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モンスターのご主人様 作者:ショコラ・ミント/日暮 眠都

5章.騎士と勇者の物語

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04. エルフの開拓村

前話のあらすじ:

シランの伯母の開拓村に移動することが決定
親族の皆さんにご挨拶です(違う)
   4


 ディオスピロを出たおれたちは、町の外で待っていたリリィやガーベラと合流してから、リアさんの村があるアケル西部へと向かった。

 道中には、リアさんをはじめ、開拓村のエルフ五名が同伴した。

 エルフは全員が腰に剣を下げ、軽鎧を身に付けたうえで、盾と弓矢を携帯しており、ずいぶんと物々しい印象だった。

 村人が武器を携帯すること自体は、尚武の気風が強いアケルでは珍しいことではない。

 だが、さすがに完全武装ともなると、軍人以外ではあまり見かけることはない。
 群青兎の大繁殖の件を警戒しているのだろう。

 今回の町への訪問は物資の補給を兼ねていたとのことで、彼らも荷車で来ていたため、おれたちの車と二台、縦になってガタゴトと細い道を進むことになった。

 移動中、シランとケイは、村のエルフたちと和気藹々と過ごしていた。

 大抵の場合、アケルにあるエルフの開拓村というのは、ひとつの血縁集団、ひとつの部族が預かっているのだという。
 言い換えれば、村人はみんな、族長筋であるリアさんの血縁だということだ。

 従って、リアさんの血縁であるシランたちも、村人たちと血の繋がりがあるということになる。

 そんな彼女が同盟騎士団で副長になり、勇者を伴って帰国したというのだから、ちょっとした騒ぎになるのも理解できた。

 そうしてシランたちが村のエルフたちと交流する一方で、彼らの前には姿を見せられないガーベラとあやめには、車のなかに引きこもっていてもらうことになった。

 なにも知らないエルフたちがすぐ近くにいることに、少しばかり不安もあったのだが、これについては、ロビビアがガーベラたちと一緒にいて、問題を未然に防ぐ役目を買って出てくれた。

「おーい、ロビビア。夕飯だぞ」
「……わかった、すぐ行く」

 エルフたちと一緒の道中、ロビビアは、用があるときだけ翼を背嚢で隠して、車の外に出るようにしていた。

 人目があると翼を隠さなければならない彼女としても、ガーベラたちと一緒にいれば窮屈な思いをせずに済み……なにより、かなりの人見知りでもあるので、このほうが気が楽だったようだ。

 挨拶のときに車のなかから顔を出して以来、外に出てこないガーベラの存在について、エルフたちは少々不審に思っていたようだったが、そこは彼女の美貌がいい方向に働いた。

 いや。これを一概にいい方向と言ってもいいものかはわからないのだが……端的に言えば、彼女は『勇者様が囲っている恋人』と、エルフたちに認識されたようなのだ。

 邪推ではあるが、完全に間違いというわけでもない。

 それでエルフたちとの関係がおかしなことになるなら問題だが、特にそういうこともなさそうだったので、おれは誤解をそのままにしておくことにした。

 ちなみに、ガーベラ本人は『囲われている恋人扱いされている』と知ると、無邪気に喜んでいた。
 そうなると、おれも悪い気はしないものだった。

 もっとも、そんなふうに思われなくても、勇者の車に無断で入り込むような無礼者もいないので、これについてはおれの考え過ぎというか、杞憂だったのかもしれない。

 それに対して、少し難しかったのが、夜の見張りだった。

 普段は眠る必要のないリリィとローズ、シランの三人がやってくれているのだが、さすがにそれは事情を知らない者の目から見て不自然だ。

 そこで、エルフたちも含めて、交代で見張りをすることになった。

 また、周辺の見回りについてだが、これまでのように夜の長い時間があれば、シランに任せることもできたのだが、彼女も他のエルフたちと同じように交代で眠るふりをする必要が出てきたため、これは諦めるほかなかった。

