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モンスターのご主人様  作者: ショコラ・ミント/日暮 眠都
1章.ご主人様と眷族の彼女たち
10/321

10. 森の中の決着

前話のあらすじ:

加賀「真島きゅん! ボクら、ずっと友達ダヨ!」

主人公「(……あやしい)」

   10



 先を進む加賀について、森の中を歩いていく。


 リリィやローズに出会ってからは、常に彼女たちと行動をともにしていたので、なんだか変な気分だ。

 母親離れできない小さな子供じゃあるまいし――とは自分でも思うのだが、なんだか少し落ち着かない。


「しかし、お前が生き残っててくれて助かったぜ。勿論、水島さんもな」


 そんなことを考えていると、不意に加賀が口をきいた。

 彼は振り返ることはなく、その表情はうかがえない。


「そうだな。おれも加賀が生き残っててくれて助かった」


 その学生服の背中に、おれも言葉を返した。


「これからは生き残るために協力していこう」

「当ったり前だろ。こんな状況なんだ。力を合わせていかないとな」

「加賀にそう言ってもらえるとありがたいな」

「こっちこそ。これから頼むぜ、真島」

「ああ。――ところで、加賀。さっき言っていた話っていうのは……」

「うん? おお、そろそろいいかね」


 森がすこしひらけた場所に出た。


 それをいい機会だと捉えたのか、加賀が足をとめて振り返った。


 変わり映えのしない景色が続いていてわかりづらいが、まだそれほど洞窟からは離れていない。

 何日も洞窟で寝泊りしていて、このあたりの地理に詳しいおれでなくとも、一人で洞窟に戻ることが可能なくらいの距離だ。


 たとえば加賀一人でも、此処から洞窟に帰ることは簡単だろう。


 そんなことを頭の片隅で考えつつ、おれは話を切り出した。


「さっき加賀は『遠征隊についての話』って言ったよな」

「ああ。言ったな」

「まず聞かせてくれ。どうしてお前が遠征隊のことについて知っているんだ?」

「そりゃ、おれが探索隊の中でも上層部の先輩と、仲が良かったからだよ」

「先輩……先輩、ね」


 舌の上で単語を転がらせる。

 当然のことだが、おれは探索隊のメンバーをほとんど把握していない。同級生でも怪しいのに、上級生のことなど知っているはずがなかった。


「おう。先輩だ。部活のな」

「確か加賀はテニス部だったか」

「そうそう」


 加賀は調子よく笑いながら頷いた。


「だからさ、おれは遠征隊の立ててた計画の詳細を知ってるんだ。これは共有しとかなくちゃいけない情報だろ」

「確かにそうだな」


 加賀の意見におれは同意を示した。

 それが本当なら、情報を最優先で共有しなければいけないという、加賀の主張は正しかった。


 おれの同意を得られたことがうれしかったのか、はたまた、別の理由か、加賀は機嫌よく笑っている。


 おれは更に一歩、加賀との会話に踏み込むことにした。


「それで一体、そいつはどういった内容なんだ?」

「そうだなぁ」


 真剣に耳を傾ける姿勢を示したおれに、加賀は突然ニヤリと笑ってみせた。


「ところで、真島はもう水島さんとはヤったのか?」

「は?」

「とぼけんなよ。二人きりだったんだろ。あんな美人と一緒にいたんだ。いくら真面目ちゃんのお前だって、何も考えなかったとは言わせねえぜ」

「……。それがいま、何の関係があるんだ?」

「あるだろ」


 やや低い声で返すおれに、当たり前のような口調で加賀は言った。


「これから先、行動を共にするってんなら、隠し事はなしでいこうぜ。そうじゃないと、おれはお前に協力できない。話せる話だって、話せない」

「それが、どうして水島さんと、その、特別な関係になっているのかどうかって話になるんだ?」

「それが大事だからだよ。考えてもみろ。おれたちは男が二人に女が一人だ。水島さんが誰のものなのかってのは、きっちり白黒つけておかないと火種になる」

「水島さんは誰のものでもないだろ」

「あーあー。そういうのはいいんだって」


 うざったそうに加賀は手を振った。


「下らない建前は捨てて、本音でいこうぜ。本音で。なあ、真島よ。ただでさえ余裕のないおれたちが、一人しかいない女をめぐって無駄な争いをする。それはちょっとうまくないだろ?」

