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モンスターのご主人様 作者:ショコラ・ミント/日暮 眠都

5章.騎士と勇者の物語

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14. エルフの絆

前話のあらすじ:

シランの隠し事が発覚。
   14


 シラン個人の問題は、ようやく本当の意味で解決を見た。

 だが、これですべてが終わったわけではない。

 リアさんたちには、シランの腕が落ちるところを見られてしまっている。

 まさか、何事もなかったかのように戻るわけにもいかないだろう。

 かといって、うまく言いくるめられるような嘘は思い付かない。
 たとえ思い付いたところで、おれたちは詐欺師ではないのだ。
 恐らく、態度に出てしまうだろう。

 それでは、悪戯に信頼を失ってしまうだけだ。

 すでに誤魔化しきれないところにまできているのだ。
 ここは話をするべきだと、おれは判断した。

 ただ、シランの身の上を話すためには、眷属としての彼女の便宜上の主である、おれ自身の事情にも触れる必要があった。

 これまでの交流のなかで、おれはリアさんたちのことを信用できる人物と認識している。

 けれど、おれたちの存在を受け入れてもらえるかどうかは、それとはまた別の次元の問題だった。

「申し訳ありません。わたしのせいで……」
「そう気にするな。いずれは、通らなければならなかった道だ」

 気落ちした様子を見せるシランを、おれは慰めた。

 本音のところを言えば、確かにもう少し時間がほしかったというのはある。
 リアさんたちとは、それなりに良好な関係を築けているとは思うが、まだ確信を得るには至っていないからだ。

 だが、こうなってしまった以上、そんなことを今更言っても仕方なかった。

「だけどさ、ご主人様。本当に最悪のケースとして、剣を向けられる可能性もあるんじゃない?」

 慎重な口調で、リリィが尋ねてくる。

 あえて嫌なことを口にしてくれた彼女に感謝しつつ、おれは答えた。

「それも一応、考慮はした。が、問題はないだろう。開拓村の戦力程度で、おれたちをどうにかすることはできないしな」
「まあそうだね」

 精神的にはきついところもあるだろうが、実害はない。

「拒絶されてしまえば、シランの故郷に滞在することはできないから、そこは残念だけどな。そのときは、いちから出直そう」

 もちろん、そうならないに越したことはない。

 覚悟を決めて、おれたちは元いた場所に戻った。

   ***

 帰還を待っていたエルフたちの状態は、様々だった。

 リアさんは、目に見えて情緒不安定な様子だった。
 なんというか、いまにも叫び出しそうな危うさがあった。

 これでも落ち着いたほうらしく、シランが飛び出して行った直後の取り乱しようは酷かったようだ。

 まずはロビビアが実力行使で押さえ込んだうえで、加藤さんが言葉を尽くして落ち着かせてくれたのだと聞かされた。
 ふたりには、感謝の言葉しかなかった。

 リアさんに比べれば、ヘレナのほうは、まだしも落ち着いているようだった。
 彼女は硬い表情で、じっとおれのことを見詰めていた。

 そして、ケイは真っ先にシランに駆け寄ると、感情を爆発させた。

「姉様! 姉様ぁ!」

 彼女はシランの帰還を喜び、泣いて、怒って、最後に抱き締めた。

「よかった、姉様……」
「……ごめんなさい、ケイ」

 ここ最近はケイとの触れ合いを避けていたシランも、今回ばかりは避けようとはしなかった。
 飢えが解消されたことで、多少の余裕もできたのかもしれない。

 この触れ合いが、シランの心に良い影響を与えてくれればよいのだが……と思いつつ、おれはふたりの姿から目を移した。

 いつまでも彼女たちの姿を見ているわけにもいかない。

 おれにはおれで、やるべきことがあった。

「すみませんが、リアさん。それに、ヘレナも。少しお時間いいですか?」

 おれは、リアさんたちと話をする場を設けることにした。

 ちなみに、シランはこれに不参加だ。
 彼女自身は参加すると言ったのだが、おれは休んでおくようにと言い聞かせていた。

 いろいろあって、いまの彼女は精神的に疲れている。
 自身の体のことや、事の経緯について、自分の口で話すのはかなりの心理的負担になるし、リアさんたちの反応も読めない。

 精神面がアンデッドの体に与える悪影響を考えても、ここは休んだほうがいいだろう。

 ここに帰ってくるまでの道中、そう言い聞かせた甲斐もあって、シランは素直におれの言葉に従った。

 ケイに同伴してもらって、シランを車に引っ込ませたあとで、おれはリアさんとヘレナに向き合い、話を始めた。

 おれ自身のこと。リリィたちのこと。そして、シランのこと。

 いずれどこかで話すことになると考えていたので、澱みはない。

 当然のことだが、話を聞いたふたりのエルフは驚いた様子を見せた。

 というより、信じられないというのが正確だろうか。

 彼女たちの常識に、モンスターを率いる能力という観念はない。
 また、アンデッド・モンスターが理性を持つなんていうのは、王都の劇場で催される悲劇の演目のひとつ、かつての王様を題材にしたお伽噺でしかない。