 もっとも、夜の見回りはあくまで、より確実に安全を確保するために、シランが自発的に行っていたことだ。
 必ずしも、なければ困るものではない。

 夜の警戒を怠らないように、いっそう気を付けることにして、おれたちは旅を続けた。

 じわりとした空気の変化を感じたのが、二日目のことだった。
 樹海独特の空気を肌で感じた。

 開拓村に到着したのは、その翌日だった。

「おお、シラン様! よく帰っていらっしゃった」
「立派な騎士様になったものですな。前に会ったときは、まだこんなだったのに」
「女らしくなって。そろそろ男がほっときやせんのではありませんか」
「ケイ様も大きくおなりになった」

 ここでもシランたちは、村のエルフたちに歓迎を受けていた。

 エルフの村を治める族長筋の家は、多くの騎士を輩出している。
 モンスターの脅威から国を守るために、危険な樹海にあえて分け入るのが、騎士たる者の役割だ。
 村を代表して、重い責務を負う彼らは、村人からの尊敬の対象となっているのだろう。

 シランたちにかけられる言葉はどれも親しげで、敬意と温かみが感じられるものだった。

「なんかさ、ご主人様。こういうのっていいね」
「そうだな」

 リリィの感想に、おれは同意を返した。

 いつかの地下霊廟でのシランの横顔を思い出した。
 これが、シランが命を懸けて守りたいと言っていたものなのだろう。

 おれの目から見て、エルフの村というのは、ひとつの家族のようなものにさえ見えたのだ。

 と、そのときだった。

「あーっ!」

 少し離れた場所で、大きな声があがった。

「本当に、帰ってきてる!」

 声をあげたのは、シランより少し年下の少女だった。

 振り返ったシランが目を丸める。

「ヘレナ」
「あんた、シラン! どうして帰ってきちゃうのよ!?」

 ざっくりと切った金髪を揺らして、ヘレナと呼ばれた少女がこちらにやってきた。

「誰だ?」
「リア叔母様の孫娘のヘレナと言います」

 尋ねるおれに、シランが答えた。

「わたしの幼馴染で、友人です」
「違うわよ!」

 続けたシランに、ヘレナが噛み付いた。

「と言ってるが」
「わたしは友人のつもりなのですが……」

 困ったふうに笑って、シランはヘレナに向き直った。

「お久しぶりですね、ヘレナ。五年ぶりになりますか。元気にしていましたか?」
「元気に決まってるじゃない! わたしは騎士になるんだから」

 勝気そうな眼差しが、シランの眼帯の上でとまった。
 気遣わしげな顔になったのも一瞬、口を開いた。

「あんたこそ、なによ、その眼帯!」
「いろいろありまして」

 苦笑するシランだが、動じる様子はない。

 ふたりは気の置けない関係なのだろう。

 と同時に、どうやらヘレナのほうは、シランに対抗意識を燃やしているようだ。

 びしりと音を立てそうな勢いで、人差し指を突き出した。

「澄ました顔をしていられるのも、いまのうちなんだから。力試しよ、シラン! わたしの剣で吠え面を……あいたっ!?」
「馬鹿者。お客人の前で、なにをしておるか」

 噛み付く少女の頭に、拳骨が落とされた。

「まったく。もう少し落ち着きは出てこんものか」

 うずくまった少女を置いて、彼女に拳骨を落とした人物がこちらを向いた。

 他のエルフたちもただの村人とは思えないくらいにたくましいが、そのなかでも飛び抜けて屈強な男性だった。

「ようこそお越しくださいました、孝弘殿、真菜殿。わたしは、メルヴィンと申します。この村で、長を務めておる者です」

 村の長。つまり、リアさんの夫である。
 彼を呼びに行ってくれたリアさんの姿も、その隣にあった。

 メルヴィンさんは精霊との契約こそできないものの、非常に優秀な戦士なのだと、シランからは聞いている。
 頬を深く抉った古傷が、村を守るこれまでの戦いを物語るかのようだった。

「本日は、我らの危難をお耳に入れて、このような辺鄙な場所までお越しくださったということで、感謝の言葉もありません。勇者様が訪れるには、ひなびた場所ですが、精一杯の歓待をさせていただきたいと思っております」
「ああ、そういうのはかまいません。こちらこそ、短い間ですがお世話になります」

 つつがなく、メルヴィンさんとの挨拶を終えた。

 ……途中、「ゆ、勇者様!? 勇者様の前で、わたし、なんて粗相を……!」と青くなっている娘がいたが、あとでシランにフォローしておいてもらおうと思う。
 あとは、度を過ぎた歓待は不要だということも、重ねて言っておいたほうが無難だろうか。