「そもそも、この状況で色恋にうつつを抜かそうってこと自体、無駄じゃないのか」

「ってことは、真島は水島さんに手ぇ出してないってわけだな? 馬鹿だなあ、真島。こんな状況なんだ。地味で真面目なお前でも、案外、押し倒したら状況に流されてイケるとは考えなかったのかよ?」

「そんなこと出来るか」

「はっ、意外と意気地がないんだな」

「うるさいな」


 眉にしわを寄せて、おれはそっぽを向いた。


「お前には関係ないだろ」

「関係?」


 視界の外から届く加賀のへらへらとした口調には、おれを馬鹿にしたような調子があった。


「関係なら……あるね!」


 不意に、声色がはっきりとした嘲りを含んだ。


 地面を蹴る音がした。

 おれは振り返るが、その反応は少しだけ遅かった。


「うぐっ」


 頬に衝撃が走る。

 拳の一番硬い部分が頬骨を打った。


 おれは堪らず、地面に転がった。


「あぐっ」


 更に一撃。顎を蹴りあげられる。

 奥歯を喰いしばっていなかったら、舌を噛み切ってしまっていたかもしれない。


 それくらいに容赦のない攻撃であり、喧嘩慣れを感じさせる一連の手順でもあった。


「馬ッ鹿じゃねえの!」


 耳障りな加賀の嘲笑が耳に届いた。


「この状況で隙みせるとか、甘過ぎるにもほどがあんだろ!」

「がっ!?」


 加えて、腹に一撃。

 おれの腰から重さが消える。


 剣を奪われたのだ。


「……どういうつもりだ」


 おれは無様に尻餅をついたまま、剣を持って勝ち誇った顔をする加賀を見上げた。


「おい、加賀。お前、自分が何をしているのかわかっているのか?」

「お前こそ自分の立場がわかってんのか?」


 加賀は余裕を見せてはいたが、異常な興奮で血走った目は油断なくおれの動きを観察していた。


 おれが少しでも抵抗のそぶりを見せれば、加賀はためらいなく剣を振り下ろすだろう。それが確信出来るだけに、おれは迂闊には動けなかった。


「安心しろよ。水島さんとは、おれがよろしくやっといてやるからよ」

「よろしく……出来ると思っているのか? 水島さんにはどう説明するつもりだ?」

「お前、ほんと馬鹿だな。異世界の、この危ねえ森の中だぜ? そんなの、モンスターにやられたとでも何とでも言いようはあるだろうが」

「あれだけ不自然におれのことを森に誘っておいて、そんなことを言って、信じてもらえるとでも?」

「信じられなければ、それならそれでいいんだよ。お前たちは二人だけなんだろ? お前さえいなくなれば、水島さんは一人だ。どうとでもなるさ」

「なるほど」


 おれは深く納得して、醜く歪んだ笑みを浮かべる加賀に告げた。


「お前は下種だ」

「何とでも言え」


 冷笑して、加賀が剣を振り上げた。


「お前みたいな間抜けが、負け犬の遠吠えで何を言おうと関係ねえよ」

「そうだな」


 おれは無感動に加賀を見上げた。


「……?」


 剣を振り上げたまま、加賀が一瞬だけ怪訝そうな顔をした。


 こいつはきっと、おれが無様に泣き喚き、言葉を尽くして命乞いをし、どうにかして逃げ出そうと必死に逃げ惑う様を想像していたのだろう。


 加賀は自分の想像通りにならないことに不審と不満とを抱いたようだが、その理由を考えようとはしなかった。


 そういったやつなのだ。

 おれはそれを知っている。


 最初から、知っていた。


「死ねよ!」


