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モンスターのご主人様 作者:ショコラ・ミント/日暮 眠都

4章.モンスターと寄り添う者

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25. 竜の旅路

(注意)本日2回目の投稿です。











 25   ~リリィ視点~


 ディオスピロの町に向かったご主人様は、帰ってくると、同行者が変わることを告げた。

 深津明虎とサディアス。
 どちらも、以前にディオスピロを訪れたときに出会ったと聞いていた人物だった。

 深津くんは転移者のひとりで、チート持ち。
 サディアスさんのほうは、驚いたことに、その正体はモンスター……ドラゴンなのだそうだ。

 いや。それよりも驚くべきは、この世界にドラゴンの住む隠れ里があると知らされたことのほうだろうか。

 竜淵の里。
 わたしたちは、そこから逃げ出したはぐれ竜を捜索するのに手を貸すことになった。

「それはいいんだけどさ、ご主人様」

 車に戻ってきたご主人様から説明を受けて、わたしは首を傾げた。

「そもそも、そのはぐれ竜っていうのは、どうして里から逃げ出したの? ……やっぱり、人間を襲うため?」

 人の目を避けて、こっそりと隠れ住んでいるという話から、わたしはどうしても暗い想像をしてしまう。

 これまで人間に見付からないように生きてきたというのなら、鬱屈だって溜まっているかもしれない。

 それを晴らすために人間を……というのは、考えられなくもない話だった。

 けれど、ご主人様は静かに首を横に振った。

「いや。どうもそういうわけじゃないらしい。サディアスによれば、そいつは少し特殊な存在だということでな。一族でも末子のそいつだけは、自我を持たずに生まれてしまったらしい」
「自我を? それじゃあ、普通のモンスターってこと?」
「……そういうことになるな」

 頷くご主人様。
 だけど、ちょっとだけ返事が遅かったことを、わたしは見逃さない。

 多分、これはなにか引っ掛かっている反応だ。

 ただ、確信はないのか、ご主人様はそこについては掘り下げて話さなかった。

「まあ、意思を持たないモンスターだったところで、サディアスたちにとっては、血を分けた同胞には違いない。人間たちに害を及ぼして、討伐されてしまうわけにはいかないと、ずっと里から出ないようにしていたらしいんだが……」
「それが逃げ出しちゃったと」

 はぐれ竜に自我がないのなら、『どうして逃げ出したのか』もなにもない。
 経緯としては、事件ではなく事故に近いものであるらしかった。

「それで、ドラゴンには捜索の手段がないから、ご主人様たちが手を貸すことになったわけだ。……一族は、はぐれ竜を捜索しているんだよね? そっちとは合流しないの?」
「そちらとは、直接、連絡を取り合う手段がないんだそうだ。もちろん、サディアスは集落に残っている一族と連絡を取り合っているし、はぐれ竜を捜索している奴らも、同じく集落とは連絡を取り合っているから、そちらを介せば連絡は届けられるらしいんだが……いかんせん、それでは時間がかかり過ぎるからな」
「そういえば、数は二十くらいしかいないんだっけ。思いっ切り、数の少なさが災いしてるね……」

 わたしは眉間に指を添えた。

「この世界に携帯電話があればいいのに」
「実はあるらしいぞ。携帯式の情報伝達の魔法道具」
「え? そうなの?」
「伝説級のアイテムらしいけどな。聖堂教会が所持してるんだそうだ。サルビアが言っていた。どうにかして手に入れて、ローズに模造品を作ってもらいたいもんだが……」

 そこで話が逸れていることに気付いたらしく、ご主人様は軌道修正した。

「ともあれ、折り悪く、集落からは二日前に連絡があったばかりだったらしくてな。次の定時連絡までは五日かかるらしいし、そんなに待っていたら討伐軍が動き出してしまう。だから、サディアスは言付けだけを残してきたんだそうだ」
「それじゃあ、確かに一族と合流して捜索に協力するのは無理だね」

 わたしは溜め息をついた。

 頷いたご主人様が、少し表情を険しくする。

「一族は基本的に、はぐれ竜を捕縛する予定でいるらしい。いまのところ、はぐれ竜は集落を襲ったりはしていないようだしな。ただ、これもいつまで続くかわからない。被害が出てしまい、人間の介入を招いてからでは遅い。処分もやむをえないって意見も出ているらしい」
「ふむ、主殿よ。それはまた、ずいぶんと慎重なのだな」

