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深淵少女エメラルド 作者:雨宮ヤスミ

[三]正義の味方

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3-5

「同情かしらね。あの子の事情を知ってしまうと……」
 

 道路の端の建物にしたたか体を打ち付けました。痛みにしかめた顔を上げると、右腕を炎の剣のようにしたアキナさんの前に、見覚えのある白い髪の女の子が立っていました。この人がわたしを突き飛ばしたのでしょう。

 黒地に白のライン――「パール」の「ディストキーパー」、トウコさんでした。二丁拳銃をアキナさんに向け、乱射します。炎の剣で光の弾丸を受け止めながら、アキナさんは大きく後ろに飛び退きました。倒れている水島をも飛び越え、改めて構えをとります。

「『プログレスフォーム』に『スルターブランチ』……。味方に向けるものじゃない……」
「そんな名前付いてたのかこれ……」

 二人の会話を聞いて、わたしは少し安心しました。何だかすごくいつも通りで。けれど、トウコさんのすぐ足元ではキミちゃんがぐったりしているし、アキナさんとの間には水島が倒れているのです。それらのことは「いつも通り」ではないことをわたしに思い出させてくれました。

「ともあれ、何しに出てきた。あたしがやってること、今更知ったわけじゃないだろ」
「『インガの裏側』を守るのが役目なのに、それを壊している本末転倒な馬鹿を、少し懲らしめにやって来ただけ」

 やはりというか、パサラが差し向けてくれたようでした。

「ミリカたちが来てからは、極力建物は壊してないけどな」
「それに『ディストキーパー』同士の殺し合いなんて、するべきではないわ」
「キミヨが戦闘でケリつける、って言うから乗ったんだよ」
「ならば、わたしとも戦う?」

 トウコさんは拳銃を構え直しました。アキナさんも『スルターブランチ』、もとい右腕の炎の剣をトウコさんに向けました。

「いいぜ。『プログレスフォーム』を使えよ、トウコ」
「その必要はない」

 トウコさんの言葉と同時に、アキナさんの周囲を、小さな光るものが取り囲みました。卵型をした、透けた褐色のそれに見覚えがあります。

 琥珀でした。オリエ先輩がいつだったか見せてくれたものです。

「これは……!?」

 琥珀はアキナさんの周りを、縦横に光の軌道を描きながら飛び回ります。その光の線はやがて結ばれ、アキナさんを丸い半透明の壁で閉じ込めました。

「クソ、オリエさんもいたのか!」

 アキナさんは炎の剣で半透明の壁を斬りつけ、左手で殴りましたが、割れるどころか傷一つ付きません。相当な硬さのようでした。

「あなたの力でも、それは破れなくてよ」

 アキナさんの後ろから、オリエ先輩が姿を見せました。黒地にオレンジのラインが入ったローブのようなものを着ていました。確かにロングスカートではあります。大きな袖には肩の部分に切れ込みがあって、そこだけ肌色が露出していました。頭に小さな冠を被り、髪の色は薄い褐色に変わっていました。
 一番目立つのは背中に背負った大きな金属のような材質の輪っかでした。仏像の背中にある飾りみたいでした。穴の大き過ぎるドーナツみたいな形で、幅の狭い円周の上に琥珀がぐるりとくっついています。これを含めて「アンバー」の「ディストキーパー」の衣装なのでしょう。