 そんなことを考えながら挨拶を終えたおれは、一度その場を辞して、リアさんに頼んで融通してもらった空き家に案内された。

 そこで、みんなとは別れる。
 リリィとシランのふたりだけを伴って、村長宅に向かった。

「わたしは幼い頃、この村に半年ほどお世話になっていたことがあるのですよ。ヘレナと知り合ったのは、そのときですね」

 道中、シランから村での昔話を聞いた。

「ヘレナには、よく剣の稽古の相手をしてもらっていました。懐かしいですね」
「シランの子供の頃か。どんなだったんだ?」
「……ん。そうですね。自分のことなので、はっきりしたことは言えませんが、思い返してみると、いまのケイに少し似ていたかもしれません」

 そんな話をしているうちに、目的地に着いた。

 そこで夕食を振舞われたあとで、村長夫妻を含めた村の面々と、群青兎の討伐について打ち合わせをすることになった。

「それで、伯父様。状況はどのようなものなのですか」
「正直なところ、かなり厳しい。まだ幼い者だけでも、隣村に避難させられないかという話も出ていたくらいだ」
「それほどですか……」
「村を放棄するつもりはなかったが、守り切れるとも思っておらんかった。あと半月遅ければ、この村はなかったかもしれんな」

 当然だが、他の村々にもそう余裕があるわけではない。
 受け入れてもらえるだけの人数以外は、最後まで村を守って死ぬしかないと覚悟を決めていたのだという。

 壮絶だが、これが樹海に生きるエルフたちの現実なのだ。

 リアさんに聞いていたよりも、状況はかなり切羽詰まっている。

「では、すぐにでも動き出す必要がありますね」

 決行は明日から。
 数日間かけて行われることになった。

 村からは、十名ほどの人手を出すのだという。

 これは、おれにとって、少し意外なことだった。

「なあ、シラン。おれたちだけじゃ駄目なのか?」

 おれが危惧したのは、留守の間の村の守りのことだった。

 戦える村人を討伐作戦に引き抜くということは、留守の間の防衛戦力が低下するということであり、これはあまり好ましい状態とは言えない。

 群青兎は、樹海表層部のモンスターだ。
 そのなかでも弱い部類なら、十分におれたちだけで倒すことができる。

 なので、おれは自分たちだけで討伐に向かうことを提案したのだが、シランは首を横に振った。

「いいえ。彼らは必要な戦力です」
「というと?」
「大繁殖したモンスターは、闇雲に狩ればいいというものではないのです」

 首を傾げるおれに、シランは説明をしてくれた。

「あまりにも一地域に生息するモンスターが多い場合、遭遇したモンスターと戦う喧騒が、別のモンスターを引き寄せてしまう危険性があります。次から次へ、処理速度が追いつかなくなれば、あとはもう転がる雪玉のように、負債は膨らんでいくばかりです」
「そうした状態に陥らないように、気を払う必要があるってことか」
「そういえば、先輩。わたしたちがこの世界に転移した直後にも、似たようなことがありましたね」

 ローズの近くにちょこんと座って作戦会議に参加していた加藤さんが、思い出したように話しかけてきた。

「森を探索し始めたところ、どんどんモンスターが現れて、数十名のチート持ちでも支え切れなくなるところだったとか」
「ああ。まだ探索隊がなかった頃の話だな。おれも聞いたことがある。いま探索隊のリーダーをしてる中嶋小次郎が指揮を執って、なんとか持ち直したって話だったか」

 あわや転移直後に全滅するところだったその事件が、探索隊の創設にも繋がっていくのだが、そこは余談である。

 重要なのは、群がってくるモンスターは、ときにチート持ちでさえ対処不可能な脅威となるということだ。

 それでは、どうするのか。
 みんなの視線が集まると、シランは注目を集めるように指を立てた。

「方策はふたつあります。ひとつは、敵が次々現れても問題がないくらいの大軍勢で当たることです。前衛が敵を押さえている間に、後衛が雨あられと矢や魔法を放って叩き潰します。要するに力押しですが、確実ではあります」
「処理すべき敵の数が多いのなら、処理能力自体を上げればいいってことだな」