 ガーベラが疑問を呈した。

「いくらなんでも、同胞を殺してしまうとは」
「……まあ、隠れ里を作っているくらいだからな。慎重に慎重を重ねているんだろう」
「そんなものかの」

 首を傾げるガーベラ。
 わたしも少し不思議に思った。

 ドラゴンたちの姿勢は、人間を強く警戒して……むしろ恐れているようにさえ感じられたのだ。
 もっとも、慎重を期していると言ってしまえば、それまでなのだけれど。

 ご主人様が続けた。

「彼らだって、好きでそうしたいわけじゃないだろう。一度、逃してしまっているというのもあるしな」
「苦渋の決断というわけかの?」
「ああ。酷いことになる前に、どうにかしてやらないとな……」

 真摯な口調でご主人様は言った。
 それは、どこか他人事ではないような態度に見えた。

「竜の一族がはぐれ竜を見付けるほうがおれたちよりも早い可能性だってもちろんある。急がなきゃならない。……と同時に、万全を期す必要もある。そこで、加藤さんとケイには、町に残ってもらった。ローズには、ふたりの護衛をしてもらっている」
「あ。それで、シランさんとふたりで帰ってきたんだね」
「そういうことだ」

 わたしが相槌を打つと、ご主人様は頷いた。

「まあ、ちょっと説得には骨が折れたけどな。加藤さんなんかは、ローズは連れていくべきだって」
「うーん。だけど、ご主人様。それは一理あるんじゃないかな。はぐれ竜は、それなりに強いと思うんだけど、捕縛なんてできるの?」

 移動速度の問題を考えれば、加藤さんとケイを置いてきたのは間違いではない。

 また、基本的には安全な町に、加藤さんやケイちゃんの護衛としてローズを残してきたというのは、心配性のご主人様らしい気遣いだった。

 加藤さんの心の平穏のためにも、護衛にローズを選んだのは妥当な判断と言える。

 ただ、ローズがいないということは、確実に戦力は落ちる。
 それが問題になりはしないかと考えたのだ。

「それは大丈夫だ。はぐれ竜は確かに強いが、同格以上のサディアスはいるし、深津はチート持ちだ。加えて、サルビアの見立てでは、さすがにリリィやガーベラほどは強くないという話だからな」

 予定では、わたしたちは主に捜索に手を貸すことになっており、捕縛は基本的にサディアスさんと深津くんの仕事になる。

 彼らだけでも十分過ぎるくらいの戦力だけれど、必要とあれば、わたしたちも手を貸すかたちだ。

 これだけのメンバーが集まっていれば、まず大丈夫だというご主人様の話は、納得がいくものだった。

 となれば、問題になってくるのは速度のほうだ。

「明日には、サディアスたちも合流するはずだ。そうしたら、早速移動しよう」

 ご主人様の言葉に、わたしたちは頷きを返したのだった。

   ***

 翌日、サディアスさんと深津くんがやってきた。

 サディアスさんは、ガーベラの存在に酷く驚いた様子だった。

「こ、こんな強大なモンスターがお仲間だなんて……! 孝弘様。あなたはやはり、偉大な精霊使い……」
「やめてくれ」

 どうやらサディアスさん、変にご主人様への好感度が高いようだ。

 ご主人様は頭が痛そうだったが、わたしはサディアスさんに好感を持った。彼とは仲良くやれそうだ。

 それから、わたしたちは人気のないところまで移動することになった。

 この移動に二日。
 正確に言うと、人気のない地域まで移動して、ガーベラとあやめを降ろしてから、近隣の村に車を預けたあと、更に絶対に人のこないような森の奥にまで移動した。

