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モンスターのご主人様 作者:ショコラ・ミント/日暮 眠都

5章.騎士と勇者の物語

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19. ある騎士から見た景色

(注意)本日2回目の投稿です。(6/20)












   19


 森のなかに準備された野営地で、聖堂騎士団第四部隊に所属する騎士たちは、思い思いの一夜を過ごしていた。

 見張りに立っている者こそ気を張り詰めているものの、それ以外の者の態度は、お世辞にもお行儀の良いものとは言えない。

 さすがに剣を手放すような馬鹿はいないものの、好き勝手に行動しており、車座になって賭け事をしている者もいた。
 そんななか、鋭い眼つきの男が、唸る狼のような声をあげた。

「ったく、萎えるぜ。仕切り直しなんてよ」
「その話、もう何度目ですか、エドガール」

 少々うんざりしながら返す。
 険の強い顔立ちが、こちらに向けられた。

「とはいってもよ、仕方ないだろうが。ゾルターン」

 ゾルターン=ミハーレク。
 それが、わたしの名前だった。

 栄光ある聖堂騎士団の第四部隊のひとりにして、かつて『見通す瞳』の名で知られた勇者の末裔。
 そして、その能力を受け継いだ『恩寵の愛し子』のひとりでもある。

 とはいえ、『心を読む』という力を以って、過去の聖堂教会を発展させたという先祖とは違って、わたしの力はせいぜい相手の感情を読む程度のものだ。

 それでも、その能力はそれなりに有用だ。

 たとえば、自分が剣を向けている相手が怒っているのか、恐れているのか。

 それを知ることができれば、敵が次に取る行動を、ある程度は読むことが可能だ。
 特にモンスターを相手にする際に、それは大きなアドバンテージとなる。

 また、交渉事において、相手がこちらを詐欺にかけようとしたとき、笑顔の下の悪意を読み取ることができれば騙されることはない。

 その『見通す瞳』の力で見る限り、目の前のエドガールは酷く欲求不満のようだった。

 いや。そんなものがなくても、エドガールが不機嫌であることは、傍目に明らかだった。

 原因もはっきりしている。

 わたしは離れて動いていたので、これはあとで聞いた話になるのだが、トラヴィスとエドガールを含めた本隊は、捜索対象である『グール』シランを発見したらしい。

 しかし、彼女がひとりではなかったため、トラヴィスは一時撤退を決定した。

 その決定が、エドガールを不機嫌にさせていた。

「長い時間かけて、こんなしけた国までやってきて、やっと対象を見付けたと思ったらお預けだぜ。文句のひとつも言いたくなって当然だろ」

 実戦レベルで使える異能を持つ『恩寵の愛し子』は、第四部隊に三名いる。
 ひとりは隊長のトラヴィス、ひとりがわたし。

 そして、もうひとりがエドガールだ。

 単純な戦闘力なら、第四部隊で最強を誇る、『戦鬼』エドガール=ギヴァルシュ。
 その力は、聖堂騎士団の隊長クラスに匹敵する。

 しかし、それ以上に特筆すべきは、その性質にあった。

「おまけに、元北域最高の騎士の成れの果ては、まともに戦えるような状態じゃないときた。どれほど歯ごたえのある相手か、期待してたんだがなぁ」

 一言で表現してしまえば、戦闘狂。
 エドガールは、戦いに執心しており、それ以外の事柄に関心がない。

 およそ、騎士らしからぬ嗜好と言うべきだろう。

 もっとも、騎士らしからぬという意味なら、この聖堂騎士団第四部隊に所属する騎士たちは、誰も彼もがそうだったが。

 でなければ、今回のような作戦に従事してはいられまい。

 トラヴィスが率いた本隊は、今日、とある村ひとつを蹂躙したのだという。
 本来なら人々を守るべき騎士の剣で、情け容赦なく村人たちを斬った。

 曲がりなりにも騎士であれば……いいや。良識のある人間であれば、とても堪えられない行為だろう。

 しかし、わたしの『目』で合流した同僚たちを見たところ、苦しんでいる者などひとりもいなかった。

 どころか、興奮している者も少なくなかった。

 戦闘そのものを好んでいるエドガールとは、また少し違う。
 彼らが楽しんでいるのは、一方的な暴力だ。

 他人を虐げるのは楽しい。
 暴力を振るうのは楽しい。

 そんな人格の者が、この部隊には多くいた。

 そうでない者も、そうした行為を咎めるような性質ではなかった。

 輝かしい勇者の血脈とて、いずれは濁るということか。
 むしろ、勇者自体が本当に伝承に謳われるような存在であったのかどうかさえ、疑問に思えてくる。

 ……なんて、こんなことを口にすれば、聖堂教会に粛清されかねないから、口には出さないが。

 それくらいに、この場にいる者たちは汚かった。

 無論、これはわたし自身も含めた話だが。

「少しいいですか、エドガール。それに、ゾルターンも」

 その汚濁の最たるが、声をかけてきた。

 隊長のトラヴィス=モーティマー。
 優美な見てくれをしているが、その心は名誉欲と出世欲に塗れた男だった。

 わたしの『目』には、そんな男の本性が、はっきりと見て取れた。

「まだ、合流できるまでに時間がかかる者がいるようです」

 あたりを見回しながら、トラヴィスが言う。