 おれの確認に、シランが頷きを返した。

「そういうことです。ただ、今回これは使えません」
「だろうな」

 この方法は、必要とされるだけの兵力が準備できた場合のみ、確実な結果を出すことができる。
 中途半端に頭数を増やしたところで、むしろ下手に目立って敵が集まるのを速めてしまい、滅びを早める結果に終わりかねなかった。

 エルフたちを合わせても、おれたちは十名そこそこしかいない。
 圧倒的に頭数が足りていなかった。

 実際、アケルの軍や騎士団も、その必要な兵力を揃えるのが現状では難しいからこそ、事態を知っても動けずにいるのだろう。

「そこで、ふたつ目の方策です」

 シランが二本目の指を立てた。

「群れを離れている『はぐれ』を狙い、皮を剥ぐように集団を削っていきます。重要なのは、群れの本体が気付く前に、迅速に『はぐれ』を倒して離脱することです」
「群れに気付かれないように……頭数よりも、精鋭が必要な方法ってことか?」
「はい。この場合、むしろ数が増えると、秘密裏に動けなくなってしまいます。巣穴を掘って集団で暮らす群青兎は、餌を摂る際には数匹単位で群れを離れるので、その数匹を即座に撃破できるだけの少数精鋭の戦力と、討ち漏らしなどに備えた最低限の援護で作戦を遂行します」
「少数精鋭の戦力か。……おれたちにできるのか?」
「エルフの援護があれば、十分だと考えています」

 ふむ、とおれは鼻を鳴らした。

 シランがこう言い切るからには、この見立てには自信があるのだろう。

 そこは信用することにして、おれは別のことを尋ねた。

「群青兎の繁殖地には、足を踏み入れないわけだよな。ずいぶんと時間がかかりそうな作戦にも思えるが」
「はい。ですが、ここは安全第一で進めましょう。群青兎は広い範囲に巣を作りますから、外縁部から少しずつ数を減らしていくかたちになります」
「そんな悠長なことでいいのか?」
「大繁殖した群青兎を、我々がすべて駆除する必要はありません。それは、騎士団や軍の仕事ですから」

 おれの疑問に、シランは首を横に振った。

「幸い、群青兎は行動範囲がそれほど広くはありません。村の近くの群れさえ除いてしまえば、当面の危機を凌ぐことは可能でしょう。時間さえ稼いでしまえば、紅玉熊の件を片付けた騎士団や軍も動き始めます。逆に、効率を求めて考えなしに突っ込むようなことはしてはいけません。あくまで求められるのは、慎重さなのです」

 シランのこの言葉に、開拓村のエルフたちは少し戸惑った様子だった。
 おれたち勇者が現れたことで、もっと劇的に状況が改善するものと期待していたのだろう。

 いくらなんでも慎重過ぎるようにも感じられたに違いない。

 しかし、そこで村長夫妻が口を開いた。

「よかろう、シラン。わたしたちはお前に従う。モンスター討伐のことについては、同盟騎士団の副長としてチリア砦で部隊を率いて戦っていたお前が、一番よく知っているだろうからな」
「そうだね。わたしらが素人判断で口を挟んだところで、いいことはないだろう」

 村の有力者である彼らが賛同したことで、それならばという空気になった。

 戸惑いが不満に変わるのを未然に防ぐ、いいタイミングだった。

「さて。孝弘殿もこれでよろしいですか?」

 リアさんは更に、おれに――というか、『勇者』に確認を取った。
 このあたりは、いかにも如才ない。

 彼女の意図は読み取れたので、すぐに頷いた。

「おれに異存はありません。シランの提案なら間違いはないでしょうし」
「ありがとうございます」

 にこりと笑って、シランは続けた。

「ご安心ください。これは、勇者様が『昏き森』を攻略する際に利用されている方策でもありますから」
「そうなのか?」
「ええ。『昏き森』もまた、限られた土地のなかに多くのモンスターを抱え込んでいる場合があります。もっとも、そうした場合、生息しているモンスターの数は桁違いになりますし、勇者様が一度に撃破可能なモンスターの数も違うので、進行速度もそれに見合ったものにはなりますが……理屈としては同じです。聖堂騎士団をはじめとした騎士たちが、勇者様に必ず随伴する理由のひとつでもありますね」
「なるほど」

