裏腹に、こちらに肉薄するその動きは、流麗ささえ感じさせるほどに洗練されたものだ。

 鋭く踏み込み、手にした刃を突き入れようとする。

 がぃんと、鋼同士が打ち合わさる音が響いた。

「……あん?」
「いくらなんでも、舐め過ぎだ」

 エドガールの一撃には、気が入っていなかった。
 訓練のガーベラの一撃に比べても、欠伸が出るほどに遅かった。

 これなら十分に対処できる。

「はあっ」

 捌いた剣を引き戻して、喉を狙った。

 さすがにエドガールの反応は鋭い。
 素早く後退して、これを避けた。

 完璧な回避だった。
 おれがひとりであったなら、だが。

「サマッ!」

 エドガールの顔面に、アサリナが襲い掛かった。
 目玉を抉り抜こうと牙を剥く。

「させません!」
「……マッ!?」

 しかし、傍らから突っ込んできたゾルターンが、アサリナのハエトリクサ状の頭部を切り落とした。

 適切なフォローだ。敵ながら。
 と、感心している暇もない。

 返す剣で、ゾルターンは首を狙ってくる。
 こちらも手練れ。シランに近いレベルにある。

 ならば――。

「――っ、おおおお!」

 おれは左腕の盾を、お互いの間に割り込ませた。

「ぬっ!? ぐ……!?」

 打ち込んだ側のゾルターンが、苦鳴をあげていた。
 金属の壁でも殴りつけたかのように、盾に打ち込まれた彼の剣は弾き返されていたのだ。

 圧倒的な腕力差がないとありえない状況。
 剣を握っていた手が痺れたのか、目元が引き攣る。

 そこでできた隙を見逃す理由はない。
 おれは果敢に攻めようとして――。

「――くっ!?」

 首の裏あたりが、ぞっとした。
 本能に逆らうことなく、身をかがめる。

 頭の上を、鋭い一閃が走った。
 避けた。だが、終わりではない。

「うぐっ」

 直後、蹴りがきた。
 咄嗟に盾で防御したが、そうしなければ顔が潰れていただろう。

 蹴りあげられて、背後に何メートルも吹き飛ばされる。

 隙を見せるわけにはいかない。
 空中で姿勢を整えて、足から着地した。

 顔を上げた先、こちらを眺めていたのはエドガール。
 そこに、先程までの遊びの雰囲気は一切なかった。

 彼は蹴り足をぷらぷらと揺らしてから、剣を握る手を痛めたらしいゾルターンに目をやった。

「さっきの防御……」

 視線が、こちらに戻ってくる。

「その左腕、なにか仕込んでやがるな」
「……」

 見抜かれた。
 その事実を、おれは特に驚きなく受け止めた。

 エドガールの指摘通り、この左腕には『白い蜘蛛の暴虐』の力が宿っている。

 思い切り振るえば、反動で腕を使い物にならなくしてしまうほどの強大な力だ。

 あまりに使い勝手が悪いため、どうにかならないものかと試行錯誤していたのだが、最近になって、ほんの瞬間的に力を使うことで、負担を軽減させる技術を身に着けることに成功していた。
 まだタイミングを見計らうのが難しいが、実戦でもなんとか使えるレベルにある。

 なるべくなら、これで決めてしまいたかったのだが、そううまくはいかないか。

「その左腕の力抜きでも、戦闘レベルはうちの連中の平均はあるな」

 エドガールは奇妙なくらいに冷静な目でおれを見ていた。

「剣腕はまだ拙いところがあるが、その分、守りと回避は悪くない。身体能力強化は確実に上だな。それに、おれの蹴りを受けるなんて、生真面目そうなツラしておいて、泥臭い戦い方に慣れてんじゃねえか」

 だらりと下げられたエドガールの剣の切っ先が、地面をがりがりと削った。

「真島孝弘には、戦う力はないって聞いていたんだが……なかなかどうして、たいしたもんだ」
「文句でもあるのか」
「いいや。ねえよ。あるわけねえ」

 頬を引き裂くように、笑う。
 濃い血の臭いのする笑みだった。

「これなら少しは楽しめそうだ」
「……」

 できれば、割に合わないと退いてくれればありがたかったのだが、むしろ火がついてしまったらしい。
 エドガールは獰猛な笑みを浮かべて身を低くして、その隣でゾルターンも身構える。

「ちぃと萎える二対一だが、卑怯なんて言ってくれんなよ。せいぜい堪えてくれ」
「そんなことは言わない。これは実戦だからな」

 おれは答えて、かぶりを振った。

「それに、そもそも、こちらはひとりじゃない」
「あん?」
「……アサリナ、サルビア」

 呼び掛ければ、すぐに応える声があがった。

「ゴシュッ、シュッ! サマ!」
「お呼びかしら、旦那様」

 アサリナが長く伸びて周囲を漂い、牙を剥いて敵を威嚇する。
 半分霧のまま背後に現れたサルビアは、重さを感じさせない仕草で首に腕を回してきた。

「全力でいく。力を貸してくれ」
「サマー!」
「わかったわ」

 頼れる仲間たちとともに、おれは敵を睨み付けた。
◆三話連続更新でした!

切れるところがなかなかなかったですが、なんとか週末中に更新できました。
ひと安心です。
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