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華氷姫 〜Marguerite〜
作:保科 郁



20



 そして医者は語り出しました。淡々と、驚くほど冷えきった声音で。

『九年程前……貴女は覚えておいででしょうか。五年間 治療を施した医師が処刑されましたでしょう。それこそ、私の父でした。……これで、お分かりですか?』


 その言葉に思わず顔をあげた姫君は、医者が薄く笑うのを見ました。けれど目は全く笑っておらず、冷えきったままでした。
 姫君は背筋が凍りつきました。今までそれほど冷たい目で見られた事がなかったのです。

『処刑が前日に迫った日、両親は私を女装させ逃がしたのです。その日から一日たりとも、この国を忘れたことはありませんでした。父と母を殺した、無情な王が居る この国を……』

 医者の言葉に感情の起伏はなく、淡々としたものでした。けれどそれが逆に、怒りを深く秘めているように感じられました。

『本当は、王様が変わっておられたら止めるつもりだったのですが……今も昔もお変わりなく、とはね』

 医者は吐き捨てるように呟くと、冷笑しました。姫君の顔色はもう青ざめを通り越し、血の気が感じられない程 白くなっていました。そして 消え入りそうな声で呟きます。

『それでは 私、に優しくしてくれた のは──』

『もちろん王様に取り入る為です。笑わせるのは無理だと思っていましたし、王様は貴女には甘い方ですからね。……でなければ無表情な華氷姫などに、誰が近付くものですか』

 姫君の淡い思いは、無残にも引き裂かれました。医者の言葉は姫君の心をえぐり出します。姫君は ただ、はらはらと涙を零すことしかできませんでした。その顔からは戻りかけていた表情が消え失せていました。
 医者は淡々と続けます。

『けれど、貴女には私を殺す権利があります。私にとって憎い(かたき)であっても、貴女には掛け替えのない肉親だったのですから』

 医者は先程まで突き付けていた、王様の血で赤く染まっている短刀を姫君の前にそっと置きました。

『さあ……、今なら簡単に仇が打てますよ』

 医者は無防備に姫君の前に(ひざまず)きました。その様子に嘘偽りはなく、本当にそう思っているようでした。

 けれど姫君は短刀を手にしませんでした。とめどもなく涙を(こぼ)し、ただ 弱々しく首を振っていました。
 例え裏切られても 父親が殺されても、姫君に医者を殺すことはできなかったのです。


 医者はしばらくそのままでいましたが 姫君に動く気配がないのをみると、静かに立ち上がりました。

『……そうですか。貴女にその気がないのでしたら、私はこれで失礼させていただきます』


 医者は姫君を一瞥すると、背を向け立ち去ろうとしました。
 そして一歩踏み出した瞬間──背中に鋭い衝撃が走り、何か熱いものが溢れていく感覚がありました。医者は立っていられずその場に膝をつき、前のめりに倒れ込みました。



 倒れ込んだ医者の後ろに、姫君が短刀を手に佇んでいました。無表情のまま、涙をはらはら零しながら。
 姫君は医者になら 罵倒されようが暴力を振るわれようが、それこそ殺されようが どうでもよかったのです。
 ただ、傍らから居なくなるのには耐えられなかった。居なくなるならば、殺していって欲しかったのです。


 医者は白い花に抱かれるように倒れています。その表情はどこか満たされたような、とても穏やかで優しげなものでした。


 けれど、姫君が医者の表情に気付くことはありませんでした。血に濡れた短刀を手に、静かに立ち尽くしていました。
 頬を涙で濡らしながら、髪を風になびくままにして。


 そんな姫君の周りで白い小さな花は、ただ さやさやと風に揺られていました。医者と姫君、二人が仲睦まじく座り込んでいたあの頃と同じ様に。

 白い花は変わらずそのままに。さやさやと穏やかに──。



最後までお付き合いいただき、ありがとうございました(≧∀≦)

この話は 私が文章を書き始めて、初めて小説らしく出来たのを手直ししていったものです。
書いたのは一年半位前ですね。

某所で一度 投稿(一年半前)したのですが、今見るとかなり直す場所があってびっくりでした(× ×;)
あの頃は自分の力いっぱいに書いていたのに、今みると色々ダメダメすぎますね(;^_^A
数年後に見た時には、また直す所が山ほどあるのでしょう;
……それは、少しずつでも上達していると思っていいのかなぁ?;
だったら良いのですけど(^ ^;)



■題名について
▼『華氷』
“中に花を入れて凍らせた氷の柱”の事です。
意味は華=姫君、表情がない=氷、でそのまんまですね。
氷が溶けたら、華が咲くとかそんな意味も含んでます。

▼『Marguerite』
“マルガリータ”と読み、お花のマーガレットの事です。
作中に出ている花は、これの事です。
“心に秘めた愛”という花言葉があります。
そういう場面に出てる、と考えていただければ 話の解釈(?)がしやすいかもしれません。


因みに、助手は始めの方に出てきた大臣の娘です。
それと、王様はこの話では色々やらかしてますが、一応それにも理由……というか、原因があったりします(^ ^;
ここに書いてもいいのですが、ネタとして取っておこうかと。(ぇ)
番外編とかで書けたらいいな、とか。(書けるかは分かりませんが;)



それでは この辺りで。
この作品で、皆様が少しでも楽しい時を過ごしていただけたなら幸いですv(´∀`*)













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