 切れ味鋭い魔剣の切っ先が振り下ろされた。


 おれはまだ尻餅をついたままだ。このままでは、おれは為す術もなく殺されてしまうだろう。

 だが、おれは何ひとつ心配なんてしていなかった。


「危ない!」


 おれと加賀との間に、人影が割って入った。


「ああっ!?」


 加賀が驚いた声をあげたが、勢いの乗った剣先はとまらない。

 おれの身代わりになったジャージ姿の少女の顔面に、剣が深々と埋まった。


「ぁ、う……ぎ」


 意味を為さないあえぎ声が、少女の喉から溢れだす。


「あ、あぁあああ……っ!」


 加賀が声にならない呻き声をあげて、剣の切っ先を引き抜いた。


 ずるりと切っ先が引き抜けて、支えを失った少女の体が地面に崩れ落ちた。

 亜麻色の髪を地面に広げて、うつ伏せに倒れているのは『水島美穂』だった。


「ああっ、くそ! なんでこんなことに!」


 加賀が己の不運を嘆く台詞を吐いた。

 流石の彼も何の罪もない人間を実際に手にかけたことで、罪の意識を感じてしまったのだろうか。


 ……違った。


「もったいねえ! おれには死体とよろしくやる趣味なんてないっつーのによぉ!」


 そこに、人を殺してしまったという後悔はなかった。


「加賀。お前……」

「おれは悪くない。おれは悪くないからな! 大人しくお前が死んどけば良かったんだよ!」


 身勝手な怒りに震える加賀が、再び剣を振り上げた。


 彼の歪んだ顔面には、自分の獣性を満足させられなかった男の苛立ちだけが浮かんでいた。


 おれはその世界で一番醜悪な表情を眺めて――


「もう十分だな」


 ――ぽつりとつぶやいた。


「あん?」


 おれの言葉に、加賀が片眉をあげた。


 だが、わざわざこいつの抱いた疑問に答えてやる義務は、おれにはなかった。


 おれは十分に我慢した。

 チャンスさえ与えてやった。


 それをフイにしたのは、加賀の方だ。

 だから――


「もういいぞ、リリィ」


 ――おれは静かに命令を下したのだった。


「てめえ、真島。何を血迷って……ひっ!?」


 馬鹿にしたように言いかけた加賀が、悲鳴をあげてあとずさった。


「がぁ……ぎぃ、あァ」


 顔面を潰された少女が、むくりと身を起こしていた。


 見開かれた加賀の目は、立ち上がったリリィの顔に釘付けになっていた。

 おれからはリリィの顔が見えなかったのだが、どうやら現在彼女の顔面は、少々グロテスクなことになっているらしい。


「うぉ、ぁ……ぁ、あ、あー。うー」


 リリィは頭を何度か振った。

 とろりとした透明の液体が足元に落ちて、ふるふると震えると、爪先から吸収されていった。


「うー、うー」


 不鮮明だった声が、ちょっとずつ鮮明になっていった。


「うー、あー。……うーん。これで大丈夫かな?」


 こちらを向いた時には、既に頭を割った傷は消えていた。


「……ちょっとびっくりしちゃった」


 何事もなかったかのような、あっけらかんとした調子でリリィが言った。


「どうした?」

「頭を潰されたせいで、一瞬意識が飛んだみたい。これは擬態の問題点だねえ」


 ミミック・スライムのリリィには本来は思考するような器官はない。

 しかし、擬態によって思考中枢となる脳を作ってしまったことで、そこにダメージを受けた際に思考がストップしてしまい、結果としてリカバリに多少の時間がかかってしまう……といったところだろうか。


