最終話
目暮が持って来た回答は期待していたものとは違っていた。
それどころか、コナンには戸籍がないという衝撃の事実。
目暮は何とも言い難い表情で言った。
「とにかく、私の一存でどうこうできる問題ではなくなってしまった。彼の母親と名乗った人物も今となっては怪しすぎる。一度コナン君に話を聞いていた方がいい」
「し、しかし…」
しぶる小五郎に目暮は言った。
「仕方ないだろう。遅かれ早かれ話を聞かねばならんのだ」
「−−−」
「今、コナン君と話はできるかね?」
「鎮痛剤を打って今はまだ眠っているかもしれませんが……」
「眠っていたら、また今度でもかまわんよ。とりあえず一度顔をのぞいて帰ろう。病室に案内してくれるか?」
「わ…わかりました」
そう言って小五郎はしぶしぶ長椅子から立ち上がり、目暮を案内する事となった。
「蘭の奴は…」
新一はたずねた。
「ああ、今は和葉と一緒や。ちょお、外の空気吸わせに行かせたんや」
「おっちゃんは…?」
「休憩所でタバコ吸っとたで」
「そ……か」
そう言って新一は黙り込む。そして、その沈黙に耐えかねたのは平次だった。
「あ、あんな、工藤っ」
「?」
「あの、その、なんや」
なんの考えもなく声をかけたものだから、当然後に続く言葉もなく、しどろもどろになった。
それをみかねたのか、新一がおもむろに口を開いた。
「…おっちゃんが、俺の両親を捜そうとしているみたいなんだ」
「捜すって……連絡先教えたったらええやんか。知ってるんやろ?」
「ばーか。俺(新一)じゃなくて、コナンのだよ」
「!…それって」
「見つかるわけねえよなあ。江戸川コナンなんてこの世に存在しねえんだから。さぞかし不審に思っている事だろうよ」
新一は苦笑する。
「おい工藤−−」
新一の話を聞き、平次は嫌な予感がした。
「もう、この状況で、蘭たちと一緒にいるのは…限界が来たみたいだ」
先程ここへ向かう途中で出くわした人物。
「俺、さっき…」
ただの見舞いかと思っていたが……まさか。
平次の頬を冷汗が流れ落ちた。その後ろで、ドアのノブがゆっくりと回る音がした。
「そろそろ……潮時なのかも知れねえなあ」
そう新一がつぶやいた時、ガチャリとドアが開いた。
「!!」
そこに姿を現したのは、目暮警部その人だった。
「君、さっき鎮痛剤をうったと言っとったが、コナン君傷は良くなったんじゃなかったのか?」
コナンの病室に向いながら目暮はふと疑問に思い、たずねた。
「え、ああ、傷はすっかり治っているんですが……」
小五郎は、今のコナンの状態を詳しく伝える。
銃に撃たれた事は知っていたが、まさか、コナンが原因不明の発作に悩まされているなど知りもしなかった。
目暮は話を聞き終えたところで、眉をひそめた。
「それは……辛いな」
「そう、ですね……」
辛くないわけがない。あの小さな体で痛みに耐えるなど、想像もつかないほどの苦しみに違いない。
「…コナン君だけじゃない。…君や蘭君もさぞ辛いおもいをしているのだろう?」
発作に耐える本人だけじゃない。その家族や、身近にいる者にとっても、耐えがたい毎日のはずだ。
目暮は言う。
「私で力になれる事があったら、いつでも言ってくれ」
「目暮警部殿……」
そう言ってくれるだけでもありがたかった。気遣ってくれる気持がうれしい。
小五郎が感動していると、コナンの病室は目の前だった。
「あ、ここです。目暮警部殿。205号室。ここがコナンの病室ですよ」
「ここか」
目暮はドアノブに手をかける。ゆっくりと、ノブを回し、ドアを開いた。
薄く開いた隙間から、部屋の中の声がもれ聞こえてくる。
『……そろそろ潮時なのかも……』
(潮時……?)
耳にした言葉を不審に思い、思わずドアを握る手に力がこもった。
ガチャッ
「!!」
ドアを開け、そこで見たコナン、平次の表情は忘れられない。
驚愕で目を見開いている様に目暮はさらに不信感をつのらせた。
「……起きていたか。コナン君、体の具合はどうだね?」
(目暮警部……!)
何故ここに目暮がいるのだ。新一は焦りを覚えた。
「今…話せるかな?」
目暮は部屋の中へ一歩足を踏み入れる。
「!!」
−−バレた…!? −−
無意識に体が後ずさった。
「コナン君?」
とうとう来るべき時が来たというのか。
じりじりと後退するコナンを見て、目暮はもう一歩、足を進めた。
目暮をまっすぐ見据えたままベッドの上を後退り、ついには、窓際の壁にぴたりと背をつけた。
(工藤!)
なすすべもなく見守る平次。
行き場を失った新一の顔はひどく青ざめて見えた。
「どうしたんだい?」
コナンの様子があきらかにおかしい。
一体どうしたというのか。目暮が問いかけようとしたその時だった。
うなるような声が聞こえたかと思うと、小五郎が目暮の体を押しのけ、前へと進み出たのだ。
「一体、どういう意味だ……!」
「毛利君!?」
小五郎はコナンの姿をとらえた。顔が真っ青だ。しかし、聞かずにはいられなかった。
「潮時たあ……どういう意味だ!」
「落ち着いたまえっ私が話を聞くから、静かに…っ。ここは病室だぞ!」
目暮が小五郎の肩を押さえるも、少しずつ前へと進み出る。
「やめえ、おっさん!でかい声出すなやっ。子供相手になんやねんっ!」
(聞かれた……!?一体どこからっ……)
平次も思わず叫んでいた。
「ガキだって!?こいつがただの子供であるものかっ!」
「毛利君!」
「おっさん!」
追いつめられた新一はベッドの上に立ち上がる。
そして−−−
「答えろ!コナン!」
窓の桟に手をかけた。
「や、やめてくれ!!」
『あ』と思ったら、その姿は窓から消えていた。
「あ、あほっ!ここは二階やぞ!」
「コナン!」
「コナン君!」
飛び出す暇もなく、また、止めることもできず、三人の目の前で、新一は姿を消したのだった。
to be continued 『消えた名探偵』
思いっきり続いてます。次回「消えた名探偵」であらたに始まります。
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