ここは先月オープンしたばかりの映画館なのである。そう映画館なのである……
「ッッツモオォォー」
随分と威勢のいい声がだだっ広い館内にエコーしまくるのだが、未だ映画は上映されていないので一応そういった類での被害はない。
「智華……いいかい? 中々映画がこないからって【ツモ】とか言っちゃいけないんだよ? 他のお客さんに迷惑がかかるからね」
どうやらまたあの兄妹らしい……一週間前にあの焼き肉店でいざこざを繰り広げたあの兄妹らしい。あの時は店員が大泣きして大変だったな。
「いいのよ! ツモは、気分の問題なんだから。それより勝生、早く【苦し紛れの一言―――ポン―――】こないのかなー」
「いいかい智華……この映画の題名は【狂いだす人々―――狂―――】であって、大人の危ない賭けごとじゃあないんだよ?」
いやいや、そもそもその本当の映画の題名だって何かしら危ない香りがするぞ。だいたいにしろ子供に見せちゃいけないぞ、それはたぶん。トラウマになる。
「へえー、そうなんだ。どっちにしてもあからさまに子供に悪影響与えそうよね。勝生、大丈夫? ちびらない?」
うんうん、そう……ってそうじゃない。明らかに君の方が勝生より幼いよね? まあ精神的には逆だろうけども。
「ちびる? 僕がかい? それはいったいどういったジョークだい?」
「勝生が大海原に一人で遭難しました。そうして遂には食料と水がなくなりました。その時に勝生が海水を貪らない並のジョーク率のジョークだよ」
まあ、恐らく勝生のことだからそういった状況では海水をがぶ飲みするのだろうな。ということは智華はそれはジョークじゃないっていいたいんだろう。
「あっそう、で、それはどこの海だい?」
なにか違うぞ勝生。問いただすところがずれてるぞ。そこは、【ちょっと待ちなお嬢さん、聞き捨てならねえな】とかだろ。
「あれよ、人魚がうじゃうじゃいそうな海よ。それで勝生は変態的な眼で人魚を見るからコバルトブルーの海に引きずり込まれるんだわ。きっとね」
「……引きずり込まれるのはゴメンだな……」
いや、だから勝生、違うって、そこは、【異議あり! 先ほど貴女は僕が変態的な眼で人魚を見ると言ったね、だがそれになにか根拠はあるのかな】とかだろう。
「そうでしょう? だったらその瞳の奥に燃え盛る変態的な炎を消してちょうだい。そんな目でいると猥褻物陳列罪で逮捕されるわよ」
「あーはいはい、どうせ僕は猥褻物みたいなものですよー」
おいおい、勝生がふてくされてしまったではないか。どうするんだよ智華。それにさっきから周りの客の視線が恐ろしくピンポイントで突き刺さってるぞ。気づけ! 二人とも。
しかし二人はそんなミサイル並の威力の視線にも構わず半径十メートル以内の人達に【微笑ましさ】を送り続けていた。
IT CONTINUES
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