「あと、ローズの剣すごすぎ。なに、あれ。ほとんど抵抗なく刺さっちゃったんだけど」

「痛い思いをさせて悪かったな」

「ううん。別にそれは構わないよ。こんなのかすり傷みたいなものだし。ご主人様こそ、痛かったでしょ」

「これこそ、かすり傷だよ」

「うそ。やせ我慢しちゃって。……あ、やだ。血が出てる。もう」


 白い魔法陣を掌に輝かせて近づいてきたリリィが、おれの頬を愛おしげに撫でた。


 そうして、初めて恨めしげな上目遣いでおれをちろりと睨んだ。


「指示があれば、すぐに魔法で援護できたんだからね」

「……悪い」


 本来ならおれが加賀に見切りをつけた時点で、リリィにはおれからの指示で魔法攻撃を加えてもらう算段になっていた。

 それなのに、おれの判断の遅れによって彼女は加賀に手を出すことを躊躇い、結果として彼女には痛い思いをさせてしまった。


「わたしのことはどうだっていいの」

「リリィ……」

「あんまり無茶しないで」


 リリィの指の腹が顎の輪郭を辿り、顎先から雨水が滴るように離れ落ちた時には、おれの負った小さな怪我は痛み一つ残さず完治していた。


「な、なんだよ、これ」


 状況においてきぼりを喰らっていた加賀が、酸欠に陥ったように大きく喘いだ。


「み、水島さん、じゃ、ねえの……か?」


 振り返ったリリィを映し出す加賀の落ちつかない目は、得体のしれない化け物を見るそれだった。


 リリィと目が合ってしまうと加賀は怯えたように大きく震えて、逃げるようにその視線はおれへと移ってくる。


「こ……これは、ど、どういうこと、だ? どういうことだよ!? なんで、なんで、水島さんは……お前は……」


 おれは肩をすくめた。


「おれが隙だらけだと思ったか?」

「あ……?」

「だとしたら、甘すぎるぞ、お前。現状認識じゃなくて、考えの方がな」


 おれの台詞を聞いた加賀が、数秒の間、呆けた。

 ひょっとすると、この森の中で再会してから初めて、加賀はまともにモノを考えたのかもしれない。


 見開かれた目の中に、無数の思考が交錯するのが見えた。

 その終点に、ようやく加賀はおれの意図するところに辿り着いたらしい。


「お、前……そうか。そういうことかよ!」


 ようやく事情が呑み込んだ加賀の血走った目が、おれを憎々しげに睨みつけた。


「てめえ、真島ぁ! おれをハメやがったなぁ!?」

「馬鹿言え。勝手に嵌ったのはお前の方だろうが」


 責任転嫁も甚だしい。


 おれが隠し事をしていたことは確かだ。

 騙したという謗りだって、甘んじて受け入れよう。


 だが、この結果を選びとったのは、あくまで加賀本人だ。


 あえておれが見せてやった隙を、隙だと思ってしまえる時点で、こいつの人間性は腐りきっている。

 ましてや、おれを殺すためだけに森に誘い出そうとさえしたのだ。


「やれ、リリィ」


 怒りや恐怖に顔面を引き攣らせる加賀から聞き出せる情報は、もうないだろう。

 チート能力者と同行している可能性も考慮していたのだが、それもなかった。


 こいつは単に運がいいだけの馬鹿でしかなかった。

 いいや。それ以下の下種だった。


 もはや言葉を聞く価値もない。


「畜生ぉおおおおおお!」


 やぶれかぶれに叫ぶ加賀が、剣を振りかぶって襲いかかって来た。

 リリィは素手でこれを返り討ちにした。


 首の骨が折れる鈍い音が、ひどく軽い響きをもって森に響いた。


   ***


「……終わりました?」

「ああ」


 ローズに連れられて現れた加藤さんの問いに、おれは短く答えた。


「お疲れ様です」

「別に。疲れたってほどじゃない」


 おれは首を横に振った。


 実際、疲れるほどのことではない。

 最初から最後まで、ほとんど想定の範囲内だった。


 ――山小屋で加賀の姿を見付けた、あの時。

 おれたちはふた手にわかれて、彼に接触を図ることに決めた。


 本当なら彼のことをしばらく観察してから動いてもよかった。だが、あのまま山小屋跡でうろついている加賀を放っておいたら、情報収集も何もなくモンスターに殺されてしまいそうだったので、早急に接触を図らざるを得なかったのだ。


 一方のローズと加藤さんには、ふた手にわかれたあと、おれたちの行動を見守っていてもらっていた。

 二人の存在は、加賀の人間性をはかるのに都合が悪かったため、隠れていてもらう必要があったからだ。

 かといって、リリィと二人きりの時にモンスターに襲われる危険性は無視出来ない。


 そこで、なるべくつかず離れずで行動してもらうことにしたのだ。


 それに対して、おれと一緒にいくリリィには、加賀の人間性を図るための『餌』の役割をしてもらうことになった。


 加えて、彼女には護衛の役割も頼んでいた。

 たとえ加賀の誘いがなかったとしても、最初から隙を見せて彼の人間性を試すつもりだったからだ。


 少々想定していた展開とは違っていたが、起きた出来事はすべて、当初考えていた対策で対応可能な範囲内に収まっていたといえる。


 勿論、仮に加賀が本気でおれたちに協力しようとするのなら、おれは彼を保護してやるつもりだった。その場合、扱いは加藤さんと同じで、信用も信頼もしないが、おれの能力が許す範囲で保護する責任だけは負ってやろうと思っていた。