 そうして、人の目がないと確信できたところで、わたしたちは移動方法を変えた。

「それでは、離れていてくれ」

 サディアスさんは、着物の帯をするりと解くと、裾から腕を抜いてその場にうずくまった。

「ぐ……ぐぐ」

 その体が、一息に膨れ上がる。

「ぐぐ、グルルゥ……ガァア――ッ!」

 たくましい四肢が大地を踏み、皮膜の翼がばさりと広がる。
 やや面積が足りなかったせいで、伸びた尻尾が木々にぶつかり、音を立てて数本が薙ぎ倒された。

 わたしたちの目の前にいたのは、黄土色の鱗のドラゴンだった。

 体長は十メートルほどだろうか。
 巨体はその大部分がごつごつとした甲殻に包まれており、いかにも硬そうだ。

 尾の先には、メイスのようにとがった骨塊がついており、先程はこれが木々をあっさりと薙ぎ倒していた。

 わたしたちの身長の二倍くらいの位置にある目が、こちらを見下ろしている。
 その穏やかさだけは、サディアスさんの面影を残していた。

「なかなかだの」

 ガーベラが少し楽しげに言った。
 どちらかといえば、巨体ではなく、その強さのほうに関心を惹かれている様子だった。

 実際、肌に感じられる強さは、通常のモンスターとは比べものにならない。

 たとえばわたしが、もしも一対一での戦いになったとして……負けることはないだろうが、倒すまでには非常に時間がかかることだろう。

 これが二十体もいるとしたら、竜淵の里というのは大した戦力を有していることになる。

 とはいえ、今回の相手は一体だけだ。
 ご主人様が言っていた通り、はぐれ竜がこの感じなら、捕縛するのに問題はないだろう。

 ガーベラならひとりでも捻じ伏せられるし、チート持ちである深津くんもそれは同じはずだ。

 もちろん、油断は禁物だけれど。

「グラルルゥウ……」

 サディアスさんは喉を鳴らすと、ゆっくりと地面に身を伏せた。

 ドラゴン状態だと話すことはできないらしい。
 ただ、なにを言っているのかはわかる。

「それじゃあ、乗るぞ」

 ご主人様が、やや緊張した様子で告げた。

 サディアスさんが本性を現した理由。
 そう。これこそが『移動手段』なのだった。

 ドラゴンで行く空の旅だ。
 それほどスピードが出るわけではないが、単純に障害物がないのは大きい。

 ただ、この移動方法、危険もある。
 チート持ちの深津くんはともかくとして、ご主人様は振り落とされてしまう可能性があるのだ。

 心配のし過ぎだ、落ちたら拾うとサディアスさんは請け負ったが、わたしとガーベラはたとえ過保護と言われようと譲るつもりはなかった。

 安全策を取るに越したことはない。

 というわけで、少し工夫をすることにした。

 まずわたしがスライム状態になって、サディアスさんの背中によじのぼる。
 その上に、ご主人様が座る。

 わたしは上半身は擬態を解かずに、うしろからご主人様を抱き締める。
 あやめは、チリア砦でそうしていたように、わたしのなかに収まった。

 体の大きなベルタはどうしようかと思っていたところ、腰の触手をぐるぐる巻いて体を固定することでどうにかしてしまった。

 これで大丈夫だとは思うのだけれど、更に念には念を押しておく。
 ガーベラはサディアスさんの背中に乗ると、蜘蛛の糸でドラゴンの背中の各所と自分の体、ご主人様の体を繋げるかたちで固定した。

 これで落ちるとしたら、サディアスさんが墜落したときくらいだろう。

 お陰でサディアスさんの背中が、ちょっと悲惨なことに……べったんべったんのどろっどろになってしまったけれど、まあ仕方ない。

 サディアスさんが情けなく鳴くと、頭のあたりにしがみついた深津くんが慰めの言葉をかけていた。

 ともあれ、これで準備は完了だ。

 一声鳴いて、ドラゴンがその翼を羽ばたかせると、魔力を含んだ風が辺りに吹き荒れた。

 風が巨体を持ち上げて、羽ばたくたびに高度が上がる。
 歯を喰いしばっていないと舌を噛み切ってしまいそうなくらい大きな縦揺れに堪えること数秒。全身が真下に引き倒されるような力をやり過ごすと、わたしたちは空にいた。

 広い光景に、わたしは歓声をあげた。

 と同時に、ご主人様がぐっと押し殺すような声をあげるのを聞いた。

「あれ? ご主人様、高いところ苦手?」
「そこまでではないけど……そういう問題じゃなく、これは怖いだろう」

 そういうご主人様は、ちょっと蒼褪めていた。

 生物の当たり前な仕組みとして、人間は高所に恐怖を感じるようにできている。

 安定するまでは、飛行機ではありえないレベルで縦揺れしていた。
 感じる恐怖はジェットコースターの比ではなかっただろうし、安全が保証されているわけでもない。こうした反応は仕方ないことだった。

「大丈夫だよー」

 吹き付ける風に言葉が攫われないように、耳を食むようにしてわたしは言った。

「墜落しても、風魔法とか擬態とかでどうにかできると思うから」

 ぎゅうっと抱き締める。

 それで少しは気が楽になったのか、ご主人様の体から力が抜ける。

 ドラゴンの小さな唸り声が耳に届いた。
 竜の翼が風を受け止め、サディアスさんは空を滑るように飛び始めた。

   ***

 空の旅は、サディアスさんの体調も考えて、何度かの休憩を入れて行われた。
 一日かけて、わたしたちはアケル北部にある森林部に着いた。

 ここからもう少し北にいくと、国境の昏き森に着くけれど、そこまで足を延ばす予定はない。

 以前に、はぐれ竜を取り逃がしたというポイントに辿り着いたわたしたちは、そこから追跡を開始した。
◆もう一度、更新します。
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