 オリエ先輩の到着を見て、トウコさんはキミちゃんに銃口を向けました。治療の方の光を撃ち込むと、割れた装甲や焦げた部分も元に戻り、むっくりと身を起こしました。

「水島さんはわたしが見るわ。葉山さんをお願い」

 オリエ先輩は水島を仰向けにすると、琥珀を握り締めました。拳の隙間から光が雫のように落ちて、焦げたところにそれが触れると波紋が広がるように治っていきます。

「葉山、よくがんばった」

 トウコさんはそう言ってわたしの頭を撫で、回復の光をくれました。

「さすがはわたしが育てただけのことはある」

 そういう一言は忘れないトウコさんではありましたが。

「さて……」

 オリエ先輩は琥珀のバリアに閉じ込めたアキナさんを見据えました。腰に手を当てて怒りを表現しているようですが、おっとりとしたオリエ先輩なのであまり迫力がありません。

 既にプログレスフォームを解いたアキナさんは、その顔を見上げてため息をつきました。

「アキナ、どういうつもりかしら? 私闘に『オブジェクト』の破壊……。『ディストキーパー』としての自覚が足りないのではなくて?」
「……悪かったよ」

 ガシガシと頭の後ろをかいて、アキナさんは口を尖らせます。

「『副業』もいいけど、ほどほどになさい。何をしたって、『エクサラント』の思う通りに世界は動かされてしまうのだから」

 その言葉にはどこかあきらめのような響きが付きまとっていました。この中では最もパサラとの付き合いが長いオリエ先輩です、何かわたしたちの知らない頭にくるようなことがあの毛玉との間にあったのかもしれません。

「世直しのことで揉めた、なんて口実」

 拳銃を腰のホルスターに収めて、トウコ先輩もバリアに近づきます。

「どうせ、後輩『ディストキーパー』がどれくらい強くなったか、試したかっただけ」
「まあ、それもあるな」

 肩をすくめたアキナさんに、オリエ先輩は大きく息をつきました。

「ともかく、あなたは一度帰りなさい。みんなにはわたしとトウコから話しておくから」
「別に話すことなんてないだろ。あるんなら、あたしが話すし」

 ダ、メ。言い聞かせるように区切って、オリエ先輩は首を横に振りました。

「キミちゃんはまだやる気みたいよ。二人とも一旦距離を置いて、頭を冷やした方がいいのではなくて?」
「分かったよ」

 今度首を振るのはアキナさんの番でした。不満げに肩をすくめていましたが、オリエ先輩がバリアを解くと、「ホーキー」を使って素直に戻っていきました。

「で、こちらね……」

 オリエ先輩とトウコさんはわたしたちの方を振り返りました。
 キミちゃんはどことなく不機嫌そうに、水島は少し怯えた様子で、わたしはと言うと何をどうしていいのか分からなくてやっぱり縮こまっていました。

「何から話せばいいのかしら……?」

 ねえ、と尋ねられてトウコさんはぽつりと言いました。

「怪物を追う者は、自分が怪物にならないよう注意しなくてはならない」

 それは、わたしと初めて会った時に引用した箇所の、直前の文章でした。怪物を殺す力を人に向ければ、それは怪物になったのと同じことだ。そう言いたいのでしょうか。

 ならば、アキナさんがのぞいた深淵は一体どんなものだったのでしょうか。超常の力を守るべき人に向け、黒焦げの死体の山を築く。あの強い女の子がそうせざるを得なくなった「深淵」の景色……想像したくもありません。

 そう思っていたら、トウコさんは地を蹴って倒れたビルの上に飛び乗ってそこへ腰を下ろしました。言いたいことだけ言って、オリエ先輩に任せるつもりでしょうか。

「あらあら、どういうつもりなのかしらね、あの子は」
「一つ聞いていいですか?」

 キミちゃんにしてはぶっきらぼうな口調でした。

「オリエ先輩たちは、アキナがああいうことしてるって、知ってたんですか?」
「ええ……」

 オリエ先輩は胸に何かつかえているような感じでうなずきました。

「だったらどうして止めないんです!? 殺人ですよ!?」
「そうね……」
「そうね、じゃなくて!」

 今にも掴み掛るかと思うような勢いでした。慌てて水島が横から押しとどめます。

「わたしも、ああいうやり方はよくないと思うわ。だけど……」

 また苦しそうに首を横に振りました。何か事情があるようだと察したキミちゃんは、痛そうなくらいに拳を握って自分を抑えました。

「同情かしらね。あの子の事情を知ってしまうと……」

 「最初の改変」を明かすのはエチケット違反なのだけれど、と前置きしてから、オリエ先輩は二度目の違反をしました。
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