 とはいえ、車のなかから出てきてもらったガーベラを目にしては、信じざるをえなかったようだ。

 途中、リアさんが腰を抜かしたり、気を失いかける場面もあったものの、最後まで話を聞かせることはできた。

「……というわけです」
「お話は、わかりました」

 話を聞き終えると、リアさんは額を押さえて俯いた。

「……ですが、少しお待ちください」

 呼吸が浅い。
 混乱している様子だった。

「孝弘殿がモンスターを率いる能力者で……リリィ殿たちはその眷属たるモンスター……シランの体はアンデッド・モンスターのものになっていて……さっきの事故はそのせいだと? まさか、そんなことが……」

 完全に許容量を超えてしまったらしい。

 青白い顔は、それこそ彼女自身がアンデッドであるかのようだった。

 もっとも、これが普通の反応だろう。

 団長さんのようなケースが例外なのだ。

 これは少し時間を置いたほうがよいだろうか。
 時間の経過がよいほうに働くか、悪い影響を及ぼすかはわからないが、このままではリアさんが倒れてしまいかねない。

 と、心配をし始めたところで、声があがった。

「お婆様」

 沈黙を破ったのは、ヘレナだった。

「シランが無事に帰ってきて嬉しいと言っていたのは、嘘だったの?」

 意志の強い声だった。

 正直なところ、こうした反応は予想していなかった。
 驚くおれを他所に、ヘレナは続けた。

「どんなかたちであれ、シランが帰ってきたことは事実でしょ?」

 おれの話を聞いても、ヘレナはそれほど動揺していないらしい。
 少なくとも、状況を受け入れたうえで、言葉を紡いでいるように見えた。

「その、アンデッドだとかなんだとか? 確かに驚いたけど……そんなのは、どうでもいいことじゃない」

 言い切ってしまう。

 そこには、単なる勢い任せではない、確固たる意志が感じられた。

「ヘレナ……」

 頭から水でもかけられたかのように、リアさんは言葉を失った。

 そんな祖母の姿を、怒ったような顔でヘレナは見詰め続けている。

 そうして数秒。
 リアさんの顔に、わずかな笑みが浮かんだ。

「そう……そう、だね。確かに。それは、あんたの言う通りだ」

 言葉の意味を確かめるように、ゆっくりとした口調で言う。

 しばらくして、リアさんは大きく息をついた。

「ああ、やっぱりわたしは駄目だね。こういうときに、どうすればいいのか、咄嗟にわかんなくなっちまう」

 首を横に振ると、リアさんはおれに顔を向けた。

 顔色はまだ悪いが、視線に揺らぎはなくなっていた。

「ヘレナの言う通りです。その身がアンデッド・モンスターのものであったところで、シランはシランですし、モンスターの主であろうとなかろうと、孝弘殿は孝弘殿です。なにも変わりません」
「というと……」
「ええ。昨晩、夫も言っていた通りですよ」

 リアさんは頷いてみせた。

「村を助けていただいた恩もありますし、シランを助けていただいてもいます。そもそも、孝弘殿をアケルに招いたのは、大恩あるアケル王家の方です。孝弘殿にどのような事情があろうと関係なく、わたしたちはあなたを受け入れると申し上げました。その言葉に嘘はありません」

 そこまで言ったところで、リアさんは苦笑を零した。

「もっとも、そんなことを言っておいて、先程はああも取り乱してしまったのですから、世話がありませんが」
「いえ。おれも、自分の状況については理解しているつもりですので」
「そうおっしゃっていただけますと、ありがたいです」

 にこりと笑ったリアさんは、そこで表情を真剣なものに変えた。

 居住まいを正し、口を開く。

「樹海では、信頼の置ける味方の存在ほど大事なものはありません。その見極めを間違えれば、集落のひとつなど容易に滅んでしまいます」

 その言葉には、村を預かる長の家の人間としての重さがあった。

「孝弘殿にはやんごとなき事情があり、それはわたしたちには受け入れがたいことかもしれないというのは、あらかじめ聞いていたことでした。そのうえで、わたしたちは孝弘殿を受け入れると決めたのです。ここに夫がいれば、きっと同じ決断をしたことでしょう」

 紡がれる言葉に、迷いはない。

 樹海に生きるエルフたちは、素朴で、義理堅く、情が厚い。

 その事実を、おれは改めて知った思いだった。

 リアさんは深々と頭を下げた。

「これからも、どうかよろしくお願いいたします」
◆もう一回更新します。
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