第四章・心に引っ掛かったこと
相変わらずの晴れ模様。
さっきまでと何ら変わりの無いはずの景色。
なのに……
「…二重人格って言うのには、どうも色々なパターンがあるらしいんだ。職業柄、そういう事には一番敏感なはずなんだけど…」
先に切り出したのは、風戸だった。
「やっぱり、こういうのを『医者の不養生』っていうのかねー…」
「んなこと誰も聞いてねーよ」
静かだが威圧感の漂うその口調に、風戸は口を閉じる。
「オレが聞いてんのは、何でオメーが此処に居るかって事だ」
「……だから…」
躊躇いがちに言葉を焦らす。
「裁判で、その精神鑑定の結果が焦点になって争われたんだよ。もしかしたら、一年前の事件から私は情緒不安定になっていたんじゃないか、って。…それで私は、仮釈放に…」
「ざけんなよ!!」
コナンの眼に、再び深い憎しみの色が宿る。
「畜生……オメーが…オメーが悪いに決まってんだろ!!?」
ワケが分からない。
確かに、コイツは二重人格かもしれない。
さっきの行動──未だこの急展開に戸惑ってはいるし、とても『はいそうですか』という返答を返せるようなことではないが、しかし──信じざるを得ない。
現にその精神鑑定によって、コイツは今、のうのうとオレの前に姿を現しているのだ。
だけど…だからって…
「だから何だよ!?だからって、オメーに非は無ぇって言うのかよ!!」
終いには絶叫するコナン。
何だよ……
一体、今更コイツは何を…
「落ち着いてくれ、コナン君。私は君に喧嘩を売りにきたワケじゃない」
「じゃあ何だって言うんだよ!?それ以前に、信じろって言うのか?!お前を!!」
「……っそんなことは誰も言ってない!!」
突然、冷静だった風戸がその語調を崩した。
思わずコナンが口をつぐむ。
「君はいい。そうやって、君は『選ぶ』ことが出来るんだ。信じるか、信じないか」
そう言って、コナンを見つめる。
「選択肢の残されていない者は、どうすればいい?」
その時、初めてコナンは風戸を直視した。
ガラス玉のように碧く透き通った、一点の迷いも曇りも無い目。
それが……――コナンには少しだけ、グラついたように感じた。
「…一時間後、もう一度メールを送る。」
「誰が見るかよ」
「読むか読まないかは、君の自由だ」
そう言って、おもむろに風戸はコナンに背を向けた。
ちっぽけで、情けないくらい貧弱な後ろ姿だった。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
『選択肢の残されていない者は、どうすればいい?』
気にするな。
そんなの向こうの落ち度だ。
オレに非があるワケじゃ無い。
分かってはいても、何となく心に引っ掛かる。
何故?
あんな奴の戯言なんて、どうでもいいことなのに……
そんなことを考えながら、コナンは帰路についていた。
服はびしょびしょだ。
コナンは、雨が降っていることにさえ、気付いていなかったのだから。
いくら考えても、胸のもやは晴れない。
何だ?
何だって言うんだ?
そうこうしているうちに、コナンは毛利探偵事務所に着いた。
きっと、蘭が朝から出掛けたコナンを待っているに違いない。
そう思うと……少しだけコナンは、息苦しい感じがする。
そして、自然と足は、米花町二丁目二三番地に向かっていった。
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