 結果は、見ての御察しというやつだが。


「……これ、死んでるんですか?」

「ああ」


 加藤さんが尋ねてくるので、おれは小さく頷いた。


「おれが、殺した」


 そういえば、加藤さんにこの光景はどのように見えているのだろうか。


 ここで死体を晒している加賀は、あったかもしれない加藤さんの『イフ』だ。

 加藤さんと、加賀。そのどちらにも、おれはリリィの存在を偽っていた。状況はだいぶ異なるが、下手なことをした時には、加藤さんもこうなっていたということだ。


 実際はそうはならなかったにしても、おれが加藤さんを殺す状況を想定していたという事実は否定出来るものではない。


 普通に考えれば、彼女はこれを不愉快に思うだろう。

 もっと進んで、恐怖を覚える可能性も多いに有り得る。


 そして、恐怖は容易に人間を歪めてしまう。

 コロニーでパニックに陥った生徒たちがそうだったように。

 暴力を受けたおれがこうなったように。


 あるいは、加賀だってそうだったのかもしれない。彼は長い間一人で森を彷徨ったことで精神の均衡を崩し、良心の箍が外れてしまったのかもしれない。


 加藤さんだけがその例外であるということはないだろう。

 少なくとも、此処での加賀の死は、加藤さんの中でのおれの立ち位置を変えかねない出来事であることは間違いない。


 おれはそっと加藤さんの横顔をうかがった。


 加藤さんは感情のない目で加賀の死体を見下していた。


 かと思うと、おれの方にすっと目をやった。

 不思議なことに、その視線からはおれに対する敵意や害意、不信感というものは感じられなかった。


「先輩の気持ち、わかりました」


 それどころか、おれの予想の全てを裏切って、そんな台詞さえ吐いたのだった。


「……人間は、信用ならない」


 加藤さんがつぶやいた。


「信用出来るのは……」


 加藤さんはおれをじっと見詰めていた。

 また、あの目をしていた。


 彼女が何を考えているのか、やっぱりおれにはわからない。


 思えば、最初から一度だって、彼女の考えは読めなかった。

 いったい彼女は何を企んでいるのだろうか。


 ……それとも、何も企んでなんていないのか?

 ひょっとして、彼女の考えが読めないのは、彼女が悪いのではなくて……


「加藤さんは……」


 言いかけたおれは、不意に眩暈を感じた。


「ぁ」


 足元がふらつく。


 立っていられない。


「ご、ご主人様!?」


 傍にいたリリィが、咄嗟に腕を支えてくれた。

 そのお陰で、無様にへたりこむことだけは避けられた。


 だが、まだ視界がグラついている。


「だ、大丈夫?」

「……ああ。少し、疲れたかな?」


 おかしいな。

 最初から最後まで想定通り。疲れるようなことなんてほとんどないはずなのに。


 奇妙なくらいに、肩が重い。


「とりあえず、洞窟に戻るか」

「う、うん。そうしよっ。すぐに寝られるように準備するから」


 慌てたリリィに引き摺られるようにして、おれは洞窟に戻った。


 この時に掴みかけていた何かを忘れてしまっていることに気付いたのは、もっともっとずっとあとになってのことだった。

◆自分で書いてて、『スクデッド』の第一巻の女の子たちを思い出しました。

御大の作品はどれも面白い。続き出ないけど。


あ、ちなみに上記を思い出したのは本編じゃなくて、前話のあらすじを書いていた時のことです。


◆自分で前話のあとがきを読み返してみたら、見事に前話の前書きに書いた前々話のあらすじの話しかしていなかった。……ややこしい。


◆ということで、本編の話。

今回颯爽と登場した加賀くん(あっさり退場)に関しては、前話では主人公たちの会話を端折ったりして、あえて情報をしぼりました。


(1)お、ここにきて、新しい仲間だ(キラキラした澄んだ目で)

(2)……こいつ、あやしくね?

(3)なんでこんな怪しいやつ仲間にしてんの?

(4)なんか主人公の行動に違和感あるなぁ。

(5)これ、主人公なんか企んでね?

(6)犯人はお前だ!


(2)~(4)に七割くらいの人がくるように書いたつもり。

(5)に三割近くは……わたしの筆力が足りていないかもだけど。

ただ、言われてみれば、なんとなく(5)っぽく感じてた! というのが理想的。

……だが、実際にどうなのかはわからない。


◆次回更新は1/1(水曜日)になります。……元旦って『なろう』作品、読まれてるんだろうか。

ともあれ、よいお年を。

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