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そんな姫君の沈んだ気持ちとは裏腹に、王様はとても上機嫌でした。なにしろ長年願い続けていた姫君の笑顔が出たのですから。その喜びようは凄いものでした。
王様はすぐに姫君を呼び寄せ、笑顔を請いました。姫君はぎこちなくはあるものの、父である王様に向かって微笑みました。
姫君の笑顔は本当に些細なものでしたが、今まで全く表情がなかったのですから 大した進歩だと言えました。王様は感涙にむせびながら、何度も 何度も姫君の頬を撫でます。その顔は普段とは異なり、慈愛に満ちた優しいものでした。
王さまは心から、医者に──姫君の命を守り、この偉業を成し遂げた男に感謝しました。
王様は盛大な祝いの席を設けることにしました。そして、その場で医者に褒美をとらす事を皆に言い渡しました。
その席は事件から数日後、医者の体調がある程度 良くなった時に執り行われました。
王様は上機嫌で玉座についていて、その隣には姫君が座っていました。姫君の雰囲気はとても柔らかいものに感じられました。それは ぎこちなくはあるものの、顔に表情が出ていたからかもしれません。
王様は目の前で跪いている医者に尋ねました。
『そなたは感謝してもし足りない事を遣り遂げてくれた。私ができる事ならなんでもしよう。どのような褒美がよいのだ?』
医者は頭を垂れたまま、静かに述べました。
『……はい、王様。ただ一つだけ、私には願うものがあります。けれど皆の前では気不味いので、近くで言わせていただいても宜しいでしょうか?』
王様はその申し出を快く承諾しました。許可をもらった医者は、ことさらゆっくりと王様に近付いていきます。体調がまだ完全に良くなっていないのかもしれません。皆が期待して見守る中、医者は王様に耳打ちしました。
『王様、私が希う物は──……』
『貴方様の命でございます』
言うと同時に、王様の胸に短刀を突き立てました。王様は驚いた顔のまま ゆっくりと横に倒れていきました。姫君は目を見開き、信じられない思いで隣を見ていました。
瞬く間に広間は喧騒に包み込まれました。悲鳴を上げる者、逃げ出す者で騒然となります。
衛兵はすぐに医者を取り押さえようとしました。けれどそれより早く、医者は隣に座っていた姫君を捕らえました。姫君は何が起こったのか理解しようにも頭がついていかず、ただ されるがままになっていました。姫君の首筋に短刀を突き付け、医者は言います。
『姫を殺されたくなければ武器を収めて下さい。私が無事 逃げ切れたならば、ちゃんとお返ししましょう』
王様が倒れてしまった今、この国の王位を継承するのは姫君しかいないのです。衛兵達は手も足も出すことができません。歯ぎしりをしながら、医者達を見送ることしかできませんでした。
医者は衛兵達がついてきていないことを確認すると、姫君を残す場所に向かいました。誰にも見つからず、それでいて城から離れすぎていない場所──あの花畑に。
野原に着くと、そこでやっと姫君を離しました。姫君は力無く座り込みます。その顔は血の気を失い青ざめていました。
姫君は顔をあげることすら出来ず、けれど震える声で尋ねました。
『……どうして、どうして父上を!?』
医者は冷たい目で姫君を見下ろしていました。姫君は俯いていた為、それに気付くことはありませんでした。医者は姫君から目線をそらすと呟きます。
『そう、ですね。貴女には知る権利がある……お話ししましょう』
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