華氷姫 〜Marguerite〜(8/20)PDFで表示縦書き表示RDF


華氷姫 〜Marguerite〜
作:保科 郁






 この頃から国民は姫君を不気味に思うようになりました。あまりにも表情がなく、感情も見受けられなかったからです。顔立ちが綺麗なのが、不気味さに拍車をかけていたのかもしれません。
 そのせいで陰口をたたく人も現れ、王様の横暴な処刑の事もあり 国中は段々暗い雰囲気に包まれていきました。

 そんな中でも王様は治療を諦めようとしませんでした。今までと同じように、王様の行動を止められる者もいませんでした。
 王様は次の治療を行う人は、女性にしようと考えました。姫君も年頃なので、男性よりも女性の方が打ち解けやすいだろうと思ったのです。

 王様は、また国中から希望者を募りました。けれど今度は誰も希望する人はいませんでした。それもその筈、姫君に良い感情を持つ人が殆どいなかったからです。逆に非難する人ばかりでした。
 王様が困っていると一人の女性が名乗りを上げました。その女性は異国から移住して来たばかりで、姫君にあまり偏見を持ってはいませんでした。
 王様は喜んでその女性をお城に招きました。女性は医学の心得は全くありませんでしたが、女性としての心得は ばっちりでした。次の日から女性は姫君に淑女としての(たしな)みや楽しさを教えていきました。
 可愛い服や(きら)びやかなアクセサリー、綺麗な花束など 姫君の周りは華やかな物で埋め尽くされていきました。

 でも相変わらず姫君の顔に表情は現れません。女性は段々、姫君に不気味さを感じてきました。どんな事をしても表情が変わらないのですから、恐れを抱くなという方が無理なのかもしれません。
 けれど女性は頑張りました。お城での暮らしは何不自由なく豪奢かつ華やかなもので、女性はこの生活を捨てるのが惜しかったのです。
 姫を着飾り薄化粧を(ほどこ)し 礼儀作法もたたき込んで、誰も適わないくらいの淑女に仕立てあげました。それは生前の王妃様──姫君の母に生き写しで、王様は非常に喜びましたけれど、姫君には相変わらず表情がありませんでした。
 美しいが故に、表情が無いその姿はまるで無機質な人形のようでした。

 それを間近でずっと見てきた女性は ついに姫君の不気味さに耐え切れず、傍に居たくないとまで思うようになりました。
 女性は二年も経たずに逃げ出そうとしました。けれど すぐ兵士に捕らえられてしまい、逃げられないと分かると自ら命を絶ちました。


 誰にも姫君を治す事ができなかったことに、王様は大いに嘆き悲しみました。姫君を治すことはもう無理なのではないか……と、絶望的な気分に(おちい)ります。
 そんな中、王様はある医者の噂を聞きつけました。その人物は薬を使うでも術を使うでもなく、多くの人を助けたというのです。王様は嬉々としてその人物を呼び出しました。


 城に招かれた医者を見て王様は驚きました。考えていたよりも随分と若い青年だったからです。青年というよりも まだ少年を抜け切っていない位、という方が合っているかもしれません。姫君より少し上か、同じ位の年に見えました。
 それに、その医者の後ろにも同じ年頃の少女が控えているのです。少女はきっと助手か何かなのでしょう。それにしても二人の年齢は医療を行う者として いささか若過ぎるものでした。

 王様は小さくため息をつきました。評判の噂は嘘……とまではいかなくても、過大評価だったと思ったのです。だから王様はあまり期待せず医者に尋ねました。












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