 ここまでの説明に納得の頷きを返してから、おれは尋ねた。

「それで、具体的にはどうするんだ?」
「まずは、群れから離れた『はぐれ』の群青兎を探します。そのために必要な索敵ですが、これはわたしの精霊に任せてください」

 答えたシランが、リリィに目配せをした。

 この場で口に出すわけにはいかないが、リリィの嗅覚も頼りにしているということだろう。
 了解とばかりに、リリィはウィンクを返した。

「あとは……伯母様も精霊を扱えるので、協力してもらおうと考えています」
「ああ。任せな」
「わたしはどうすればいい?」

 メルヴィンさんが尋ねる。

「伯父様は村の守りを。帰る場所がなくなっては、どうしようもありませんから」
「むぅ。仕方がないか」

 村長夫妻が両方とも村を留守にするわけにもいかない。

 夫であるメルヴィンさんの肩を叩いたリアさんが、村のエルフたちに視線を向けた。

「わたしらはそれでいいとして……作戦に参加する村の連中はどうすればいいんだい? 弓が得意な者を選別してほしいと言われたから、こうして集めたわけだけど」
「彼らには、周辺から別の敵が集まってきてしまったときに、それを迎撃してもらいます。後詰めの予備戦力ということになりますが、いざというときに備えた大事なお役目です。気を抜くことのないように、お願いします」
「村の危機だ。気を抜くような奴はいないさ」

 リアさんが請け負うと、村のエルフたちも表情を引き締めた。

 この作戦に村の命運がかかっているのだから、気合も入ろうというものだろう。

 そんな彼らを頼もしげに見たシランが、口を開いた。

「あとは主力ですね。これは、純粋に戦闘力の高い方にお願いします」

 視線がこちらを向いた。

「リリィ殿、ローズ殿、それに、孝弘殿。お願いできますか?」
「……おれか?」

 ここで、おれの名前が出るとは思わなかったので、少し驚いた。

「はい。わたしが前に出られればいいのですが……まだチリア砦での怪我が治り切っておりませんので」

 というふうに、シランはエルフたちに説明していた。

 実際は、以前にも話をしてもらったことのある、デミ・リッチ化した影響のせいである。

 シラン曰く、バランスの崩れた体では、戦闘能力の低下と連戦への不安があるのだという。
 今回の作戦についても、彼女はなるべく直接戦闘を避ける方向で動くことで、事前に話がついていた。

 そこで自分に白羽の矢が立つとは、思っていなかったが。

 おれはてっきり、後詰めに回されるかと思っていたのだ。

 ひょっとすると、エルフたちの士気を高めるために、勇者であるおれには前に出てほしいということなのだろうか。
 実際の戦闘は、リリィとローズに任せろということなら頷ける。

 そんなことを思ったおれの思考を読んだのか、シランは微笑とともに首を横に振った。

「孝弘殿はお強いですよ。七体ものドラゴンを相手にできるような猛者は、なかなかおりません」
「あれは……」

 ……ガーベラのお陰で不意を突けたことに加えて、アサリナとサルビアの助けがあったからだ。

 と、言うわけにもいかず、おれは口籠る。

 ドラゴンを七体も……と、村のエルフたちの囁き声が聞こえた。

 弁明の機会を逸してしまった。
 おれは抗議の視線を送ったが、シランは微笑みを返すばかりだった。

「自己評価が低いのは、孝弘殿の悪いところですね」
「そうは言うが……これは、今回の作戦でも責任重大な役目だろう?」
「ええ。ですから、孝弘殿が適役だと思うのです」

 シランの微笑は揺るがなかった。

「自信を持ってください。あなたにならできます」
「シラン……」

 こうまで言われては、引き下がるわけにもいかない。

 腹をくくって、おれは頷いた。

「わかった。引き受けよう」
◆下部に『モンスターのご主人様』のオマケ関係をまとめたページへのリンクを作ってみました。

◆昔のシランは書籍4巻の番外編で書きました。
ちょっとケイより元気な感じの子です。

◆あと二回、更新します。
切りのいいところまで、三回連続更新です。
+注意+
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