華氷姫 〜Marguerite〜(12/20)PDFで表示縦書き表示RDF


華氷姫 〜Marguerite〜
作:保科 郁



12



 姫君は顔に表情が出ないせいか、傍から見ると医者を嫌い 避けているようにも見えました。
 医者はあまりにも露骨に避けられるので、自分の接し方が悪かったのだろうか、と悩みました。男の自分には分からない事なのかもしれないと思い、助手にも相談しました。

 助手には 姫君が医者を嫌っているとは思えませんでした。寧ろ好いているのではないかと感じていました。けれどその事を医者に伝える気はありませんでした。
 助手も医者の事が好きだったからです。助手が見た所、医者も姫君の事を気にしているようでした。もし助手が姫君の気持ちを伝えたら、二人の恋は実ってしまうかもしれません。

『私には解りかねます……。姫様のご様子、何かおかしかったでしょうか?』

 二人が恋人同士になるなんて到底 我慢できなかった助手は、しらを切ることにしました。告白したものの 敢えなく玉砕していた助手。けれど、医者への気持ちは変わらなかったのです。


 助手にはそう言われものの、医者は避けられているようにしか思えませんでした。どうしたらいいのか、と頭を悩みながら庭を歩きます。そのせいか、医者は普段は行かない 庭の奥深くまで入り込んでしまいました。
 医者はすぐにお城へ戻ろうとしましたが 特に急ぎの用もない事を思い出し、少し散策してみようと考えました。きっと気分転換がしたかったのでしょう。

 そのまま(しばら)く進んでいくと、周囲は段々 草木が生い茂る場所になっていきました。茂みが肩位の高さになり、医者もさすがに引き替えそうかと思い出した時、急に視界が開けました。
 そこは、ちょっとした部屋位の野原が広がっていました。その野原に白い花弁の 小さくて可愛いらしい花が咲き誇っていました。
 医者はしばらくそこに佇み、花が風にそよいでいるのを見ていました。なんだか ほんわかと心が癒されます。

 ふと、この可愛らしいお花畑を姫君にも見てもらいたくなり、医者はさっそくお城に足を向けました。その歩調はどうしてだか分かりませんが、気持ち急ぎ足になっていました。

 お城に戻った医者は姫君を訪ね、散歩に誘いました。姫君は落ち着かなさげに目線を彷徨わせながらも、医者の誘いを受けました。医者は不審な動きをされながらも、断られなかった事に胸を撫で下ろしました。


 いつものように 姫君に歩調を合わせて、医者はゆっくり歩きました。姫君は医者の横ではなく、少し後ろを歩きます。庭には小鳥のさえずりや木々の騒めきで満たされていましたが、二人の会話は殆どありませんでした。
 医者はまた不安になってきました。会話がないこともですが、目線すら合わせてもらえない事に気付いたからです。医者は姫君を気にしながらも声を掛ける切っ掛けが掴めず、微妙な雰囲気のまま花畑に着いてしまいました。


 花畑に着くと姫君は一瞬 動きを止めたものの、すぐにしゃがみ込んで小さな白い花に見入いりました。動きを止めたのは、驚いたからでしょう。どうやら気に入ってくれた事に、医者は ほっと息をつきました。同じように姫君の近くにしゃがみ込みます。
 花を見ていたはずの姫君は 隣に医者が来ると、距離をとるように さり気なく横に移動しました。

 医者はその姫君の何気ない行動に、強い衝撃を受けました。近付かれるのも嫌なのだ、と思ったのです。やっぱり自分は何かしてしまったのか、と医者は焦りました。けれど考えれば考える程、何をしたのか分からなくなってきます。

 (しばら)くして 覚悟を決めた医者は、おもむろに口を開きました。












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