挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

ブックマークする場合はログインしてください。
この作品には 〔残酷描写〕 が含まれています。

クモとチョウ

作者:サワハト
少しでもご感想、ご意見、ご助言などありましたらいただけるとうれしいです。
限りなく透明に近い同心円と放射線。
クモはいつも通り木の葉の間に網を張り巡らせると、近くの葉の陰に身を隠した。
こうして待っているだけで食料が集まる。簡単なものだ。
クモはぼんやりと葉の間から見える狭い空を眺めて暇をつぶした。

毎日空を眺めていると時折、白い美しい昆虫が通り過ぎることがある。
チョウだ。
トンボのように効率良く直線的な飛行はしない。
ひらひらと舞うように飛ぶ彼女は優雅だ。
そして自分の網にも劣らない白さ。透明感。
きっと彼女は誰を傷つけることもなく、花の蜜でも吸って暮らしているのだろう。
まるで昆虫の世界の令嬢か、姫君。
昆虫の肉を食らう節足動物である自分とは対極的だ。
どうか彼女が自分のようなものを知ることも、触れることもありませんように。
クモはチョウに対して、いつしか羨望と畏怖を感じるようになっていた。

ばたばたと不規則な振動が、彼を現実に引き戻した。
チョウはもはや視界にいない。いつの間にか夢想していた。
舞い込んだ食事にありつこうと葉の陰から出たクモが見たものは、
先ほど狭い空を通り過ぎたチョウのもがく姿だった。

やれやれ。
運命とは皮肉なものだ。
たった今、願ったばかりだというのに。

クモは神をうらみながら、チョウを糸から解放しようと近づいて行った。
だがそんなクモの考えなど知る由もないチョウは恐怖に駆られた。
いっそう激しく暴れながら言葉にならない叫びを上げる。

そうだ。暴れるがいい。
自分の意図なんてわからなくていい。
恐怖に忘れ去ってしまって構わない。

解放されたチョウは振り返ることなく飛び去った。



それは傷とも呼べないほどわずかなもので、痛みさえなかった。
しかし、自ら切り裂いた糸のようなほころびは確実にクモの心に影響を及ぼしていた。
食べられない。

チョウではない。
まったく心ひかれないアリやトンボたちだ。
彼らとて他の生物にとっては捕食者であり、網にかかった獲物を食べることは自分の正当な権利だ。
どのように自分に言い聞かせても無駄だった。
食べられなくなったクモはみるみる衰えていき、死んだ。

チョウもクモの死を聞いた。
そして、思い出した。
自分が確かに一度、クモの網に捕らわれたことを。
だが何故か生きている。
もしまた捕まったときに助かる保証なんかないのに、チョウは試みに森を飛び回りクモを探した。
だがやはりその姿は見つからなかった。

やがて冬が訪れ、他の多くの生き物と同じようにチョウも死んだ。



このクモとチョウの様子を見ていた神が一抹の憐憫を感じたのか。
もしくは手慰みの洒落だったのかもしれないが、
クモとチョウの魂は空へと引き上げられ星になった。

つがいのようにも双子のようにも見える二つの星は、今日も宇宙のどこかで輝いている。
昆虫好きの息子たちに。

評価や感想は作者の原動力となります。
読了後の評価にご協力をお願いします。 ⇒評価システムについて

文法・文章評価


物語(ストーリー)評価
※評価するにはログインしてください。
感想を書く場合はログインしてください。
お薦めレビューを書く場合はログインしてください。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