 周囲にいる同僚たちは、現在で百名近い。
 だが、もともと、聖堂騎士団第四部隊に所属する騎士は二百名を数える。

 これをいくつかに分けて、トラヴィスは『グール』シランの行方を追っていた。
 全員が集まるのには、それなりに時間が必要だった。

「疲れがあってはいけません。いまのうちに、睡眠を摂っておきなさい」

 そうした現状を踏まえて、トラヴィスが口にした台詞は、一見、気遣いの産物とも取れるものだ。

 しかし、こちらに彼の向ける感情は、その実、よくできた道具に対するものだった。

 戦いに臨む者として、道具のコンディションを気にするのは当然のこと。
 そこに、まともな人間の情はなかった。

「明日には、我らは大きな栄誉を手に入れることが叶うでしょう。とはいえ、エドガールにとっては、いささか退屈な時間になるかもしれませんが」
「ふん」

 鼻を鳴らしたエドガールに、トラヴィスは微笑みかける。

 その微笑みには、見る者の背筋に悪寒を走らせずにはいられない、深い悪意があった。

「敵となるのは、転移者ひとり。それも戦闘向けではない異能では、たかが知れています」

 信じるものを持たないトラヴィスにとって、真島孝弘という名の少年は勇者ではなく、単にこの世界に迷い込んできた異物に過ぎないのだろう。
 ましてや、それがモンスターを操る邪悪な存在となれば、言い訳なんていくらでも利く。

 剣を振るうのを躊躇うことはあるまい。

「あそこにいるのは、踏み躙られる弱者に過ぎません。蹂躙といきましょう」

 トラヴィスは、明日の勝利を確信している様子だった。

 実際、彼は敵の最大の戦力を封じているのだと聞いている。
 加えて、『グール』シランは戦闘ができるような状態ではなかったようだ。

 これではどうしようもないだろう。

 対象は抹殺され、わずかな村の生き残りも殺しつくされる。
 そんな残酷な未来にも、この心はまったく動かなかった。

「期待していますよ、ふたりとも」

 言い残して、トラヴィスは背中を向けた。

 そのとき、わたしと目が合った。

 その目の奥に、かすかな不快感があった。
 それは、トラヴィスだけではなかった。

 隊長に声をかけられたわたしたちには、同僚の騎士たちの視線が集まっていたが、そのおおよそすべてが、わたしに負の感情を向けていた。

 仕方のないことだった。
 慣れていた。

 心を読めないと言っても、そんなものは自己申告でしかない。
 そんな相手と接するのは、生理的に気持ち悪いだろう。

 実際、感情という心の一部を読んでいるのは確かなのだ。

 ああした態度を取られるのは、仕方のないことだ。

 だから、そこについてはなにも思わない。
 なにも感じない。

 感じないように、生きてきた。

 ゆえに、この世のすべてがどうでもいいものとしか思えない。
 どんな残酷な事実も、この心を揺らすには至らない。

 それが、わたし……ゾルターン=ミハーレクという男だった。

「まったく、本当に度し難い」
「どうした、ゾルターン」

 独り言が聞こえたのか、怪訝そうな顔をして、エドガールが声をかけてきた。

 そこには、疑問以外の感情はない。
 悪感情もない。

 とはいえ、それは親愛の情などといったものが理由ではない。

 戦い以外のすべてに興味のない男は、それ以外の何事にも興味が薄いというだけのことだった。

「なんでもありません」
「だったらいいがよ。体調が悪いなら、さっさと抜けろよ。おれの邪魔しやがったら、長い付き合いのお前でも殺すぜ?」
「わかっていますよ」

 返したところで、見張りの騎士たちがざわめいた。

 別行動を取っていた騎士たちが、また合流したのだ。

 戦いのときが近付いていた。

 騎士たちの士気は高い。

 勝利と名誉は約束されたものなのだと、トラヴィスが謳っている。
 軍隊において士気は非常に重要な要素であり、あの男はそれを操るのに長けている。

 人格はともかくとして、やはり隊長に相応しい能力を持っているのだろう。

 功名心、立身欲、嗜虐性。

 煽られた欲望が、まるで燃える炎のように、わたしの『目』には映った。

 焔は勢いを増す。
 この勢いは、彼らに力を与えるだろう。

 欲望に滾る彼らを、わたしはひとり醒めた目で眺めていた。

 そんなふうでいたからだからだろうか。
 ふと、他愛もない考えが脳裏に過ぎった。

 これから蹂躙する相手のことを、『踏みにじられる弱者』と、トラヴィスは評した。
 トラヴィスは踏み躙る側の人間であり、その嗅覚に間違いはあるまい。

 けれど、それは絶対不変の真実だろうか。


 踏み躙られる者が、いつまでもそのままでいる保証など、どこにもないのではないか。


 それは、ほんのわずかな疑問。
 取るに足らない、些細な不安でしかなかった。

 そうでなくても、わたしにとって目の前の現実は、なべてどうでもよいことでしかなく。

 浮かんだ考えは、すぐにかすれて消える。

 夜は更けて、蹂躙のときは着実に迫っていた。
◆たまにはモブ視点も入れてみたり。
彼の懸念は、正しいのか否か。今後にご期待ください。

しかし、第四部隊は、まともな奴がいませんね……。

◆ネットがやっと開通しまして、帰ってこれました。
まだ、ばたばたしていますが、頑張ります。
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